【悲報】勇者に転生したワイ魔王の娘に好かれる~第二十八章 ドール人形の間~

【悲報】勇者に転生したワイ魔王の娘に好かれる

ワイの感情が爆発するのと同時に、空気が爆発した感覚がある。

これがワイの力だ。

自分の意志で自在に感情を爆発させたりすることはできない。

でも今は簡単だ。

だって、勝たなきゃ呪われて死んじゃうんだもん。嫌でも感情が昂るってものだ。

ジンフィズが物凄いスピードでダリアに近づく。

<滑る力>ってそういうことか。

自在に地面を滑って移動ができるんだ。

まるでスケートをしてるかのように。

「多分だけどさ、あれスピードも自在に操れると思うよ。」

ワイの隣でチラコンチネが言う。

滑りながらダリアに近づいてパンチを繰り出したジンフィズ。

その攻撃を避けながらダリアが反撃するが、確かに攻撃をしてくる時と避ける時でスピードが違う。

「なかなかいい反応だ魔王の娘よ。約束だから君は殺さない。だがこっちは別だ!」

すいーっと地面を滑りながらワチワヌイ・1・ヘリックスの前に突き進んだ。

ワイとダリアの後ろに控えていた3人の前にだ。

「な!」

真横を通りすがれたチラコンチネが絶句する。

『あたいに気づかれずに真横を通り過ぎったってのかい?ありえない!』

チラコンチネがジンフィズを振り返りながら見る。

「分かっていると思うが、今のタイミングで君を攻撃することもできた。俺との実力の差が実感できただろ?」

ジンフィズはそれだけ言うと、ワチワヌイにパンチを繰り出す。

滑るスピードに乗った力のあるパンチだ。

「!」

両手をクロスにしてパンチを何とかガードするが、後ろに吹っ飛んで壁にぶつかる。

「勇者様の力がなければ、ガードが間に合わなかったかもしれませんね…」

よろよろと立ち上がりながらワチワヌイが言う。

そうか。ワイの力でスピードも上がってるのか。

「加えて私の魔法の効果を上昇させます。」

パラナが身体能力向上の魔法を全員にかける。

「ウチもいるのを忘れないでね。」

マティーニが片手を上に上げると、広間に大量のドール人形が現れた。

「俺を攻撃するなよ?」

ジンフィズがマティーニに注意するが、無視されたようだ。

「警告:危険水準レベル1。」

危険水準レベルがどれ程か分からないけど、あのドール人形はヤバいってことだろう。

「遅いよ。」

ぼそりとマティーニが言うと大量のドール人形が、ケタケタと笑いだした。

気味が悪い。

笑ったドール人形がワイ達に抱きついてきた。

骨というか骸骨に抱きつかれているようなひんやりとした異様な感触。

「人形を離してください!」

パラナがワイに警告する。

言われなくてもみんな瞬時に人形を体から離しているようで、呑気にドール人形の感触を味わっていたのはワイだけのようだ。

「イヒヒ。勇者は敵に回ったし殺してもいいよね?」

両目を大きく広げてマティーニが笑う。

げげげ!

慌てて人形を引き離そうとするも、もがけばもがく程絡みつく蜘蛛の巣の糸のように、どんどん絡みついてくる感じがする。

――あれ?なんか体が重く感じるような…

「ふっ!」

息を漏らしながらジンフィズが滑って来る。

滅茶苦茶早い!

「タロー!」

ダリアが走って駆け寄ってくれるのが視界の端で捉えられる。

でも直感的に分かる。ダリアの助けは間に合わない。

絶対あのパンチ痛いよ…

無駄だと分かっていても体を無理やり捻ろうとする。同時に両手を顔の前に持ってきて手を大きく開いてパンチをガードしようと試みる。

ドゴォ!

思いっきり後ろに吹き飛ばされて壁に激突した。

「いってぇー!」

滅茶苦茶痛い!

死ぬ程ではないけど、あんなの何度も食らいたくない。

「無事か。」

ほっとチラコンチネが息を吐く声が聞こえた。

ダリアは傍に駆け寄って来て、ワイの顔をあちこち触って確認している。

顔やら口やらを引っ張ったりしてくる。

「ちょ…ダリア?痛いよ?」

「お?良かったのだ。タローを攻撃した罪は重いのだ!」

ダリアがギロリとジンフィズを睨む。

「意外とタフだな。気絶させるつもりで殴ったのだが…」

ジンフィズが自分の拳を見ている。

確かに痛いけど。気絶する程ではない。

プルプルと頭を振る。

「反撃開始だ!」

ジンフィズが素早く滑って行動する。

マティーニはドール人形を自由自在に動かしている。

「はぁ!」

ダリアとヘリックスが人形を破壊して回る。

ジンフィズはパラナへ狙いを定めて移動している。

エルフ族の魔法が厄介だと気づいたのかな?

「させないよ!」

チラコンチネが走ってジンフィズに追いつき、横から殴ろうとする。

「ほぅ?俺のスピードについてこれるとは流石は猫人族だ。」

上から目線でジンフィズが褒めたと思ったら、突然スピードを上げた。

「マジかよ!」

舌打ちをしつつジンフィズを追うが、その距離はどんどん離され、あっという間にパラナの目の前に現れた。

「私を狙っていることは気づいていました。」

そう言うとパラナは、何やらよく分からない魔法を発動させた。

「む?」

ジンフィズが眉をひそめる。

「体を重くする魔法か…」

そう呟くが、見た目にはジンフィズの動きが遅くなったようには見えない。

むしろ早くなっているような気がする。

「攻撃:開始。」

1がパラナの背後から突如現れた。

今までの砲撃とは違う、網を放出する攻撃だ。

なるほど!これでジンフィズを捕らえる作戦か!

作戦が効いたのか、ジンフィズが網にかかりもがいている。

「油断した…俺としたことが…」

「私のさっきの魔法は、あなたの体を重くする魔法と、あなたの動きを捉えやすくする魔法です。」

「なるほどな…体が重くなったことで騙されたというわけか…だがそれだけではどうすることもできまい!」

ジンフィズは、<滑る>力で網から逃れようと動く。

「警告:次に抵抗すれば電流を流す。」

1がそれをさせない。

「<豪雪>が捕まった…ウチが<豪雪>もろとも殺しても問題ない!」

イヒヒと笑いながらマティーニが両目を大きく見開いた。

何かしてくる!

直感的にそう感じたワイは、ダリアとヘリックスを一度退かせた。

「何なのだ?背筋がゾクゾクする感覚があるのだ。」

そう。ワイもその嫌な感覚がある。

だがとりあえずやることがある。

「1!そいつにとどめを。」

身動きが取れない敵をそのままにしておくのももったいない。

倒せる時に倒しておくべきだろう。

「了解した。」

そう言った1が最大出力の電流を流してジンフィズにとどめをさそうとした時、それは起こった。

「そうですか。勇者は拒みましたか。」

ホワイトレディの報告を聞いたゼウスが残念そうに言う。

「仕方ありませんね。マティーニのぬいぐるみで勇者に呪いをかけてください。私の見立ててでは勇者に呪いは効きません。ですが、あのぬいぐるみを破壊した者の抵抗力を弱めるという呪いなら効くはずです。」

「直接呪いをかけることはできないけど、物を介した呪いなら効くということですか?」

ゼウスの言葉にホワイトレディが問う。

「えぇそうです。そして、抵抗力が弱まれば、物を介した呪いで殺すこともできます。」

「ちょっとお待ちください。では今勇者は呪いでは死なないのですか?」

ホワイトレディは戸惑うが、ゼウスは表情を変えずに頷いた。

「その通りです。私たちの目的を変更しなければならないようです。邪魔になりそうな勇者は呪いで殺します。洞窟内で殺せればそれがベストです。しかし今後にモスコミュールは必要です。あなたとモスコミュールだけは帰って来てください。」

ホワイトレディは、ゼウスに言われた通り洞窟に戻りジンバックの力を借りて、モスコミュール・ジンバックを神界へと帰還させる。

その後、ジンバックの力を借りて、再びジンバックと自分を洞窟に転移させ、自分1人が神界に戻った。

ホワイトレディの力<空間転移>は万能な力ではなく、自分1人しか対象にできない。そのため、力の効果範囲を広められるジンバックとセットに能力を使ってきた。

ジンバックは自分の攻撃ですら効果範囲を広められるので、先の戦いで空にナイフを刺しただけでも敵対者にダメージを与えることが可能だった。

『ジンフィズとマティーニがいるから万が一はないと思うけど、もしジンバックが死んだら私の力は無価値になるわね…』

実は、それ程にホワイトレディの戦闘能力は低かったのだが、太郎たちはそのことを知りえない。

そのアドバンテージが神たちにはあった。

ブッドレアは、だいたいの神の能力を知っているので、ブッドレアと合流される前に勇者を叩く必要があった。

どちらかと言うと、<神の軍勢>の方が焦っており、そのために今回の洞窟という奇襲に出たわけだった。

「私はブッドレアを倒しに行きます。勇者が私達の思惑通りに動かなかったことをブッドレアが知れば、必ず私たちに攻撃を仕掛けてくるはずです。その前に倒しましょう。まずやるべきことはブラッディメアリーに剣を作らせることです。」

そうゼウスが言い、急いでブッドレアを倒す作戦が開始された。

「まずい!」

ジンフィズがさっき以上に慌てている。

何がまずいのかワイには分からなかったが、直後その意味が分かった。

ダリア達が破壊したドール人形が全て合体して巨大なドール人形になったのだ。

それだけではない、明らかに余ったパーツはこちらに飛んで破裂した。

威力そのものは大したことないが、人間の腕くらいなら平気で吹き飛ばすだけの威力はある。

しかもこちらにジンフィズがいるにも関わらず、見境無しに余ったパーツを飛ばしてくる。

「イヒヒ!ここはね。ドール人形の間と呼ばれているの。ウチの可愛いいお友達達が敵を葬る場所よ!」

甲高い声で叫びながらマティーニが言う。

「あいつはテンションが上がると見境無しに攻撃してくる。そこが厄介だ。」

なぜかジンフィズが網から抜け出ていた。

「なに。俺の力で網を体から滑らせただけのこと。俺には物理攻撃は効かないと思った方がいい。」

やれやれと首を横に振りながらジンフィズが言う。

「先ほど勇者は反撃開始と言っていたが、どの辺が反撃開始なのか聞きたいものだな。」

地面を滑ってワイをまたパンチしてくる。

これ…すっごく痛いんだよ…

「私の防壁の影に避難してください。」

パラナが地面に手を付きながら言う。

「!守ってあげてください。」

タイニーがワイに言う。

分からんが、守れと言われるなら守ろう。

「ふっ。」

ジンフィズが地面を滑ってパラナを攻撃してこようとするのを、間に入ってワイがパンチを受ける。

これで3度目。いい加減顔が腫れてきてる感じがする。

「タ…タロー?」

ワイの顔を見て疑問形になるのはやめれ!

「俺のことはいいから、パラナを守ってくれ。」

「地面に手を触れていないと防壁が消える魔法だと思われます。」

ワイの言葉をタイニーが補足してくれた。

なるほど。やっぱ魔法ってよく分からんな。

とりあえず、マティーニのあのパーツ飛ばし攻撃はパラナの防壁で防げるからよしとして、ジンフィズには、ダリア・チラコンチネ・ヘリックスの3人で対応してもらおう。ワイでも対応できる時あるから何とかなるだろう。

問題は、巨大なドール人形か…

「私と1とティムで何とかするしかありませんね。」

ワチワヌイが巨大なドール人形を見ながら言う。

「そうだけどあれ、どんな効果があるか分からないよ?」

ワイが注意するが、巨大なドール人形が気味悪くケタケタ笑いながら防壁に近づいてくる。

どんな効果があるか分からないけど、人3人分の巨体での攻撃なら、単純にその攻撃力で防壁を破壊出来てしまいそうだ。

「<豪雪>はあの防壁を壊して。ウチがとどめをさすから。」

「ふむ。それならばもっとスピードを上げてあいつらが反応出来ないようにしておくか。」

ジンフィズがマティーニの言葉を受けてスピードを上げた。

「くっ!」

さっきのパラナの魔法が効いているからか、ギリギリでチラコンチネが反応している。

ジンフィズのパンチをチラコンチネのキックで返す。

更に横からダリアがパンチを繰り出す。

そのパンチを余裕でジンフィズはガードする。

遅れてヘリックスがダリアの反対側からパンチをする。

これまたジンフィズは余裕でガードする。

これで両手を塞いだ。チラコンチネの攻撃が当たるはずだ。

「なるほど確かに3対1は不利だな…しかもエルフ女の魔法と勇者の謎の力が効いている…」

後ろに退きながらジンフィズが言う。

そのせいでチラコンチネは攻撃し損ねた。

そうか。パラナの魔法で体が重くなっているのか。しかも相手の動きを捉えやすくする魔法もかかっている。ジンフィズにとっては3人を相手にしながら2つの魔法にかかっている状態なわけだ。

それなのにあの余裕さ。

かなり戦闘能力があるんだな。

「<豪雪>どいて。ウチがやる。」

マティーニが言うと、素直にジンフィズが退いた。

嫌な予感がする。

タイトルとURLをコピーしました