異世界転生しか勝たん~第二十三稿 砦と前線~

異世界転生しか勝たん

 軍事拠点が完成した。

 兵士の育成もある程度進んでいるようだ。

 私たちはいよいよ人民掌握軍の土地へと攻め入る。

 まずは真っ正面に楔を打ち込む。

 どんなに小さくてもいいから、楔を打ち込んだらその楔を強固にして少しずつ大きくする。

 軍事拠点はその楔を守るための後方支援として活躍するはずだ。

「楔を打ち込むのはパクチーよ。思う存分暴れてちょうだい」

 そう私が指示を出したのがつい先ほど。

 確かに暴れろとは言ったわ。

 でもねパクチー君。……暴れすぎよ。

 いやいいんだけどね。いいんだけどさ。

 予想以上なのよね。

「これは掌握軍が弱いのかパクチーが強いのか……」

 私が呟くと、クレソンちゃんが、どっちもでしょ。と言った。

 当初の予定では小さな楔を打ち込むという予定だったのに、結果だけを見れば、パクチー君が前線の人民掌握軍を蹴散らしてくれたおかげで楔を打ち込むどころか、前線そのものが後退した。

 ルッコラ君が言う通り、突出した力ってのは本当のようね。

「とりあえず楔を打ち込む形はできなかったけど、当初の予定を大幅に巻いてるからいいよね」

 私が隣のクレソンちゃんに言う。

「最前線に砦を築きましょう。そこを攻撃の拠点として、再び前線に楔を打ち込むようにしましょ」

 クレソンちゃんの指示で再び砦の建設が始まった。

 私たちが苦労して作った軍事拠点は何だったのか……

 こうなってしまえば、後方に建設しようとしてた輸送拠点はいらなくなるね。

「じゃあ、輸送拠点は作る必要がないって伝えてくるわよ?」

 バジルちゃんがつまらなそうに言う。

 活躍できなくてつまんないんだろうね。

 行くわよ。なんて言ってルッコラ君を連れて行ってるあたり可愛らしいね。

 ●

 バジルちゃんがルッコラ君と一緒に戻って来た時にはもう、砦の建設が始まっていた。

 敵もさすがにバカじゃないから、砦を建設させないように邪魔しにくるけど、こっちにはパクチー君がいるからね。

「それにしても手ごたえがなさすぎじゃない? 掌具や握器を持っている者はたまにいるけど偉才を持つ者が1人もいないわ。前線なのにどういうことかしら?」

 私が疑問を口にするとクレソンちゃんが考えるまでもない。という感じで答えてくれた。

「こっちには奪うべき土地がないからでしょうね。守るほどの脅威でもなかったとも言えるけど」

「つまり油断してた……だから塹壕とかもなかったのか……」

 私が納得するとクレソンちゃんも、そゆこと。と頷いた。

「この油断は十分に使えるからね。このまま一気に行けるところまで行くよ」

 クレソンちゃんが真っすぐ前を指さす。

「でもさぁー。それだとこの砦がまた無駄になるんじゃないの?」

 バジルちゃんがもっともなことを言う。

 確かに、前線を更に押し上げたら今作ってる砦も無意味になる気がする。

「この砦とさっきの軍事拠点を最終的に繋げるから平気」

 さらっとクレソンちゃんが言ってるけど、何を言ってるのか私には意味不明だった。

「ま、そのうち分かるわ。パセリちゃん。あなたのおかげでクレソン物凄いことを思いついちゃったのよ。ありがとうねー」

 にっこりと微笑まれて両手を握られるけど、私なにかしたっけ?

 拠点とかのアイディアしか出してないけど?

「バジルちゃんとルッコラちゃんは砦の建設を手伝ってちょうだいー。クレソンは軍事拠点に戻ってここの砦と繋ぐ準備をしてくるねー。パセリちゃんとパクチーちゃんは敵を倒しつつ前線を押し上げられそうなら押し上げちゃってー」

 あ、のほほんとした喋り方に戻った。

 クレソンちゃんは後ろ手に手を振って軍事拠点まで下がって行った。

 ま、護衛に訓練した村人が何人かついているから平気か。

 バジルちゃんは勝手に砦建設のリーダーになってやる気出してるしね。

「やるわよルッコラ」

 グイっと腕まくりをする仕草をするけど、あなたノースリーブじゃない。

 苦笑いを噛み殺しつつ私は目の前を真っすぐ見据えた。

 私が敵だったら、ここらでちょっと強い敵を投入する。

「おいパセリ。あの敵は強いぞ」

 目の前をゆっくりと闊歩してくる敵の集団を見てパクチー君が言う。

 やっぱりね。

「やりますか」

 気合を入れて私も迫ってくる敵に向かって行った。

 ●

 掌握軍の攻め方は前回と全く一緒だった。

 先頭に騎馬集団、その後に本命が来る。

 パクチー君が強いと言ったのは、その本命のことだろうね。

 何しろ先頭の騎馬集団は全部パクチー君が倒しちゃったからね。

「お前か……」

 歩いてくる敵が呟く。

 見覚えがある男だった。

 確かケルベロス部隊のサレの部下だった男。名前は確か――

「ヤイ!」

 パクチー君が叫びながら飛びかかる。

 前回はパクチー君の負けだったからね。リベンジしたいんだろうね。

 私はもう1人の男を相手にすることにした。

 こっちの男は見たことない男だね。

 前回の太っちょはいないのかな?

「オイラは戦うのがすきじゃねぇ。そこをどいてくれねぇーか?」

 少年っぽい男の子が私に言う。

「それならあなたが引けばいいわ」

 ちょっと強気に私は言い返してみた。

 つんけんどんな感じが、青春時代の学校の教室みたいじゃない?

「それはできない。戦いを世界から無くすまでは。偉才、いつの間にそんなところに」

 男の子が偉才を使うと、突然私が居た場所が変わった。

 さっきまでは、私は建設中の砦を背に男の子と対峙していたのに、今私がいる場所はさっきまで対峙していた男の子の場所。しかも向きはそのまま砦を背にしたままだ。

 それにしても偉才って、全部こんな変な名前なのかなぁ?

 いや、そんなことないか。傷の変換は普通だもんね。

「場所を入れ替える力かー。ちょっと厄介だね」

 くるりと振り返りながら私は言い、聖剣で男の子に切りつけた。

「掌具:指輪盾(リングシールド)」

 男の子の右手小指の指輪が巨大な盾になって、私のホーリーブレードアタックを防いだ。

「オイラは戦うのが嫌いだと言っただろ?」

 そうは言われても私だって守るべきものがあるんだから。

「戦いの世を終わらせるだっけ?」

「世界から戦いを無くすだ」

 盾と剣のつばぜり合いの中、私たちが少し会話をする。

「どっちでもいいわよ。でも戦いを始めているのは掌握軍よ?」

「知ってる」

 どん。と盾で私を押してくる。

「じゃあなんで!」

「世界がオイラの家族を奪ったからだ。掌具:靴沼(シューズスワンプ)」

 男の子が別の掌具を使うと、私の膝あたりまでどっぷりと沼に浸かっていた。

「な、なんなのよーこれ!」

 動きにくいし、匂いが酷いし汚いし嫌な掌具だわ。

「じゃあな。オイラは先に行く」

 私が沼にはまっている間に男の子はどんどん建設中の砦へ向かって行く。

 ちょっとー。砦にはバジルちゃんとルッコラ君がいるとはいえ、こんな地味な敗北嫌よー。

 ●

 パクチーとヤイは互いに譲らない戦いをしていた。

 パクチーの血祭、爪伸に対して前回同様にヤイは握器:指輪剣(リングソード)で対抗した。

「前回と同じか?」

 ヤイがパクチーが成長していないことにがっかりする。

「てめぇは前よりも動きに磨きがかかってるようだな」

 一歩も譲らない戦いだが、どうやらヤイにはまだ余力があるようだ。

「掌握軍は常に戦闘を行っている。その最前線に出されるのが俺だ。いくらバンパイアの運動能力があるからと言って、前線で鍛えられた俺の剣から逃れられると思うなよ!」

 手にした剣で前後左右からヤイが切りかかると、次々にパクチーの体に傷ができ始めた。

「決定打は避けているが、ダメージは蓄積されているぞ?」

 ふん。と鼻を鳴らしながらヤイが言う。

 決定的なダメージを与えられていないことに、多少の苛立ちを感じているようだ。

「血祭、熱血」

 パクチーが新しい血祭を見せる。

 熱血は、自身の血を高温にする技だ。

 今パクチーはヤイによって切られている。

 そのパクチーの血がヤイに付着しているのを見て使ったのだ。

『皮膚がただれるように熱い……どんな攻撃か分からんがこれは危険だ!』

 当然ヤイには何で熱くなっているのかは分からない。

 それでも身の危険を感じたヤイは、偉才を使って熱さをパクチーに移すが、そもそもパクチーの力によって血が高温になっている。

 高温をパクチーに移したところで効果はなく、ヤイの体にパクチーの血が付着している限り、その効果は続く。

「何だこの技は……!」

 どんなに熱さを移してもパクチーへのダメージは見当たらない。

 自分は偉才を使えば使う程体力を消耗する。

「くそ!」

 引く。というのはヤイにとっては屈辱的だったが、一時的にパクチーの前から撤退した。

 一方のパクチーも血祭を使いすぎたせいで、ヤイを追うほどの気力はなかった。

「やれやれ」

 そう呟いてパセリの方を見ると、沼に捕まり敵を逃しているのを目にする。

「役立たずが」

 悪態をついてパクチーがない体力を振り絞って走り出した。

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