1匹のビブリンは同じ仲間のビブリンが倒されても冷静だった。
実はこのビブリンは3匹の中で最も知能が高く最も冷静で、最も手の内を晒していなかった。
魔導士の魔法の性質も種類も知ったし魔法以外は怖くないことも分かった。
召喚士は仲間を召喚する以外にも大きな刀を使って自分でも戦える召喚戦士らしい。一番厄介な敵だから雷スライムに任せておくのが最適だろう。
他の者はレベルがガクッと下がる。
シーフと堕天使とアーチャーと死の国にいるべき謎の男は決定打に乏しい。
鬼侍女と淫魔族は実力はあるが単体ではそこまで強くない。複数で群れていなければ大したことはない。
騎士と魔術師は雷スライムと戦っている召喚戦士をサポートしているから、こちらで何をしようと問題ないだろう。
勇者とヒロインにいたっては役立たずだ。
先ほどの仲間との連携で厄介な行動をしたのは魔導士。
つまりあいつさえ何とかすれば問題なく、目の前の敵をせん滅できるだろう。
そう考えたビブリンが再び雄たけびをあげた。
●
ビブリンの雄たけびが辺りに鳴り響く。
――何かくる。
ちあは直感でそう思った。長年の経験によるものだ。
ビブリンはモンスターにも関わらずジャケットを着ていたのだが、このジャケット内側にいくつかポケットがあったのだった。
1つのポケットからジッポライターのような物を取り出した。
見れば残りのモンスターは雷スライムとビブリン2匹だけになっていた。
電気ネズミと戦っていた人間どもがそれぞれビブリンと雷スライムへ向かって援軍に行く。
『ジッポ? 火でも点けるのか?』
現世のそれによく似た物を見た助態はそう思ったが、それの答えを知っていたのは意外な人物だった。
「まずい! 電導箱だ」
もっこりだ。
「何がそんなまずいんだい?」
隣ではあはあが問うが、もっこりの顔は青ざめみんなに退避を促している。
「とにかく逃げろ! そっちもだ! 周りの雷が集まって来るぞ」
「雷が集まる? 雷を自在に操れるのか?」
ちあが訝しむが、ひとまずみんなその場を離れる。
雷スライムと戦っていたティーパンたちや、もう1匹のビブリンと戦っていたもふともたちも助態たちの方へやって来て、何事か聞いている。
「電導箱は周囲の電気を集めてそれを自由に扱う道具なんだ。普段は大したことなくて、雷攻撃を避けたりそれを利用して反撃するために使う」
そこまでもっこりが言うとティーパンとちあはことの重大性に気が付いた。
「雷獄の洞窟は雷でできている……」
「その威力は想像したくないのぅ」
2人の言葉で他の者も、あのアイテムがヤバいアイテムであることが理解できた。
「堕天使がよく使う道具なんだ。堕天使は元々雲の中に住んでるから」
と最後にもっこりが付け足した。
ビブリンが電導箱の力で、周囲の雷を箱の中に閉じ込めたのが、見るだけで分かる。
「電気が吸い込まれているみたいだねぇ」
ビカビカ眩しい光がビブリンが集まるのを見て、もふともが言う。
「あの雷を自在に操れるとなるとマジで危険だな」
ヌルヌルがもふともを庇うように前に立つ。
「くびち、おぬしは突風をもふともはサンドスローをするのじゃ」
「そんなレベルの低いスキルが役にたつのかい?」
もふともが文句を言うがくびちは、ちあに言われた通り突風を起こす。
もふともの砂かけが突風に乗って雷を集めているビブリンの元へ向かう。
「命たる源よ大地の息吹と共に甦れ!土野針(ニードルソイル)」
ビブリンを目つぶししつつ、ちあが土の壁を作っていく。
「ぱいお、おぬしはあの壁にプロテスをかけて仲間にホーリーシールドを付与させるのじゃ」
ちあの言うプロテスとは、武具の耐久値を上げる騎士のスキルで、ホーリーシールドは自分と周囲の仲間の体に薄い膜を作って敵からの攻撃をある程度防ぐ役目がある。
「やるっすけど、あんな強力な攻撃、今のウチのホーリーシールドじゃ防げないっすよ?」
「アンアン。この土の壁を大きなものにできるかの?」
少しでも壁を分厚くして雷を防ごうとしている。
「やっぱり箱庭の妖精は必須だねぇ。こういう時に便利だし」
今の敵の攻撃に何もできないことに、ティーパンは悔しそうだ。
ビブリンが貯めた雷を放った。
突風と砂かけの小さな砂嵐は、雷攻撃に多少の抵抗をしてくれるだろう。
巨大で強化された土の壁は雷攻撃をある程度防いでくれるだろう。
それでも――
激しい光と轟音に当たりは包まれた。
●
自分の行動と結果にビブリンは満足していた。
悪あがき程度の砂嵐と土の壁では到底防ぎきれない威力の雷だった。
おかげでアイテムは壊れてしまったが十分な成果だろう。
特に目の前の敵はどうやらユウシャとかいう者のようだしな。
古よりの王族、王の口より名指しで倒すように命令があった人間がユウシャだ。
まぁ仲間のビブリンも巻き添えを食らってしまったのは仕方ないが、雷スライムは逆にこの雷を吸収して巨大化された。パワーアップもできただろう。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべてビブリンが勇者たちに背を向けた。
「ご苦労だったな」
ビブリンに向かって声はするが姿が見えない。
すると、突如目の前に大きな口が現れた。
王の口だ。
黒い球体に長い牙が生えた口が宙に浮いているだけの姿だ。
ビブリンは王位モンスターに認められたと思っていた。
王の口の背後にはもう1体大きなモンスターがいた。
例の吸収スライムだ。
「雷スライムは既に吸収しているが、雷攻撃が更に強くなるかもしれん。吸収しろ」
王の口がそう言うと吸収スライムは雷攻撃で巨大化された雷スライムを体内に取り込んだ。
「さてビブリンよ。我々王位モンスターの最終目標を知っておるな? お前たちは特殊なアイテムを精製する知識と才能を持っている。古王を復活させるための研究を怠るなよ?」
そう言うと王の口は吸収スライムを口の中に飲み込んだ。
「あれが勇者か。初めて見たがなるほど。金色の戦士と幼き天才を仲間にしていたのか……それに淫魔族と堕天使と鬼侍女まで仲間にしているとは」
王の口がブツブツ言いながら助態に近づく。
「コヤツ! デスキングの寵愛を受けておるのか……」
助態の様子を見た王の口が驚いてビブリンを見る。
「ビブリンよ。デスキングの寵愛を消すアイテムはあるのか?」
ビブリンは両目を見開いて首を左右に振った。
「そうか」
王の口は落胆しながら助態から離れる。
「どうやらこやつらはまだ生きている。いや、殺さなくてよかったと言うべきかもしれん。まずは寵愛を消す方法を見つけ出すのだ。デスキングの寵愛を受けている者を殺すとあやつと戦う羽目になる……それだけは絶対に避けねばならぬ」
デスキングの寵愛が消えていないのを見て、王の口は助態がまだ生きていると判断した。
「いずれにしろ、勇者がこの魔界から生きて還れるとは思わぬが我々王位モンスターによって倒されなければデスキングも諦めるだろう」
こうして助態たちの知らないところで、助態たちは王位モンスター及び序列モンスターから狙われなくなったのだが、それは本人たちは一切知らないのだった。

