それからの俺は、いつみずほが誘ってくれるのかが楽しみで仕方なかった。
更には、みゆうにも素直に謝ると、あっさりと許してくれた。
なんだか最近いいことばかり起こっている気がする。
「何も知らずにあの2人が意地悪だって言ってた。本当にごめん」
「あー。この前のこと? 別にいいって。気にしてないから」
これがご都合主義ってやつか。
「あのさー。許すのはいいんだけど、いつ友達紹介してくれるの?」
忘れてた。
「あ。ごめん。れんとともやに聞いておくよ」
「っつーかさ、連絡先交換しとこうよ」
そう言って携帯電話を出して来た。
半ば無理やりに連絡先を交換されたが、俺の人生で初めて家族以外の連絡先を手に入れてしまった。
「そういえばれんやともやとも連絡先交換してなかったや」
ふとそう言うと、みゆうが驚いた顔をした。
「マジぃ? 今までどうやって連絡取り合ってたの?」
「普通に直接」
この言葉を聞いたら、なぜかみゆうがふきだした。
「あんたらってホントウケんね! うちらじゃ理解できない行動ばっかだわ」
目の端に涙を浮かべている。
そんなに面白いだろうか?
「ごめんごめん。馬鹿にして笑ったわけじゃないんだ」
俺が困惑してたからか、気を遣って謝ってくる。
馬鹿にしてないことくらい分かるけど……
そうか――前の俺なら馬鹿にされたと思うのか……
「んじゃあさ。連絡待ってっからね」
ばいばーい。と笑顔で手を振ってくれる。
春の風にしっかりと手入れされた長い茶髪がなびく。
とても似合う風景だ。
すごく綺麗だと思う。
こういう季節の放課後にはぴったりだ。
●
「勇者様はみゆうちゃんとミサキちゃんどっちが好きなの?」
放課後の委員会でみずほが唐突に聞いてきた。
俺はみずほから借りた、悲報シリーズを読んでいる最中だった。
「愚問だなみずほ」
続きを読みたいからというのもあり、深く考えなかった。
「ミサキさんに決まってるだろ?」
みずほが、へー。と言いながらぼーっと俺を見てくるが、俺は気にせず続きを読んだ。
「じゃあ今度の日曜日にミサキちゃん誘うね?」
「うむ。勇者のために動くのは大事だぞみずほ」
腕を組んで偉そうに見えるであろう態度を取ってみる。
「勇者様キモーい」
笑いながら言ってくる。
「なんだとこのブスが!」
「ひどーい。勇者様だって不細工じゃーん」
ぷーっと頬を膨らませる。
「みずほ。全然可愛くないぞ?」
そう言うと、プイッとそっぽ向いてしまった。
うむ。行動は可愛いんだがな。何しろ俺もみずほもルックスは下の下だ。
「みずほよ。勇者がいいことを教えてやろう」
「なんですか?」
目を輝かせてこちらを見てくる。
「人間は見た目じゃない。中身だ」
「さっすが勇者様! 分かってるー」
「それに勇者フィルターを使えば、お前のブスでも可愛く見えることができるのだ」
わははははは-。と笑うと、みずほが負けじに言い返してきた。
「私だって乙女フィルター使えば、勇者様がイケメンになるもん!」
「なぬ! おのれみずほめ。勇者を弄ぶとは侮れんやつめ」
最近の俺は、いつもみずほに最終的に負けている気がする。まぁそれでも悪い気がしない。
もしかしたら、ミサキを紹介してもらえるという恩義があるのかもしれないし、少し余裕が出てきたのかもしれない。
「ところで勇者様?」
みずほがにこりと微笑みながら言う。
何か良からぬことを企んでいる顔だ。
「な。なんだね? みずほ君?」
精一杯威厳を保とうと努力してみる。
「勇者フィルターがあれば、私とも付き合えますわよね?」
どこぞのお嬢様のように振る舞いながらみずほが言う。
「もちろんでございます!」
机にひれ伏して答えるしかなかったのだった。
●
やや緊張しながらも、俺は待ち合わせ時間よりも早めに図書館前に着いた。
家の近所に図書館があるって便利だな。
世間はゴールデンウイークという大型連休の後で、ややだらけきっている。
季節で言えば初夏。
しかし夏と言うには暑くなく、とても過ごしやすい時期だ。
こんないい季節にミサキとデートができるなんて、俺は幸せ者だ。
お。まずはみすほが来た。
「おはようございます。勇者様。ミサキちゃんの前ではマスターって呼ぶから安心してね」
マスターもどうかと思うが、まぁいいか。
「今日はね、ミサキちゃんが男性の心理について知りたいんだってさ」
「男の心理?」
どういう意味かよく分からない。そもそも人の心なんて、書物を読んだくらいで分かるものではない。
「私の元カレが浮気ばっかりしてて意味わかんないから、調べるんだよ」
みずほと話していると、背後からミサキの声がした。
「み。ミサキ……さん」
「ミサキちゃん!」
俺の言葉を遮るようにみずほが言う。
「午後は別の用事あるから、ちゃちゃっと済ましちゃお?」
うーん? なんかよそよそしいな。 俺には挨拶どころか目線すらよこさない。
まるで存在しないかのような振る舞い。
ははーん。恥ずかしがっているな?
俺はウキウキしているのを悟られないように、真面目な顔をしたままミサキの後に続いて図書館へと入っていった。
図書館は、外よりも空気が重いのに過ごしやすい空調温度になっていた。
「凄いよね。本を傷めないための温度設定とかもあるんだってよ」
みずほが謎の知識を披露する。
そんなシステムもあるのか。書物が好きな俺にとっては素晴らしいシステムだ。
さてと。ミサキは男の心理の本を探しているし俺はそんなのに興味はない。
となれば、俺もみずほから借りた悲報シリーズを読むしかあるまい。
●
「何であんなの呼んだの?」
ミサキがひそひそみずほに話す。
「いい人だよ?」
「いやいやいやいやー。あれはないって」
ミサキが顔を左右にぶんぶん振る。
「みゆうちゃんも最近仲良くしてるみたいだよ?」
みずほのこの言葉に、ミサキが驚く。
「ガチで?」
そして自称勇者のことをしっかりと見て、思わずこぼした。
「あんなののどこがいいの?」
ミサキには理解ができなかった。
自称勇者のいいところも、男が浮気をすることも全てが理解できなかった。
「それにあいつ私のストーカーだよ?」
ダイキとまだ付き合っていた頃、ほぼ毎日のように朝自称勇者に遭遇していた。
「それって前に言ってたやつ?」
みずほはそのことをミサキから聞かされていた。
ミサキは黙って頷く。
「でも最近は全くなくなったんじゃない?」
みずほに言われたことは、正にその通りだった。
「たぶんだけど、みゆうちゃんと仲良くなってから彼は余裕ができたんじゃないかな? 今まではほら。1人だったじゃない? 私にはミサキちゃんがいてくれたから頑張れたし、それと同じだよ」
そう言うとミサキが、少し照れた表情を見せた。
「ま。みずほとは付き合い長いしね。幼なじみみたいなもんっしょ」
ふいっとミサキはその場をあとにした。
その様子を見て、みずほはにっこりと微笑んだ。
