再びパーティ―として戻ったトラガスたちは、ダンジョンに潜って、自分達のレベルアップを図りつつ資金稼ぎをしていた。
ある程度経つと、連携も上手くいくようになり、スライム程度では簡単に倒せるようになってきた。
何度か遭遇した這い芋虫も上手に倒せるようになり、1回ダンジョンに潜ればある程度のアイテムを回収することができた。
「荷物持ちが欲しいな」
アンテナがボソリと呟いた。
言い方は悪いが、確かに一度ダンジョンに潜っても回収できるアイテムの量には限度がある。
そもそもが、トラガスたちは全員戦闘要員である。
回収したアイテムを保管しておくための装備やバッグなどは準備していない。
そういった装備は、戦闘では邪魔になるからだ。
一般的なパーティ―では、サポーターと呼ばれるアイテム係を担う者がいる。
回復アイテムや便利系のアイテム、マッピングなどを担当し、ドロップアイテムなどの回収も行う重要なポジションだ。
いま現在、トラガスたちのパーティ―にはそのサポーターがいないため、後衛を担っているダイスとイヤーロブがアイテムを回収している。
しかし持てる数には限界がある。
「俺たちのようなパーティ―にサポーターが来てくれるとは思えないけどな」
トラガスがこう言うように、新米パーティ―にわざわざ加わる冒険者はいない。
ましてやサポーターは、どのパーティ―からも重宝される存在である。
こんな新米だけでなんの名声もなく、借金だらけのパーティ―にわざわざ加わる者は、サポーターでなくても居ないだろう。
「1日に何度かダンジョンに潜らないと、闇金への返済は難しいな」
昼過ぎに遅めの昼食を食べながらトラガスが言う。
闇金から借りた金額は1万イェン。
利子は10日で1割。10日後には借金が11000イェンになってしまう。
スライムのドロップアイテムである、ドロドロの液体の売却金額は1イェン。1000個必要になる。
這い芋虫のドロップアイテムである芋虫の体液は、売却金額が10イェンである。這い芋虫の素材である、這い芋虫の歯の売却金額は20イェン。
以前トラガスが偶然手に入れた引き寄せ草ですら、売却金額は100イェンである。
10000イェンを返済するのが、どれだけ大変かが分かる。
だからこそ、サポーターの存在が重要になってくる。
「今日はあと2回は潜れそうだな」
アンテナが言うと、隣のイヤーロブが黙って頷く。
アイテムを換金したことで、3人はどれだけの金額を借金していたのか、現実的に受け止めたようだ。
●
ダンジョン最下層――
代表モンスターはスライムであり、一般的な冒険者にとっては討伐する対象ですらない。
戦うだけ無駄だし大したアイテムすら入手できないからだ。
しかしそんなスライムを徹底的に狙っているパーティ―がいる。
トラガスたちだ。
スライムから入手できるアイテム、ドロドロの液体はポーションを作成するのに必要なアイテムである。
アイテム屋からすると、非常に助かる存在ということになる。
「いつも素材を譲ってくれてるからな。これはお礼だ」
そう言ってアイテム屋の主がポーションを3つも譲ってくれたのは昨日のことだ。
たかがポーション、されどポーション。
傷の治りを早める飲み薬は新米冒険者にとっては、非常に貴重なアイテムとなる。
特に貧乏パーティ―であるトラガスたちにとってはありがたすぎるアイテムだった。
「ラッキーだったな」
ダンジョン最下層を順調に進みながらアンテナが言う。
現在のトラガスたちは、ダンジョン最下層をある程度進めているが、アイテムを持てる数に制限があるため、ある程度までしか進めていないとも言える。
前回トラガスが1人で進んだ左右の分かれ道を、パーティ―は右に進路を取っている。
こちらの道は、鍾乳石でできたつららが所々にあるやや幻想的なエリアだ。
道幅もまぁまぁ広く、モンスターに囲まれても突破がしやすい。
そのため、ベテランパーティ―はここは強行突破をする場所だ。
そのおこぼれとも言える、倒されずに取り残されたモンスターがトラガスたちの行く手を阻み、そのモンスターたちを倒している内に手持ちがいっぱいになっているのが現状だ。
「飲み薬を手に入れたのはラッキーだけど、遭遇するモンスターの大半がスライムなのはきついな」
アンテナの言葉に頷きつつも、トラガスが現状をしっかりと認識する。
「トラガスくん。キミは夢がないことばかり言うなー」
ダイスがやれやれと首をふる。
「そんなこと言うなら石の下にいるかもしれない、穴掘りミミズでも探してみるか?」
トラガスが意地悪く言うと、イヤーロブとアンテナが身震いした。
「オレは虫とは戦わないからな!」
最初から戦闘を拒否している。
それほどに虫が苦手なんだろう。
しかし、偶然とは恐ろしいものだ。
もしくは、ダンジョンが冒険者の心理に反応しているという噂が本当なのかもしれない。
トラガスたちの前に穴掘りミミズが現れた。
●
「絶対に逃がすなよ!」
トラガスの目の色が変わった。
漫画で言えば、目の中にお金のマークがあることだろう。
しかし仲間の女性陣の目の色は違っていた。
唯一いつも通りなのはダイスのみ。
アンテナは腰を抜かしてへたり込み、全身に鳥肌が立っている。
イヤーロブは嫌悪の表情を浮かべながら、渋々トラガスの指示に従っていた。
トラガス本人は、へたり込んでいるアンテナを無視することに決めたようだ。
もっとも、今までも這い芋虫が現れる度にアンテナは使い物になっていないので、大した影響はない。
幸いにもモンスターは穴掘りミミズ1匹のみ。
大した脅威でもない。
トラガスがナイフを構え、穴掘りミミズを挟むようにしてダイスが立つ。
ダイスは<小さな火>という魔法を使うことができる。
文字通り、小さな火を好きな場所に灯すことができる魔法だ。
当然大した威力ではないが、穴掘りミミズ程度のモンスターには十分に有効な魔法だった。
「いくよ!」
言葉と同時にダイスが<小さな火>を放つ。
それだけでミミズを倒すことができ、穴掘りミミズの素材、ミミズの体液まで入手することができた。
「よし。帰ろう」
十分なアイテムを入手でき、これ以上は持てないと判断したトラガスが他のメンバーに言う。
こうしてメンバーはまた、ダンジョンの探索を十分にできずに町へ引き返すことにした。
「やっぱりもっと奥まで行くには、アイテムを無視するか仲間を増やす必要があるよな」
アンテナが退屈そうに言う。
実際に退屈なのだろう。毎回同じところまでしか進めていないのだから。
「借金だらけの俺たちにとって、アイテムの回収は必須だから無視することはできないしなー。かといってずっとこのまま最下層でうろちょろするのも微妙だよな」
トラガスもアンテナの言葉に頷く。
「スライムの素材はアイテム屋から重宝されるから、無視するわけにはいかないわよ?」
イヤーロブが言うように、スライムの素材を集めてくれるのは、トラガスたちくらいだ。
他のアイテムの素材は必要なければ引き取って貰えないことが多いが、スライムの素材と一緒に渡すことで引き取って貰える場合がある。
そういう意味からしても、スライムの素材はある程度必要である。
「スライム以外のアイテムを無視するとか?」
ダイスの言うことが一番現実的だったが、貧乏故にもったいない精神が発動してしまう。
「そうは言っても、目の前にアイテムがあったらうっかり拾っちゃうよなー」
アンテナが言うと隣でイヤーロブが、そうよねー。と頷いている。
「それならアイテムポーチを使うといいよ」
見知らぬ声が背後から聞こえた。
●
「あ!」
「あ」
トラガスと声の主が同時に声を上げた。
「知り合い?」
問うたのはイヤーロブだ。
「あぁ。以前に助けてもらったことがあるんだ」
トラガスが頷く。
そこに立っていたのは、マドンナだった。
「あれ? キミはマドンナくんじゃないか」
意外にもダイスはその存在を知っていた。
「知ってるのか?」
驚いてトラガスが問うと、当然とばかりに頷いた。
「ヤグルマタウンの中でも一番有名な冒険者じゃないかな?」
「有名かどうかは分からない」
マドンナと呼ばれた金髪ショートに金色の目の持ち主が、無表情に言う。
「何言ってんの!有名だよ!」
ダイスが両手をバタバタ振る。
「たぶんこのヤグルマタウンで最も有名なんじゃないかな?」
と最後に付け足した。
「そんなことない。他にも有名な冒険者はたくさんいる。モズとか」
モズという名前はトラガスでも知っている。
ヤグルマタウンで知らない人はいないであろう、有名な冒険者だ。
「そんなことよりもアイテムポーチって、かなり高いアイテムのことだろ? オレらにはとてもじゃないが買うことはできない」
アンテナが首を横に振る。
「そうねぇ。確かに見た目以上の物が入れられるポーチは魅力的だけど、私たちには無理ね」
残念そうにイヤーロブが言うと、マドンナが目を丸くした。
「それならこれをあげるよ」
ピンク色の腰に下げる小型のポーチをトラガスに差し出した。
「「「「え?」」」」
トラガス、ダイス、イヤーロブ、アンテナの4人が声を揃える。
「そう言えば自己紹介がまだだったね」
明らかにピンクが一番似合わないであろうトラガスに、ポーチを手渡しながらマドンナが話しを進める。
「私はマドンナ。冒険者は助け合いが大事だからね」
最近は助け合いの精神が少ないとブツブツ文句をつけ足している。
「ボクはダイス。よろしくね、マドンナくん」
「イヤーロブよ」
「アンテナだ。今は自分のパーティ―のことで精一杯だから、あんまり助け合わなくなってるって聞いたぜ」
3人がそれぞれにマドンナと握手をする。
その後、ピンクのポーチを持って突っ立っているトラガスのことを全員が見る。
ぽりぽり。と後頭部を描いてからポーチを腰に下げ、トラガスは苦笑いをする。
「トラガスだ。これ、似合うかなぁ?」
「うん。とっても」
相変わらず無表情でマドンナが返答すると、ダイス、イヤーロブ、アンテナが吹き出した。
これがマドンナとの、運命的なやりとりであり、今後トラガスたちのパーティ―はマドンナと幾度となく顔を合わせることになるのだった。
少しずつ互いの運命を絡め合いながら――

