【悲報】勇者に転生したワイ魔王の娘に好かれる~第三十二章 最終決戦へ~

【悲報】勇者に転生したワイ魔王の娘に好かれる

「ゼウス様。完成しました。」

ブラッディメアリーが声をかける。

手には大きめの剣があった。

「ご苦労様です。これにモスコミュールの<呪い>の力をプラスして、呪いの剣にしてください。ブッドレアを倒せるとしたら、呪いくらいでしょう。」

「大丈夫でしょうか?<毒>や<菌>でも死ななかったんですよね?」

「分かりません。可能性を1つ1つ試すしか方法がない。としか言えません。あとは駆け引きですかね。ブッドレアは駆け引きには疎いですからね。何とかなるでしょう。」

ふふふ。とゼウスは笑った。

勇者が現れたことで、確実にゼウスに運気が傾いていた。

「なぁなぁタロー!あの鳥見てみろよ!うまそうだな?」

「カラフルで奇抜な鳥だ。うまそう?ではないよな。アホっぽい見た目してるし。」

「タロー見てみろよ!このキノコ食べれそうだな?」

「ニヤニヤ笑ってるキノコは絶対に食えない!」

「タロータロー!」

何度も何度もダリアが太郎を呼ぶ。

その度に太郎は必ず返事をしていた。

………

……

――ガバッ!

「タロー!」

思わず叫んだダリアは、一瞬辺りの景色に呆然とした。

真っ暗闇だった。

手に持つ毛布を見て、夢を見ていたのだと気づく。

『そうだったのだ。タローと一緒に寝てて…タローの夢を見たのは久しぶりだな…一緒に冒険をし始めた時の夢だったのだ…』

もぞもぞ隣で動く気配。

太郎を起こしてしまったと気づいた時には遅かった。

「ん?あ。ダリアおはよう。」

「あぁタローごめんなのだ。起こしちゃったのだ。」

「ってまだ夜じゃん。ダリアが呼ぶから朝かと思ったのに。」

「だからごめんって…タロー?タローなのか?」

ダリアが太郎の量頬を両手でむぎゅっと潰して、顔を近づけてよく見る。

「いでででで。俺が太郎じゃなかったら誰なんだ?」

「タロー!よかったのだぁー!」

ダリアが太郎に抱きついてわんわん泣いた。

みんなの話によると、ワイは半月もの間精神が破壊された状態だったらしい。

不思議とその時の記憶はなく、なんとなくうろ覚え程度の光景が頭を過ることはあるが、思い出そうとすると、頭が痛くなる。きっと体の防衛本能なんだろう。

ワイが半月ぶりに目覚めた時、不思議なことにワイもダリアも始めて冒険をした時のことを夢に見ていた。

偶然なんだか、なんだかは分からないけど、そういうのが復活するきっかけだったんかね?

ワイの両手足は中途半端に再生されてた。

「この手足って、あとどの位で復活するの?」

「1週間くらいかと。」

パラナはそう答え、痛みますか?と訊ねてきた。

痛みはない。むしろ感覚が全てない。

「はいタロー。あーん。」

そんなわけでワイは、いいようにおもちゃ扱いされている気がする。特にダリアなんて、何かにつけてワイがどうのこうのと言って、ワイと行動を共にしようとしたがる。

まぁ、記憶が正しければダリアは泣きながらワイにキスしてくれたんだよな。ワイのことを本気で思ってくれたわけで、そこはもう感謝しかない。

「ところで、半月の間にみんながレベルアップしたことは分かったんだけど、もっと仲間増やせないかな?」

ワイがそう言うと、全員がメンバーを増やそうとしたのでワイが止めた。

「えっと。そういうことじゃないんだ。あいつらはきっと魔王を倒しに行くと思うんだ。まずは魔王の城に何人か派遣してもらって、残りは神のいる根城に俺たちと一緒に攻めてくれればと思ってさ。」

つまり行動を共にしようってわけじゃない。

それでもみんな快く引き受けてくれ、ティムに乗って伝令役となり、翌日には全員が戻ってきた。

早急に魔王の城に数名が向かってくれたそうで、1週間後をめどに神の根城にも数名が攻めてくれることになった。

準備は整った。

「俺らもティムに乗って、<神の軍勢>を倒しに行こうか。」

ティムはワイら全員を乗せてもまだ余裕のある大きさにまで育っていた。

<みかん町>を南に進むと、平野があり、草原があり、川が東西に流れている。

「あの川が<レモンバーム河川>。アタイらが住んでいる<異種族の世界>とかつて人族が住んでいた世界を分けてた川だよ。」

チラコンチネが説明してくれた。

そこまで幅が広いようには見えないけど、泳いで渡ることはできないだろうな。

川を越えると森や平野が広がって、その先に小さな町がある。町には長い橋がかけてある。橋を東の方に見ると大きな火山がある。

「あの火山って活動してるの?」

「今でも活動していると聞いています。」

懐でタイニーが教えてくれた。てことは、たまに噴火とかもするのかな?

町の先は広い荒野になっている。その先は大きな川がまた流れている。

「これが<マジョラム湾>。東の方に湾に囲まれた山が連なってるのが見えるでしょ?あの山に囲まれた場所が<神の村>さ。」

山を指さしながらチラコンチネが言う。

湾を越えたティムは進路を東に取った。

「凄いなティム!飛行機みたいだ!」

素直な感想を伝えるとダリアが訊ねてきた。

「ひこーき?ひこーきって何だ?」

「そうか。ダリア達は知らないのか。この世界には飛行機がないから見たことないのも当然か。何だろ?空を飛ぶ機械でな、すっげー早いんだよ。1なら変形できるんじゃないか?」

そうだ!と思って後ろを振る返ると、無表情のまま否定された。

「不可能。機械は飛べない。生物学上飛べるのは」

「あー。いいよいいよ。長くなりそうだし。そっかー。飛べないのか。」

1を遮る。辞書のような長い説明を聞いてもしょうがないしね。

「アタイも流石に機械が飛ぶのは信じられないなー。飛ぶのは鳥とか虫とか軽いものだろ?ドラゴンが飛んでるのもびっくりなんだから。」

コンコンとティムを叩きながらチラコンチネが言う。

チラコンチネは重さで考えるのか。昔の人間もきっとそんなことを考えていたんだろうな。

「すごいなータローがいた世界はー。ダリアも見てみたいのだ。空飛ぶ機械を!」

「お、いつかこっちの世界にも遊びにおいでよ。来れるのか分からんけど。」

気楽に言ってふと気がついた。

そういえば元の世界に戻れるのかな?とゆーかワイって元の世界では死んだよね?

ってことは、元の世界に戻ったら死ぬのかな?

「勇者様が前にいた世界ですか?行き方があるならぜひお供したいです。」

「んな方法あるわけないじゃん。」

パラナの夢を元も子もなくなるような言い方で、チラコンチネが否定した。

まぁ確かにないだろうね。

ワイもこの世界の生き方の方がいいし。勉強も仕事もしないでいいんだから楽だよね。

そんなことを考えていたら、ティムが下降し始めた。

どうやら<神の村>に着いたようだ。

太郎達が<神の村>に着いたと同時に、ブラッディメアリーが作った大剣に<呪い>の力が付与され、呪いの剣が完成した。

「これよりブッドレア討伐へ向かいます。どうやら私の憶測は外れたようです。勇者が来ました。モスコミュール、ホワイトレディ、シャンディガフ、ブラッディメアリーは私と一緒にブッドレアを倒しに行きます。他の者は勇者を倒してください。もう必要ありません。問答無用で倒してください。」

ゼウスが指示して、名指しされた4人がゼウスが作った巨大な雲の上に乗って<魔王城>へ向かった。

「ダーリンがウチに会いに来たって本当?」

太郎がやって来た報告を聞いてマティーニが騒ぐ。

「落ち着きなさいな。」

<勤勉>のマルガリータが植物を操ってマティーニを押さえつけた。

「離しなさいよ<勤勉>!」

「落ち着きたまえマティーニ。今は勇者を迎え撃つ作戦が重要だ。あの魔王の娘は強力だ。」

ジンフィズも抑えるのを手伝った。

「<豪雪>!ウチはあんたを許してないんだよ!」

マティーニの腕の傷が割れた。

「!マティーニ!本気でやるつもりか?」

驚いてジンフィズが後ろに下がる。

「どいてジンフィズ。」

やれやれという風にレッドアイが前に進み出た。

「ごめんねマティーニ。落ち着かせるためにキミを閉じ込める。」

<空間創造>の力でレッドアイがマティーニを牢屋に閉じ込めた。

「出しなさい!出せ!出せぇー!」

マティーニが叫ぶがマルガリータ、ジンフィズ、レッドアイは無視して今後の作戦を話し始めた。

「勇者はすぐにでもここを嗅ぎつける。ボクの力で迷宮を作っても大した足止めにはならないと思うよ。」

レッドアイはそう言いつつも、迷宮を作り出して村全体に張り巡らせた。

「正直、俺ですら魔王の娘を倒すことは難しい。上手に作戦を考えなければなるまい。」

「時間がないわ。その上エルフ族達人族以外の種族も攻めてきたわ…」

話し合いの輪の中にジントニックがやって来た。

「私が異種族を受け持つわ。多少しか時間は稼げないと思うけど…後は頼むわ。」

にこっと笑ってジントニックが外に向かって行った。

「勇者達はアタシが足止めしておくわ。その間に作戦を考えておいて。後はよろしくね。」

ソルティドッグもにこりと微笑んでから、外に出ていった。

「もしかしたら…」

ジンフィズが呟く。

「勇者が現れたことは、俺たち<神の軍勢>にとってプラスではなくマイナスの要因だったのかもな…」

「確かに。勇者が現れてからアタイらの仲間は次々に倒されていったもんね。ジントニックもソルティドッグも倒されるかもしれない。とゆーかあの2人は戦闘要員じゃないから倒されるんじゃないかしら?」

マルガリータが同意した。

「とりあえずアタシの風船とモヒートの石の罠を使いましょ。」

<禁欲>のウイスキーサワーが提案した。

ウイスキーサワーの力は何の変哲もない風船を出す力。

一方の<風害>のモヒートは石を操る力を持つが、何もない場所から石を出すことはできない。

「!あれは?」

前から女の人がこちらにやって来るのが見えてワイが言う。

ワイらはまだティムの上に乗っているのにこちらに向かってやって来る。

ということは…

「あいつ。空を飛べるのか…」

そう。チラコンチネが言うように、空を自在に飛べる力ということになる。

「勇者…」

ワイらの目の前でピタリと止まった女が言う。

長く茶色い髪を後ろで1つにたばねている。髪型はダリアにそっくりだ。

目は細く吊り上がり、鼻がやや高い。綺麗系の女の人だと思う。

「あくまでもアタシ達に逆らうということね?」

女が聞いてくる。

「先に仕掛けたのはそっちだろ?」

ワイは怒りを込めて言い放った。ワイらの仲間を最初に殺したのは<神の軍勢>達だ。

「えぇ…アタシ達は見誤っていたようね。あなたが自分よりも魔王の娘を優先するとは思っていなかった。」

あぁ。そういうことか。ワイも驚きだ。以前のワイなら迷わず自分の命を優先してただろうよ。

「で?何なのだ?」

ダリアが嫌悪の混ざった声で聞く。

「そうね。もはや話し合いでは解決できないことは明白。アタシ達はこの下の迷宮に本部を構えているわ。でもそこへはアタシが行かさないってことよ。」

女が地上の迷宮を指さす。

「関係ないのだ!」

ダリアがティムから飛び降りて女を殴る。

「そうくると思ったわ。」

女がにやりと笑う。

「アタシは<雌伏>のソルティドッグ。よろしくね。」

ひょいとダリアのパンチを空中で避ける。

ダリアの下側にティムが回り込んでダリアをキャッチする。

「空を飛ぶだけの力なら脅威でもなんでもない気がする。迷宮に侵入しちゃおう。」

ワイが言うと懐のタイニーも同意した。

「そうですね。敵のボスである最高神ゼウスを倒せば私達の勝ちですから。」

「させるかぁー!」

ソルティドッグが猛スピードで追いかけてくる。

「1、頼む。」

後ろを振り替えずにワイが言うと、1は了解。と応えて真後ろに砲撃した。

『騙された?』

ソルティドッグがそう思った時には遅かった。

「悪いが、もう俺たちはなりふり構ってられないんだ。どんな手を使っても全力でそっちを倒させてもらう。」

1の攻撃力が上がっているのも、訓練のおかげだろうな。

ティムから降りて迷宮の入り口に立つと、後ろから満身創痍の中ソルティドッグが追いかけてきた。

やれやれ。諦めればいいものを。

「行かさない…」

「先行きな。アタイが――」

チラコンチネが後ろを向いて、ワイらを先に行かせようとしたが、ダリアの方が早かった。

「ダリアはタローをあんなにしたお前たちを許さないのだ!」

ダリアのパンチが炸裂した。

1がとどめの砲撃でソルティドッグを倒した。

勇者達が迷宮に入ったことに、レッドアイが真っ先に気が付いた。

既にジントニックとソルティドッグがやられたことも知った。

ソルティドッグの力は<儀式>の力。

儀式を行うことで色んな力を付与できる。強い力を付与するには長時間の儀式が必要になる。

この力で飛行能力を自身に付与していた。

しかし、戦闘能力がほとんどないために、倒されてしまったのだ。

一方のジントニックは<記憶>の力。

工作には使えても戦闘で使える能力ではない。

「マティーニの力を使えればいいけど…」

レッドアイがちらりと牢屋を見ると、まだマティーニは叫んで暴走している。

「無理ね。アタイが出るわ。」

マルガリータがやれやれと歩いて行った。

「迷宮に残るのはマルガリーガとマティーニを入れても6人…全滅の危険があるな…」

ジンフィズが呟く。

ジントニックを倒した異種族達も次々に迷宮に入り込んできた。

「多勢に無勢か…」

その様子を見てまたもやジンフィズが呟いた。

意を決したように言う。

「マティーニを解き放とう。」

「正気なの?」

レッドアイが驚く。ショートカットの髪の毛を振り回しながらジンフィズとマティーニを交互に見ている。

「勇者を取り戻しに異種族が来たと言えば、マティーニが異種族のやつらを倒してくれるだろう。勇者の方は俺も出よう。残りの全員でかかれば何とかなるかもしれん。」

ジンフィズの言葉にレッドアイも意を決した。

「分かった。」

マティーニを牢屋から出して、異種族が勇者を攫いに来たと嘘を言う。

ジンフィズの言った通りマティーニは激怒した。

「ウチのダーリンは誰にも渡さない!」

両目が飛び出ている。

「俺達は勇者の仲間を倒す。マティーニ、君には異種族を頼みたいのだが?」

ジンフィズが言うと返事の代わりにマティーニが走り去って行った。

「やれやれ。これで敵の戦力は減らせるだろう。俺達も急ごう。マルガリータをみすみす殺すことはあるまい。」

ジンフィズ・レッドアイ・モヒート・ウイスキーサワーの4人は先を進んでいるマルガリータを追った。

ワイらは迷宮を順調に進んでいた。

言葉通りに順調に。

ダリアとヘリックスが迷宮の壁を破壊してひたすらに真っ直ぐ進んでいた。

「まぁ確かに迷宮を丁寧に進む必要ってないもんね。」

チラコンチネが苦笑いしながらワイに言う。

ワイの提案じゃないよ?ダリアが言ったんじゃん?

迷路を進む必要はないって。だからワイはちょっと好奇心で言っただけ。

壁って壊せるのかな?って。

ダリアとヘリックスがいきなり壁に攻撃して、そのまま真っ直ぐ突き進むことになったわけだ。

「まさかこんな迷宮の進み方も知らぬような奴らに、ここまで追い込まれるとはね…」

女がふう。とため息をつきながら道の影から出てきた。

緑色をした短髪を右耳の下の方でちょこんと縛った小柄な女だった。

小さな顔に大きなくりくりの目に長いまつげ。

一般的に可愛いと言われるタイプだろう。

でもね。勘違いしている。

ワイは迷路の進み方を知らないわけではない。この進み方はあえてだ!

「ゼウスはどこにいる?」

無駄と分かっていても訊いてみた。

「さぁね。」

そう言うと女は、床に置いてあった植木鉢を拾った。

何だ?

「間に合ったか。」

聞き覚えのある声が女の先からした。

ジンフィズだ。

隣のダリアから殺気が漏れ出している。

「お前ぇー!」

問答無用。

ダリアが全力でジンフィズへ向かって行った。

一拍遅れてチラコンチネ・ヘリックス・ワチワヌイ・1が続いた。

ワイ・ティム・パラナ・タイニーは女と対峙した。

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