人生はゲームのようなものじゃなくてゲームだった!~第1ゲーム~

人生はゲームのようなものじゃなくてゲームだった!

 昼下がり。

 才賀はようやく1人で生きていく決心をして宿屋を後にした。

 ゴールドはそこそこあるので、当面の暮らしは心配しなくていい。その上装備を整えることで、スライムくらいなら倒せるようになるだろう。

 まずは防具屋を覗いて見た。

「へいらっしゃい!」

 活気のいい声がかかる。

 防具屋は繁盛していた。というのも、ここアシュッドという町には防具屋も武器屋も道具屋も魔法屋も1軒しかない。

『今の手持ちは500G。宿屋が1泊30Gで飯代が一食10G程度だと考えると、そんなに大きな買い物はできないな……』

 そう考えた才賀は、皮の鎧を20Gで購入した。

 これで才賀の防御力が5上がった。

 防御に関しては少しマシになったのかな?

 あとは攻撃力だ。1撃で倒せないにしても2ターン目にはスライムを倒したい。

 そう考えた才賀は、武器屋で30Gのダガーを購入した。攻撃力が10上がった。

『アクセサリーがないのが痛いな……それにサポーターとも契約したいな』

 サポーターとは、文字通り戦闘を有利にしてくれる存在だ。ガイジュはルンという名前の鎧戦士と契約をしていた。回復してくれたレイはフェアリーだ。

 サポーターと契約するには地図と鍵が必要になる。

 地図に記された場所に鍵を持っていくことでサポーターと契約が可能になる。地図と鍵は、モンスターを倒した時に稀に手に入るジェムを100集めることで、回せるガチャを回して手に入れる。

 ガチャで排出される物は様々でアイテムからガラクタまである。

 才賀も今までに一度しかガチャを回しているシーンを見たことがない。

 アクセサリー屋があれば、アクセサリーを装備してHPやMPを上昇させることが可能だが、この町にはアクセサリー屋が存在しなかった。

 仕方なしに才賀はアシュッド町を出て、モンスターを倒して経験値を獲得することにした。

 いわゆるレベル上げだ。

 ●

 <スライムがあらわれた!>

 行動選択。
 攻撃 魔法 スキル 防御 アイテム 逃げる……▼

『スライムは1匹……普通に攻撃するしかないだろう』

 攻撃▼

 <スライムの攻撃。才賀に6のダメージ>

 <才賀の攻撃。スライムに7のダメージ>

 行動選択。
 攻撃 魔法 スキル 防御 アイテム 逃げる……▼

 攻撃▼

 <才賀の攻撃。スライムに5のダメージ。スライムをやっつけた。スライムたちをやっつけた。才賀は5の経験値を獲得。才賀たちは3ゴールドを獲得した>

 ほう。

 初戦闘に勝利して才賀は安堵の息を吐く。

 才賀の残りHPは14。これが生命線。

『スライムのHPはだいたい10前後か……1匹だけならもう1戦闘できるな……どうしたものか……』

 この世界でHPを回復させる方法は大きく分けて3つ。

 アイテムを使うか、魔法を使うか、宿屋で休むかだ。

 しかし宿屋は休むのに30Gかかる。今の戦闘で3Gしか稼いでいない。大きな赤字となる。

 どうしたものか……

 途方に暮れていると、目の前に緑色の草が生えているのが見えた。

 薬草だ!

 急いで駆け寄り薬草を拾う。

 薬草を手に入れた▼

 これでもう1戦闘しても怖くないな。

 そう考えて更なるアイテムがないか辺りを見渡すと、才賀の目に戦闘中の女の子が目に入った。

 どうやら女の子が劣勢のようだ。

 仲間はいないので、戦闘中に女の子が倒されればそれでゲームオーバーだ。本物の死が待っている。

 助けなきゃ――

 そうは思うが相手が悪い。

 今の才賀では到底敵わないであろうワイルドウルフが相手だった。それも3体!

 一方の女の子はどうやら衰弱のステートを付与されているようだ。

 衰弱ステートは毎ターン攻撃力と防御力が減少する状態異常だ。最終的には攻撃力も防御力も1になってしまう。

 ワイルドウルフは衰弱の他にも複数の状態異常にする牙攻撃を持っている。

 通常、戦闘中の冒険者を助けるために他の冒険者パーティーが参戦することはよくある。そしてそれはモンスターも同様である。

 ワイルドウルフは、ピンチになると仲間を呼ぶ習性も持っている。

 つまり仲間を呼ばれる可能性が高い。加えてそろそろ夕暮れだ。近くに冒険者の気配もない。行動選択時には時間制限があるため、時間稼ぎもできない。

 あの子には悪いがここでゲームオーバーだな……

 そう思った瞬間、目の前が急に真っ暗になった――

 ●

 ――誰にも知られてはいけない。誰とも話さなければ知られることもなかろう……

「また失敗か!」

 暗闇の中で男の声がする。

「そっち抑えてろ!」

 暗闇の中で別の声がする。

 体中が傷む、軋む――

 失敗という言葉が脳裏に響く。

 あぁ。私は失敗作なんだ。

 いつもの言葉が脳裏に鳴り響く。

 ――誰にも知られてはいけない。誰とも話さなければ知られることもなかろう……

 あぁ。私は誰とも喋っちゃいけないんだ……

 ………………

 …………

 ……

 場面が変わった――

 しかし相変わらず周りは真っ暗だった。

 <パーティ―は全滅した>

 コンティニュー? はい/いいえ▼

「いいえを選択した場合、本当の死が訪れます。はいを選択した場合、今よりも難易度が上がった状態で最初からスタートできます。その際、全ての記憶は消去されます」

 聞き覚えのある声だ。

 しかし誰の声だか思い出せない。

 最初の場面は自分の物じゃないと確実に分かるが、今回のは自分の記憶な気がする……

 そうだ。俺は一度ゲームオーバーになっている。

 俺はゲームオーバーの恐怖を知っている……

 ●

 才賀は飛び出して女の子とワイルドウルフの戦闘に参加した。

 <才賀が参戦した>

 行動選択。
 攻撃 魔法 スキル 防御 アイテム 逃げる……▼

 さてどうするか……

 女の子は戦力に数えない方がいいだろう。俺もそこまでの戦力ではない。

 ワイルドウルフ相手に逃げれるか……?

 逃げる▼

 <ワイルドウルフAの攻撃。遠吠え! 才賀は恐怖状態になった!>

 <ワイルドウルフBは仲間を呼んだ。ワイルドウルフが参戦した!>

『くそ! これじゃどんどん仲間を増やされるぞ……』

 <ワイルドウルフCの毒の牙。リコは12のダメージ。リコは倒れた>

 女の子の名前はリコって言うのか……

 <才賀は走って逃げ出した>

『よし! 逃げることに成功したぞ』

 ワイルドウルフから逃げることに成功した才賀と女の子。

 まずは一息整えて、才賀は先ほど手に入れた薬草を女の子に使った。

 <リコのHPが10回復した>

「大丈夫だったかい?」

 ワイルドウルフから何とか逃げ切って、安心したのか、普段は周囲に心を開かない才賀が素直に声をかけた。

「……」

 突然助けられた上に声までかけられて、女の子は戸惑っているようだ。

「あ、急にごめん」

 差し出した手を恥ずかしそうにしながら引っ込める。

「「……」」

 互いに見つめ合ったまま黙る。

 気まずい沈黙が2人の間に流れる。

「じゃあ。俺はこっちだから……」

 とりあえず町へと戻ろうと才賀は女の子に背を向けた。

 この辺にワイルドウルフが出現するなら、今の才賀では到底敵わない。

 アイテム屋でアイテムを購入するか装備をもう少しマシなものにする必要がある。

『リコって女の子は大丈夫だろうか? 一度戦闘不能なっているから、衰弱ステートは解除されているはずだ。HPが11しかないが他のステータス次第では、スライムになら負けないだろう』

 リコのことが気になるが、先ほどの気まずい沈黙と逃げるように背を向けた後ろめたさから、才賀はリコの様子を伺うのが何となくできない。

 <スライムがあらわれた!>

 <リコが参戦した>

 ――は?

 思わず才賀が真横を見ると、先ほど助けた女の子が何故か戦闘に参加していた。

 さっき助けたお礼のつもりか?

 スライムは3匹……仲間がいた方が安心だろう。

 行動選択。
 攻撃 魔法 スキル 防御 アイテム 逃げる……▼

 攻撃▼

 <才賀の攻撃。スライムAに7のダメージ>

 <リコの攻撃。スライムAに4のダメージ。スライムAをやっつけた>

 <スライムBの攻撃。リコに8のダメージ>

 <スライムCの攻撃。才賀に6のダメージ>

『ふう。何とか戦闘不能にならずに済んだか……』

 才賀が安堵の息を吐く。

 <魔獣化47%>

 ん? なんて??

 行動選択。
 攻撃 魔法 スキル 防御 アイテム 逃げる……▼

 才賀のHPは残り8、リコは3。場合によっては次の攻撃でお互い戦闘不能になる可能性が高いが2人の息が合えば1匹のスライムを倒すことができる。

 しかし次の3ターン目にスライムを倒せず戦闘不能になる可能性が高い。

 だが攻撃するしかないだろう……

 攻撃▼

 <才賀の攻撃。会心の一撃! スライムBに15のダメージ。スライムBをやっつけた>

 よし! たまに出るダメージ2倍効果だ。これで3ターン目にスライムを倒せるぞ!

 <リコは身を守っている>

 は? 防御を選択したのか? おいおいおい!

 <スライムCの攻撃。才賀に7のダメージ>

 あっぶなー。ギリギリHP1残ったか……

 <魔獣化47%>

 行動選択。
 攻撃 魔法 スキル 防御 アイテム 逃げる……▼

 さて……どうしたものか……またこの子が防御を選択した場合はどうなる?

 才賀が真剣に考える。

 リコが防御をして才賀が攻撃だけした場合。ダメージは7程度でスライムを倒すことはできない。

 そしてスライムの攻撃で才賀かリコが確実に戦闘不能になる。

『どちらにしろスライムは倒せるのか……全てはこの子次第か』

 他人に運命を任せるなんて……

 やれやれと才賀は心の中だけで首を振るが、今までも才賀はずっと他人に自分の運命を託してきた。

 今までと大して変わりはしない。

 攻撃▼

 <才賀の攻撃。スライムCに6のダメージ>

 <リコの攻撃。スライムCに5のダメージ。スライムCをやっつけた。スライムたちをやっつけた。才賀は7の経験値を獲得した。リコは3の経験値を獲得した。才賀たちは7ゴールドを獲得した。謎の液体を獲得した>

「やれやれ。助かったよ。ありがとう」

 聞きたいことは色々あるが、とりあえず礼だけ言って才賀は町へと戻って行った。

 ●

 奇妙なことになった。

 才賀は珍しく困っていた。

 ここ数日、リコという女の子に付きまとわれているからだ。

 ストーカーなどではなく、才賀が泊る宿に一緒に宿泊したり(部屋は別だが)、才賀が買ったアイテムと同じ物を購入したりしていた。

 それもリコはどうやらお金がないらしく、全てを才賀が立て替えていた。

「あのさ。何で俺と同じ行動をするの?」

 戦闘でも才賀が戦っているモンスターとの間に参戦してくる。

 いい加減不思議になって、宿屋で朝食をとりながら才賀が問いかけるが、リコは相変わらず答えてくれない。

 ただ――

「行くところがないなら一緒に来るかい?」

 才賀が一緒のパーティ―になることを提案した。

 少女は少し戸惑いながらも、黙って頷いた。

 リコが仲間になった▼

 基本この世界では食事の必要はない。餓死の概念がないからだ。

 この世界で死ぬのは、モンスターにやられてパーティ―全員が戦闘不能になった時か、寿命で死ぬかのどちらかのみだ。

 この世界において食事とは、懐に余裕がある者の嗜みだ。

 貧乏な才賀が食事をとっているのは、リコに食事の楽しみを知ってもらうためだ。

 何しろ何も喋らない子だ。少しでも楽しいことを教えてその表情で考えていることを読むしか意思疎通の方法がない。

 まぁ、俺がそこまで気を使ってあげないといけないから俺が大変だけど仕方ないよな……

 ここでも相変わらずの自己陶酔。

「とりあえず目標を作ろう。まずはしっかりと生活ができるように装備を整えてレベルを上げていこう。君もレベル1だから最低でも5には上げたいな」

 同じパーティ―になると、仲間のステータスが分かるようになる。

 現在の所持金は651G。薬草が3つある。リコは扱える武器が不明だったので防具の皮の鎧だけ装備させてある。

 こうして、コミュニケーション能力がほぼ無い才賀と、コミュニケーションが取れないリコの冒険が始まった――

 

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