【悲報】勇者に転生したワイ魔王の娘に好かれる~第三十三章 神の軍勢の最期~

【悲報】勇者に転生したワイ魔王の娘に好かれる

魔王城には異種族の仲間達が何人かやって来た。

「何事だ?」

ブッドレアが問う。

相変わらず上半身は裸で下半身はボロ布を纏っただけの出で立ちだった。

「ゼウスがもうじきやって来ます。勇者様とダリア様からの要請で我々も参戦に来ました。」

ミシシッピが跪いてブッドレアに応える。

同時に城の外に轟音がした。

「久しぶりですねブッドレア。あなたとの契約はすでに無く、勇者は私達に逆らうと言います。もはやあなたと遊んでいる暇はなくなりました。じきに私の部下たちがあなたの娘を捉えます。命を助けてほしければ今すぐに自殺をおすすめします。」

「お主がダリアの命を守るという保証がない以上、飲めない相談だろう?」

ギロリとブッドレアが睨む。

「なるほど…あくまで私にたてつくおつもりですね?」

ふうとゼウスが息を吐くと、同行していたブラッディメアリーが前に出た。

その手には鉄の塊があった。

「<鉄操作>の力か…<複写>の力で鉄をコピーして無限の武器でワシに攻撃をする算段か?」

ブッドレアが一瞬でゼウスの作戦を見抜く。

「やはりあなたは戦いにおいては天才のようですね。」

ゼウスが片手を上げてブラッディメアリーを下がらせた。

「お主がワシと話し合いで解決できることはもはやない。そしてワシがお主らと戦わないという選択肢ももはやない!覚悟せい!」

ブッドレアが大斧を振りかぶった。

女の後ろからゾロゾロと<神の軍勢>が出てきた。

「大丈夫ね?マルガリータ。」

あいつは確かレッドアイとか言ってたっけ?植木鉢を持っている女がマルガリータか。

それと見たことない男女が2人。ジンフィズを含めて5人か…

「えぇ。こっちはたぶん後衛。後方支援などを担当しているんでしょうね。勇者が後方支援ってのは笑えるけどね。」

マルガリータと呼ばれた女がゆっくり近づいてくる。

ワイ今バカにされた?

「勇者様お下がりください。」

パラナがワイに言って前に進み出た。

パラナの前ではティムがぐるると威嚇した。

威嚇する度に口から小さな炎が出ているから、余計怖く見える。

でもこの女が言った通り、ワイ達って援護組なんだよね。ダリア達前衛組がみんなジンフィズに向かって行っちゃったもんね。

ダリアのパンチをジンフィズは避けているが、前にみたいに余裕を持った顔はしていなかった。

洞窟内で、ダリアがジンフィズをボコボコにしたらしいからな。

よし!それならダリアに任せて他4人は呼び戻していいだろう。

「チラコンチネ!ヘリックス!ワチワヌイ!1!戻って手伝ってくれ!」

ワイの呼びかけに4人はすぐに反応して、レッドアイやマルガリータら4人を挟み撃ちにした。

「ダリア!そのハゲたおっさんは頼んだ!」

ワイが声をかけると、ダリアは分かったのだ。と返事をし、ジンフィズがハゲておらん!と言い返してきた。

マルガリータは手に持った植木鉢の植物を操る力のようだ。

ティムに向かって、蔓を伸ばしてきた。

けど植物はティムと相性が悪いっしょ。ティムは炎だし。

そう思った瞬間、ワイの目の前に風船がフワフワと飛んできた。

「?なんだこれ?」

ワイが思うに、これも敵の力だとは思うけど、風船の力?何か効果が付与されている力なんかな?

「ただの風船ですね。何の仕掛けもありません。」

パラナが風船の正体を見破った。

そういうことならワイでも問題なく攻撃できるな。

ワイはお馴染みの武器となった小刀(カッターナイフレベル)で風船を割った。

「ふっ。たわいもない。」

決まったぁー!かっこいい決め台詞!

目の前のチラコンチネが憐れみを含んだ目でワイを見ている。

あれぇ?これ決め台詞じゃないの??

風船が割れると中から石が飛び出してきた。

?これが罠?

「こんなの何てことないけど?」

ワイがそう言った瞬間、石が縦横無尽に動き出した。

「石を操る力ってこと?こんな小さいとほとんどダメージないけど?」

片手で石を掴めてしまうしね。

「…おいらの力をバカにするな…」

おやぁ?何やらちびっ子男の子がワイに何か言っているようだが?

「ん?君の力なのかな?ん?」

これこれ!俺つえぇーしながらマウント!異世界転生の醍醐味っしょ!

「おいらの力だ!」

ちびっ子が叫ぶけど、正直全然怖くない!

「モヒート。アナタは危険だから下がってなさい。」

名前の知らない女がちびっ子に言う。

ちびっ子はモヒートって言うのか。

「いやだ!おいらだって戦うんだい!そんなこと言うならウイスキーサワー!チミこそ使える能力じゃないんだから下がっていなよ!」

子供らしく喚き散らしてモヒートが言う。

ウイスキーサワーの力は大した能力ではないのか。もしかして…

「お前の力がこれ?」

これと言いながらワイは風船を指さしてみた。

「そ!そんなわけないでしょ!」

どぎまぎしながら否定されてもなぁー。

それにしてもそうかそうか。

この2人ならワイでも何とかなりそうだな。

にやにやが止まらん。

「なーんか勇者がいつになく戦いに参加してんだけど?」

チラコンチネがわざとワイに聞こえるように言っているけど、気にしたら負けだ。

「さぁ。始めようか。」

勝ちの決まった闘いを!

「このぉ!」

ちびっ子男の子がワイに石を投げてくる。

危ないでしょうが!

ワイはげんこつでモヒートを黙らせる。

ウイスキーサワーの方を振り向く。ワイは女の子を殴ったことないんだよなぁ。

しまった!とゆーかワイ、この2人を倒せないじゃん。殺すとか無理だしなぁ。

でも倒さないとスカーレット達みたいなこともあるしな…

「ごめんな…」

小刀を握ってモヒートにとどめを刺そうとする…

無理だ!ワイには無理だ。

「くそっ!」

小刀を構えた腕を下した。

「俺達に二度と逆らわないと誓え!」

ペタンと地べたに座り込んでしまったモヒートは、言葉も出ずに頷いているようだ。

「なに?逃がすの?」

チラコンチネがワイに問いかける。

「まぁ害はないし、もう逆らわないだろうし。」

横に来たチラコンチネに頷いて、モヒートに背を向けてウイスキーサワーの方を見る。

こちらも降参している。

「お前も、もう俺達に逆らうようなことはするなよ?」

忠告すると、ウイスキーサワーも黙って頷いた。

これで良しと。

敵はあと3人。

レッドアイとマルガリータとジンフィズか。

「ダ・ア・リィーン!」

やや遠くから聞き覚えのある嫌な声がした。

「やっぱり!」

思わず声を出してしまった。

声の主はマティーニだった。

ワイをあんな目に合わせた著本人。

性懲りもなくワイの目の前に現れやがった。

「久しぶりね♡ダーリン♡」

腕に絡みついてきやがった。

イラッとした。ワイにとってこの女は激しい嫌悪感しかない。

「あんたよく勇者の前に姿出せるね。」

呆れた言い方をしたのはチラコンチネ。ワイも同感。

こいつどういう神経してんだ?

しかしマティーニはチラコンチネを無視してワイに話しかける。

「ダーリン寂しかった?ねぇねぇねぇ。」

キスしてこようとしてくるのを抑えてワイが否定する。

「寂しいわけねーだろ!」

「ひどーいダーリン。…ところで、君たちは何をしてるの?」

ギロリとマティーニがモヒートとウイスキーサワーを睨んだ。

仲間なんじゃないの?

「マ…マティーニ…これはその…」

怯えながらウイスキーサワーが言う。明らかにマティーニを恐れている。

こいつが異常性癖の持ち主だからって理由だけじゃなくて、純粋にマティーニを怖がっている感じだな。

「<禁欲>、<風害>。君たちウチのダーリンに手を出したわね?」

マティーニがわなわなと震えている。

モヒートとウイスキーサワーは恐怖で震えている。

マティーニが2人の方へ向かって歩き出す。

瞬間、まずいと思った。

「逃げろ!」

直感でモヒートとウイスキーサワーに言うが遅かった。

マティーニがくまのぬいぐるみを出して、2人を攻撃した。

ぬいぐるみの腕はノコギリになっていて、一瞬で2人はやられた。

「ウチはねー。出した人形たちを好きなように変身させることができるの。凄いでしょ?ダーリン♡」

にこりと笑って振り向いてきやがる。

全然すごくないし!

頭に血がのぼってきた。

「仲間だったんだろ?」

「そうだよ?でもウチのダーリンを傷付ける奴はいらない。」

「もう逆らわないと誓ったんだぞ?」

「そうだったの?でもダーリンを攻撃した事実は変わらないからいらない。」

「無抵抗だったんだぞ?」

「ウチが強すぎるからね。」

「お前ぇぇぇー!」

気が付いたらマティーニを殴っていた。

「ひどい…ウチを殴った…ウチはダーリンのためにやったのに。」

よろよろと立ち上がりながらふざけたことを言っていやがる。

「あぁぁぁぁぁー!」

マティーニが急に叫び出した。

「もうやめてよ!ウチに酷いことしないでよ!ウチね。酷いことされるといつも訳が分からなくなるの。そうなるとね?いつもウチの前から大切な人が居なくなってるの。」

最後にもう一度叫んだ時には、マティーニの目の焦点が合っていないように見えた。

こいつ完全にヤバいやつなんじゃ?

「マティーニ!落ち着いて。」

マルガリータがやって来て声をかけてるけど、ありゃ多分聞こえてないよ。

「あぁぁぁぁー!いぃぃぃぃー!」

叫びながら大量の人形を出しやがったぞこいつ。

「もういらない!ダーリンなんて必要ない!ウチ以外みんな死んじゃえ!」

くまのぬいぐるみやドール人形や日本人形がワイらに襲い掛かって来る。

驚きなのは、マルガリータやレッドアイにも人形が向かっていることだ。

「くそ。ここまでか。あんたらも気を付けなさいな。それと、敵なのにウイスキーサワーとモヒートを見逃してくれてありがとね。」

そう言うとマルガリータはくまのぬいぐるみに食われた。

あのぬいぐるみ人を食うのかよ!

レッドアイを見ればレッドアイもくまのぬいぐるみに食われてる。

「タロー!無事か?」

ダリアが向こうから呼びかけてくる。

どうやらジンフィズを倒したらしい。

残るはマティーニだけってことだけど、これどうやって倒せばいいんだ?

「放射:開始。」

なるほど!人形なら燃やせるってことか!

「ティム!」

ティムに呼びかけると、返事の代わりに炎のブレスが飛んできた。

ドール人形が腕をプロペラみたいに回して炎を防いでるけど、そんな簡単にドラゴンのブレスを防げるものか!

「イヒヒ。そう…とうとうウチ1人になっちゃったんだ?もう人形たちじゃ君たちを倒せないのかな?」

「炎はある意味最強の攻撃だからな。何でも変身させることができるって言ってもしょせんは人形。物理攻撃が限界だろ?」

「そうね。人形の材質は変えられても、遠距離攻撃には対応できないわ。爆発させるにしても中に爆薬仕込まなきゃいけないし、それ作るのはかなり時間がかかるの。<人形>の力って言っても万能じゃないの。でもね。長い時間かければ万能に近い力にはなるの。」

「悪かったな。長い年月かけて仕込んだ人形を全て破壊しちまって。お前には悪いが、お前を助ける気はない。抵抗しなければ楽に殺してやるから降参するんだな。」

「いいのよ。長い年月をかけて仕込んだ人形はこれで全部じゃないから。」

まだあんのかよ。でもティムや1がいる限りこっちの優勢は変わらんぞ。

「イヒヒ。イヒヒ。」

何だこいつ!自分でツギハギのつなぎ目を傷つけやがった。

腕の縫い目が裂けてくぞ。

「勇者様。嫌な予感がします。下がりましょう。」

タイニーに言われてとりあえずダリアたちより後ろに下がった。

「パラナ。念のため防壁を展開してくれるか?1も頼む。」

「了解。」

「分かりましたわ。」

マティーニの腕の縫い目から出てきたのは血ではなかった。

――魔王城。

ブッドレアが振り下ろした大斧は、ブラッディメアリーが受け止めた。

「ゼウス様!お下がりください。」

<鉄>の力で作り出した盾と鎧をブッドレアはいとも容易く破壊した。

「ふん。ワシはめんどくさいことが嫌いじゃ。ワシに悪影響がなければ放っておいたものを。攻められたり悪影響があると分かればワシ自ら倒しに行くことに気がつかなかったのか?<神の軍勢>はもはやお終いじゃ!」

豪快に大斧を振り回してブラッディメアリーを攻撃する。

情けも容赦もない。

『あぁ――これが魔王の力…大戦争時代最強を誇った者の力…カルーアミルク達ですら倒せなかった最強の魔王――』

ブラッディメアリーはブッドレアによって瞬殺された。

「ブラッディメアリー!」

ホワイトレディが<空間転移>の力でブッドレアの真後ろに出る。

しかし――

「遅いな。」

ブッドレアの反応速度は常軌を逸していた。

「なっ…」

その速さを知ったゼウスが絶句する。

ホワイトレディは目の前でブラッディメアリー同様に瞬殺された。

「さぁ。幕引きといこうか。」

大斧を肩に担いでブッドレアがゼウスに迫る。

「化け物が!」

行く手を阻むようにモスコミュールが両手を前に出す。

「ゼウス様!どうかお逃げください。ジンフィズ達と体勢を立て直してください。」

同様にシャンディガフも両手を前に出す。

ブッドレアが2人を瞬殺する一瞬のスキを突いて、大量の雲を発生させて目隠しをしてゼウスは魔王城を後にした。

『魔王ブッドレア…ここまでとは驚きです…前回の戦争では本気ではなかったということですか…呪いをかけるどうのこうの以前の問題ですね…あれは倒せない…魔王の娘を人質に使うしか方法はありませんね…』

ブッドレアはゼウスが<神の村>へ向かうことに気づいた。

「ふん。させぬわ!」

開け放された窓からブッドレアがジャンプすると、ジェット機よろしくのスピードで<神の村>へ向かった。

途中でゼウスを追い抜いたことすら、ブッドレアは気がつかなかった。

マティーニの腕の傷から出てきたのは、大量の刃物だった。

「もしかしてこいつ。自分を改造したのか?」

「イヒヒ。自分を改造じゃなくて、ウチ自身も人形なんだよぉー!」

体中のツギハギが剥がれると、中から詰まっていたであろう刃物が次々にワイらに飛んでくる。

刃物は防壁で防がれる。

「無駄無駄ぁー!ウチの中に入ってた物は特別製だからぁー!」

マティーニがそう言うと、防壁で防げたと思った刃物がワイらに襲い掛かってきた。

「防壁はどうなってんのさ?」

チラコンチネが顔を腕で覆いながらパラナに聞いている。

「不可解。防壁消滅。」

1が言うがよく分からん。

「あの刃物のせいで防壁が壊れたってこと?」

「そういうわけではありません。そうではないのですが、刃物が当たった瞬間に防壁が消滅したんです。」

パラナが説明してくれる。

破壊されたわけじゃなくて消滅されたってこと?

「イヒヒ!ウチの体内から出てきた物に触れるのは危険だよ!」

腕を飛ばしてくる。まるでロケットパンチだ。

けど速さはそこまでないな。

ヒョイとダリアが避ける。

「本体を叩けば問題ないのだ!」

「イヒヒ。正解だけどウチもそんな簡単にはやられないよ。」

ダリアがパンチをした。

!?

「何をしているのだ?タロー?」

「イヒヒ。ダーリンありがと♡ウチを守ってくれたんだ?でも、ウチを見限ったダーリンなんていらないんだ。」

体が勝手に動いた。気が付いたらダリアのパンチを受けていた。んで今マティーニがワイの背中をナイフで刺した。

「勇者が操られてる?」

チラコンチネが驚く。

「ですが、<人形>の力であって操作の力ではないはずです。」

タイニーが冷静に分析してくれるが、多分チラコンチネが正しい。

「俺は気にするな!こいつを倒すことだけ考えてくれ。」

「イヒヒ。無理。」

ワイがみんなに言った時にはもう遅かった。

さっきマティーニが飛ばした腕が、マルガリータが持っていた植木鉢を持っていた。

植木鉢からは、太い謎の植物が出ていてワイらのパーティーを全員捉えていた。

「この力はマルガリータとかいう女の力だろ?」

唯一植物に捕まっていないのはワイだが、ワイはマティーニに操られている。でも思考はしっかりしているんだよな。

「さっきマルガリータが人形に食べられていました。」

タイニーが植物に捕まりながらもごもご言う。

そうか!人形で食べたやつの力を手に入れられるのか!

「イヒヒ。その通り、レッドアイの<空間創造>の力で君たちの防壁を消滅させたの。マルガリータの<植物>の力は弱いけど、ウチなら上手に使いこなせる。そしてお姉ちゃんの<傷>の力!ウチは今最強の存在になったの!」

イヒヒと耳障りな声で笑っているマティーニは気が付かないのだろう。

上空から巨体が降ってきているのを。

「誰が最強だと?」

野太い声が言った。

マティーニはきっと幸せだったに違いない。

高笑いしている最中に死ねたんだから。

上空から降ってきたブッドレアは、アリンコを踏み潰すかのごとく一瞬でマティーニを倒した。

「勇者よ!久しいの!」

ブンブンとワイの両手を上下に無理やり振りながら握手してくるけど、とりあえずナイフで刺された背中が痛い。

「おぉ!ダリアよ!無事だったか我が愛娘よ!」

ワイの手を離して、ダリアに強烈な抱擁攻撃を仕掛けている。

「パパ!苦しいのだ。」

この暑苦しいおっさんは何でここに居るの?

「パパ。何しに来たのだ?」

ワイの手当てをしながら、正に核心を突く質問をダリアがしてくれた。

ナイフには毒などはなかったようだ。

「娘の心配をするのは父親の務めであろう?ゼウスがこっちに来たと思ったのだが?」

「ゼウスですか?見てませんね。」

タイニーがブッドレアの肩を揉みながら応える。

ワイの記憶が正しければこのおっさんはめんどくさがりだったはず。

「ワシの城に配下4人くらいをつれてやって来たのだが、配下を瞬殺したらこっちに逃げて行きおったのよ。」

え?<神の軍勢>4人を瞬殺?

どんだけ強いんだよこのおっさん。

「ダリアを人質にワシを自殺させる算段だと思ったのだがのう。」

なるほど。このおっさん、親バカだったなそう言えば。

ダリアを人質に取ってしまえば後は簡単か。

「ところで勇者よ。ダリアとはいつ結婚するのじゃ?」

え?いきなりその質問?

いつと聞かれてもなぁー。

「ハネムーンはそろそろいいじゃろ?ワシは早く娘の花嫁姿が見たいのじゃ。」

そう言えば、魔王もダリアも結婚しないなら世界を滅ぼすとか言ってたっけ?

今ならよく分かる。魔王なら世界を滅ぼせる。

「あ。なら今ここで結婚式挙げちゃうのは?」

チラコンチネが突拍子もないことを言ってくる。

「え?」

思わず声が漏れた。

ギロリと魔王に睨まれた。

「なんじゃ?お主嫌なのか?ワシの娘の裸を見て辱めておきながら結婚はしないと!そう言うのか?」

そんなはっきりとワイがこの世界に来た時のことを言わないでよ。

「え?何それ?」

「勇者様…」

「理解不能。」

ほら見ろ。チラコンチネとパラナと1が引いてるじゃん。

「ダリアは気にしてないのだ!タローが結婚すると約束してくれたから!」

何言ってるの?言っておくけど、約束した覚えないからね?

「そうだったのですね勇者様。」

満面の笑みなのはタイニーだ。

ワイとダリアが結ばれることを心の底から喜んでいるようだ。

「祝福スル。」

どっちでもよさそうなのはヘリックス。ヘリックスにとっては自分の強さこそが全てって感じだもんな。

「おめでとうございます。」

ちょっと悲しそうな声を出したのはワチワヌイ。

「みんな!これからもタローをよろしくなのだ!」

なーんでダリアがそれを言うかな?

「よろしくお願いします。」

ペコリとタイニーが頭を下げる。

「そうと決まれば祝いじゃ!」

ブッドレアが立ち上がって手をパンと叩くと、ダリアの服装がウエディングドレスに変わった。

このおっさんは何でもアリだな。

「ほぅ!ダリア似合うではないか!」

ブッドレアが感嘆の声を出す。

確かに馬子にも衣裳という言葉があるけど、今までとは違ってダリアはキレイだ。

思わず見とれてしまった。

「ど…どうだ?タロー?」

ちょっと照れながらワイに問いかけてくる。

恥ずかしながらも、似合っていると言おうとした。

そう思ってダリアの方を見たワイはとんでもないものを見てしまった。

「ダリア!」

全てがゆっくり進んでいるように感じた。

ダリアに向かって大きな剣を掲げて向かっている1つの影があったのだ。

「あいつは!ゼウスじゃ!」

ワイの声に反応したブッドレアが言う。あいつがゼウスなのか。

ダリアを剣で刺そうとしていやがる。

スローモーションの世界だからこそ余計に分かる。

ブッドレアの守りよりも剣の方が早い。

その中で何故かワイだけがみんなより少し早く動ける気がする。

根拠はない。でも、ワイだけがダリアを助けられる。

そんな予感。

周りを見渡せる程の余裕は、全てがスローモーションの世界だからだろう。

チラコンチネが驚いた表情をしている。

パラナとタイニーは恐れからか両手で顔を覆っている。

ヘリックスは流石だ。ゼウスに一直線。

1は相変わらず無表情だし、ワチワヌイは激怒したブッドレアを見ている。

ブッドレアは慌てた表情をしつつも、ダリアを守ろうとしている。

やっぱりワイしかいないな。

後から聞かれても何となくとしか応えられない。

何か打算とかがあって行動したわけではない。

とにかくダリアを守りたい。それだけだった。

――ズブ。

「タロー!」

ダリアが叫ぶ。

この世界に来てからたくさん怪我したし、痛い思いは嫌という程味わった。

現世では経験できなかった、ある意味貴重な体験。

その中でもひと際痛い痛みが今回だ。

今までにない出血量だ。

当たり所が悪かったというか、心臓じゃなかったけど心臓に近い胸を刺されたからかな?

痛みは一瞬で、その後体がブルブルっと痙攣した。

瞬間、冷や汗と共に悪寒がワイを襲った。

その一瞬の痛みで分かった。

ワイが今まで経験した痛みの中で一番痛かったと。

「おやおや。娘を狙ったつもりでしたが勇者に刺さりましたか。」

遠くでゼウスの声が聞こえる。

「タロー!タロー!大丈夫か?タロー!」

うるさいな。大丈夫だよ。ワイがこんなんで死ぬと思うか?

ついさっきまで、ダリアと結婚するつもりでいたんだぞ?死ぬわけないだろ?

温かい風がワイを包む。

パラナの魔法かな?

「この外道が!」

ぼーっとする頭でブッドレアがゼウスをぶっとばすのを理解する。

多分、これでこの世界から<神の軍勢>がいなくなったのだと何故か確信した。

朦朧とする意識の中で、ダリアがワイを抱きかかえて涙を零しているのが分かった。

――あぁ。また泣かせちゃった。もう泣かせたくないと何度も思っていたのに…

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