異世界転生しか勝たん~第二十四稿 シカカとラクサ~

異世界転生しか勝たん

 私と戦っていた男の子の人民掌握軍はシカカという名前らしい。

 階級は少佐だから真ん中くらいかな?

 シカカの掌具によって沼から抜け出せない私を無視して、シカカはスタスタと歩いて行く。

 私に怒りの眼差しを向けてパクチー君が走ってくる。

 まんまと敵にやられた私を罵るに違いない。

「この足手まといが! 少佐レベルの敵もまともに倒せねーのか」

 沼にはまって身動きがとれない私を見下して、そう言いながらさっさとシカカを追ってしまった。

 ほらね? 罵った。

 それにしても助けてくらすれないとは思わなかったなー。

 自力で脱出しろってことね。こんな沼くらい一人でぬけてやるわよ……

「今度はあんたか?」

 パクチー君が追ってきているのを察知したのか、振り向きもせずにシカカが言う。やるわね……私は地味に沼の中でもがいてるけど。

「この先に行かせるわけにはいかねぇーんだ」

「オイラは戦うのが嫌いだ。止めないでくれ」

 シカカはまたもや、パクチー君のことを見ないで言う。

 相変わらずスタスタ歩いている。

「そんな訳にいかねぇーだろが!」

 パクチー君が血祭で伸ばした爪を使って切りかかろうとする。

「掌具:指輪盾(リングシールド)」

 シカカが呟くと、またあの盾が出てきて私の時と同じようにパクチー君の攻撃を防いだ。

「あんたは勇者と比べて強そうだ」

 くるりとパクチー君の方を向きながら、靴沼の力を解いた。

 これによって私は沼から抜け出すことができた。

 ドブの匂いってやつを私は嗅いだことはないけれど、なんだろう排水口とかから上がってくる下水の匂いみたいな感じが、私の体からプンプンする。

 悪臭をまき散らしながらも私はパクチー君の隣に立つ。

「やっと来たか。さっさと2人で倒すぞ」

 悪臭に顔をしかめながらパクチー君が言う。

 あまり近寄るなオーラが出てるけど仲間だよね?

「2対1じゃきつかろう」

 私たちの背後から声がした。

「なっ!」

 パクチー君が慌てた声をだす。

「俺はラクサ。小将軍の階級を持つ」

「小将軍ってあのサレってやつと一緒じゃないの?」

 私が以前に戦ったケルベロス部隊の1人の名を挙げると、ラクサと名乗った男の表情が曇った。

「俺の前であいつらの名前を出すな」

 とだけ言った。

 もしかして苦手か嫌いかのどっちかなのかな?

「どっちが強い?」

 ラクサが問うと、すかさずパクチー君が、俺だ。って答えてるけど、あんた私に負けたの忘れたのかい?

「いい度胸だ」

 くいっと首をやや後方にやりながらラクサが言う。

 つまりパクチー君と1対1の勝負をするってこと?

「大丈夫?」

「俺の心配よりてめぇの心配をしろ。次あいつに出し抜かれたら殺すからな」

 何よ! 心配してあげてるのに!

 ほんとパクチー君って強がりなんだから。

「体力だって戻ってないでしょ!」

 半分嫌味のつもりだった。

 それに反応したのはラクサだった。

「なるほどな。全力のお前と戦わないと意味がないな。それにヤイを退けた実力は本物だろう」

 どうやらラクサは体力が回復しきっていないパクチー君と戦うのが嫌な様子。

 これはいい流れなんじゃない?

「でもこいつらが砦の建設を進めちゃいますよ?」

 その通りだよシカカ君。あなた達が下がれば私たちは安心して砦の建設を進められるからね。

「たったの1日じゃなにも変わらんだろう」

 そう言ってラクサがくるりと背を向けた。

「いいのか?」

 パクチー君はまた挑発しようとしてる。

「俺を今逃したら後悔するぞ?」

 何言ってんのよあんたは!

「言ってろ」

 ラクサの方が大人ね。

 パクチー君の挑発を軽く受け流して掌握軍は引いて行った。

 また明日ここで勝負しよう。という言葉を残して。

 私とパクチー君もとりあえず陣まで退くことにした。

 ●

「そうと分かれば体力が回復次第さっさと攻めなさいよ!」

 掌握軍とのいきさつを聞いたバジルちゃんが、キーキー言う。

「私だってその方がいいと思うよ。掌握軍は明日まで攻めてこないことはわかってるしね」

 そう言ってパクチー君をチラリと見る。

「勝手な行動は許さん。あいつとのタイマンを邪魔するな」

 これだもんね。

 パクチー君は今日、あいつに見逃された形になっている。

 悔しいんだろうね。

「邪魔ってあんたねぇ。あんたの事情よりも世界の事情じゃないの?」

 さすがは国を治める教育を受けてるだけあるね。

 バジルちゃんがまともなことを言ってる。

「ぼ、僕もパクチーさんの気持ち分かるよ。負けたくないんだよ」

 ルッコラ君! 君も男だねぇ。でもそんなの私たち女子には理解できないんだよ?

「何なのよあんた達男は!」

 バジルちゃんはプリプリしながら、ルッコラ君の耳を引っ張って奥へ引っ込んでしまった。

 一言私に、あんた臭いわよ。と添えて。

 仲良しのルッコラ君に言われて我慢したのかな?

 私も今の内に水浴びしてこよ。

 翌朝、私とパクチー君は昨日の場所に向かって行った。

 そこにはすでにラクサとシカカが待って居た。

「逃げずに来たか」

 ラクサがそう言うと、パクチー君が後悔すんなよと怒鳴りながら走り出した。

 まったく。負けず嫌いなんだから。

 私も一度負けかけてるあいつともう一度戦いますか。

 ●

 パクチー君が走り出して自分の方へやってきたのを見て、ラクサはにやりと笑った。

 まずいんじゃないの?

「パクチー気をつけて!」

 私が注意するけどラクサは、もう遅いと言った。

「偉才、俺の手が火を吹くぞ」

 ん? 何て?

 ラクサが左手を顔の前に持ってきて偉才を発動したけど、私には中二病にしか見えない。

 確かに左手が燃えてるけども。

「偉才を使った俺には勝てない」

 そう言って手の炎をパクチー君に飛ばす。

「ちっ!」

 舌打ちしてそれを避けるけど、そのせいでパクチー君の勢いは止められちゃった。

 確かにあの偉才は厄介かも。

 それにパクチー君は私の知る限り遠距離攻撃を持たない……

「ねぇ、よそ見していていいの?」

 私の真横からシカカがパンチを繰り出してくる。

「しまった!」

 焦ったけどギリギリ盾で防ぐ。

「あんた戦うのが嫌いだったんじゃないの?」

 距離を取りながら私がシカカに言う。

「戦うのは嫌いだけど、今回は命令だから仕方ない。オイラたちの邪魔をするやつを倒せって言われた」

 戦うのが嫌いでも、あくまでも掌握軍として私たちの前に立ちはだかるのね。

「負けても恨みっこなしよ?」

 そう言って私は聖剣を構えて走り出した。

 この人の偉才はおそらく場所を入れ替える力。

 気をつけていれば大して怖くないはず。

 それよりも問題なのは掌具よね。指輪盾(リングシールド)だっけ? あれの防御力は半端じゃないからね。

 うまくフェイントを使わないと!

 私は聖剣でシカカに突くように攻撃を仕掛ける。

 でもこれはフェイント。本命は躱された瞬間に躱した方向へ切りつける攻撃!

 例え掌具でガードされても、ホーリーブレードアタックでダメージを与えてやる。

「偉才、いつの間にそんなところに」

 いきなりシカカが偉才を使ってきた。

 私とシカカの場所が入れ替わった。向いている方向は以前と変わらない。

 つまり、私とシカカは今背中を向け合っている。

「掌具:指輪盾(リングシールド)」

 こっちを見ずに掌具を使うの?

 私とシカカの間に大きめの盾が現れた。

 急いで振り返るけど、シカカの姿が盾に隠れた。これが狙いね。

 でも姿を隠してどうするの?

 念のために聖盾を構えていると、突然それは現れた。

「掌具:靴沼(シューズスワンプ)」

「しまった!」

 思わず声が出た。

 またもや私は沼にはまってしまった。

 しかも今度はシカカは確実に私を殺そうとしている。

 異世界に転移してから最大のピンチが私に訪れた……

 ●

 パクチーはラクサの遠距離攻撃を避けながら少しずつその距離を詰めていた。

「身体能力はなかなかのものだな。掌具:靴沼(シューズスワンプ)」

 ラクサもまた、シカカと同じ掌具を持っていた。

 しかし、動体視力に優れているパクチーにとって、この攻撃を避けることは何でもない。

「そう。そこだ」

 そしてラクサはこの掌具が避けられることを読んでいた。

 パクチーが避けた場所に炎の手を飛ばしたのだった。

 パクチーは、小さく舌打ちをして新しい血祭を発動した。

「血祭、朧」

 その瞬間、パクチーの体が一瞬にして消え、炎の手はやや大きめの丸太を焼いていた。

「変わり身か……」

 ラクサがパクチーが移動した先を睨むと、そこでやや息を切らしているパクチーが居た。

「瞬間的に移動力を爆発的に増幅させる技のようだが、相当の体力を消耗するようだな。それにお前がそこにいるということは自分の身代わりに何かを差し出す必要があるということだな?」

 パクチーが木のふもとに居ることからラクサが分析する。

「さすがは小将軍だな。分析力に優れてて嫌になるぜ」

 ちい。と舌打ちをするが、パクチーには余裕がなさそうだ。

「まだ余裕があるのか?」

 焦っていないパクチーを見てラクサがいら立つ。

「悔しいが俺よりもあいつの方が上ってことか……」

 パクチーが呟くが、その呟きがラクサの気に障る。

「俺が上だと認めるならそんな余裕ぶっこいてんじゃねー!」

 ラクサが怒りに任せて炎の手を飛ばす。

 それも今回は両手を炎の手にしている。

「逃げ場はねーぞ」

 ギロリとラクサが睨む。

「逃げねーよ。それにてめぇのことを上って言ったんじゃねぇーよ。俺が言ったのはルッコラのことだ」

 そう言ったパクチーの体は、ユラユラと揺れていた。

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