人生はゲームのようなものじゃなくてゲームだった!~第3ゲーム~

人生はゲームのようなものじゃなくてゲームだった!

 サポーターと契約してからは更に戦闘が楽になった。

 だからといって油断しないのは、未だに才賀とリコがレベル1だからだ。

 そして相変わらずワイルドウルフとの戦闘では逃げに徹しているのだが、今回はそう簡単には逃げられなかった。

 既に2回逃げるのに失敗している上にジョシュが倒されている状況だ。

『アイテムもそれなりに使わされているしな……これ以上逃げるを選択するよりも戦ってみた方がベストか?』

 才賀が悩むが答えは出ない。

 逃げる▼

 悩んだ末に才賀は逃げるを選択した。

『選択するのに制限時間があるのもキツいな……』

 才賀がそう考えるように、戦闘中の行動選択には制限時間がある。時間切れになるとその者は行動不可能になってしまうのだ。

 <ワイルドウルフAの攻撃。才賀に8のダメージ。才賀は倒れた>

 ――しまった!

 これで残るメンバーはリコ1人だ。

 それも残りHPは11。

『まずいな……このままだと全滅してしまう』

 心なしかリコがいつものように、恐怖の表情を浮かべて震えているように見える。

 もっとも、戦闘中は動けないから才賀にはそう見えているだけだが。

 リコが選択したのは逃げる。

 だがリコよりもワイルドウルフの方が速い。

 <ワイルドウルフBの攻撃。遠吠え! リコは恐怖状態になった>

『よし! 恐怖状態にはなったけどモンスター1匹の攻撃を回避したのに近い!』

 <ワイルドウルフCの攻撃リコに21のダメージ。リコは倒れた>

 ――終わった……ゲームオーバーだ。

 これで俺の人生も終わったんだ。どうせなら彼女の1人でも作って手を繋いだりキスをしたりあんなことやこんなこともしてみたかったな……

 よく考えたら俺の人生って全然いいことなかったな……

 転生してきてからは何回もパーティーから追放され、ようやく追放されなさそうな優しいパーティ―に出会えたけど、それも追放され、最後の最後にリコとルキとこれから冒険ができると思ったのにそれももうおしまいか……

 そういえば転生前の前世も全然いいことなかったな――

 ●

 ワイワイガヤガヤ。

 教室の雑音が耳障りだった。

 クラスに話せる奴がいないわけじゃない。けど友達か? と問われると正直微妙だ。

 ゲームの話しもアニメの話しも漫画の話しもする。

 だが心から本音を話せるかと言われると違う。

 好きな子ができても、その子にはほぼ必ず彼氏がいた。

 憧れの子を見ていることしかできない……

 運動も勉強も平均かそれよりも少し下。

 顔も体型も普通かやや下。

 趣味も特技もない。つまらない人間だ。

 家に帰れば、進路はどうだの今のままでいいのかだのどうでもいいことばかり言われる。

 部活もバイトもしていない。

 何もない。空っぽだ。

 そんな俺が転生したのは、うだるような暑い夏休みのことだ。

 あれは確か親が勉強やら進路やら宿題やらうるさくて、昼飯も食わずに家を出た日のことだった。

 最初に思ったのは、『やっぱり』だった。

 初めて感じた時は自分がおかしくなったのかと思ったが、最近ではそれも自分の人生、宿命なんだと受け入れるようになってきていた。

 耳元というか脳内に渋くて低い男の声が直接流れてくるのだ。

 それも毎回同じセリフを言う。

「ゲームオーバーです。新しい勇者候補を連れてきます」

 そう。男は確かにそう言っていた。連れてくると。

 この日はいつもとちょっと違っていた。

 いつものように、耳元というか脳内に同じセリフが流れるんだが、同時に目の前が真っ白になったのだ。

 公園でただ何も考えずにぼーっとブランコに乗っていた時の出来事だった。

 次の瞬間、目の前の男の子がふと目に入った。

『アニメや漫画だと、あの男の子が道に飛び出して車にひかれそうになるのを主人公が助けて、主人公が死んで異世界に転生するのがテンプレだよな』

 なんて思っていたが、そう都合のいいことは起こらない。

 夕暮れになると、男の子の母親が迎えに来た。

『俺も帰るか』

 そう思ってブランコから降りて公園の外へ向かう。

『俺が車に直接ひかれて死んだり、通り魔に刺されたりしないようにするか』

 アニメや漫画のテンプレをことごとく回避してみようと試みた。

 あのよく分からないセリフが脳内に鳴り響いてから、心のどこかで異世界に連れて行かれることを覚悟しつつ憧れてもいた。

 しかしそんな兆候は一切ないままに今日まできた。

 こうなれば、連れていかれる可能性があることを全部阻止してやるつもりでいた。

 しかし、それはあっけなくやってきた。

 首筋に鋭い痛みが走ったのだ。

「いてっ!」

 通り魔に包丁かなんかで刺されたかと一瞬思う。

 しかしここは公園の中だ。そんな人物がいるとも思えず後ろを振り向くが誰もいない。

 首をさすって血が出ているか確認するが血も出ていない。

 しかし首の後ろの痛みは鋭い痛みから、ズキンズキンという痛みに変わり、少しずつめまいもしてきた。

 呼吸も乱れてきている気がする。

 そして、聞き覚えのある音が耳元で鳴る。

 ブーンブーン。

 蜂だ! それも大きな蜂。

 そうか。俺はスズメバチに刺されたのか……これは盲点だったな……

 <パーティ―は全滅した>

 コンティニュー? はい/いいえ▼

「いいえを選択した場合、本当の死が訪れます。はいを選択した場合、今よりも難易度が上がった状態で最初からスタートできます。その際、全ての記憶は消去されます」

 低く渋い男の声が言う。

 今よりも難易度が上がるの意味は分からないが、俺は迷わずに『はい』を選択したんだ。

 そしたらこのゲームのような世界に転生したんだ。

 友達もいない、まともに喋れる仲間や気を許せる仲間がいなかった俺が、コミュニケーション能力が大事なこの世界に……

 ●

 才賀は自分の死を覚悟して自分が転生した時のことを思い出していた。

『あれ? まだ死が訪れない。意外と死ぬのって時間がかかるのか? そういえば何かの漫画かなんかで最初に死ぬのは体で目とか耳は最後まで残ってて一番最後に脳が死ぬとかなんとか聞いたことがあるような……』

 <リコは闇憑依を発動した>

 は? 闇憑依? 聞いたことないぞ?

 <リコはワイルドウルフAに闇憑依した。ワイルドウルフAをやっつけた。リコが復活した>

 才賀がよく分からない内にリコは復活を果たし、モンスターを1匹倒していた。

 <魔獣化47%>

『魔獣化はこれか! 闇憑依をするとこのパーセントが増えていくんだ。この数値が100になったらどうなるんだ?』

 魔獣化が進むとどうなるのかは分からないが、一度闇憑依を使うとパーセントが進むらしいことは分かった。

 そしてこの闇憑依。使えば必ずモンスター1匹を倒せてリコが復活する。その際のステートは全て解除され全てのステータスも元通りな上にHPMPは満タンに回復しているというチートっぷりだ。

 このスキルがあれば正に無敵だと才賀は感じた。

 要するにだ。リコとパーティーを組めば全滅の心配がないわけだ。

 そうこうしている内にリコは闇憑依を何度か使ってワイルドウルフを全滅させてしまった。

「なぁ。この魔獣化が進むとどうなるんだ? 魔獣化っていうくらいだから魔獣になるのか?」

 一旦町まで戻って宿屋で才賀が質問するがリコは無反応だった。

『もしも本当に魔獣化が進むと魔獣になるんだとしたら、人間の言葉も話せなくなるんじゃないか? だとしたら闇憑依は諸刃の剣だし使うべきスキルではないな……』

 才賀はリコに闇憑依を使わせないようにしようと考えた。

 すでに魔獣化は52%まで進んでいた。

 才賀はひとまず色んなことを整理しようと考えた。

「人間の言葉は理解できているか? できているなら首を縦に振ってくれ」

 ゆっくりとリコは首を縦に振った。

「ルキも理解していル」

 ややカタコトにサポーターも返事をした。

「あ、あぁ。だが今は君に聞いてるんじゃないんだ」

「それならバ、誰に言っているのか名前ヲしっかりと言うべきダ」

「済まないな。話しの流れから分かると思ったんだ」

「ルキはそういうの不得意ダ」

 機械だからな。空気を読むとか感情を読むとかそういうのは無理なんだろう。

「君はこれからあの闇憑依というスキルは使ってはいけない。わかったな?」

 才賀はリコの方をしっかりと見て言った。

 リコは再びゆっくりと頷いた。

 どうやらリコは話しはしっかりと理解できているようだ。

 とはいえ闇憑依は俺とリコとルキが死んだ場合に自動で起こってしまうスキルだ。

「どうやったらこのスキルを無くせるんだろう……」

 うっかり口から言葉が零れ落ちた。

 そんな才賀を不思議そうに、リコとルキが見る。

「闇憑依ヲ使えバパーティ―全滅の恐れガない。このスキルを無くすメリットは無いゾ」

 ルキが表情を変えずに淡々と言う。

「だがルキ。その分リコの魔獣化が進んでしまう」

「進むト死ぬのカ?」

「いや。恐らく死ぬことはないだろうけど人間ではなくなってしまうんだぞ?」

「それでも生きていルならば問題ないはずダ。重要なのはモンスターとのバトルで死なないことダロウ?」

 やはり機械。感情というものがない。

 モンスターとの戦闘でいかに効率よく勝利するか、全滅の危機がないかだけを考えている。

「そうだな。ルキの言うことは正しい。だが、魔獣化が進んで闇憑依が使えなくなる可能性もあるだろ?」

 仕方なしに才賀はそう言ってみた。その言葉にルキは納得した。

「ナルホド。闇憑依は魔獣化するためのプロセスでしかないというわけカ……それならバ完全に魔獣化してしまうト闇憑依は使えなくなってしまうナ」

 才賀の考えでは、魔獣化しても闇憑依は使える。そして魔獣化は100%がマックスだという可能性もない。

 しかし闇憑依を使わせないためにも、ここはルキの言葉に頷いておくことにする。

「だからいざという時にこのスキルは使うことにして、このスキルには基本頼らないようにしよう」

「魔獣化99%までなら使えるのではないカ?」

「いや、魔獣化が進むと闇憑依の効果が薄れたり、スキルを発動しても失敗する可能性もあるだろ? 魔獣化は低い数値を保ってできるなら0%を目指そう」

 ルキの言葉に才賀が首を横に振って、なんとか魔獣化を減らすように誘導することに成功した。

「じゃあリコ。次の質問だがどうしてこのスキルを手に入れたか分かるか?」

 才賀の言葉をしっかりと理解してリコは大きな目を更に見開いて首を左右に振った。

「そうか……せめてなにかきっかけみたいなのでもわかればいいんだがな……」

 才賀のその言葉にリコは少し驚く。

 才賀と出会ってからまだ日は浅いとはいえ、少なくとも才賀は他人のことを気遣うような人間ではないと思っていたからだ。

 リコは自分がこのスキルを手に入れたきっかけを思い出そうと頭をフル回転させてみた。

 ――誰にも知られてはいけない。誰とも話さなければ知られることもなかろう。

 思い出すのは謎の言葉のみだった。

 ひとまず闇憑依は使わないということが、このパーティーのルールとして決定した。

 

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