「悪いな。やっぱり才賀は他の人とパーティーを組んだ方がいいと思う」
1人の男が別の男に言う。
「ちょっと待ってくれよ! 俺が何か悪いことをしたか?」
才賀と呼ばれた男が言い返すが、最初の男は、悪いな。とだけ言って自分の部屋へと戻って行った。
『察しろってことか? くそっ! 俺が毎回みんなの気持ちを汲んで戦闘の役に立っているってのにまるで分かっちゃいねぇ! 俺がいなきゃ全滅だった戦闘がどれだけあったことか!』
宿屋の床を思いっきり蹴りつつも、才賀は部屋の前で呆然と立ち尽くす。
パーティ―を抜ける? ……▼ はい/いいえ
「こんなパーティこっちから願い下げだね!」
才賀はそう叫ぶなり自分の部屋へと戻って行った。
はい▼
こうして才賀は何度目かのパーティ―を再び抜けた。
自分は悪くないと信じ込んで……
『これで何度目だ?』
ベッドの上でため息交じりに才賀は考え込む。
そもそも自分が周りに気を使いすぎるせいで、行動の選択が空回りしていまうのだ。
「俺だって周りのことを気にしなければ、選択の空回りなんてしないで済むのに……」
ポツリと負け惜しみのようなことを呟きながら、過去の戦闘を思い出す。
何という見当違い――
●
行動選択。
攻撃 魔法 スキル 防御 アイテム 逃げる……▼
才賀と宿屋で揉めてたパーティ―は、スライムの集団に遭遇していた。
熟練のパーティ―ならばたいしたモンスターではない。
しかし才賀は新米の冒険者だ。
そんな彼を熟練の冒険者パーティーが仲間に引き入れたのには訳があった。
『さて……みんなはどの行動を選択する?』
才賀は真剣に考える。
戦闘中は仲間との意思疎通が取れないからな……
そんなことを思いながら、ことさら真剣に才賀は自分の行動を考えた。
才賀に使える魔法はない。スキルもない。つまり選択肢としては攻撃かアイテムか防御。
アイテムは当然ながらパーティ―で共有しているのでそう簡単に使えるものではない。
その上今戦っているモンスターはスライム。
才賀ともう1人以外は熟練のパーティ―だ。そんなに考えなくてもみんなが通常攻撃をすれば簡単に勝てる。
しかし、新米の冒険者にとってはこの選択すら難しい選択だと言える。
通常は、戦闘前にこういう時はこうしようとパーティ―内で会話がある。
しかし才賀はそういった会議に一切参加しない。
そのため、どういう時にどんな行動を取るかがさっぱり分からないのだ。
『ま、俺がみんなに気を使って会議に出ていないだけだからな。俺がいるとみんなが本音で話せないしな……ここは通常攻撃でいいだろ』
攻撃▼
<アサの攻撃。スライムAに112のダメージ。スライムAをやっつけた>
<ガイジュの攻撃。スライムCに98のダメージ。スライムCをやっつけた>
<アヤは身を守っている>
<才賀の攻撃。スライムBに1のダメージ。>
<スライムBの攻撃。アヤに8のダメージ>
<スライムDの攻撃。アヤに7のダメージ>
<スライムEの攻撃。アヤに5のダメージ>
『まずい! アヤのHPは確か25だったはずだ。今20ダメージ受けてるから残り5だ……』
<スライムFの攻撃。ミス! スライムの攻撃は外れた>
――危なかった。今の攻撃が誰を狙ったものか分からないが、アヤを狙ってて当たってたらアヤは死んでいたな……
ほう。と安堵の息を吐きたいが、戦闘中は自由に身動きが取れなかった。
<スライムGの攻撃。才賀は18のダメージ>
『くそ!』
才賀のHPは20だ。
『次のターンでアイテムを使わないと』
<アサはサポーターレイを呼び出した>
<ガイジュはサポータールンを呼び出した>
<スライムGはサポーターダイゴを呼び出した>
『スライムもサポーターと契約してるのか……』
そんなことを考えながらも才賀の選択は変わらなかった。
行動選択。
攻撃 魔法 スキル 防御 アイテム 逃げる……▼
アイテム▼
何を使う?
薬草
ポーション
エーテル▼
『薬草の回復量は10だったな……俺のHPは残り2。次に一斉攻撃されたら死んでしまう。俺が死んだらみんなにも迷惑がかかる。ここはポーションだ』
ポーション▼
<アサの攻撃。スライムBに90のダメージ。スライムBをやっつけた>
<ガイジュの攻撃。スライムDに103のダメージ。スライムDをやっつけた>
<レイはヒールを唱えた。アヤのHPを15回復した。才賀のHPを18回復した>
『あれ? 俺のHPが満タンになってる……』
<アヤは身を守っている>
<ルンは回転切りを放った。スライムEに50のダメージ。スライムFに38のダメージ。スライムGに41のダメージ。スライムたちをやっつけた>
<才賀はポーションを使った。しかし何も起こらなかった>
<ダイゴの突進。才賀に25のダメージ。才賀は倒れた>
才賀はやられたが戦闘が続いているため、才賀はまだ死なない。戦闘中の行動も見れる。
次のターンにアサの攻撃でダイゴを倒して戦闘は終了した。
<モンスターたちをやっつけた。アサは1の経験値を獲得した。ガイジュは1の経験値を獲得した。アヤは15の経験値を獲得した。アサは1のジョブポイントを獲得した。ガイジュは1のジョブポイントを獲得した。ガイジュたちは15ゴールドを獲得した。猪人の牙を獲得した>
才賀は戦闘不能になっていたから経験値を獲得できなかった。
戦闘が終わると、戦闘不能になった才賀はHP1で復活できる。
「お疲れー」
アサがみんなに声をかける。
戦闘が終わると、みんな自由に行動ができるようになった。
「あのさ、才賀くん……」
言いにくそうにアヤが声をかけてくる。
このパーティーの中で才賀の次に新米の冒険者だ。
「やっぱり作戦会議に参加しない? さっきのも私たち新米は防御に徹する作戦だったし」
そうなの? いや俺会議に参加してないから知らないし。
そんな言い訳を心の中でしつつ、才賀は更に言い訳を重ねた。
「いやでも。俺が会議に参加するとみんな気まずいだろうし」
それだけ言うと、くるりと後ろを向いてみんなとは逆の方向へ歩き出した。
才賀はみんなの作戦を聞かないために、パーティーとの意思疎通が全くできない。その上先ほどはポーションをも無駄にしていた。
それでもこのパーティーが才賀を受け入れているのは、才賀が転生者だからだ。
転生者には特別なアビリティやスキルが撥弦すると言われており、それを信じているからだ。
しかし今のところ才賀のレベルは1で、ジョブもすっぴんのまま。このパーティーに迎え入れられてから1ヶ月が経過しているが、レベルが上がる見込みもなければ特別なアビリティやスキルが撥弦する様子もない。
足手まとい以上の足手まとい。ただ飯ぐらいと言われても仕方ない。
聞けば、過去にもいくつかのパーティ―に所属していたが、同じように作戦会議に参加しないで意思疎通が取れず、余計な行動選択で足を引っ張ってばかりだったそう。
『そりゃパーティ―から追放もされるわな……』
ガイジュがやれやれとため息をつく。
この数日後、才賀はパーティーのリーダーガイジュからパーティ―から抜けるように要請される。
誰もが才賀を責めなかったとてもいいパーティ―だったと言えるだろう。
●
仲間誰もいなくなった部屋で、才賀はベッドに横たわりながら天井を見つめる。
明日からどうしようか――
才賀は新米の冒険者だ。
冒険者が生きていくためには、モンスターを退治してゴールドを稼ぐしかない。
モンスターを倒すことでドロップアイテムをゲットし、それを売ることもできるが、確率は当然低い。
しかし装備もなにも整えていない才賀。スライムの攻撃ですら致命傷になりかねない。
俺が悪いわけじゃないのに、なんで俺がこんな目に。
才賀は自分の置かれた状況を悔やんだ。
どうやって生きていくかも問題だが、ここの宿屋の宿賃すらも払えない状態だった。
『ここの支払いどうしよう……』
本格的に行き詰った才賀は、目の前のことすらきちんと考えられなかった。
――そもそも俺がここに泊まりたいと言ったわけじゃない。それに戦闘終了後のゴールドはパーティーみんなのもののはずだ。俺にだってゴールドを貰う権利があるはずだ。
今自分が置かれている状況ですら、才賀は全てを他人のせいにしている。
そして同じ思考を繰り返す。
まぁ俺が我慢しているから、あいつらが元気でうまくやれるんだ。今までのゴールドはくれてやる。俺が我慢すればいいんだ。
そして、これからの生活はもちろんのこと、宿屋の支払いの目途すら立てずに眠りにつくのだった。
翌朝――
けだるげな気持ちと憂鬱な気持ちで目覚めた朝は、ここ数年で一番不快な朝だった。
宿賃どうしようか……
何の解決策も見いだせないまま、才賀はキョロキョロと周りを見渡す。
ここは2階だ。大きめの窓からは、容易に逃げることができるだろう。
その後、ありとあらゆる冒険者パーティーから追われる人生になってもいいのならばの話しだが。
プルプル。と頭を左右に振って邪な考えを振り払う。
『素直にお金がないことを話して、下働きかなんかで宿代を払おう』
そう考えがまとまった時に、部屋の扉をノックする音がして才賀は飛び上がった。
――コンコン。
「ははははい?」
どもった上に上ずった声が出てしまうのは仕方ない。
「朝食の準備ができました」
やや若い男性の柔らかい声がする。
そういえば、ここの宿屋は朝食付きで頼んだんだった。
これでまた宿賃が上乗せされたな……
やれやれと首を横に振りながら、どうぞ。と朝食を運んできた男性を部屋に招き入れる。
瞬間、才賀は目を疑う。
朝食と一緒に何やら革袋が運ばれてきたからだ。
男性は何も言わずに、朝食と一緒に革袋を置いて出て行こうとした。
さすがの才賀にも革袋の中身は分かる。チャラチャラ音がしていたからだ。
お金だ。しかもそれなりの金額の。
「あ、あの」
思わず才賀は男性に声をかける。
何だろう。という表情で男性が振り向く。
いやいや。何だろう。はこっちのセリフだろ。
そんなことを考えながら、才賀は男性に問いかける。
「これ……は?」
これ。と言って革袋を指さす。
あぁ。と男性は納得したような表情を見せて、笑顔で答えた。
「ガイジュ様からでございます。今までのゴールドの分け前だそうです。少々多く入っているのはせめてものお詫びだとおっしゃっておりました。こちらの宿賃も既にいただいております」
ペコリと頭を下げて男性は部屋を出ていった。
何だって?
今までの分け前? お詫び? おまけに宿代を払っただと? どこまで俺をコケにすれば気が済むんだ!
そう罵るが涙が自然と流れ落ちてくる。
才賀は今、好意にしてくれていた仲間を完全に失ったのだった。
もうこの町には才賀を受け入れてくれる冒険者パーティーはきっといないだろう。
才賀は1人で生活をしなければならないことを、改めて実感したのだった……

