助態たちが地上に降りると、螺旋階段は消えてしまった。
「死の国に戻れないとはこういうことなんじゃな」
ふむ。と納得したようにちあが言う。
魔界は、一言で言えば嫌な感じのする世界だった。
薄暗く霧が立ち込めていた。
周囲には何もない荒涼とした場所だった。
「とりあえず、人間に敵意を持つモンスターの世界だ。隠密行動で行こう」
ティーパンが全員に注意を促す。
助態、純純、くびち、もふとも、ルブマ、ぱいお、ちあ、アンアン、ヌルヌルが気を引き締める。
「はぁーい気をつけまぁーす」
全員の背後から妙に元気のある聞き覚えの無い声がする。
驚いて全員が後ろを振り返ると、何とも可愛らしい女の子が3人立っていた。
明らかに鬼だと分かるその容姿にトラ柄のパンツと胸当てを付けていた。
「ちんちん!」
一番左に立っていた橙色の小鬼の女の子が左手を上げて言う。
「ぱいぱい!」
一番右の黄色い小鬼が右手を上げて言う。
「まんまん!」
真ん中の緑の小鬼が両手を上げて言う。
「「「3人合わせて鬼侍女三姉妹!」」」
3人の小鬼が声を揃えて言う。
……
「鬼痴女の間違いじゃないのか?」
やや間があった後に助態が突っ込む。
「痴女じゃないもん侍女だもーん!」
ちんちんと名乗った橙色の小鬼が両頬を膨らませて言う。
「そうだそうだばーかばーか!そちーーん」
まんまんと名乗った緑色の小鬼が片手の親指と人差し指をくっつけて、小さいの意味を作る。
「そ!小さくねーし!見るか!」
「助態さんのキングコブラのサイズを知ってるとは何者っすか」
助態がズボンを下げようとしている隣でぱいおが驚く。
「やめろこの犯罪者が。あんたも乗るんじゃないよ」
もふともが2人をゴチンと殴る。
「見る見るー!」
ぱいぱいと名乗った黄色の小鬼は助態の下半身に興味津々のようだ。
そのまま助態のズボンを下げようとするのを、ひょいとティーパンに腰元を掴まれて持ち上げられる。
「君たちは何者なんだい?」
「だーかーらー。鬼侍女だってばー」
掴まれて掲げられたままぱいぱい答える。
「鬼侍女? 聞いたことないモンスターだね」
そう言ってぱいぱいを降ろしながら、ちあの方を見る。
「ちあも聞いたことないのじゃ。そしてこやつらは助態の貞操を狙う敵なのじゃ。今すぐに摩擦してやるのじゃ」
メラメラと燃えるちあを今度はくびちが制止する。
「やめときなさいよ。ここで目立ったら大変よ?」
ちあは、むぅ。と言ってくびちの乳を下からパンチして憂さ晴らしした。
「その鬼侍女さんはどうしてここにいるんですか? 私たちを見ても怖くないというか敵視しないのですか?」
純純が助態の影に隠れながら言う。
「怖くないし、敵視もしなーい」
まんまんが無い胸を張る。
「敵視してるのは大人たちだし、この世界で敵視してもしょうがないしねー」
ちんちんが言うと、隣のぱいぱいもねー。と返した。
「そりゃそうか。この世界には本来人間なんて居ないわけだし、いない存在を敵視しても無意味なのか」
助態が納得する。
「そーだよそちんのおにーさん。だからこの世界では、名目上人間は恨むべき存在ってなってるだけ。まぁ、実際に人間を見たら敵視してくる大人は多いと思うけど私たちはそんなバカじゃないもーん」
ぱいぱいが今度は小さいの意味を作って言う。
「だから小さくねー!」
「ややこしくなるからあんたは黙ってな」
怒る助態を引っ込ませて今度はもふともが訊く。
「で、なんであたいたちに声をかけてきたの?」
両手を腰に当てて聞く。
まるで親が子供を叱っているみたいだ。
「楽しそうだったからー」
ちんちんが満面の笑みで答える。
「ってことは遊んで欲しいってことかしら?」
今度はアンアンだ。
アンアンの姿を見てぱいぱいが、淫魔族だー。と言ってはしゃいだ。
本でしか見たことがなかったらしく、初めて見たようだ。
「遊んで欲しいってわけじゃないよー。私たち別に3人で楽しめてるし」
ぱいぱいがにこにこして言う。
全員はますます分からなくなってきた。
自分達で遊んでいたのであれば、近くにいくら人間が珍しいからと言っても興味がなければ声すらかけないだろう。
声をかけたからには、何かをしてほしいのだろうが、何分相手が子供だ。何をして欲しいのかさっぱりわからなかった。
「私たちに何かをして欲しいのではないのですか?」
ルブマがちあの隣で言う。
「わー! 仲間仲間ー」
ちんちんがルブマとちあを引っ張って3人の中に引き入れた。
「見て見てー! ぺちゃぱいツルツル5人衆ー!」
じゃーんと効果音でもしそうな感じで、ちんちん、ぱいぱい、まんまん、ちあ、ルブマが横並びになる。
「な、これはアーチャーの宿命なんです!」
「ちあはこれから大きくなるからいいのじゃ。それに助態はちあの体が好みじゃからのぅ」
「えー、そちんて幼い子が好きなタイプー?私たちも危ないー?」
ぱいぱいがいやーん。と自分の胸と下を両手で隠す。
「危険っすよ。助態さんは性欲モンスターっすからね」
「いや、性欲モンスターはぱいおの方じゃないの? 毎日一人でしてるじゃん」
「な、助態さん! 覗いてたんすか? ウチもうお嫁に行けないっす。責任取ってくださいね?」
そう言って意地悪な笑みをルブマと純純に向けた。
「何やってんのこの牝牛」
いつぞやのガチムチ門番の顔に変化したくびちがぱいおにゴチンを食らわせた。
「きゃー! ウチいつ死んでもいいっす。お仕置きしてください」
興奮したぱいおはお尻をふりふりしながら、自分で自分のお尻を叩いていた。
この様子を見たティーパンが、やれやれと首を横にふった。
『いつもながら緊張感のない……』
諦めがちなティーパンの思考だが、これが勇者なんだろうと安心もしている。
周りを見回す。
助態はくびちに手を首に回されてキスされそうになっている。
その様子を純純が止めに入り、その様子を見てぱいおは自分のお尻を叩き続けている。ティーパンの場所からじゃ見えないが、その様子を見るにくびちの顔はあの門番のままなのだろう。
ルブマとちあは鬼侍女三姉妹と言い争っているし、それを止めに入るようにもふとも、アンアン、ヌルヌルが頑張っている。
自然と表情がほころぶのを感じ、自分を引き締めた。
「で、君たち3人はこんなところで何をしていたんだ? 私たちに何かしてほしいんだろ?」
有無を言わさないような物言いに全員が黙って固まった。
しばらく沈黙の後、鬼侍女三姉妹が顔を見合わせる。
「「「迷子!」」」
鬼侍女三姉妹が同時に答えた。
●
「あーつまりこういうこと?」
呆れ顔でティーパンが情報をまとめた。
「あんた達は道に迷ったから家まで私たちに案内してほしいと?」
「ほーほー」
もぐもぐと黄金団子という魔界のお菓子を食べながらぱいぱいが言う。
一口サイズの金色の団子で、中身はなく、味はほんのり甘いだけだった。
「でもそんなこと言ってもウチら鬼痴女さんの家知らないっすよ」
2つの団子を自分の胸の前に当てて、エロい恰好をしながらぱいおが言う。
「だよなー。あたいら今ここに来たばっかだし」
両足を前に投げ出しながらもふともが天を仰ぐ。
「行儀悪いぞもふとも」
ヌルヌルがやや驚いた表情をして注意する。
今までのもふともは、こんな仕草しなかったのだろう。
「今来たばっかなのは知ってるよ」
ちんちんだ。
「そうそう。死の国からの螺旋階段が現れたからね」
隣でまんまんも頷く。
そこで全員が気が付いた。
あんな巨大な螺旋階段が現れたことを、魔界の住人が気づかないわけがない。
気づいたならば、死の国から誰かがやってきたことは明白。
それは誰か?
わざわざ死の国に帰れない場所に足を運ぶ者。
死の国の住人であるはずがない。
「現世の者が魔界に来たことはバレバレってことか……」
自分の玉のサイズと団子のサイズを比較しながら助態が言う。
「ギリギリ勇者様の方が大きいね」
アンアンがニヤニヤしながら言う。
「ギ……ギリギリじゃねーし!」
「ちあはギリギリでも気にせんぞ?」
あぐらをかく助態の膝の上に座りながらちあが言う。
団子を食べながら、あんまりおいしくないのうなどと言いながら。
「今の私たちにとって問題なのは、私たち人間がこの魔界に踏み入れたことが知られてしまったこと。君たちを家まで連れて行くのは構わないが問題は」
「平気よ」
ティーパンの言葉を遮ってぱいぱいが言う。
「私たちに親はいないから」
「それに、近くに住んでる仲間とかもいないしね」
ぱいぱいに続けるようにまんまんが言う。
「まぁ、はあはあってゆーお姉ちゃん的な存在ならいるけど大丈夫でしょ」
ちんちんも隣で頷きながら言う。
根拠は全くないが、この3人からすると大丈夫なようだ。
「他にも問題はある」
大丈夫大丈夫と念押しをする3人に向かってティーパンが言う。
「君たちの家を誰も知らないということだ」
もっともなことだった。
「もしかして、私たちと一緒に行動がしたいのですか?」
純純が訊くと、三姉妹の表情が明るくなった。
「おねーちゃん大好きー!」
ぱいぱいが純純に抱き着く。
ティーパンは後頭部をポリポリと掻きながら、子供の扱いは難しい。と助態に言った。
「どうする? みんな勇者に任せると思うけど」
更に結論を助態に委ねた。
「さすがに子供を残しておけなし、とりあえず雷獄の洞窟を探しつつこの子たちの家を探すってことで」
こうして勇者パーティーに何故か鬼侍女というモンスターが加わった。

