「うちってさぁ男運悪いんだよね」
ある日唐突にみゆうが言ってきた。
「なんてゆーかさ。世間的にヤンキーってやつ? そういうのと付き合うことが多くて。んであーゆーやつらって見た目通りな奴が多いんだよね。うちが見た目で判断されるタイプだからあんまり見た目で判断したくないんだけど、あー。やっぱりか。って感じでさ」
ちらりと俺のことを見ながら、
「ま。うちもあんたのこと見た目で判断してたんだけどね」
と呟いたのは、聞こえないフリをしてやることにした。
それよりもそうか。みゆうは悪い男とばかり付き合っていたのか。
「例えばどんな感じに悪かったの?」
「ん-。そうだなー」
思い出すような仕草をして、みゆうが少し顔をしかめる。
「あ、嫌なことを思い出させちゃった?」
「ん? 全然なんてことないよ? 過去の男や女のことが気になるのは当たり前だろ?」
にしし。と笑ってくる。
か。可愛い。
だが別に俺はみゆうの過去の男のことなんて気にならないぞ?
「まぁよくあったのは浮気かなー」
なんてことはないような感じで言うが、当時はかなり傷ついたのだろうな。きっと嫌な思い出のはずだ。
浮気という裏切られ行為をされたのだから。
「なんてゆーの? 他の女と遊ぶのは遊びでうちと遊ぶのは本気って。んなことゆってもうちにとっては浮気に感じたし、見た目通りチャラい連中なんだなって思ったね」
ここでみゆうは言葉を切った。
「何度もケンカしたけど結局分かり合えないことが多かったかな。きっとね、男と女って好きの種類が違うんだと思う。男にとって彼氏や彼女ってただの称号でしかないんよ。だから女が彼氏や彼女に拘ると重いだなんだと言ってくるんだろうね」
俺は誰とも付き合ったことがないからその感覚が分からないが、彼氏や彼女って特別な存在な気がする。
「男はね。付き合うまでの過程が大事で付き合ってからは重要じゃないんよ」
俺が難しい顔をしていると、みゆうがそう付け足した。
最近のみゆうは、俺が恋愛経験ゼロだとしても、分かりやすく教えてくれる。絶対に馬鹿にしたりしてこない。
こういうところは、みずほとは違った形で居心地がいい。
ふと思えば、最近の俺は居心地がいい環境がたくさんある気がする。
異世界転生したのも悪くなかったかもしれないな。
ただちょっと気になることがあった。
「付き合うまでの過程が大事ってどういう意味?」
「簡単に言えば、落としたら飽きちゃうんだよ。付き合った瞬間から自分の女になってさ。少しずつ大事にしなくなるんよ。でも女は違って常に恋していたいしドキドキしていたんよ。記念日にたくさんのお金を使って欲しいわけじゃないけど、ほんの少しいつもと違うことをして欲しいわけよ」
「でもさ、長い時間付き合ったら少しずつ愛情って薄れていくもんじゃないの?」
「あんたが言ってるのは、慣れてきたって話しでしょ? 確かにそれは男女共にあると思う。ずっと付き合いたてほやほやの状態でいるわけはないし、うちもそこまでは求めてないよ? でも少しはそーゆーの求めてもいいと思わない?」
そういうものだろうか?
気持ちなんて徐々に薄れていくものなのに、それを永遠に求められるのは辛い気がするけどなぁ。申し訳ないけど、みゆうの歴代の彼氏の気持ちも分からなくはない。
まぁ、だからと言って他の女に走るかどうかは別問題だけど。
「やっぱり男と女の違いなのかもね」
俺が理解していないのを見抜いてみゆうが言う。
「正直、みゆうさんが言ってることが正しいし正論なのは理解できる。でもそれこそ理屈じゃない気がする。気持ちが薄れるのも慣れてきてしまうのも仕方のないことかなーって思う」
「それは分かってるよ。だから毎日毎日新鮮な気持ちでいろとは言ってないわけよ。たださ、せめて特別な日くらいは大切にしてほしいじゃん?」
そういうもんなのか。
みゆうが寂しい顔をしているのを見る限り、今まで特別な日を大切にしてもらったことはないんだな……
「あんたはさ。うちの誕生日とかちゃんと祝ってくれる?」
「そりゃあもちろん!」
たとえ付き合っていようといなかろうと、当然の答えだ。
この言葉を聞いたみゆうは、寂しそうな表情から一転、明るい笑顔を見せてくれた。
●
「ってなことがあったんだ」
だいたいの話しをかいつまんで話すと、ミサキもみずほもなぜか呆れた顔をしていた。
「何それ? ノロケ?」
え? 惚気? 何で?
困惑してみずほの方を見るが、みずほも首を左右に振るばかり。
女子とは難しい生き物だな。
みゆうの話しじゃないけど、やっぱり男と女は違う生き物なんだと痛感する。
「マスターって天然ですよね」
なぜかみずほが笑いながら言ってくる。
とゆーか、ミサキの前でマスターとか呼ぶなよ。普通にしろよ。
「マスター? きみ達ってそーゆープレイでもしてるの?」
ほら見ろ、変な目で見られた――
「面白いね! それって君が好きなラノベ? とかゆーやつ?」
笑ってる……それに俺が好きな物を知ってくれてる? 何で?
「みずほから聞いてたからね。私も読んでみようかなー。ラノベ」
「お。おすすめは悲報シリーズだよ」
「ちょ、早口すぎ」
にしし。とミサキが笑う。
とても可愛い。
あー。やっぱり俺の彼女はミサキなんだなー。
「今度おすすめ持ってきてよ」
まるでラノベの世界かのようだ。
ひょんなことからとは、こういう時に使う言葉なんだな。
ひょんなことから、俺はミサキとまた次話せる機会を得てしまったのだ。
●
「んで? 図書館は楽しかったわけだ?」
みゆうがふてくされたような表情を見せる。
「うちも誘って欲しかったなー。とゆーか、うちらって2人きりで出かけたりしたことなくない? ヤバッ付き合ってんのにデートしてないじゃん」
いやまぁ。付き合ってないですし?
「それにしてもあんた変わったねー」
まじまじと見てくる。
「そんなに変わったかな?」
「まずうちとため口で話すようになった」
人差し指を立てて言ってくる。
確かにそうだ。
「オドオドしなくなった」
ふむ。確かに素直にすらすら話せるな。
まぁ俺がすらすら話せるのはみゆうとみずほだけだけど。
他の人と話す場合には、どうしても少し考えてから話すことが多い。
「んで人付き合いがよくなった」
ん? どういうこと?
「気づいてないかもしれないけど、あんた色んな人と遊んだりする機会が増えてるんだよ?」
……本当だ!
なんてことだ。全然気づかなかった。
勇者だから当たり前だとしか思わなかった。
「あとはうちのことをみゆうって呼び捨てできるようになったら完璧じゃね?」
にしし。と笑ってくる。
ふむ。みゆうを呼び捨てか。ハードルが高いな。
「そしたらうちもあんたのこと勇者って呼んでやるよ」
「いや別にそこに拘りはないけど?」
「うっそ!」
お互いに大声で笑ってしまった。
最近ではクラス(ギルド)の中で、仲間たちに注目されても何も気にならなくなった。
ミサキが寂しそうな表情をしているのを、みずほだけが気がついた。

