魔女狩り~プロローグ~

魔女狩り

「ギムレットよ。予言はどうだ?」

 暗がりの中1人の老婆が言う。

「シャンディガフくん」

 ギムレットと呼ばれた女は、老婆が近づいてきたのに気づいて顔を上げた。

「何度やっても同じだね……」

 やれやれと首を振りながらギムレットが答える。

 その目の前には、広げられたタロットカードが散らばっていた。

「やはりソウルが必要か」

 シャンディガフが呟くように言うと、ギムレットも頷いた。

「ソウルさえあれば、予言の書を引ける」

 片手に分厚い本を持って、ギムレットがそう言う。

 この本がどうやら予言の書らしい。

「もうじきソウルも溜まる。そしたら予言の書を引いてみよう」

「それまで人間どもが行動を起こさなければよいがな……」

 そう言い残してシャンディガフはその場を去って行った。

 ●

「モズ様。例の準備整いました」

 先ほどとは別の場所で1人の兵士が跪く。

 モズと呼ばれた大男は、そうか。と一言返事をして、相変わらず外を眺めていた。

 モズが眺める外では、大規模な訓練が行われていた。

 中には人間以外の生き物、機械人形や人造人間もいた。

 モズの返事を聞いた兵士が一度下がり、再び部屋へと戻って来た。

 例の準備と揶揄した物を一緒に持ってきて。

「これか……」

 初めてモズは訓練から目を離した。

 兵士が持ってきた物は、大きな鉄の塊だった。

「砂から鉄を抽出する技術がようやく確立しました。これでモズ様のお力も更に向上されるかと思われます」

「これを何に変えるかは後で考えるとして、魔女の集落は見つかったのか?」

 モズの一番の関心は魔女の集落にあった。

「今必死に捜索していますが魔女らは巧みにその場所を隠しているようです」

「魔女さえ見つかればカラスの力でエナジーをどんどん集められるんだがな……」

 それでもモズは焦っていなかった。

 モズのエナジーは十分に溜まっている。

 通称鉄のモズ。鉄の塊を自在に変化させられる錬金術を使える彼だが、そのコスパは悪くない。

 少なくともハゲワシの呪術に比べればコスパはいい方だ。

 焦らずモズは魔女の集落発見報告を待つことにした。

 ●

 彼はそれなりに人生を謳歌していた。

 運動も勉強もそこそこでき、友達は少なすぎず多すぎない。

 彼女もそれなりにいて部活もバイトもそこそここなす。

 不満がないわけではないが、恐らく一般的な高校生というやつだろう。

 少なくとも、ニュースで話題になっている虐待をされることもなかったし、自殺をしようと思ったこともない。

 そんな彼が選ばれたのは正に、運命のいたずらとしか言いようがない。

 いつものようにバイトへ向かい、いつものようにバイトを終える。

 自転車を漕いで帰路に就く。

 そろそろ秋を感じ始める夏の終わりの匂いを鼻に感じながら。

 家に変えればお風呂も沸いてる、ご飯もできている。明日の学校までは自分の時間だ。

 そんな自分の部屋でのんびり過ごしていた矢先、急に目の前が真っ暗になった。

 一瞬停電かと思った。

 しかし違うとすぐに気が付いた。

 聞き覚えのない声が周囲からするからだ。

 それに、さっきまでは確かに柔らかい布団の上に居た。

 しかし今はどうだ。

 どう考えても石畳の上にいる感覚がある。

 こんな非現実的なこと、彼は考えたくもなかった。

 しかし、目の前の光景が露になるにつれて、その考えが正しいのだと思い知らされる。

 暗闇に掲げられた複数の松明。

 松明は石壁に掲げられ、円柱状の建物の中に居るのだと分かる。

 聞き覚えのない声、聞いたことのない言語が耳に流れ込む。

「おぉ我らが主よ」

 コツッ。コツッ。と石畳を何かが叩く音がする。

「なんと凛々しいお姿」

 最初の声の主が言葉を続ける。

 声質から察するに、やや年めいた女性といったところか。

「我々をどうぞお導きください」

 どうやら、石畳を叩いていたのは、この老婆の杖だったようだ。

「混乱しているようですが、主あなた様は我々魔女によってこちらの世界へと召喚されました。どうぞそのお力で人間どもをせん滅する手助けを」

 老婆が跪く。

「シャンディガフくん。まずは主くんにしっかりと説明するべきだろう」

 可愛らしいやや高めの声質が言う。

「主くん。今きみはぼくたちの黒魔術によってこの世界へと呼び出された。ぼくの予言によるときみはぼくたち魔女の救世主になるはずなんだ。今この世界は人間がぼくたち魔女をせん滅しようとしているんだ。だからぼくたちもそれに対抗するためにきみを呼んだ。この集落はもうじき人間に見つかると予言に出ていた」

「私たちが全力で人間をくい止めます。主はその隙に予言の魔女ギムレットと共に逃げてください。まずは世界中に散っている仲間たちを集めるのです。私たちも折を見て逃げます。再び魔女が集結した時、全員のソウルを1つにしてワルプルギスを行います。それが終われば人間を一掃できるでしょう」

 シャンディガフと呼ばれた老魔女が補足説明をするが、彼にはすんなりと理解はできなかった。

 分かったことは、平穏で順風満帆だった日常からなぜか急遽、この不思議な世界へと召喚されてしまったこと。

 そしてどうやら人間が敵で、今は逃げるしかないということ。

 魔女の仲間をたくさん集めてワルプルギスとやらを行うと、人間に勝てるということくらいだった。

 次の瞬間、やや遠くで轟音が聞こえてきた。

「主! 逃げるのです」

 シャンディガフが叫び、ギムレットが彼の手を引っ張って走り出す。

 まるで背後から聞こえる怒号や轟音、何かが燃える匂いから逃げるかのように2人は暗闇の中を駆け続けた。

 まだ見ぬ仲間がいると信じて……

 

 

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