みゆうと仲直りしたが今度はみずほの機嫌が直らない。
加えてミサキがグイグイ俺のところに来るので、みゆうもそれを見て不機嫌になっている。
「いつになったらデートプラン完成するんだ?」
また催促メッセージだ。
まさかミサキが言ってきたユメヒロに行くわけにも行くまい。
「なぁみずほ」
隣の席のみずほに助けを求めようと見ると、みずほはまさやの席で楽しそうに談笑していた。
どうすりゃいいんだよ……
机に突っ伏して途方に暮れていると、オドオドしたような声で名前を呼ばれた。
久しく自分の名前を聞かなかった。
最近は勇者という呼ばれ方のほうが多かったしな。
見上げると、学級委員のカリナが居た。
学級委員ということは、まさやの委員会でのパートナーだ。
「えっと?」
正直、一度も話したことがない気がする。
俺に何か用事があるとも思えない。
「最近みずほちゃんと一緒に居ないけど、喧嘩でもしちゃったのかなー? って」
あぁ。そういうことか。
「べ。別に喧嘩はしてないけど……」
チラリとみずほの方を見るが、みずほはこちらを見向きもしない。
そんなにいつも一緒にいるか? 周りのみんなが俺とみずほを一緒に組ませたりするから一緒に居るだけなんだが?
というよりも何? 何の用事なの?
「もし私でよかったら相談乗るよ?」
何の相談ですか?
よく知りもしない人の助言を聞くほど勇者は暇じゃありませんけど?
俺には今差し迫った問題が……
閃いてしまった! なんという頭脳! 天才としか言いようがないね。さすがは勇者!
「1つ聞いてもよろしいですか?」
あ、敬語になっちまった。まぁいいか。よく知らない人だし、仲良くする気もないし。
「もしも、男性と2人きりででかけるならば、どこに行きたいですか?」
カリナの表情が急に曇った。
「あ。いやそうじゃなくて。俺とじゃなくて、例えばだよ? 好きな男子とか彼氏とかと」
「あぁそういう意味か」
ほっとしてるけど、なんで俺がデート誘ったみたいになってるの?
「私は激しいのとか苦手だからのんびりお茶とかしたいかな。ウインドウショッピングもいいけどそれは女の子とした方が楽しいかも」
照れ臭そうに、はにかんでる。
よくわからんけどなるほど。お茶か。ありだな!
「ありがとう! 参考になったよ」
そう言って早速俺はみゆうの元へ向かった。
なぜかカリナがほっとしたような、不安そうな表情をしていた。
●
「みゆうさん!」
さくらとミズナと談笑しているみゆうに声をかける。
最近ではこれが普通になってきていて、さくらもミズナも俺のことをさほど避けなくなってきている。
これは前進と呼んでいいだろう。
「決まった! デートプラン!」
親指を立ててグッドマークを作る。
「はぁ?」
ミズナが脅威の声を出す。
「みゆうあんなのとデートするの? さくら考えらんないんだけど!」
「いいの」
みゆうがさくらとミズナをぐいっと押しのける。
「で?」
みゆうが俺に問う。
俺は試されている。
「近くにいい雰囲気の喫茶店があるんだ。そこでみんなに紹介するのはどうだろう? 軽く話しをして盛り上がったら小さな商店街をブラついてウインドウショッピングもする。もちろん買うのは自由だけど……」
言っててちょっと自信がなくなってきた。
どう考えてもみゆうの性格には合わないプランだった。
「あんた1人で考えたのかい?」
「ヒントは貰ったけど、頑張って考えた」
みゆうからの問いかけに正直に答える。
「それがデート?」
ミズナがケタケタ笑う。
そりゃそうだ。俺だって言ってて虚しくなる。
正直デートというものがどういうものかも分からないし、みゆうに合っているとも思えない。
「やめときなよみゆう」
さくらが笑いをこらえながらみゆうに言うが、みゆうは――
「いいよ」
「「「え?」」」
俺とミズナとさくらの3人が同時に口にする。
「勇者が必死に考えてくれたプランだろ? いいに決まってんだろ? 楽しみじゃんか」
さくらとミズナは驚きのあまり、みゆうが俺のことを勇者と呼んだ違和感すら気にならなかったようだ。
そのままみゆうは俺と肩を組む。
「ありがとな」
今までで一番顔が近い。
みゆうは本当に嬉しそうな笑顔を俺に見せる。
「ところでさ」
急にみゆうの声が真剣な声になる。
「あんたあいつのことがすきなんだろ?」
ぐいっと無理やり視線を変えさせられる。
あいつって?
俺の視線の先にはみずほがいるけど。まさかみずほのこと?
ん? いやまてまて。その先にミサキがいる。
ミサキが俺の方を見て目が合うと、ミサキが俺に微笑んでくる。
「やっぱりな……」
それだけ言うとみゆうは俺から離れて行った。
首筋が濡れているがみゆうの汗だろうか?
濡れた首筋を手で拭っていると、左頬に強烈な痛みが走った。
「ぱしぃぃぃーん!」
普段なら絶対に俺に触れることはない、一緒の空間にいることすら拒むはずのミズナが俺にビンタを食らわせたのだ。
「最低! 今度みゆうを泣かせたら絶対に許さないから」
ミズナはそう言うなりみゆうを追いかけて行った。
「あーあー。怒らせちゃった。さくら知ーらない」
「待って!」
命乞いをするかのように、俺はさくらにすがった。
「急にモテ期が到来して有頂天になるのはいいけどさ、さくら達の友達を傷つける真似だけはしないでよね」
「いや、傷つけてるわけでは」
「言い訳しなくていいよ。みゆうが泣いている。それだけが真実。あんたの気持ちが定まっていないのが原因でしょ?」
人差し指を目の真ん前まで持ってきてさくらが怒る。
今にも目つぶしをされそうだ。
「本当はさ、こんなこと人に言われないで自分で気づくもんだけど、恋愛経験ゼロのあんたのために教えといてあげる。優しい嘘はいらないから」
「優しい嘘?」
「さくらがここまで言ってあげてるのにまだ分かんないの? みゆうちゃんのことを本気で好きじゃないならさっさと別れてあげて! 別れてあげることも優しさなんだよ?」
ふいっとさくらもミズナとみゆうを追いかけて行ってしまった。
虚しい風が窓から教室へと入り込んでは抜けて行った。
