「だからその日はみずほに勉強を教えて貰うんだって!」
みゆうと社交ダンスの練習をしながら俺がギャーギャー言う。
「はぁ? 体育祭前日だぞ? あんたのダンスまだまだなの分かんないの?」
「みゆうだって俺に全然合わせてないじゃん」
「だから練習してんだろ!」
ゴチン。と軽く小突かれた。
「うちも行くから」
ボソリと言われたがはっきりと聞き取れた。
「はいはい。勝手にしてください」
いつものことだから、もはや通常運転。
「……あのさぁ」
ダンスの練習をしながらみゆうが声をかける。
この声のトーンは何か大事なことを言う前触れ。
俺は一旦足を止める。
「何?」
両手は繋いだまま。みゆうをやや見下ろす形で訊く。
「体育祭が終わってテストが終わるとすぐに夏休みがあるだろ?」
あー。もうそんな時期か。
「夏休み入ってすぐに祭りがあるんだ」
ほぅ? そんな面白イベントが? しかし変だな。俺が知ってる祭りはもうちょい後のはずだが。
みゆうが知ってる祭りと俺が知ってる祭りは違う祭りなのか?
だとすれば、今年は2回も祭りに行けるではないか!
「その祭り、俺は知らないから案内してくれる?」
どこでやるかも知らないしね。
「当たり前だろ!」
思いっきりにっこりされた。
ホントにみゆうって可愛いよな。
●
時が流れるのは早いもので、今日は体育祭の前日。
本来であればみずほと2人での勉強会だったが、みゆうもついて来た。
ミサキと違うのは別に嫌な気持ちではないという点。
俺の気持ちは今――
「はー。あんたホント頭いいねー。うちさっぱりだったけど教え方上手いからかな? なんか理解できたわ」
「みゆうちゃん元々は頭いいんだからこれくらいできるんだよ。問題は勇者様だね」
「ホント。勇者ってうちより頭悪かったんだ?」
みずほとみゆうが俺をバカにしてくる。
「しょうがないだろ? 勇者とは戦いをする生き物だ。勉強は不要なのだよ」
「あら? 魔法の勉強はしてこなかったのですか?」
みずほがクスクス笑いながら化学のテキストを指さす。
「おのれ眷属のくせに生意気な」
「うちでもできたんだから頑張んなよ」
みゆうが肩を組んでくる。
「まさかみゆうがそこそこ頭いいとは思わなかった」
「何で? 言っとくけど、あきらはクラスで5位だからね? ミズナは6位。ゆーたもさくらも10位くらいだしみんなけっこー勉強できるよ?」
俺はまたしても自分の枠内で物事を捉えていたようだ。
人を見かけで判断してはいけない。ということだろう。
ずっと見下していたはずの人間は、俺よりもずっと上の人物だった。
「みんなすごいな……」
勇者の呟きを聞いて、みずほとみゆうが微笑んだ。
●
体育祭当日――
勇者とはいえ、戦闘と一般人が行う運動は全くの違う動きだった。
勇者だが俺は運動音痴だということが判明した。
競争ではビリ。
大縄では即引っかかり足を引っ張る。
(なぜかみんながフォローしてくれた)
そんな俺にとっての一大イベント、社交ダンスが始まった。
周りのみんなもそこそこ踊れているが、これに関しては俺もある程度自信がある。
見栄でも嘘でもなく本当だ。
「勇者様すごかったね」
まずまずのダンスを披露したみずほが、肩で息をしながら言う。
それもそのはず。
俺のペアは運動神経抜群のみゆうだぞ?
そんでもって俺は、そのみゆうにみっちりしごかれたんだ。
息ピッタリだし、あの地獄の特訓の日々を乗り越えた俺がきちんと踊れないわけがない。
「全く失敗しなかったの偉いわー」
なぜかみゆうが俺の頭を撫でる。
「まさかあんなに踊れるとは思わなかったぜ」
後ろからゆーたが声をかけてくる。
「ゆーた君だって豪快に踊ってたじゃんか」
「なにー! 勇者のくせに生意気だな」
がはは。と笑いながらゆーたが軽く首を絞めてくる。
これが友人。これが学園生活。
あぁ――そうか――
俺がチラリとみゆうを見ると、みゆうがにこりと微笑んだ。
「後はテストだけだね」
●
期末テストは地獄だった。
体育祭が終わってから、ファミレスという場所に人生で初めて行き、ゆーた達と無理やり打ち上げをやらされた後は、地獄の勉強会が毎日行われた。
悪い点数を取ったら、魔王と魔女に呪い殺されることを伝えると、ゆーたとあきらが大爆笑していた。
「俺さぁー。お前みたいなやつとつるむとは思ってもみなかったわ」
目に涙を浮かべながらあきらが言う。
だがそれは俺も同感だ。
「俺には分からない感覚を持ってるんだな」
そう言いながら、数学の公式を教えてくれる。
「そこ違う」
ミズナもさくらも以前ほど俺に嫌悪感を抱かなくなっていた。
そんなミズナが俺に指摘する。
「さっきも言った。もう一度やり直して」
だがかなり厳しい。
しかしこの地獄の勉強会を制した俺は、見事に期末テストを乗り越えたのだった。
「結果どうだった?」
みずほが問いかけてくる。
ふ。聞くでない。
「あんまり良くなかったんだ?」
俺の顔色を読むなよ。
「けど、今までより全然点数よかったぜ」
この言葉を聞くと、みずほがふふふ。と笑った。
「最近すごく時間が経つのが速いんだ」
唐突な勇者の言葉にみずほは目を丸くする。
「学園生活ってこういうもんなんだな。って自覚して、色んな人と仲良くなって、それからはほんとに学校が楽しい」
「充実してるんだね」
みずほが心から笑顔を見せる。
「勇者様あのね……」
「ん?」
「この前はごめんなさい」
この前。が勇者にはいつのことなのかわっぱり分からなかった。
「ずっと不機嫌でいて」
「あぁ……別にそんなのいいよ」
「勇者様が優柔不断で、自分の気持ちに正直になっていなかったってのもあるんだけど」
「嫉妬させたかったんだろ?」
勇者がみずほの言葉を遮る。
「え?」
みずほが勇者の顔を見ると、勇者は微笑んだ。
「別に大丈夫だよ。気にしてない。それよりもみずほ」
「もうすぐ夏休みだろ?」
一声区切ってから勇者が言う。
「ありがとう。そうだね。夏休みだね」
「みずほはどこに行きたい?」
この言葉にみずほは目を丸くして言葉を失った。
これは紛れもない勇者からのお誘い。
「ま。どこでもいっか」
勇者は両手を頭の後ろに組み、にしし。と笑った。
「はい!」
みずほも笑い返した。
そして、心の中だけで返事をした。
――勇者様とならどこでも。
