勇者は発情中~第三十八エロ モンスターの世界魔界へ~

勇者は発情中

 数日後、助態とヌルヌルは無事に戻ってきた。

 見たところ無事なようだ。

 しかし2人とも浮かない表情をしている。

「勇者様、大丈夫ですか?」

 心配そうに純純が近寄る。

「何かあったのか?」

 もふともはヌルヌルの傍に向かう。

「純純……」

「もふとも……」

「「俺たちは全てを失った……」」

 2人同時にそう言葉にした後、項垂れたままぞろぞろと男部屋へと向かって行った。

「勇者様!」

「ヌルヌル!」

 追いかけようとする2人をくびちとティーパンが取り押さえた。

「見たところの外傷はない。精神的な攻撃をされたかあるいは」

「破壊されかじゃな」

 ティーパンの言葉の後をちあが引き取って言う。

「破壊されたってそんな」

 純純がショックの表情でちあとティーパンの方を振り返る。

「全てを失ったって言ってたよね?」

 もふともも振り返りながら全員に確認する。

「そう言ってたっすね。失ったって何すかね?」

 んー、とぱいおが考える仕草をする。

「お金とか道具とかですかね?」

 隣でルブマが言うとアンアンが否定した。

「そうなら、お金を失ったとかそういう表現をするんじゃないかしら?」

「全てか……」

 ティーパンが呟く。それから再び口を開いた。

「何を失ったのかは分からないが、今の私たちに必要なことはこの世界から抜け出す方法をあの2人が聞き出せたかどうかだ。言い方は悪いが、それ以外のことは二の次だ」

 ティーパンがシビアなことを言うが、現状それが正解だった。

「そうじゃの。あの2人が何を失ったのか、ちあたちに言わなかったということは言いたくないことじゃろう。もっと言えば言わなくても影響がないことじゃろう。それならばあの2人がきちんと話せるようになってもらうことが重要じゃの」

「そこで重要になるのが、あの2人が精神を破壊されているかどうかの確認と、精神的に攻撃をされているかどうかの確認ってことね?」

 ちあの横でくびちが今すべきことを再確認すると、ティーパンが頷いた。

「破壊されているならば、その精神を元に戻す方法を探さないといけなくなる。精神攻撃をされているならば、その心を癒して回復させれば問題ないだろう」

「精神を元に戻すなんてあるんですか?」

 ティーパンの案を聞いて、不安そうに純純が訊く。

「どうだろうね。普通に考えたら一度破壊された精神が元に戻るなんてよほどのことがないと無理だろうね。例えばそれなりの癒しや幸福感を与えるとかそんなことしか思いつかないねぇ」

 ティーパンが首を左右に振って答えた。

 全員が、暗い表情のまま助態とヌルヌルが向かって行った男部屋の方を見た。

 ●

 翌朝には助態もヌルヌルも普通に戻っていた。

「昨日は取り乱してしまって済まない。もう落ち着いたから大丈夫」

 みんなの顔を見るなり助態が頭を下げた。

「昨日あれから助態と話をして、しっかりと前を向こうと決めたところだ」

 ヌルヌルも頭を下げた。

「それで?」

 ティーパンが先を促す。

「ここから抜け出す方法を聞き出せました」

 助態がそう言って死の国から出る方法を説明した。

「そうか……」

 やや長い道のりを聞き終えてティーパンが呟いた。

「とりわけ危険なのは、魔界での行程じゃな」

 人間を恨むモンスターの世界が魔界だ。

 その魔界での行程が長いのである。

 どうやらヌルヌルも一緒に来てくれるようだ。

 こうして助態たちは再びデスキングキャッスルへと向かった。

 道中助態とヌルヌルはデスキングたちにされたことがフラッシュバックしてしまい、何度も吐いた。

「余程酷いことをされたのね」

 助態の背中をさすりながらくびちが言う。

「ヌルヌルも大丈夫?」

 相変わらずいつものもふともらしくない言い方で、もふともがヌルヌルを心配する。

 助態とヌルヌルが何度も吐きながらもようやくデスキングキャッスルへとたどり着いた。

「男しか入れないこの城に入らないといけないのかい?」

 ブルブル震える助態とヌルヌルにティーパンが容赦なく聞く。

「あれ?」

「そういえば……」

 助態とヌルヌルは顔を見合わせた。

 あまりにも衝撃的なことをされたために、仲間の女性を連れてきてどうすればいいのか聞いていなかったのだ。

「仕方ないね。私たちが城に入って攻撃でもされたら困るから聞いてきてくれるかい?」

 助態とヌルヌルがギクリとするもお構いなしに、ティーパンが残酷な一言を発する。

「まぁーウチらが攻撃されるのは困るっすからねー」

 ティーパンの隣でぱいおが猛烈に頷き、ちあはそそくさと助態の肩から降りて、行ってくるのじゃ。などと言っている。

 空気的に、助態とヌルヌルはもう一度デスキングに会わなければならないようだ。

 2人は覚悟を決めて再び城の中へと入っていった。

 ●

 助態とヌルヌルがデスキングキャッスルに入ってから数時間が経過した。

 さっきよりもヘロヘロになって2人は戻ってきた。

「通ってもいいってさ……」

 力なく助態が言う。

「助態よ……俺はこれからどうやって生きて行けばいい?」

「ヌルヌルはもう死んでるじゃないか。俺こそどうすれば……うっうっ……」

 2人の様子を見るに、どうやら最初にデスキングキャッスルへと赴いた時と同じ酷い仕打ちをされたようだ。

「よく来た我が城へ!」

 助態とヌルヌルの他に女性メンバーがいるのを見たデスキングが元気よく言う。

「先ほどは済まんかったのぅ。またワシを楽しませてくれに来たのかと思い無茶をした。」

 ニタァと笑いながらデスキングが助態とヌルヌルに言う。

 その言葉に助態もヌルヌルも突っ込まない。

 そんな元気もなければ余裕もないからだ。

「どんな拷問をされたのかしら?」

 ヒソヒソとくびちがルブマに言い、ルブマは曖昧に苦笑いをした。

「ここじゃ」

 全員は、デスキングによって案内された裏口から天高く聳える螺旋階段の場所までやって来た。

「既に説明を受けているとは思うが」

 そう言ってデスキングが助態とヌルヌルのお尻をバシリと叩いた。

 2人は必要以上にビクビクした反応を示した。

「この階段を登ると魔界へと行ける。一度魔界へ行ってしまえばもう死の国に戻ることはできない。心して行くがよい」

 デスキングに背中を押されて全員は螺旋階段を登り始めた。

 最後にデスキングは今までに見せたことない表情で、ヌルヌルを見たのを助態だけが気が付いた。

 その瞬間、助態は何か胸騒ぎを感じた。

 この螺旋階段を登ってはいけないような、そんな胸騒ぎを――

 しかしそんな助態の不安をヌルヌル本人が払拭するかのように、声をかけた。

「さぁ行こう。全てを忘れるために」

 生暖かい何となく嫌な空気が、助態とヌルヌルを包み込んだ。

 この先の展開が悲劇的なものとなることを、デスキングだけが知っていた。

 ――さらばだ愛すべき助態とヌルヌルよ……せめて鍵を見つけられて犠牲になるのが1人だけで済むことを願う……

 デスキングの呟きは誰にも届かなかった。

 いつの間にかデスキングの隣には、気が強そうな女性が立っていたが、螺旋階段を登る助態たちは一度も振り返ることなく、ついには見えない高さまで登って行ってしまった。

「幸せな時間でした」

 隣の女性がデスキングに礼を言う。

「もう二度とあの者には会えないと思うと少々名残惜しいですね」

 女性はさっきまでヌルヌルが居た場所を見つめながら、目には涙を浮かべていた。

「あの者が決めたことじゃ。もう戻らぬと。愛する者を守ると」

 デスキングがくるりと背を向けて城へと戻る。

「鍵。見つかりますかね?」

 女性がその背中に問う。

「さぁの。あくまでも噂じゃ。ワシはそれを伝えたにすぎぬ」

 いつもの威厳をなくし、元気なくデスキングは背中越しにそう答えた。

 ●

 螺旋階段を登り始めてからどれくらいの時間が経っただろうか……

 最初の内はみんながそれぞれ話をしていたが、いつまでも続く階段に全員の気力と体力が奪われた。

 下を見下ろしても上を見上げても螺旋階段が続くだけだった。

 時折、長いね。とかまだかな。という言葉を誰かが呟くが、それ以外に言葉を発する者はいなかった。

 終わりの見えない螺旋階段を永遠に登り続けるしかなかった。

「少し――休憩をしよう」

 全員の心が折れかけていた時、ティーパンが提案した。

 螺旋階段の途中で、各々適当な段に腰を掛けて小休止を取る。

「どこまで続くんすかねー」

 もう何度目かの質問をぱいおが繰り返す。

「魔界はよほど高い場所にあるんですね」

 純純がそう言うと、ティーパンと助態が純純を見つめる。

「な、なんですか?」

 私変なこと言いましたか? と純純が慌てる。

「いや。階段を登っているから高いところにあるって私も考えていたけど、純純に言われて改めて考えるとちょっと恐ろしいなと思ってな」

「俺も同じことを思いました」

 隣で助態が頷く。

 それを聞いて、どういうこと? とくびちが問う。

「モンスターは俺たち人間とは根本が違うだろ? で、高いところに行けば行くほど空気が薄くなる。モンスターが酸素なくても生きていられるとして――」

「この螺旋階段が、酸素がなくなるところまで続いているとしたら私たちは魔界に行くことができないということだ」

 助態の説明をティーパンが引き取って言う。

 酸素がないところでは人間は生きていけない。

 魔界が酸素の無い世界だったなら、そもそも助態たちは魔界に行けないということになるわけだ。

「幸い今のところ空気が薄くなっている様子はないけどね」

 とティーパンは最後に付け足した。

 これだけ高くまで螺旋階段を登っているのに、空気の薄さは地上と全く変わらないのだ。

「それはそれで不気味ね」

 話を聞いてアンアンが不安がる。

 それもそのはず。

 普通なら高い場所へ向かえば空気は薄くなる。

 しかしかなり高くまで登っているのに空気が全く薄くならないのが、逆に不安だとアンアンが言うのだ。

「どっちにしろ、モンスターの世界に足を踏み入れるんだから不気味なんだけど。何が起きても不思議じゃないからね」

 気を引き締めな。とティーパンが忠告する。

 休憩を終えたメンバーは、再び螺旋階段を登り始めることにした。

 ●

 空が近い――

 何度目かの小休止を終えて螺旋階段を登ってから数時間が経った。

 ふと空を見上げたティーパンは、ようやく空に近づきつつあることに気が付いた。

「じきに魔界に着くかもしれない」

 全員に警告するように言うと、すぐさまちあも空に近づきつつあることに気が付いた。

「空が近づいてきておる。突然急襲されるかもしれんから注意するのじゃ」

 螺旋階段を登って自分達から空へ向かっているので、空が近づいてきているという表現は本来違うのかもしれない。

 それでも、どんどん空に近づいているのが目に見えて分かるのは、今までゴールが見えなかった分メンバーにとっては光となっている。

 更に助態とティーパンが懸念していた、空気が薄いもしくは無いということも、今のところ感じられない。

 次第に視界が、空と同じ色のオレンジ一色になってきた。

 オレンジ色が濃くなっていき、助態は空に入って行ったような奇妙な感覚に陥っていった。

 同時に視界がどんどん悪くなってくる。

「足元が見えなくなってきている。階段を踏み外すなよ」

 ティーパンがちょうど注意した時、助態が足を踏み外してルブマの短パンを脱がしたところだった。

「何をするんですか助態さん!」

 ルブマのピンクのパンツは、オレンジ色の視界に遮られて助態には見えなかった。

「くそっ。見れなかった!」

 助態が悔しがり、純純に殴られるお決まりの流れがあった。

 もふともはヌルヌルに支えられながら慎重に階段を登っているのが、話し声から分かる。

「気をつけろ。少し右にカーブしているぞ」

「分かってる。うん。ありがとう」

 ぱいおは後ろからくびちに支えられているようだ。

「あなたまた重くなったんじゃない?」

「なっ! 失礼っすよくびちさん。ウチは太ったんじゃなくて胸がでかくなったんす。ルブマさんには申し訳ないっすけど」

「なんでそこで私が出てくるんですか! 私だって少しは成長してるんですから」

 などと言っているが、助態が知る限りルブマの胸が大きくなっている気配は全くなかった。

「モンスターの世界でもアンアンは襲われなさそうじゃな」

 一番先頭を登っているちあが、ティーパンに背負われながら言う声が助態の耳に届く。

 確かにアンアンは種族としてはモンスターに分類されるわけだから、人間を憎んでいるモンスターに襲われる可能性は低いとちあは推測している。

「どうかしら。人間と行動を共にしていることでむしろ裏切り者としてのレッテルが貼られているかもしれないわ」

 アンアンがちあの推測を否定した。

「そうだね。確かに裏切り者って思われる可能性の方が高いかもね」

 ティーパンもアンアンの考えに賛同した。

 それもそうじゃの。とちあもそれに同意して頷いた。

 そんなは話しをしていると、助態は階段がいつの間にか下りになっていることに気が付いた。

「あれ?」

 助態の言葉に全員が気が付く。

「いつの間に」

「気がつかなかったのじゃ」

 ティーパンは悔しそうにし、ちあは話ながらも周りに気を使っていたようだ。

 メンバーの中でもベテランの2人が気がつかなかったのだ。助態たちが気がつかなかったのも無理がない。

 永遠に続くと思われた螺旋階段は、気が付けば下りの螺旋階段になり、それもかなり低い位置からの下りになっており、螺旋階段が下りになってからは周りの景色が違っていた。

 今まであった夕陽はなくなり、真夜中のような暗さだった。

「ここは魔界だ」

 ヌルヌルの言葉通り、助態たちはいつの間にか自分たちでも気が付かない内に魔界へと足を踏み入れてしまっていた。

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