反政団~第五章 脱出~

反政団

 希出、不破、矢口、叶で結成した反政団の当初の目的は、自分たちと同じような境遇にある奴隷たちの解放だった。

 その上で政府とどうしても対立しなければならなくなるため、自分達の戦力アップも急務となった。

「まずは自分達の能力をしっかりと把握して、能力を一定以上使っても平気なだけの体力と気力をつけよう」

「それだけじゃなくて身体能力の向上も必要だな」

 既に戦闘を経験している希出と矢口が意見を言いながら、施設内を歩く。

 不破と叶は黙って二人の後を付いて行っていた。

 既に自分達の能力と副作用については把握していた。

 希出や矢口よりも前に彼らと同じようなことをされたのだろう。

 不破の能力は<風>。副作用として首が長くなっている。

 叶の能力は<ずらす>。副作用で目が赤くなっている。

「オレが思うに、この四人の力は鍛えればかなり強くなると思うぞ」

 両手を頭の後ろに組みながら希出が言う。

 ●

 道中に敵の姿はいなかった。

 それどころか生き物の気配すらない。

 希出や矢口と同じような実験体すらもだ。

「どういうことだ?」

 道を間違えたのか? と矢口が問う。

「やつらは退いたよな?」

 希出がそう言うと矢口は、まさか。という顔をした。

「ここの研究所を放棄したということも考えられるな……」

 そう希出が言い終わるや否や、遠くから人の声がした。

 何やら言い争っているような声だ。

「オレに任せろ!」

 馬鹿正直に道を進もうとする希出に対して矢口が言う。

 壁に向かって<菌>の力を放出して壁に穴を開けた。

「声のする方への最短距離を取ろう」

 そう言って矢口は次々に壁に穴を開けて行った。

 声のする場所は研究所の外だった。

 周囲はぐるりと森に囲われており、再武と男無があの研究者と言い争っていた。

「もう君たちには全く興味がないんだ。さっさと失せるがいい」

 やれやれという感じで研究者が言う。

「ふざけるな! オレ達をこんな風にしておいて逃げるつもりか!」

「そーよそーよぅ! あちしたちと戦いなさい!」

 再武と男無が怒って言う。

「正々堂々と戦いたいのかな?」

 再武と男無が研究者に向かって怒鳴っているのを見て矢口が言う。

 本当に戦いたいのなら、戦えなんて宣言せずに攻撃を仕掛ければいい。それをしないということは、正々堂々と戦いたいか――

「あるいは攻撃できない理由があるのか……」

 希出がボソリと言う。

「攻撃できない理由?」

 矢口には希出の言っている意味が分からなかった。

 希出自身にも、攻撃できない理由というのが何なのか分からなかった。

 ただ何となく、攻撃できない理由があると直感しただけだった。

 そしてその希出の直感は正しかった。

 再武と男無の目の前には、見えない壁ができていた。

「残念だが君たちに興味はないしもう必要もない。ここの研究所と共に沈むがいい」

 <遮断の壁>と呼ばれる政府の兵器の一つだ。

 能力を含むほとんどの攻撃や物質を通さない性質を持っている。

 どうやら研究者はこの壁に、先ほどのキラキラした姿を隠せる粉、<透明の粉>を振りかけていたらしい。

「本来この壁は罠用でね。逃げたりする獲物を捕らえるための物なんだが、要は使い方だね。こうやって私が逃げるのにも役立っている。そしてこの壁は君たち二人の攻撃を一切受け付けないことも今証明された」

 ふふふ。と研究者が不気味な笑みを浮かべる。

「最後に私の能力を紹介しておこう。死にゆく君たちへの手向けだ。私の力は<空間再生>。指定した空間での出来事を再生することができる。君たちの力はたかだか<骨>と<脚力強化>であることはもう分かった。<吸出>の力や<微生物>の力ならあるいはこの壁を破壊できたかもしれんがね……我々の目標はこれらの力に対抗できる兵器を作り出すこと。そして能力を発現させる際の副作用の消し方もしくは副作用なしに能力を発現させる方法だ。君たちは大いに役立ったよ」

 くるりと研究者が背を向けると同時に研究所が大爆発を起こした。

 再武と男無が何やら叫ぶが何と叫んでいるのかは爆発音が強くて分からない。

 それに、希出たちもそれどころではない。

『くっ! 爆発に強い菌よ、オレの体質を爆発に強い体質に変えろ……』

 瞬時に矢口は自分の体質を変えた。

『くそ、希出を守る時間がない……』

 隣の希出を矢口が見る。

 まだ二人は研究所の敷地内にいる。

 研究所の外にいる再武や男無ですら、この爆発では致命傷だろう。

「オレのことはいい! 自分を守ることだけ考えろ!」

 自分を守ろうと矢口が考えていることを察した希出がそう言う。

『この爆発量……全部吸えるか?』

 希出は爆発そのものを吸う。

 これらのやりとりが、時間にして数秒の間に行われた。

 希出がなんとか爆発全てを吸ったおかげで、希出、矢口、不破、叶の四人は軽い火傷で済んだ。

 この火傷も希出が<吸う>力で吸い取り、付近に放出することで完治させた。

「たぶん、今の爆発そのものを叶の<ずらす>力で別の場所にずらすこともできたかもな」

 希出に言われた叶は、自分の右手を見ながら握ったり開いたりをした。

「叶ちゃんの力は希出の力に似ているのかもってことか?」

「たぶんな」

 矢口に言われて希出が頷く。

 更に続ける。

「爆発を別の場所にずらすことも、怪我や痛みを別の場所にずらすことも理論上は可能だろうよ。もちろんそれなりに体力と気力を使うだろうけどな。にしても、今ほどの大きさの爆発を吸ったのは初めてだな」

 ちょっと辛そうに自分の右腕を希出が挙げる。

 爆発を放出しない限り、希出の体力と気力は減り続ける。

 吸収したものの規模やエネルギーが大きければ大きいほど、体力と気力が減るスピードと量も大きくなる。

 しかし、理論上は希出が言うように際限なくずらしたり吸うことは可能である。

「不破は、オレらの中で唯一攻撃を無効化できない。その代わり唯一自身の体そのものを変えられる。風になってもダメージを受けるらしいが、それでも体を変えられるのは大きいだろ?」

 爆発で建物は壊れなかったため、希出たちは再び矢口の力で、壁に穴を開けている。

「んで、矢口はおそらくオレらの中で最強の能力だ。はっきり言って無敵だ。体質を変えられるんだからな。唯一、さっきみたいな爆発攻撃だと、爆発に強い体質を作っても体そのものが無くなりゃ終わりってくらいか……」

 穴を抜けながら希出が皆の能力を分析する。

 研究所の外に出ると、再武と男無が呆然と突っ立っていた。

 ●

 何が起きたか分かっていなかった再武と男無に簡単に説明をし、希出たちにも研究者が話していた内容を再武と男無が話した。

「なるほど……この研究所はぐるりとその見えない壁が張り巡らされているってわけか……」

 話を聞いた希出が軽く舌打ちをする。

「でもオレか希出の力なら何とかなるかもって研究者が言ってたんだろ?」

 矢口がこんなの何でもないという風に言う。

「どうなんだろうな……能力のほとんどが効かない壁なんだろ?」

 そうは言いつつも希出が壁に手を当てて、壁の力を吸ってみた。

「どうだ?」

 待ちきれないように矢口が訊くが、希出は黙って首を左右に振る。

 どうやら、壁の特性を吸って能力が効かない力を無くすことはできないようだ。

「オレが未熟なだけなのか、そもそも本当にこの壁はどんな力も効かないのかは分からないけど」

 希出と矢口のやり取りを再武と男無は黙って見ていた。

 今さっき説明を聞いたとはいえ、この二人がやっていることはただ能力を使って戦おうとしていた自分達とは違い、自分の能力を知った上でどんなことができるかをしっかりと分析している。

「……完敗だな……」

 ぼそりと再武が言う声は、男無にしか聞こえていない。

 男無も再武にしか聞こえない声で答える。

「そうねぃ。あちしはあの四人の下につくわ」

 オレもだ。と再武も答える。

「オレの力は使えないか?」

 再武が希出の前に出る。

 手から骨を出してそれを剣の形にしていた。

「この壁には物理的な攻撃は一切効かない」

 素っ気なく希出が言う。

「あちしの力も無意味なのねぃ。無力って恐ろしいわ」

 自分の親指をガリガリと噛みながら男無が悔しがる。

「なんだ?お前ら二人。オレたちに協力でもしてくれんのか?」

 妙に自分たちに協力的な再武と男無に向かって矢口が言う。

「? なんだ?この二人と何かあったのか?」

 矢口の言い方にトゲがあったのに気づいて叶が問う。

「なんか、オレたちと行動を共にするんじゃなくて自分達をこんな目に合わせた奴らを倒しに行くって言ってたんだよ」

 急に態度を改めた再武に不信感を抱いて、その動きに注視しつつ矢口が叶に答える。

「疑わなくてもいい。オレたちは今の希出たちの行動を見て、自分たちの無力さを思い知らされた。君たちの下について君たちの力になりたいと考えている」

 再武が頭を下げる。

「オレ達の目的はオレ達と同じような境遇の奴隷を解放することだぞ? 研究者や政府に復讐することじゃない。いいのか?」

 壁を調べながら話を聞いていた希出が、再武と男無の方を見もせずに言う。

「もちろんだ。君たちは君たちに協力しなかったオレ達を助けてくれた」

「そして今も一緒に脱出しようとしてくれているわ」

 再武の後に男無が言う。

「いや、脱出はオレらも脱出したいだけだぞ?」

 矢口が男無に言うが、男無は聞く耳を持たない。

「あちし、あなたに惚れたわ~ん。どこまでも付いて行くわ~ん」

 そう言って男無が希出に抱き着く。

「な!」

 不破が思わず起こるが、矢口は大爆笑だ。

「希出! お前おかまに好かれてやんの!」

「おいひっつくな。仲間になるのは分かったがオレはおかまに興味ないぞ!」

 その光景を見て更に矢口が爆笑する。

「笑っている場合じゃないぞ。どうやってここから出るんだ?」

 叶が矢口を殴って黙らせて言う。

「か……叶ちゃん……」

 痛そうにする矢口を無視するように叶が希出を見る。

「そうだな。矢口の力を使ってみたらどうだろ?」

「わ、分かった……」

 まだ痛そうにしながら矢口が力を解放する。

「叶。壁の能力を無効にする力を少しだけ横にずらしてみてくれ」

 そんなことが可能なのか分からなかったが、希出に言われた叶は頷いた。

「希出君?」

 何をしようとしているのか不破には何となく分かるが、上手くいくか分からなかった。

「不破。お前が要だ。頼むぞ」

 ポンと肩を叩かれる。

 希出は能力を無効にする力を吸ってみる。そして叶はその力を横にずらす。

 矢口は壁に向かって、壁を破壊する菌を放出した。

 希出と叶の力で壁の力に歪みが生まれ、ただも壁になった部分が僅かな時間だけ現れ、そこを<菌>の力で破壊された。

 しかし、政府の兵器はこれでは終わらなかった。

 ほんの僅かに破壊された箇所が見る見る修復されていっていた。

「自動修復能力か」

 再武が驚く。

「不破、頼む!」

 希出が言うと、僅かに開いた穴に不破が風を送り込み修復させないようにする。

「私だけなら外に出れるけど?」

 出てみる? と不破が問う。

「そうだな。そのまま外から攻撃を仕掛けてみてくれるか? 穴の風は残したままで頼む」

 すぐさま不破が風になって穴から外に出た。

 僅かな穴は徐々に小さくなっているように見える。

「攻撃するよー?」

 そう声をかけるなり、不破は外から壁に突風をぶつけてみる。

 しかし壁は相変わらずだった。

 心なしか外からの攻撃の方が効果的な気がした程度だ。

「仕方ない。矢口、この穴から菌を出して穴を広げてくれ。叶、さっきと同じように壁の力をこの穴から外にずらしてくれ。オレもこの穴付近の壁の力を吸ってみる」

「あちし達は何をしたらいいの?」

 無力になるのが嫌なのか、慌てるように男無が言う。

 言われる前に再武は穴に通せる細さの骨を出していた。

「これを穴に通してみるのはどうだ?」

 すっとその骨を希出に差し出す。

「お、やってみよーぜ」

 矢口が受け取り、穴に入れると壁の修復は骨の場所で止まった。

「ふむ。これを繰り返せば穴が大きくなるな」

 こうして、希出と叶の力で壁の効果を弱くして矢口と不破と男無の攻撃で壁を破壊。

 再武の骨で壁の修復機能を防ぐことを繰り返し、六人は無事研究所を脱出した。

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