助態たちが臨戦態勢を取ったのを見て、はあはあともっこりが今度は慌てた。
「ちょっと待って。なんか勘違いしてない?」
はあはあの言葉だ。
先ほどヌルヌルたちに言った時同様。
どうもはあはあは勘違いさせる気質があるのかもしれない。
「勘違いってどういうことだい?」
大剣を掲げて戦闘態勢を保ったまま威厳たっぷりにティーパンが問う。
その言い方には壁があり、敵とみなしていると嫌でも分からせた。
「教えるんじゃなくて案内するって意味だよ」
両手を前に出して、ちょっとタンマとでも言いそうなポーズを取りながらもっこりが言うと、隣ではあはあも、そうそうと頷いていた。
「案内ぃー?」
突拍子のない言葉にもふともが唖然とする。
「なんであなた達がそんなことをするの?」
何か裏があるの? とくびちが訝しむ。
「なるほどのぅ」
ちあが何かを理解したかのように言う。
「それがお人好しというわけじゃな?」
と続けた。
つまり、裏などなくみんなが困っていそうだから助けるだけだというのだ。
ヌルヌルともふともが困っていたのを助けたのと同じように。
助態たちが攻撃されていた時に助けたのと同じように。
「なーんか話しがうますぎる気がするっすけどねぇー」
ぱいおは、魔界に来るはめになった時のことを思い出していた。
あの時もこうやって好意に甘えた結果、悪い方向へと転がったのだ。
「確かに私たちって騙されやすいですもんね」
ルブマもぱいおの意見に同意している。
「どうする?」
いつものようにティーパンが、助態に判断を仰ぐ。
「案内してくれるなら案内してもらおうよ」
即答だった。
「ま、騙されたらその時はその時だね」
ティーパンがもっこりに言うと、騙さないよー。ともっこりが反論していた。
とりあえず助態たちは雨豹の縄張り近くまで向かうことにした。
●
ちんちん、まんまん、ぱいぱいの三姉妹ははあはあと一緒に雨豹の縄張りまで行きたいと駄々をこねたが、はあはあがきっぱりとこれを断った。
もう三姉妹は子供じゃないんだから、自分達でしっかりと生活をしろとまで言うが、助態は今生の別れでもないんだから言い過ぎな気がしていた。
しかし後にこの言葉が言い過ぎではなくなってしまうのだった。
鬼侍女三姉妹と別れた助態たちは、はあはあともっこりの案内のもと、荒れた土地を進んでいた。
左手が断崖絶壁で右手が崖になった細い道だった。
「奇襲とかかけられたら絶体絶命になりそうな場所だねぇ」
もふともが辺りを警戒する。
「魔界ってどこも土地が荒れてるの?」
助態が前を歩くはもっこりに聞く。
「基本は荒れた場所が多いかな。それにここらに住んでる種族はいないから奇襲されることはまずないよ」
助態に答えたあと、辺りを警戒しているもふともに安心するように言う。
もふともは、そうは言ってもねぇ。とかブツブツ文句を言っているが、ヌルヌルが平気平気と言ってなだめていた。
「ふーん」
その様子を見て、はあはあがなるほどね。と呟いた。
道中ひっそりと移動していることもあり、モンスターとの遭遇はなかった。
もっとも、種族ごとに住んでいる場所が分かれている魔界では、現世と比べてもそう簡単にモンスターと遭遇することはないらしい。
歩いて数時間後、休憩をとることにした時にちょっとした事件が起きた。
事の発端は、ぱいおがトイレをしてくると言ったことだった。
「よく外でできるね」
戻ってきたぱいおにはあはあが言う。
「ウチはなんちゃって露出癖があるっすから」
「露出癖か。そういえばもふともの服装も俺が知ってるのと変わったけどあれも一緒か?」
ヌルヌルが隣のもふともに聞くと、ぱいおが言われてみればもふともさんの露出度高いっすよねー。とニヤついた。
「ア、アタイのは露出をメインにしてるんじゃない! 動きやすさを重視してるんだよ」
ゴチンとぱいおを殴ると、ぱいおが何するんすかー。と目の端に涙を浮かべた。
「あなたは他の男を寄せ付けないようにそんな恰好をしてたんだろ?」
はあはあはもふともにそっと耳打ちをする。
もふともは、顔を真っ赤にしてそんなわけないだろ! と叫び、ヌルヌルがどうした? と顔を覗かせた。
「な、何でもないよ」
ややぶっきらぼうな言い方に今度はヌルヌルがむっとする。
「そんな言い方はないだろ?」
「そうだぞ? だいたいはあはあがからかったんだろ?」
もっこりがヌルヌルの味方をすると今度ははあはあがつっかかった。
「なんだよ。私が何かしたって証拠でもあんの?」
「証拠って子供かよ」
「子供で悪い? だいたいあなたの方が子供でしょ? 眠くなると不機嫌になるし早起きは苦手だしお菓子大好きだし野菜は食べないし!」
両手を腰に当ててはあはあが怒る。
まるで母親のようだ。
「アタイがどんな言い方をしようとアタイの自由だろ?」
別のところではもふともとヌルヌルも言い争いをしていた。
「ちょっとちょっと」
「落ち着くっす」
ティーパンはもふともとヌルヌルを、ぱいおはもっこりとはあはあを止めに入った。
「いきなりどうしたんだ?」
「皆さん虫の居所が悪かったのでしょうか」
助態と純純はオロオロする。
その言葉にもっこりとはあはあがはっとした顔をして言い争いを止めた。
「この付近は、無性にイライラしてしまう場所なんだ」
そうだ! ともっこりが手をポンと打った。
「なんだってそんな場所があるんだい」
ポリポリと後頭部を掻きながらもふともがヌルヌルを見た。
「悪かったね」
照れ臭そうにもふともが謝る。
「あぁ。俺も悪かった。そんなことよりこんなところさっさと離れよう。つまらない諍いをおこしかねない」
ヌルヌルの提案で、さっさとこの場を離れることにした。
●
――雨豹の縄張り。
その名の通り付近には雨豹しかいなかった。
先ほどのイライラする一本道を通った先にあり、オレンジ色の岩山が縄張りのようだ。
岩山には所々穴が空いてある。
「どうやらあの岩山が巣のようだね」
ティーパンが分析する。
穴は窓みたいなものだろうと。
助態たちは、なるべく戦闘をしないために雨豹が眠る夜間に移動を開始することにした。
しかしやはりここでも問題があった。
「雷獄の洞窟が見当たんない」
助態がポツリと呟いた。
雷獄の洞窟がどんな場所かは分からないが、洞窟っぽい場所ではあるはずだ。
しかし相変わらず左手はオレンジ色の岩でできた断崖絶壁。右手は崖。目の前は雨豹の巣。これだけだった。
「あの巣が洞窟の可能性は?」
ティーパンがもっこりとはあはあに質問すると、2人とも首を左右に振った。
「ゼロとは言い切れないけどまず有り得ない。それにあの巣が雷獄の洞窟の入り口だとしたら入るのは不可能だぞ」
ともっこりは断言した。
「でもゼロじゃないんじゃろ?」
ちあが鋭く指摘する。
「ま、まぁゼロじゃないがどっちにしろ入るのは不可能だ」
「ま、不可能かどうかは私たちが実際に試してみてから決めるよ」
ティーパンが縄張りに近づく。
「待って待って待って」
その手をはあはあが引っ張って引き止める。
「雨豹は危険性が高いモンスターなんだ。私たち鬼侍女に対しても好戦的だし流石にあの岩山に侵入するのは自殺行為だよ」
「危ないかどうかは自分で判断するって」
制止をティーパンが振り切ろうとすると、もっこりが観念したように言う。
「分かったよ。ルートを教えるよ」
「ちょっともっこり!」
はあはあが咎めるように言うが、もっこりが首を横に振って言葉を続けた。
「雷獄の洞窟は本当に危険な場所なんだ。進入禁止の場所って言えば分かるかな? だから君たちに雷獄の洞窟へ行くのを諦めてもらうためにわざとここへ連れて来たんだ。けど君たちの決意は本物だし絶対に止まらないことも分かった。俺たちも覚悟を決めるよ」
どうやらはあはあともっこりは助態たちを責任持って世話をする覚悟でいたらしい。
雷獄の洞窟はかなり危険な場所なため、そこへ向かうのを諦めてもらおうとしていたのだが、助態たちはこの魔界から本気で抜け出そうとしていることに気が付き、雷獄の洞窟へ今度こそ本当に案内してくれるようだ。
●
「雷獄の洞窟へ行くには幽霊城を通る必要がある。雷獄の洞窟までのルートはモンスターとの遭遇はない。それはモンスターが種族ごとに住処をまとめているから。君たちが住んでいた世界のように点在していないってこと」
歩きながらはあはあが今度こそ本当のことを話す。
「雷獄の洞窟はその名の通り雷でできた洞窟で、雷系統のモンスター以外は住んでいない。その代わり、ここら居住エリアと違ってモンスターが点在しているから簡単に遭遇する」
「エンカウント率が高いのは分かるけど、種族ごとに住んでいるわけじゃないから、その数は少ないってメリットもあるんじゃないの?」
助態の言葉にはあはあが頷く。
「その通り。モンスターと遭遇しても、君たちが住んでいた世界と同じ感じだとイメージしてもらって構わない。幽霊城にもモンスターがいるらしいけど、誰も遭遇したことはない。ま、だからこその名前だね」
「洞窟が雷で出来ているとはどういうことなのでしょうか?」
純純は、雷獄の洞窟がイメージできないでいるようだ。
「壁、天井が全部雷でできてる」
そのまんまだ。
「雷の迷路だと思っていいよ」
はあはあが、洞窟とは名ばかりだね。と付け加えた。
「んでここが幽霊城だ」
もっこりが目の前の、お化け屋敷と言わんばかりの薄気味悪い廃れたお城を紹介した。
不気味な風が城の方へと吸い込まれていった。

