それは、空想上の物語――
だがその空想は誰かが信じる限りただの空想ではない――
信じる者がいる限り、それは真実にもなり得る――
だがそんなことは子供だましであり、空想はあくまでも空想であるということを、人は大人になるにつれて自覚する。
現実世界では夢も希望もないということを……
もしもこの世に勇者という存在がいたならばあるいは――
「えー。ということじゃから皆さんは本日より、抵抗軍擁立学校へ進学することになるのじゃ」
ポカポカ陽気で眠気が襲う中、お偉いさんが壇上で演説をしている。
真面目に話しを聞いているのは擁立学校の先生職員たちだけだ。
椅子に座っている子供たちは皆10歳前後。
この世界では、10歳になると抵抗軍擁立学校へと強制的に入学させられる。編入や転入などはなく、20歳の成人になるまで徹底的に戦術訓練を受けさせられる。
夢も希望も失ったこの世界は今、魔王軍と呼ばれる軍勢に世界の半分以上が支配されている。
魔王軍は世界の西側ほぼ半分を支配している。
反対側の東側ほぼ半分を支配しているのは帝国軍だ。
どちらも世界を牛耳ろうとしている。
抵抗軍は、わずかばかりに残った中央をなんとか押させているが、左右両軍に挟まれている状況だった。
中央の抵抗軍がいなくなれば、魔王軍と帝国軍で戦争が始まり、世界は終わると言われている。
そのため、抵抗軍が押させている地域では強制的に擁立学校に入学をせざるを得ない状況になっているのだった。
「ほらそこ。おおあくびなんてしないの。ちゃんと先生の話しを聞きなさい」
たった今大あくびをしたサンをおっきな栗色の目をした女の子が咎める。
いかにも優等生っぽいくせに、ボサボサで栗色のショートカットの髪型をした女の子――アネモネ――を、ヒョロヒョロな色白で、まるで寝ているかのように見える開いているんだか開いてないんだか分からない黒い目のサンが睨む。
黒くてツンツンあちこちに立っている髪の毛が、意地っ張りの彼の性格を表している。
「何?」
サンが睨んでいるのが、睨まれているとは気づかずに熱い視線だと勘違いしたアネモネがはっとした顔をする。
「あなた私に惚れたの? しょうがないわねー。私の名前はアネモネ。惚れるのは自由だけど今は先生のお話しを聞く時間よ。私をお話ししたければまたあとで」
「うるせーなー。ねむれねぇーだろーが」
アネモネの言葉を遮るように背後から声がかかる。
オレンジ色の短髪におっきなオレンジ色の目を眠そうに擦りながら彼――アジュガ――が言う。
「寝れないってあなたねぇ!」
アネモネが今度はアジュガに突っかかるが、そこを先生に咎められてしまう。
「そこうるさい」
後にサン・アネモネ・アジュガが所属する1年3組の担任となるくいな先生だ。
真っ黒い髪の毛をポニーテールにした厳格な先生だ。
「――というわけで、現在も世界は勇者の誕生を望んでいるのじゃ。君たちの中から勇者が誕生するとは思っておらんが、夢も希望も失ったこの世界でその存在を信じなくなっては勇者は本当に誕生しなくなるじゃろう……」
とお偉いさんが締めくくった。
なんだか難しい話しをしていたような気がする。
大きなあくびをしつつサンは、自分に振り分けられたクラス――1年3組――へと向かった。
その運命を胸の中に秘めて……


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