助態たちは目の前の敵に苦戦していた。
ちあとティーパンがいても、危険度Aのモンスターが複数いるとやはり苦戦する。
問題は、モンスターの強さだけではない。
「洞窟の中だと思うとうまく魔導が使えんのじゃ」
ちあの言葉通り、雷でできている洞窟なので崩れる心配がない。というのが一般的な感覚だが、万が一崩れた場合には、雷そのものが助態たちに降ってくることになるのだ。
とはいえ目の前のモンスターは、手加減して勝てるほど甘いモンスターではない。
――黄虎。全身が雷でできた虎だ。
その全身の雷を使って攻撃を繰り出す。
また、群れで行動をする。
「どうやら黄虎の縄張りに足を踏み入れてしまったようだね」
ティーパンがちっと短く舌打ちをする。
「だからさっきの分かれ道を右に行けばよかったんだよ」
もふともが毒づく。
分かれ道をどっちに行くかで多少揉めて、左に行った結果が今のようだ。
「しょうがないだろ!」
助態が反論する。
いつも通り決めたのは助態なのだろう。
「どっちにしろこんな素早いモンスター相手に逃げるのは難しいわ」
くびちがそよ風を起こして、砂塵を巻き上げるが雷獄の洞窟ではほぼ無意味だった。
目隠しが上手くいけば逃げれる可能性があるのだが、雷獄の洞窟には巻き上げる砂が極端に少なかった。
それに――
「ここでお前たちは死ぬ」
目の前には喋れるモンスターがいた。
ライオンの頭部、サイの角、人間の胴体、ゴリラの手、馬の足、サソリの尾、ワシの羽を持つモンスターだ。
危険度はAだがティーパンに言わせるとSに限りなく近いらしい。
『ビブリンに言われて来てみたが本当に人間がいるとは……』
このザギというモンスターは、王の口に命令されたビブリンに唆されて氷城からわざわざやって来たのだ。
「あいつは確か、魔界の門番のはずだ」
はあはあが言うと、ザギがはあはあに気が付いた。
「ほう? 鬼侍女に堕天使までいるではないか。さっさと人間を殺せ」
ザギがはあはあともっこりに命令する。
どうやら魔界のモンスターを指示できる立場にあるようだ。
「あいつがまだ本当の力を出す前にどうにかするよ!」
逆にティーパンがはあはあともっこりに指示を出して、2人がそれに呼応する。
「モンスターが人間側につくか!」
ザギがその実力を出そうと手に筆のような物を持った。
「まずい!」
ティーパンが注意を促すが遅かった。
●
ティーパンやはあはあ、もっこり、もふともがザギと戦っている時、ヌルヌルやちあ、助態にぱいおは3匹の黄虎と対峙していた。
先ほどから、くびちのそよ風で目隠しをしようとしているが出来ずにいる。
黄虎の突進攻撃は、ぱいおの大きな盾で防いでいる。
しかし、その身に纏った雷攻撃だけは盾では防げない。
そのため、黄虎の攻撃はなるべく避けるようにしている。
幸いにも、今のところはただの突進攻撃しかしてこない。
「命たる源よ大地の息吹と共に甦れ! 土野針(ニードルソイル)」
ちあがこの洞窟内で使っても大丈夫な魔導の1つを使う。
盛り上がった地面が1匹の黄虎を突き刺す。
「ダメじゃ」
あまりの素早さに、この程度の魔術では上手く当たらなかった。
「私の矢が当たればそれなりのダメージを与えられると思うのですが」
ルブマの弓矢も当たらない。
ルブマはアーチャーレベル3の、ストーンショットという土属性の攻撃を習得していた。
雷属性の黄虎には効率的なダメージを与えられる。
しかしその攻撃も当たらなければ意味がなかった。
「混沌に飲み込まれよ! 霧与出炉(フォグメイク)! 数多なる生命体の動きよ主の命に逆らえ! 動作止間零(ストップ)」
ちあが同時に2つの魔導を放つ。
濃い霧を発生させ、紫の輪っかを飛ばして対象の動きを止めた。
ギリギリで黄虎の動きを止めることに成功するが、今度は霧で虎がどこにいるかが分からずルブマの弓矢が当たらない。
「何やってんだよ! くびち、霧を飛ばせ! ルブマ視界が開けるぞ」
助態は野次将軍になっていた。
「勇者様は少し黙っててください」
純純が珍しくイライラしながら言う。
純純は這い縄というアイテムを使って黄虎を捕まえようと奮闘していた。
隣でヌルヌルも手伝っている。
這い縄は、縄を地面にセットしてその縄に触れた獲物を捕獲するアイテムだ。
3匹の黄虎の内1匹は這い縄に、1匹はちあの魔導に捕獲された。
捕獲した黄虎はルブマとくびちがとどめをさした。
残りは1匹だったのだが――
「逃げるっす!」
ぱいおが叫ぶと同時に、黄虎が雄叫びをあげ仲間を呼んだ。
最初もこの雄叫びで仲間を呼ばれたのだ。
ここが黄虎の縄張りである限り、雄叫びでどんどん仲間を呼ばれてしまう。
「ふぉぉぉぉぉぉぉー!」
ぱいおが複数の黄虎を大きめの盾と自分の体で止めていた。
「ぱいおが大きめの体で止めている間に逃げるぞ!」
助態が余計な一言を言う。
「誰が大きめの体っすか! ウチの巨乳揉ませないっすよ!」
「え? 揉ませてくれんの?」
「黄虎を止めるのを手伝ってくれたいいっすよ」
この言葉に助態のやる気が上がった。
「他の者はティーパンさんと合流して先に逃げてくれ!」
助態は股間をもっこりさせながら黄虎と対峙した。
その手には、アンアンに大きくしてもらった木の棒があった。
ぱいおがその横顔をぽーっと見る。
『こーゆーところがかっこいいんすかねぇー?』
その2人が横並びになっているのを見た純純は、少し胸の奥が痛むのを感じた。
●
助態とぱいおが複数の黄虎と対峙する少し前、もふとも、ティーパン、アンアン、もっこり、はあはあはザギの実力に苦戦した。
ザギは、その容姿から肉体派のモンスターと勘違いされがちだが、真の強さは手にした筆で描いたものを実体化させる力を持っていることだった。
絵描きモンスターの一種と言われているが、知能がある分描く絵の能力が高い。
現に今もハイエナエースを出現させている。
「実在するモンスターを出してくるなんて厄介すぎるな……」
「普通はそんな厄介じゃないのかい?」
ティーパンの言葉にもふともが質問をする。
「生命のある物を出現させる場合、それなりの魔力が必要になるのもあるが、それ以外にもその生物のバランスなどもあるからな。大抵は強そうな見た目でも実際に出したら動けなかったりバランスを崩して転ぶことが多い」
ハイエナエースの噛みつき攻撃を簡単に避けながらティーパンが答える。
「てことは、あの筆を盗む必要があるってことかい」
もふともが能力を展開させようと準備を始めた。
シーフレベル4。盗みの領域――
シーフレベル1の盗みの成功率を上げる領域を作り出すスキルだ。
シーフレベル3。潜む――
自分の存在感を消すスキルだ。
ティーパンがそれに呼応する。
ザギを盗みの領域内に誘うのだ。
「ほれ雑魚モンスター私を狙ってごらん?」
はあはあともっこりがハイエナエースを引き受ける。
「犬っころはこっちだ!」
もっこりが黒い弓矢を放って挑発する。
アンアンはさりげなく、岩を大きくしてザギが引き返せないように進路を阻んだ。
ちょうどその時、隣で黄虎と戦っていた助態たちの戦況が変化した。
黄虎が仲間を呼んだのだ。
『このままじゃ敵が増える一方か……』
ティーパンがそう考えた矢先、助態とぱいおが黄虎をくい止めるように動いた。
「撤退するよ!」
そこからのティーパンの判断は早かった。
魔力を温存なんてことも考えなかった。
まずはアンアンが岩を可能な限り大きくして、少しでも敵の視界を奪った。
もふともがダメ元で、スキル盗みを行使したが筆を盗むことはできなかった。
「サラマンダーの息吹。ノームの地響き。合わさり鬼の形相にならん」
ティーパンがジャックランタンを召喚し、その強烈な炎でザギとハイエナエースの追跡を防ぐ。
ちあたちと合流してからは、更にちあの魔導で霧を発生させ前来た分かれ道を右へと進んだ。
黄虎を防いでいたぱいおも合流していたので、誰もが逃げるのに必死だった。
しかし――
「勇者がいない?」
ティーパンが驚く。
どうやら助態は逃げ遅れてしまい、激しい炎と霧の中に置き去りにされてしまったようだ。
全員が元の場所に戻るか、先に進むかの決断に迫られることとなった。
●
『まずい……』
逃げ遅れた助態は、黄虎とザギと戦った場所ではなく、先へと進んでしまっていた。
つまりは、黄虎の縄張りの奥へと突き進んでいたのだ。
幸いにもザギにも戦っていた黄虎にも見つからずに先に進めたので、追われることはなかった。
助態は先に進むか後ろに戻るかを選択することとなった。
その時、助態が持っている通信貝が反応した。
ある程度の距離離れていても、対となる殻どうしを持っていれば通信ができるアイテムだ。
助態は念のためにと、ティーパンから渡されていたのだ。
「聞こえるか勇者」
殻からティーパンの声がする。
「は、はい。聞こえます」
独りぼっちになったと思った途端に、ティーパンの声が聞こえたことで助態は心の底からほっとした。
「よかった。どうやら私らははぐれてしまったようだが、勇者。きみは今どの辺にいるか分かるか?」
「たぶんですけど、奥に進んじゃった感じがします」
「すると縄張りの奥か……厳しいな。見つからずにやりすごせそうかい?」
「今のところ見つかっていないので、なんとかなるかもしれません」
「よし! すぐに迎えに行くから何とか耐えてくれ」
こうして助態を助けるために、全員がその道を引き返したのだった。
助態はひっそりと、黄虎の縄張りから離れるように来た道を戻ってみた。
どうやら、さっきまで戦っていたはずのザギも黄虎の集団もいなくなっていたようだ。
『モンスターにはこの洞窟の壁をすり抜ける力でもあるのか?』
どう見ても1本道なのに、モンスターに遭遇しなかったものだから、助態がそう思っても仕方ない。
しかし実際はザギと黄虎は雷獄の洞窟の入り口の方まで、ティーパンたちが逃げたと思い込み、そっちへ向かって行っていたのだ。
つまり、助態たちは知る由もないが、今現在、助態たちが合流する絶好の機会だったのだ。
神経をすり減らしながら慎重に行動をし、助態はなんとかティーパンたちと合流することができた。
ほっとした助態は、その場で気を失ってしまったのだった――
