食物連鎖――
一般的に人間はその頂点であると考えられている。
それは、人間には天敵がいないからだと言われており、そのために人間の数のみが増え続けているとも言われている。
時としてある物語では、人間が溢れかえったために別の星へ移住する計画が立てられたり、ある物語では自然界の突然変異で人間を食べる生き物が現れたりする。
もちろん、微生物などが人間を実際には食べているので、人間も食物連鎖の一部ではあるのだが、天敵がいないために個体種が増えたのは事実だろう。
しかしこの世界では、人間――人類――は食物連鎖において最下層である。
そして人間に代わって食物連鎖のトップに君臨するのが――
「また感染者が出たようだ」
薄暗い中で1人の男が言う。
「何だって? レベルは?」
報告を聞いた別の男が弾けたように立ち上がったのは、暗がりの中でも雰囲気で分かった。
感染者――
特徴――死なない。
種族としての特性――殺した生物を同じ感染者に変える。生物を殺すことで進化する(人類は便宜上レベルと呼んでいる)。
いつの日かこの世界に突如として現れ、食物連鎖の新たなトップに君臨した生物だ。
感染者は、次々に生き物を殺していき、殺された生き物は感染者となって復活した。
この連鎖によって世界には、感染者ばかりが増え続けた。
そして、この感染者に対応するように生き残った生命体は次々と進化をした。
結果として、地球にも似た数多もの生命体がいたこの星の生命体は、数える程の種族に減少してしまった。
そして人類は進化すらしなかった。
持ち前の技術力で感染者に何とか対抗するも、今では地中の地下深くにコロニーを形成して隠れて潜む生活をしている。
日の光を一生拝まずにその人生を終える人が続出した。
食糧は味もなにもない、人工的に作られたゼリー状の物のみ。
一応の栄養価はあり、世界政府が開発したものの1つだ。
「まだ1だ。今のうちに倒すんだ! バスターの要請を!」
最初の男が答える。
バスター――
人類が実験や研究の末にたどり着いた、対感染者専用の戦闘集団のことだ。
それを指揮するのが世界政府。
人類の最高顧問にして最上級階級である。
かつてこの世界も地球と同じように色んな国があった。
しかし感染者の登場により生命体の分布図が変わり、人類の歴史は地上から地中へと変化した。
そんな人類を引っ張るリーダー的な存在が世界政府であり、かつての世界の国々のトップに君臨していた人物やその子孫によって構成されている。
「ダンヒ。コロニー西方第2支部からバスターの要請だ」
世界政府に所属するアルバートが同じ世界政府に所属するダンヒに声をかける。
ここ、世界政府本部はコロニー西方第2支部のような薄暗さも埃っぽさもなかった。
豪華絢爛という言葉が似合い、他のコロニーと同じように地下にあるはずなのに人工の電灯によって太陽と同じくらい明るかった。
「よしわかった。今すぐチームを送る。レベルは1だな?」
ダンヒはそう答えると、いそいそと部屋を出ていった。
人類にとって脅威なのは感染者だけではない。
ありとあらゆる機械を支配している機器類によって、機械による通信はできない。
外には主食が人類の獣類や不思議な魔法(便宜上人類がそう呼んでいる)を使う魔類もいるため、走って伝令を届けるのも不可能に近い。
しかし、遠く離れた場所に連絡する手段がないわけではない。
感染者は生き物を殺すことで進化し、進化の過程で不思議な能力を得ることがある。
人類はそこに着目をし、感染者の細胞から人類にも不思議な能力を得られる可能性があることを見つけ出した。
その能力によって、地下にいながらでも通信手段を得、遠く離れた場所にチームを送る輸送手段も得、感染者や他の種族とも戦える力を得た。
更に人類は持ち前の技術力を持って、対感染者用の特殊な武器も開発した。
この武器によって、死なないはずの感染者を殺せることは実験で証明済みだった。
「じゃあ行ってきます」
<転移(ムーブ)>の力を持つ男がダンヒにそう告げると、数人のメンバーと共にコロニー西方第2支部へと飛んだ。
コロニー西方第2支部――
薄暗く埃っぽい空間に、5人の男女の若者が突如現れた。
「感染者はどこだ?」
<転移(ムーブ)>の力を持つ男――リヒト――が問う。
「こっちです」
少年が答えて埃っぽい地面を走る。
ほとんど灯かりがなく、薄暗い中でも普段から生活していれば慣れるのだろう。
少年は素早く移動する。
それに比べてリヒトたち5人は、基本的には明るい場所で生活をしている。
目も慣れておらず、そこまで速く走れない。
「たい! 部隊長たちが付いてこれないよ。もっとスピードを落として」
少女が後ろから声をかける。
少女が呼んだ言葉にリヒトが反応した。
「たい? そうか。君がたいか。アレンと似たような能力を持っている者だな?」
アレン。と言って隣の男を親指で指した。
アレンは布を逆三角形の形にして、口元に当てていた。
まるで盗賊か何かのようだ。
呼ばれたアレンは返事をせずに真っすぐ前を見続けて走り続けていた。
やや速度を落としたたいにアレンとリヒトが追いついた。
「まだ子供じゃない」
リヒトの隣に女が追いついて、たいを見るなり言う。
女の隣でアレンも猛烈に頷いている。
「戦いの素質に年齢は関係ないぞ。すく」
リヒトが隣に追いついた女にそう注意をすると、すくと呼ばれた女は、はーい。と返事をしながら、たいとそのやや後ろを走る少女を交互に見た。
「あなた達って付き合ってるの?」
「は? 俺がアスカと?」
「ないですないです!」
たいもアスカも首を左右に振って全力で否定する。
そんな2人を見てすくがからかうように笑う。
「着いたぞ」
そんなすくを咎めるように、別の男――バク――が言う。
レベル1の感染者の姿は人間と変らない。
逆に言えば人間と見分けがつかない。
「こりゃあ……何人も殺してるな。もうすぐ進化するかもしれん」
レベル1の感染者を見るなりバクが言う。
「何でわかるんですか?」
アスカが訊ねると、5人組の内の最後の1人の女――西――が答えた。
「レベル1の感染者の見分け方は人類を殺すかどうかでしょ? 普通の人間と変らないから見分けがつかないけど、進化に近くなると人間の姿を保てなくなるらしいの」
ほら。と言って西がレベル1の感染者を指さす。
確かにコロニー西方第2支部に現れたレベル1の感染者は、人間の姿はしているがなんだか苦しんでいるように見える。
「殺戮能力としてだけ見れば、レベル1は低い。が、見分けにくさとしては一番厄介だよな」
リヒトが短剣を取り出す。
「レベルを上げたくて1人単身で探索していたか、それとも上からの命令か……」
リヒトは何やらブツブツ言っている。
よく見ると、取り出した短剣がリヒトの手のひらの上から1本ずつ消えていた。
消えた短剣はどこに行ったのか、たいがキョロキョロしていると、アスカがレベル1の感染者を指さした。
「あそこよ」
「<転移(ムーブ)>の力は生き物も物体も好きな場所に移動させることが可能だ。そして俺の対感染者用の武器はこの短剣だ」
「でも移動させただけじゃ短剣で攻撃はできませんよ?」
レベル1の感染者の近くにたくさんの短剣が現れたのを見ながらたいが言うと、西がずいっと前に出てきた。
「そこで私の力よ。<転換(コンバージョン)>の力は、物の軌道を曲げられるの」
そう言って力を使うと、現れただけの複数の短剣が自在に移動し始めた。
「ま、軌道がない場合には力は発動できないけど、ほんの少しでも軌道があればその速度すらも操れる便利な力よ」
複数の短剣がレベル1の感染者に刺さると、それだけで感染者は倒れた。
「俺とアレンの出番なかったな」
バクが不満そうに言うと、リヒトが否定した。
「こいつが単独行動をしていたなら、俺たちはもうお役御免で本部に帰還するが、こいつが何者からかの命令で動いていたならまたこのコロニーが狙われる危険がある」
「ってことはしばらく様子見?」
西が、え~。と言いながらすくを見る。
「通信終了」
<通信(テレパシー)>の力で本部に連絡を入れたらしい。
「俺たち5人はしばらくこのコロニーに滞在する。よろしくな」
そう言ってリヒトがたいに手を差し出した。
輸送部隊部隊長リヒト、能力<転移(ムーブ)>。
攻撃部隊部隊長アレン、能力<言語(ラング)>。
サポート部隊部隊長西、能力<転換(コンバージョン)>。
切り込み部隊部隊長バク、能力<脚力強化(スピード)>。
伝達部隊部隊長すく、能力<通信(テレパシー)>。
5人の部隊長が1つのコロニーに滞在するのは異例のことだった。
しかし本部はその異例を了承した。
「早くゼロを見つけ出すのだ……我らが過ちを……」
世界政府本部でリヒトたちを送り出したダンヒが1人呟いた。
その呟きは誰の耳に入ることもなかった――

