貝殻~プロローグ~

貝殻

「ね!はるちゃん。こんなところがあったんだよー」

少女の声が響き渡る。まだ小学生にもあがっていない少女、望月 彩音が同い年の少年、竹屋 春斗をはるちゃんと呼ぶ。

周りには人の影は無い。あるのは空と砂浜と海と雲だけだ。とてもキレイだ。
「へー。こんなところにこんな場所があったんだ?」
周りをキョロキョロ見渡しながら竹屋は砂浜を歩く。
「ここ好きなんだー」
竹屋の後ろから望月が声をかける。
たたっと竹屋の横までかけてくる。
にこっと竹屋に微笑みかけてから竹屋に何かを渡してくる。
見るととてもきれいな貝殻だった。
「貝殻はハートみたいだと思わない?」
貝殻を渡されてどうしようか迷っている竹屋に向かって望月が言う。
望月が持っている貝殻と竹屋の貝殻を同じ向きにして、本来貝殻がくっついていた部分だけをくっつけ、両側を離すようにして持った。
「ね?こうするとハートに見えるでしょ?」
微笑みながら望月は話し続ける。
「私ね、貝殻って好きなんだー。キラキラきれいだし、ほら、こうするとハートに見えるでしょ?」
「あぁ。きれいだな。貝殻もここも」
竹屋は心の底からそう思った。
来年小学生にあがるであろう幼い子供たちにでさえ、心の底からきれいと思わせる程、景色も貝殻もきれいだったのだ。

「ここから見える星空が好きなんだよね」
景色を感動しながら見ている竹屋の隣に立って、一緒に景色を見ながら望月が竹屋に言う。
「いつかさ、大人になっても3人でこの空を見上げながら今の私たちのことを笑って話せるといいよね」
望月が夢見るように言う。
「みんなさ家族がいてさホームパーティーするの」
胸の前に両手を重ねて目を閉じている。
「はるちゃんがお肉持ってきて取手君は魚」
取手とは、竹屋と望月と同じ幼馴染で同い年の男の子だ。
「私が野菜持ってきてさ最後はお菓子パーティーね」
にこっと竹屋に望月は笑いかける。
「私、この島も島の景色もきれいな貝殻も全部好き!」
「彩音…あのな…」
言いにくそうに竹屋が望月に話しかける。
ん?と望月は小首を傾げる。
「俺、小学校にあがるときにこの島を出るんだ。お父さんの仕事の関係で。」
ショックだった。言葉も出ない。
「…くする」
「え?」
竹屋の言葉がよく聞こえなかったので聞き返す。
「約束する!大人になっても3人でここの星空を見上げよう!」
泣きそうになっていた望月の顔から涙が引っ込んだ。
いつもそうなのだ。望月が泣きそうになると必ず竹屋がフォローして望月から涙を追い出すのだ。
「はるちゃん…約束…おっきくなったら私と結婚してくれる?」
上目遣いで見上げてくる。
子供ながらに竹屋は望月に恋をした瞬間である。
「お、おうよ。約束だ」
少し照れながらもしっかりと竹屋は約束をする。
「じゃあさ、結婚の約束にこの貝殻半分ずつ持っておこうよ!おっきくなって結婚する時にハートの形を作ろう?」
にこっと笑う望月の目の端には涙が薄っすらと浮かんでいる。
そっと涙を拭いながら、あぁ。そうだな。と竹屋は返事をする。
「あとさ!毎年、今日と同じ日付にここに貝殻を置くの!そんでもって、その貝にメッセージを書こう?ね?」

こうして二人だけの秘密の砂浜には、毎年きれいな貝殻が並べられていった。

割れた貝殻は二度と戻ることはないのだと
この時の二人にはまだ知る由もなかった。

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