さて、転生したワイは賑やかな街【ダイヤシティ】に居る。
こいった賑やかな街だからこその問題もある。
それが――
「ドロボー!」
人間による犯罪だ。
以前のワイならばきっと無関心だっただろうが、今はこの世界を救う救世主勇者だ。
「いよいよワイの時代が来たな……」
ワイの予想が正しければ、この事件をきっかけにワイの能力はチート級に進化する。
【炎】の能力は実はただの炎ではなく例えばそう、ありとあらゆる物を燃やせる能力だったりするのだろう。
そしてワイはうっかりやらかしてしまうのだ。誰もが恐れるであろうモンスターや犯罪者をいとも簡単にやっつけてしまうということを。
いかんいかん。想像しただけでにやけてしまう。
きっと街中の人々がワイに惚れてしまう。
老若男女問わず、ワイはみんなの注目を浴びてしまうのだろうな……
「さぁこい! ドロボー!」
ワイには余裕があるのを隠さねばなるまい。
「あっち行ったよ。さっきからブツブツ言ってるあんちゃん」
八百屋のおやっさんが、泥棒が逃げた方向を教えてくれた。
なるほど泥棒もずる賢い奴よ。ワイが最強だと気づいて、逃げ道をワイとは反対方向にするとはね。
ワイが泥棒が逃げた先へ向かおうとしたら、八百屋のおやっさんがワイを引き留めた。
これが勇者の宿命。
急ぎの用事があっても、次々に頼みを任されてしまう。
勇者として、このおやっさんの助けを断るわけにはいくまい。
あわよくば、このおやっさんには超絶美人の娘がいて、その娘を頼みを聞いてくれたお礼に嫁にとか言われるかもしれんが、それが目的では決してない。
「なんだい?」
胸中の下心を抑えながらワイが聞く。
「あぁ。さっきから、ブツブツ独り言を言ってるようだが大丈夫かい?」
このワイの詠唱呪文を聞き取れないからと独り言に感じてしまうとは。
勇者のワイを心配してくれるんだな。
「心優しき八百屋の主よ。ワイは問題ない。それよりも泥棒が逃げたのはあっちの方であっているのだな?」
ワイは八百屋のおやっさんが指さした方を、確認のために指さす。
「あ。あぁ。あっちだがあんちゃん。もうあの泥棒は捕まったと思うがね。何しろ警備隊のシルバー様が向かったんだから」
シルバー? 何者だ?
転生したばかりのワイにはさっぱりだな。
ワイが困惑した顔をしていると、街中に歓声が飛び交った。
次の瞬間、歓声の中心が割れ歓声の正体が現れた。
ワイでも一目で分かった。
あれがシルバーだ。
全身鎧の巨体に、金色の髪の毛。あれは世間一般で言うイケメンというやつだ。
そして、その男に首根っこを掴まれているのが、先ほどの泥棒だろう。
「街の英雄よ」
八百屋のおやっさんが、自慢げに言う。
ほう? 英雄か。ワイは勇者。勇者の仲間に英雄は付き物だろうよ。
「決めた」
ワイがボソリと言うと、八百屋のおやっさんがワイの方を見る。
「英雄を仲間に引き入れよう」
ワイの言葉におやっさんは吹き出した。
「そりゃー無理だろ」
●
さて、ワイは街の英雄シルバーを仲間に引き入れようと考えていたわけだが、八百屋のおやっさんに頭ごなしに無理。と言われて腹が立ちすぐさまその場を後にした。
この街には王族が住む城がそびえ立っている。
とりあえず、その城へ向かうとしよう。
ワイ、勇者だしすんなり中に入れてもらえるでしょ。
……あり?
「ダメだダメだ」
門番に追い返された。
なるほど?
いくら勇者でも用事がなければ城の中には入れないってことだな?
セキュリティがしっかりしていて、いい城だ。気にいった。この城に絶対に入れて貰って、シルバーを仲間にする。
ワイの見立ててでは、シルバーはこの城の警護を任されていて、綺麗なお姫様を守っている。
つまり、シルバーを仲間にすればそのお姫様ともお知り合いになれるって寸法だ。
そうと決まれば、まずはこの城に入る方法を模索するとしよう!
不法侵入はよくない。
勇者だから、簡単に侵入できてしまうだろうがよくない。
シルバーとのイベントをワイは探そうとしていた、ちょうどその瞬間に事は起こった。
「モンスターだぁー!」
モンスターだと?
ワイの耳に、何度も聞き慣れた単語が入ってくる。
正に、シルバーと仲良くなるきっかけのイベントではないか!
ワイは王城を後にして、走り出した。

