激しい轟音が遠くにいても聞こえる。
目に見えなくても激しい戦いが繰り広げられていることが分かる。
大きな岩の陰に1人の男が隠れている。
男の名はコンク。
大柄で筋肉粒々でいかにもケンカに強そうだ。
そんな彼が隠れているとなると、余程強い相手から隠れているのだろう。
そしてコンクの後ろにももう1人男がいる。
男の名はヨシキ。
ヒョロリとした長身で、いかにも戦場だというこの場には場違いの男だ。
不思議なことにヨシキはやや透き通っており、宙に浮いている。
まるでこの世の生き物ではないかのよう。
それにコンクはヨシキに全く関心を持っていない。まるでその存在がないかのよう。見方を変えれば守護霊のようにも見えなくない。
『あの遠くの戦場の敵がこっちにやって来るのか……』
ヨシキの予感は的中し、敵の大軍がコンクの方へやって来るのが遠くの土煙で分かる。
第一軍は突破されたか!
短く舌打ちをしてコンクが奥歯を噛みしめる。
しかし――
遠くからやって来る敵の進軍が途中で止まる。
『落とし穴?』
遠目で分からないが、ヨシキが思った通り敵の大軍は落とし穴に落ちたようだ。
あんな敵なのに落とし穴なんかでいいのか?
ヨシキがそう思うのも無理はない。
ヨシキにはコンクが敵と認識する者の存在が通常ではないことを知っているのだから。
「コンク! 第二軍が激突した。今のうちに迂回しろ!」
コンクの少し離れたところまで走ってきた男がそう指示を出す。
コンクは、分かったと頷いて素早く大岩から身を低くして動き出した。
落とし穴に向かっては、第二軍が大量の弓矢を放っている。
落とし穴と大岩は一直線上にあるが、その距離はかなり離れている。一般的な感覚で言えば、家3軒くらいは離れている。
大岩側から見て右手には深い森が広がっている。
コンクはこの森へと進み、そこから落とし穴を迂回するつもりなのだ。
この辺りは荒れ果てたいわゆる荒野。矢車荒野と呼ばれる場所だ。
そんな荒野にポツンと立っている大岩は、ヤグルマのカカシと呼ばれている。
この大岩はかなり巨大で、5階建てのマンションくらいの高さで広さとしては家3軒分くらいだ。
デコボコしており、上手に活用すれば砦として利用することができる。
右手の矢車草の森と合わせて天然の要塞だ。
この大岩をめぐるいわゆる縄張り争いのようなものが、ヨシキの目の前で起きている戦いだ。
最も、戦っているのはコンクたち人間と落とし穴にはまった人間とは言えない生物だが。
『あれがギザードか』
コンクを追いかける前に落とし穴から這い上がる、巨大なカマキリのような生物を見る。
その生物がギザードと呼ばれる、いわゆるモンスターの一種だ。
そう、ヨシキが体験しているこの世界はモンスターと人間とが日々戦いを繰り広げている世界なのだ。
そしてヨシキは文字通り、この世界を体験しているだけなのだ。
『壁が迫ってきてる……コンクの記憶にもうこの場所はないのか』
ヨシキがそう思う通り、ヨシキはコンクの記憶の世界を体験している。
コンクが矢車草の森へと移動したため、コンクにはヤグルマのカカシの現在の記憶はない。
コンクが体験していないことはヨシキにも体験できない。つまりこれ以上ここには留まれないというわけだ。
名残惜しそうにヨシキはコンクの後を追った。
なぜヨシキがコンクの記憶を体験できるようになったのか。それは今から数日前に遡る――


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