【悲報】勇者に転生したワイ魔王の娘に好かれる~第三十章 ジンフィズの実力~

【悲報】勇者に転生したワイ魔王の娘に好かれる

「さて。俺もそろそろこの退屈な戦いを終わらせたい。」

ジンフィズが両手をポキポキ鳴らす。

「タローをどこにやったのだ!」

ダリアが飛びかかるが、巨大ドール人形が間に入って来た。

「さぁな。知ったところで君たちには追えんよ。」

そう言いながら、邪魔だなとジンフィズは呟いた。

次の瞬間、一瞬にして巨大ドール人形を粉々に砕いてしまった。

「い…いいのかよ?」

驚きのあまりチラコンチネが問う。

「俺と君たちの戦いだ。邪魔はさせたくない。せいぜい楽しませてくれたまえよ。」

ジンフィズが両手を広げる。

「舐めやがって!」

チラコンチネとダリアがジンフィズを左右から挟撃する。

正面からは1がレーザー砲を撃つ。

ヘリックスとワチワヌイは第2波として控える。

ティムが空中に飛び、太郎の懐から転げ落ちてしまったタイニーがその上に潜む。

チラコンチネとダリアがジンフィズに近づくと、パラナの魔法が発動し、2人のスピードが上昇した。

「またそれか。」

呆れたような物言いでジンフィズがため息をつく。

ジンフィズが少し下がってチラコンチネとダリアの攻撃線上から外れる。

すぐにダリアもチラコンチネも、軌道を修正して下がったジンフィズを追う形となる。

「ふっ。」

甘かった。ジンフィズの下がりは誘いで、そのまま<滑る>力でダリアとチラコンチネをパンチで吹っ飛ばす。

1のレーザー砲も余裕で避けてしまう始末だ。

そのまま蛇行して1もパンチで吹っ飛ばし、2波で備えていたヘリックスとワチワヌイの正面に対峙した。

「2人か…」

残念そうに呟きながらジンフィズが滑る。

パンチがくると思った2人は、攻撃に備えて顔をガードする。

同時にヘリックスはカウンターの準備をする。

しかし、ジンフィズの攻撃は下方から上方へ向かって蹴り上げる攻撃だった。

「俺の攻撃を咄嗟に判断してガードするのはいいが、思い込みはいかんな。」

ジンフィズは、滑りながら上体を反らしてそのままブリッジのような体勢になり、ヘリックスとワチワヌイの近くに来た時に足を跳ね上げてバク転をする形で元の立ち位置に戻っていた。

『今の、わざとよけやすくするために行動を大げさにしていましたね…逆立ちなんかしないでそのまま蹴り上げることもできたはず…』

そうタイニーは上空から分析した。

「飛びがイマイチだな…」

そう呟いたジンフィズはその刹那、上空にジャンプしてティムとタイニーを蹴り飛ばした。

そのまま斜め下にいたパラナも上空から下降するついでの蹴りで倒す。

「やはり8人がかりでもこの程度か…」

一番ダメージの少なかったパラナが、地面から木の根っこを呼び出してジンフィズを捉える。

「まだこれからです!」

最初に飛ばされたダリアとチラコンチネが、動けなくなったジンフィズにパンチや蹴りの応酬をお見舞いする。

更に1が前回ジンフィズを捉えた網でもっとジンフィズを動けなくした上で、レーザー砲をお見舞いし、網に電流を流す。

「さすがにダメージあんだろ。」

チラコンチネが口の血を吐きながら言う。

「そうだな。」

埃で影しか見えないが、声だけ聞くとまだまだ元気そうだ。

「電撃とレーザーは俺の力で受け流すことができないからダメージはある。だが、物理攻撃は効かないと言ったはずだぞ?」

パンパンと肩の埃を払いながらジンフィズが言う。

「そんなこと言ってもダリアには物理攻撃しかないのだ。お前が受け流せない程の攻撃でダメージを与えるのだ。」

明らかにダリアのポテンシャルが上がった。

太郎と一緒で、ダリアも感情が高ぶることで効果を発揮する力だった。

違うのは、太郎は周りのメンバーをダリアは自身の身体能力が大幅に向上するという点だ。

「ほう?面白い。少しは楽しめそうだ。頼むから簡単に壊れてくれるなよ?」

ダリアの力を正確に把握したジンフィズが喜んだ。

――ここは?

右手も左手も動かない。

それどころか、両手両足も動かない。

辺りを見渡しても暗闇だ。

「イヒヒ。気が付いたかい?ダーリン。」

驚く程近くで声がした。

多分耳元で喋られたんだろう。

何も見えないから確証はないけど。

「<飲酒>に2人きりの空間を作らせたんだ。ウチらの愛の巣だよ。」

無理やりキスされる。

両手足が縛られているから抵抗もできない。

「んー!んー!んー!」

「ほらほらダーリン♡こぼさず飲んで?ウチの唾液美味しいよ?」

おえぇ!やめてくれ。ワイには唾を飲む趣味はない。

「はぁぁー。ダーリンのいい匂い。」

なんかこいつワイの足の匂いでない?キモいなほんと。

それにしてもこいつ、ワイと2人でいる時は甘ったるい声を出すから余計にキモい。

ん?なんだこの匂い。ツンとした鼻につく匂い。

「イヒヒ。ダーリン♡ウチのパンツ。いい匂いでしょ?食べていいんだよ?ねぇ。食べてよ。ウチのことも食べる?ウチもダーリンのこと食べるからダーリンもウチのこと食べてね?」

何言ってんのこいつ。

ほんとにヤバいよ。

「いってぇー!」

腕を噛みやがった。

「痛いの?おかしいなぁ。愛があれば痛みはなくなるはずなのに。ダーリンにはこれからウチをしっかりと愛して貰うからね?いいよね?」

そう言うと、目の前が急に明るくなった。

どうやら目隠しをされていたようだ。

ここは…洞窟?まだ洞窟内なのか。灯かりは松明のみ?すげー薄暗い部屋だ。両手足はやっぱり縄で縛られてるのか。

「ダーリン!ウチをちゃんと見て!」

怒られてマティーニを見る。

なんだこいつ。本当にヤバいやつじゃん。

ワイの目の前にいるのは、まだ幼い少女だと思うけど、裸だし顔どころか体中ツギハギだらけ。

手にはグレーのパンツ持ってるけど、あれさっき嗅がされたんか?最悪だ。

そう思っていたら、パンツを口に突っ込もうとしてきやがる。

本気でやめて。そんなことされたら吐く。

「欲しそうに見てるからあげるね?」

無理やりパンツを口の中に入れたマティーニの手には、ノコギリとハンマーがあった。

あぁ。ワイはこれから拷問されるのか…

「愛がなんなのか分かるまで、ずーっと一緒だからね?」

イヒヒとマティーニが笑った。

ジンフィズが両手を広げて余裕を見せる。

「舐めんなよハゲたおっさん!」

チラコンチネがパラナの魔法で向上された、身体能力アップ能力でいつも以上に素早く動く。

「ハ!ハゲだと?言ってはならんことを言ってしまったな。俺はハゲていない。髪が他の者よりも短いだけだ。」

ややハゲ上がっている後頭部を擦りながらジンフィズは一生懸命言い訳をした。

「そんなのどうでもいいんだよ!カツラでも被ってろ!」

チラコンチネが素早く移動してパンチを繰り出す。

「ふ!動揺させようとしても無駄なこと。それにハゲネタでは動揺もせん。気にもしていない。」

パンチを避けてカウンターをしようとジンフィズが構えるが、チラコンチネは更にスピードを上げ、ジンフィズの真後ろまで瞬間的に移動した。

「反応できなきゃ攻撃を滑らせて受け流すこともできないでしょ?」

そう言いながら渾身のパンチを叩き込む。

「ふむ。あのスピードが最高ではなかったとは…驚異的なスピードだな。」

チラコンチネのパンチは確実に当たった。

しかし、ダメージがそこまであるようには見えなかった。

『どうなってるんだい?体が硬いのか防御力が異常に高いのか…』

チラコンチネは密かに眉をひそめた。

しかし、追撃の手は緩めない。

ダメージが通ったかどうかは不明だが、ジンフィズを吹き飛ばすことには成功した。

その先にはヘリックスが待ち構える。

ヘリックスは、こん棒に変形した1を手に持つ。

「電流発動。」

1がこん棒に電流を流す。

ヘリックスの渾身のフルスイングがジンフィズに直撃する。

たとえこん棒のダメージを受け流せたとしても、電流のダメージは受け流せない。

追い打ちをかけるように、パラナが炎の魔法を叩き込む。

ティムも上空からブレスで応戦する。

「はぁー!」

とどめと言わんばかりにダリアが上空からパンチを繰り出す。

「どうだ!受け流せない程のダメージなのだ!」

地面にクレーターが出来ていた。

ダリアの感情が爆発した際の攻撃力の高さが伺える。

「さっさとタローの場所に案内するのだ!」

ダリアの怒りはまだ収まっていない。

「確かに…凄まじい攻撃力だ…さすがは魔王の血を引く者だな…」

ゴホ。といかにもダメージを受けたような咳をしながらジンフィズが言った。

土煙から出てきたジンフィズは確実にダメージを受けていた。

「だがそれでも勇者の場所に案内するレベルではない。何より俺がマティーニに殺されてしまう。」

ジンフィズが素早く滑ってチラコンチネをパンチで吹き飛ばす。

あまりのスピードにチラコンチネはガードすら出来なかった。

「それに今ごろもう勇者はマティーニに壊されているだろうよ。気の毒だが、ゼウス様ですら、マティーニの奇行を止めることはできんよ。」

その言葉にダリアがキレた。

想像を絶する力はジンフィズの予想を上回っていた。

「タローを返せ!」

ダリアが纏った力は、この世のあらゆる負のオーラを孕んでいるような感じだった。

魔族という言葉がぴったりな、慈悲などない。あらゆるものを全て拒否できる力を感じさせた。

『なんということだ…この娘の覚醒はまだ中途半端だったのか…これが魔王の娘の力…』

拒否したいジンフィズだったが、無理やり屈服させられそうな程の威圧だった。

ダリアの異変は、洞窟内はもちろん洞窟の外にまで響いた。

ダリアの咆哮と共に世界が揺れた。

洞窟内に居たソルティドッグ・ジントニック・シャンディガフ・カシスウーロン・ジンバック・レッドアイの6人が辺りを見回す。

「何事?」

ソルティドッグが慌てる。

「もしかしてマティーニが暴走した?」

ジンバックがマティーニが引きこもっている部屋を見て言う。

「暴走したなら、勇者に呪いはかけたのか?かけていなかったら一大事だぞ。」

堅物のカシスウーロンがマティーニの部屋へ行こうと立ち上がる。

「相変わらず堅いなー。勇者が死ぬなら別にいいんじゃないの?」

ジンバックがヘラヘラと言うが、カシスウーロンは聞き入れない。

「死ぬなら構わん。だが、マティーニが暴走したとなれば、勇者は死なぬ。お前だってそれは分かっているだろう。」

「分かったよ。その代わりマティーニが暴走してたらジンフィズも呼び戻すからね。」

やれやれとジンバックがため息をつきながら言う。

マティーニが暴走していた場合、ジンバックとカシスウーロンでは止められないからだ。

「だいたいいきなり勇者を連れてきたと思ったら急に自分専用の部屋を作れだもんな…マティーニの身勝手さには困ったものだよ。」

ジンバックが首を振りながら、マティーニが太郎を連れて帰って来た時のことを思い出す。

「イヒヒ。勇者はウチのものにする!」

くまのぬいぐるみに乗りながらいきなりマティーニが宣言した。

「あ…そう…」

呆気に取られながらジンバックが返事をすると、キンキン声でマティーニが騒ぐ。

「<飲酒>はどこ?ウチと勇者の部屋を作って欲しいの!」

マティーニは、両目が飛び出そうな表情をしていた。

『こりゃ何言ってもダメだな…』

そう思ったジンバックは、素直にレッドアイを呼んできた。

「マティーニ、ちょっと急すぎるよ?ボクの力だって万能じゃないんだから。」

ぶつぶつ文句を言いつつも、洞窟の一部を変形させてマティーニ専用の部屋を作った。

「誰も入ってきちゃだめだから!ウチと勇者の愛の巣なのここは!」

「はいはい。ドア閉めとくから。気が済んだら出てきてね。」

めんどくさそうにレッドアイが言って、大きな岩で部屋の入り口をふさいだ。

「でかい声がしたけど、マティーニ帰って来たの?」

声を聞きつけてジントニックがやって来た。

「そう。勇者を連れて。んで相変わらず引きこもった。」

ジンバックがマティーニが引きこもった部屋を指さす。

「大丈夫なの?」

「さぁ。とりあえず暴走はしてなかったから平気だと思うよ。」

ジントニックの問に、ジンバックは肩をすくめた。

「マティーニが暴走してもボクは知らないからね。」

レッドアイは我関せずで、元の場所に戻ってしまう。

「やっぱり暴走する前に釘を刺した方がいいんじゃない?」

ジントニックが恐る恐る言う。

「それなら君が言ってよ。僕もレッドアイと同じ気持ちだよ。マティーニに目を付けられるのはめんどくさいし嫌だ。」

片手をひらひら振ってジンバックもレッドアイと同じ場所へ戻る。

――コンコン。

おずおずとノックをしてからジントニックが声をかける。

「マティーニ?あの…勇者のことなんだけど。」

「何なの?邪魔しないで!殺すわよ?」

相変わらずキンキン声で叫ばれる。

「そうじゃないの。あのね。」

続きを言おうとすると、肩に手を置かれた。

見るとシャンディガフが首を振っていた。

「やめておけ。本当にお前が殺されるぞ。」

諭されて、仕方なしにジントニックもみんなの場所に戻った。

「マティーニ?」

ジンバックが声をかけると、部屋の中から奇声が聞こえた。

同時に勇者の叫び声も。

「だめだ。マティーニのやつ。完璧に暴走している。」

ジンバックが首を振る。

「レッドアイを呼んでくる。」

カシスウーロンがレッドアイを呼んで来て、部屋を開けると見るに堪えない有様だった。

勇者の両目は潰され、両手足は切り落とされ、それでいて止血されていた。

殺さない程度に生かされていた。

「何?ウチとダーリンの邪魔をしないで!」

「あのねマティーニ。勇者を呪うか殺すかしないといけないんだ。」

ジンバックが辛抱強く説明する。

「は?ダメに決まってるでしょ?ダーリンはウチのもの!呪うなんて絶対にさせないし、殺すとか論外!そんなことしたら、そいつをウチが確実に殺す!」

マティーニが両目を大きく見開いて唾をまき散らしながら言う。

「さぁダーリン。傷の手当をしましょうねー♡」

驚いたことに、マティーニの手当は適切で出血は止まり、点滴によって栄養もしっかりと補給していた。

「ダメだ。やっぱり暴走してるし、言うことも聞いてくれない。もちろん呪いの人形を攻撃させてもいない。」

ジンバックが後ろを振り返りなが言う。

口元を抑えている。

カシスウーロンとレッドアイがため息をつきながら、部屋を出ていった。

「とりあえず部屋のドアはこのままにジンフィズを呼び戻そう。せめてマティーニには服を着て欲しかったな…僕しばらくご飯食べれないよ…」

レッドアイがジンフィズの場所に通じる道を作り、そこをジンバックとカシスウーロンが進む。

2人の誤算は、実力者のジンフィズが苦戦していたことだった。

「おのれ…魔王の娘め…」

ジンフィズは片腕が折れていた。

ジンバックもカシスウーロンもさっきの振動が、マティーニの暴走ではなくダリアのものだと即座に気づいた。

「感謝するよ。君のおかげでマティーニの暴走に気が付けた。ジンフィズ。マティーニを止めて勇者に呪いをかけてくれ。あわよくば勇者を殺して。ここは僕とカシスウーロンが引き受けた。」

全てを理解したカシスウーロンも頷く。

「何を言っている?君たちでは勝ち目はないぞ。特にカシスウーロン。君は戦闘要員ではない。」

ジンフィズが断ろうとするのをカシスウーロンが遮った。

「俺達は<神の軍勢>。全てはゼウス様のために。だろ?」

どん。とジンフィズを後ろに退かせて、ダリアと対峙した。

「タローはどこなのだ?」

ダリアが睨む。

それだけで2人の足がすくむ。

「今ジンフィズが殺しに行ったよ。」

ジンバックがにやりと笑った。

「させないのだぁー!」

ダリアが咆哮と共に渾身のパンチを繰り出す。

『あぁ、この一撃で僕もカシスウーロンも死ぬだろうな…ジンフィズ、後は任せたよ。」

ジンバックの想像通り、ジンバックとカシスウーロンはダリアの一撃でやられた。

「ダリア!」

チラコンチネが制止を呼びかけても、ダリアは聞く耳を持たず、ジンフィズを追いかけて行った。

「私達も行きましょう。」

パラナがそう言って、ダリアを追いかける。

ダリアが覚醒しなければ全員ジンフィズにやられていた。

誰もそのことを口にしなかったが、痛感していた。

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