俺にとってはこれこそが異世界転生~第23妄想 みゆうの決意~

俺にとってはこれこそが異世界転生

『くそ! なんでこんなことに』

 勇者は心の中で悪態をついた。

 それもそのはず。

 勇者はあのままみゆうに引っ張られる形で、なぜかみゆうの家に居たのだ。

 セキュリティがしっかりしているであろうマンションのエントランスで、みゆうは一度勇者の手を離した。

「えっと?」

「入って」

 困惑する勇者を無視してみゆうが言う。

 有無を言わさぬ物言いに勇者は、素直に従った。

 オートロックのドアが閉まった様子は、勇者とみゆうをまるで別空間へ移動させたかのようだった。

「あの……ここは?」

 聞かなくてもわかる質問をあえてしたのは、まだ現実逃避がしたいからだ。

「うち」

 そうひとことだけ返された。

 みゆうの一人称はうち。である。私でもみゆうでもなくうち。

 一瞬、勇者はみゆうが自分のことを言っているのかと思ったが、話しの脈絡からしてそうでないことは明白。

 つまり、さきほどの<うち>は、<私>の<うち>ではなく、<私の家>の<うち>であるということ。

「えっと。何で?」

 エレベーターで勇者が質問をする。

 なんでみゆうの家に自分が来ているのか。という意味だ。

「今日、うちだれも居ないんだ……」

 下を俯いたままみゆうが言う。

 その後の2人は無言だった。

『これってつまりそういうことだよな?』

 勇者の心臓が早鐘のように鳴る。

「待ってて」

 それだけ言うとみゆうはどこかへ消えて行った。

 勇者は、みゆうに案内された部屋でソワソワして待つことしかできなかった。

『ここってみゆうの部屋? ……だよな』

 自問自答しながら部屋を眺める。

 見れば見るほどみゆうらしいようなみゆうらしくないような部屋だった。

 かわいらしいぬいぐるみは、学校一美人によく似合っていた。

「はいこれ」

 みゆうがジュースとお菓子を持ってきた。

 浴衣もラフな部屋着に変わっていたのだけは、少し残念だった。

「何?」

 そんな勇者の心を読むようにみゆうが言う。

「え。いや。浴衣綺麗だったから」

 勇者は正直に言う。

 みゆうには嘘が通じない。

「はぁ?」

 みゆうが顔を赤くし、正直に言った勇者も少し恥ずかしくなってきた。

「みゆうってホントは魔法使いなんじゃないの?」

 照れ隠しにそんな冗談を言う。

「俺の心読めるし」

「ばっかじゃないの」

 そう言い残してまたみゆうは部屋を出て行った。

 取り残された勇者は、みゆうが持ってきてくれたお菓子をジュースを飲み食いして待つしかできなかった。

 しばらくすると、みゆうが再び部屋に入ってきた。

 何やらいい匂いのする物を持っている。

「あんたあまり食べてなかったし、お腹空いてるだろ?」

 焼うどんだ。

「え? いいの?」

「うちこう見えて料理うまいから。いい奥さんになれるぜ」

 にしし。とみゆうが笑いながら、自分でも焼うどんを食べた。

「うん! うまい!」

「自分も食べるんかい」

 勇者もつっこみながら食べる。

「お。ホントだおいしい」

「だろ? 誰が作ったと思ってるんだ」

 みゆうは思いっきりにっこりした。

 ●

 夜食が済むと風呂場へ勇者は案内された。

「これが強制イベント」

「なーに訳わかんないこと言ってんの」

 勇者の呟きにもはや動じなくなったみゆうが、勇者を無理やり風呂に入れる。

「あんたちょっと汗臭いからね。レディの部屋でその匂いまき散らすのはさすがによくないっしょ?」

「気づかずに毒攻撃しててごめん」

 慌てて勇者が自分の脇の匂いを嗅ぐ。

「そんなに臭いかなぁ?」

「自分では分かんないもんだよ!」

 バタン。と脱衣所の扉をみゆうが閉める。

 その後は、入れ替わるようにみゆうが風呂に入った。

 勇者の寝巻はみゆうが事前に購入して準備してくれていた。

「あんたの服、汗まみれだったから洗濯しとくわ」

 そんなことをみゆうが言っていたが、勇者は自分の寝巻を見て戸惑っていた。

「防御力が下がるぞこれは」

「いいじゃん猫。可愛いでしょ?」

 にひひ。と笑うみゆうはスッピンでも相変わらず可愛い。

 驚いたことにみゆうの寝巻は勇者のそれと全く同じ物だった。

「一緒じゃん」

 ボソリと言った勇者の一言に、みゆうは照れながら、お揃いにしたかったんだ。と言った。

 ドキン。と勇者の心臓が跳ねたかと思った瞬間、部屋の明かりが消えた。

「停電か?」

 勇者の問いは一人歩きする。

 ――バサリ。

「うぉ?」

 何かが勇者の上から覆いかぶさり、そのまま勇者はベッドに仰向けに倒れた。

 暗闇の中にぼんやりとみゆうの輪郭が浮かぶ。

「みゆう?」

「こんなの反則だって分かってるよ」

 困惑する勇者の言葉に、みゆうが涙する。

「けどこうしてでもうちは、勇者のことを手に入れたいんだ」

 気配だけでもみゆうが寝巻を脱いだのが分かる。

「ごめん」

 その一言だけでみゆうの動きを止めることができた。

「分かってるよ……分かってたのに……言わないでよ」

 うわーん。とみゆうは泣き出した。

 勇者はもう一度、ごめん。と呟いた。

 女性経験レベル1の勇者にとって、今何をするのが正解なのかさっぱり分からないのだった。

「バーカ」

 暫くしてみゆうはそう言って、部屋の電気を点けた。

「こんないい女フッといて絶対に後悔するからな」

 そう言って勇者にキスをする。

 最初で最後のキスを――

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