異世界転生が想像してたのと違っていたんですが!~第五章~

異世界転生が想像してたのと違っていたんですが!

 うだるような暑さがアトを攻撃する。

 アトは額に汗を光らせながらも先ほど狩ったワームの腹を裂き、中から鉱石を探していた。

 そんなアトを見つめる一つの影がある。

 ――ワイルドウルフだ。

 アトは鉱石狩りに夢中でワイルドウルフに気が付かない。

『青石かー。黒石よりはマシだけど大した価値はないなぁー』

 残念そうにポーチに青石をしまおうとした時、偶然にも石が地面に落ちる。

 同時にワイルドウルフがアトに襲い掛かる。

 ――がしかし……

 飛びかかったワイルドウルフに対してアトは、屈んで石を拾って偶然にもワイルドウルフの牙攻撃を避ける。

「え?」

 その瞬間、アトはワイルドウルフに気が付き、一目散にリルド村に逃げ帰った。

「やれやれだな……」

 その様子を村の守衛がため息交じりに見ていた。

「相変わらず危なっかしい戦い方だな? アト!」

 昔馴染のような言い方で守衛がアトに声をかける。

 小さな村だ。

 大した人数も村人はいない上に、アトのように武者修行をしている者も他にいないため、嫌でも名前を覚えられる。

「あ、守衛さん」

 顔なじみになっている守衛にアトも陽気に挨拶する。

 さっきまで死にそうになっていたにも関わらずだ。

 守衛は、このアトの能天気ぶりを気に入っていたが、まだまだ子供のアトを心配する要因でもあった。

 ふと守衛が、最近アトと同じように武者修行をしている若者の存在を思い出した。

 その者は、どちらかと言うと武者修行よりも狩りで生計を立てているというような感じだ。

『あの2人。一緒に居た方が安定するかもしれないな……』

 守衛がそう考えるのも無理ないことだろう。

「なぁアト。ちょっと紹介したいやつがいるんだけどよ」

 これがアトと太真の出会いのきっかけだった。

 ●

 太真は小人種の無口の男だった。

 小人種は、成長しても子供の姿のままの種族だ。

 ステータスは精神力が伸びやすく、力は伸びにくい特徴を持っている。

 太真は、忍者というジョブだからか、口元を布で覆っていたが、それでも分かるイケメンっぷりだ。

 そして無口という特徴がイケメンっぷりに拍車をかけていた。

 一方のアトも生前の特性を引き継いでおり、コミュ障だった。

 コミュ障と無口の2人だ。当然ながら会話はほぼゼロだった。

『なんか……転生したての頃を思い出すなぁ……』

 ワームの体内から鉱石を取り出しながら、アトはそんなことを思う。

 まだ昼下がりだというのに、集まった鉱石はいつの倍以上あった。

 中にはなかなかのレアものもあった。

「この水色石さ、僕がまだ転生したての頃に手に入れたんだよ。なかなかのレアってティナが言ってたよ。あ、ティナってのは僕と契約している妖精のこと」

 休憩中に携帯食料を食べながらアトが笑顔で言う。

 太真は、そうか。とぼそりと呟いて返すだけだった。

 守衛に紹介されてからというものの、2人の会話はほとんど弾まなかった。

 最初も太真は自己紹介で、

「太真」

 とボソッと言っただけで、守衛が名前だと教えてくれなければアトには何のことかさっぱりだっただろう。

「えーと。もう少しワーム狩ってみる?」

 今日一番のネタだと思われた水色石の会話も終了し、少し気まずそうにアトが問う。

 太真は、こくりと頷いて答えた。

 コミュニケーションは取れない2人だったが、太真の実力はかなりのもので、ワームならあっという間にやっつけてしまう。

 何度か襲ってきたワイルドウルフも1匹や2匹ならものともせずに倒していた。

『すっごいなー』

 アトは素直に感心していた。

 太真のおかげで、たくさんの鉱石が手に入り、ワイルドウルフの素材も入手できた。

 ●

 同時刻――

 ミカエルとティナは、自分たちのファミリーになってくれるメンバー候補を探していた。

 すでに、ステータスが上昇しない状態異常についての捜査は諦めていた。

 更には、メンバー候補なんてそう簡単に見つかるはずもない。

 しかし――

 なんとミカエルとティナは、小さな妖精を連れていた。

 ティッキィという女の子の妖精で、どうやら契約する冒険者を探しているらしい。

 とりあえず妖精1人じゃ危ないからと、ミカエルとティナが行動を共にすることにしたようだ。

 結局メンバー候補が見つからないミカエルとティナは、肩を落としながらアトとの合流場所である食堂で目を丸くした。

「ど、どうしたのよこれ……」

 アトの隣にいるイケメンであろう小人種もそうだが、いつも以上の収穫である鉱石を見てティナが驚きの声を出す。

「ワイルドウルフの素材まであるのね」

 ミカエルもその隣で驚く。

「へへへー。守衛さんに言われてさ」

 アトが得意げに太真を紹介する。

 紹介された太真は、ペコリと頭を下げただけだった。

 アトは協力してもらったお礼にと、太真を食事に誘ったのだった。

 この報酬も分ける必要があったためだ。

「アト1人の手柄じゃないにしても、これならある程度のステータスアップは見込めるわね!」

 嬉々としてティナがアトに近寄って、何やらよく分からない呪文を唱え始めた。

 おそらく妖精魔法だろう。

 そんな様子を太真とティッキィがまじまじと見ていた。

「あ、こっちはティッキィ」

 ミカエルがティッキィを紹介し、アトが太真を紹介した。

「ということは、守衛さんが太真を紹介してくれたわけかー」

 ティナが言い、明日にでもお礼言いなさいよ?とアトに付け加えた。

「ティッキィは契約している冒険者を探しているのよね? 太真は妖精と契約する気はない? とゆーか2人とも私のファミリーにならない?」

 ミカエルが唐突に言う。

 全員が驚いた表情でミカエルを見る。

「だってその方が都合よくない?」

 全員に見られてミカエルが逆にキョトンとする。

「アタイはアンタがいいなら契約したい!」

 ティッキィが太真をアンタと呼びながら、前のめりに言う。

「……問題ない」

 ボソ。と応えるが、全員にはどっちの問題ないなのかが分からなかった。

「それは、必要ないって意味?」

 ティナが問うが太真の反応がない。

「契約してもいいよって意味?」

 今度はアトが問う。

 相変わらず無表情のまま、太真がゆっくりと頷いた。

 ティッキィの表情が一気に明るくなり、太真とティッキィが契約を交わした。

 更に、ミカエルファミリーに加入することとなり、太真はミカエルファミリーの副リーダーとなった。

「後で紹介してくれた守衛さんにお礼に行かないとね」

 太真とティッキィが契約を交わしている様子を見ながらアトがティナに言う。

 メンバーは翌日に守衛にお礼を言いに行くことで意見が一致した。

 翌日、全員で守衛にお礼を言いに行くと、守衛はそんなこと何でもない。と笑顔で手を振ってくれた。

「そうだ」

 全員でしばらくアトのレベルアップをしようとしていた時に、守衛が言った。

「どうせなら1つ、頼まれてくれないかな?」

 この依頼が、ミカエルファミリー最初の依頼であり、アトの大冒険の一歩だった。

 後から思い返せば、この依頼を受けたことがアトの人生を大きく変えたのだった。

 ●

 守衛の依頼は、守衛の兄を隣の村まで護衛をするというものだった。

 よくある依頼内容と言えるだろう。

 違うのは兄だ。

「よろしくねーん」

 兄はオネェだった。

 それもアトを一目見て気に入った様子。

『こんなハーレムは望んでないぞー!』

 アトは心の中だけで叫んだ。

 隣の村の名前はカッサ村。

 アトはもちろんのこと、ティナもミカエルもティッキィも太真も行ったことのない村だった。

 そもそもティッキィと太真はリルド村から出たことすらなかった。

 守衛の兄はユーゴと言い、マーゴという妖精と契約をしていた。

 レベルは2で魔法使いをしている。

 カッサ村までの道を知っているのはユーゴだけなので、ユーゴに案内してもらいながら護衛をすることにしたのだった。

 ※

 職業の大魔王は他愛のない日常会話の中に、誕生の大魔王の力について話させることに成功していた。

「そうですか。あの魔窟はやはりあなたの仕業でしたか……懐かしいですね。あの魔窟が現れてから何百年と経ちましたが、長寿の私たちからしたらつい最近のことのようですね」

 職業の大魔王が昔を思い出すように懐かしむ。

「あぁ。あの魔窟は俺様が作った最高傑作だ。俺様の力の結晶と言ってもいい」

 グビッとジョッキを傾けて誕生の大魔王が豪快にお酒を飲む。

 だいぶ酔っているようだ。

「ほぅ? 力の結晶ですか。あなたの力はそれだけでも素晴らしい力だと思いますよ?」

「ふん。俺様の力には弱点があるからな」

 ゴトッ。とジョッキを机に叩くようにして置く。

「モンスターを産みだすのに膨大な力を使うということですね」

 職業の大魔王は、真相に近づいていることを察し、自身の企みが成功したことを確信する。

「俺様の力の秘密は誰にも言わねぇ」

 誕生の大魔王がフン。と鼻を鳴らすのを見て職業の大魔王は小さくため息をつく。

 企みが成功したと思った矢先に、まだ成功していないことを知ったからだ。

『しぶといですねぇ……早く力の秘密を話してほしいのですが……』

 少しイライラしつつも、慌てないようにじっくりと職業の大魔王が話す。

「確かに……今自分の力のことを話すのは自殺行為ですからね。かつては私たちは交流があり友好的な関係でしたが、今ではあからさまな敵対はしていないものの大魔王どうしでピリピリしていますからねぇ」

 やれやれと職業の大魔王が首を左右に振る。

「大魔王の覇権争いか」

 興味なさそうに誕生の大魔王が言う。

「えぇ。あなたも耳にしているでしょう。かつて同列だった大魔王に歪ができていると」

「あぁ。そのせいで覇権争いが勃発しているんだろう? その歪は俺様の力が失われつつあるという噂が原因だと聞いている」

 職業の大魔王の言葉に誕生の大魔王が頷いて答える。

「確かにてめぇが言うように、昔の俺様たちは仲が良かったとは言わないが交流があって場合によっては貿易や行動を共にしたこともあった。俺様も武力とはそれなりに仲が良かったな……」

 誕生の大魔王が頷いたのを見て職業の大魔王の心臓が早鐘のように鳴った。

 武力の大魔王は今職業の大魔王が一番に仲間にしたい大魔王だった。

 つまり、誕生の大魔王と関係を持てば自然と武力の大魔王とも関係を持てると考えられるわけだ。

「あの武力と関係が?」

 知ってはいたがわざと驚いて見せる。

「昔にな。俺様とあいつは部分があってある一帯の地域を一緒に治めていたことがある」

 誕生の大魔王は気持ちよく酔っているようだ。

 そしてこの事実は職業の大魔王の知らない事実だった。

「まさか。大魔王どうしで1つの地域を治めていたというのですか? 諍いなど起こらなかったのですか?」

 職業の大魔王が素直に驚く。

「あぁあったぞ。武力とは何度も衝突したな」

 昔を思い出すように誕生の大魔王が懐かしむ。

『あの武力と渡り合ったとは。やはり全盛期の頃の誕生の力は絶大だったようですね……かつては始祖の大魔王に一番近いと言われていた大魔王か……』

 職業の大魔王がチラリと誕生の大魔王の表情を盗み見る。

 まるで、昔の友人を思い出しているかのような表情をしていた。

「確かにてめぇが言ったように俺様はモンスターを誕生させるのに膨大な力を必要とする。その弱点が大魔王間の歪を生じさせているのだとしたら、覇権争いの原因は俺様ということになるな……」

「そんなことはありませんよ。争いは始めようとした者が原因ですよ」

 職業の大魔王が白々しいことを言う。

 争いを始めようとした者は自分自身だというのに。

 誕生の大魔王は、ふっと笑って魔窟について語り始めた。

 大魔王の覇権争いは止まることを知らない――

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