助態たちが気が付いたのは、ビブリンと王の口の会話から実に10時間以上経ってからだった。
なぜかビブリンと雷スライムはいなくなっており、自分達の食糧や飲料も盗まれずに済んでいた。
「ビブリンは私たちが死んだと思ったのかもしれないねぇ」
背負い袋を念入りに確認してティーパンがそう結論づけた。
「あのビブリンかなり頭が良かったっすね」
痛むのか、お尻を擦りながらぱいおが言うと、隣でちあが頷いた。
「モンスターの中には、稀に知能が高い個体が現れることがある。あれはその個体じゃろう」
ちあも念入りに背負い袋を確認していた。
さすがはベテランの冒険者だ。
モンスターに荷物を盗まれていないかの確認が手早い。
他の者もティーパンとちあに習って手荷物を確認するが、特に問題は見当たらなかった。
「どうやら本当に私たちが死んだんだと思ったようだね」
先ほどの結論をティーパンが確実視した。
「知能が高い割には爪が甘いのぅ」
やれやれという感じでちあが言うが、その爪の甘さで助かったとも付け足した。
「ほんとに仮死状態だったかもしれないっすよね」
ぱいおがシャレにならないことを言う。
「ま、なんにしても助かったのだからよかったじゃないか。先を進むとしよう」
背負い袋を持ち上げながらティーパンが立ち上がる。
まだ雷獄の洞窟は始まったばかりだ。
全員がゆっくりと再び慎重に歩き出した。
●
「あれはどう思うよ?」
助態が隣のぱいおに問う。
「モンスターだと思うっすよ?」
その声には疑問の色が隠せていない。
小休止中、見張りは助態とぱいおの2人だ。
2人の目の前にはとてつもなく可愛いフワフワの黄色いウサギが居た。
「よしぱいお。倒してこい」
「なんでウチなんすか! 男の助態さんが倒してきてくださいよ!」
「バカヤロウ! あんな可愛い生き物を殺せと言うのか?」
「あいにくウチの手はまだ汚れてないっす」
「心は汚れまくってるくせにか?」
助態の余計な一言に、ぱいおは近くにあった手持ちの鍋で助態の頭を殴った。
「害はなさそうだし、倒さなくていいんじゃないっすか?」
殴った鍋に水を入れてコトコトと湯を沸かしながらぱいおが言う。
「確かに発情ウサギとかも害なかったもんな」
そんなことを助態が言っていると、2匹のウサギが交尾を始めてしまった。
「助態さんなみに発情してるっすねー」
ウサギを見ながらぱいおは自分の股間を触り始めた。
『ぱいおの方が発情してるんじゃないか?』
そんなことを思いながらも助態は空気を読む。
「シたいなら向こうでやれよ?」
ただ相変わらず一言余計だった。
「ほんとデリカシーないっすね! 助態さんがあっちに行ってくださいよ。ウチはウサギの交尾を見ながらシたいんすよ」
ぱいおは鼻息を荒げながら股をまさぐっている。
助態にとってこのぱいおの姿はもはや日常になっているので、そこまでは興奮しない。
それでも下半身はしっかりと反応していたし、ぱいおの1人でする姿を見てみたいと思ってしまっていた。
「うわ。さいてーっすね」
もっこりした下半身を見てぱいおが軽蔑した目をする。
「言っておくがなぱいお」
助態が股間をもっこりさせながらすごむ。
「な、なんすか?」
その瞬間、ぱいおは助態に犯されるかもしれないと感じた。
「俺のエクスカリハーだって抜きたがってるんだからな?」
あろうことか助態は、自分もシたいのだと主張した。
「ほんとさいてーっすわ」
蔑んだ目で見られた助態は、股間をもっこりさせたまま遠くへと離れた。
これ以上はまた殴られると感じたのだろう。
「別に助態さんとならヤられたっていいのに……」
ボソリとぱいおが本音をこぼすが、遠くへ離れた助態へは聞こえていなかった。
●
『いつからだったんすかねー』
2匹のウサギの交尾を見ながら、ぼーっとぱいおが考える。
さっきまでの性欲は一気に冷めてしまい、スる気にもなれなかった。
ルブマが助態を本気で狙うと決めたことに気づいた時にも、特に嫉妬はしなかった。
純純と仲良くしている時もくびちが誘惑する時も、別に嫉妬はしない。
むしろ楽しんで遠くから見ているタイプだった。
「正直、どこがいいかさっぱり分かんないっす……」
再びボソリと零す。
思い返してみても、ゲロをかけられたりしただけでいいことをされた思いは見当たらない。
「こんなウチにも興奮してくれるんすねー」
これまた正直な感想だ。
いつも目の前で下ネタを言ったりしているぱいおに対して、助態はある意味抗体ができていた。
ぱいおではそんなに興奮しない体質になりつつあった。いわゆる慣れというやつだ。
それでもさっきは興奮していた。
それが嬉しかったというのは本当であり、あの時抱かれたらすんなり受け入れていただろうというのも本当だ。
「終わったのか?」
後ろからデリカシーのない言葉をかけられる。
『だからシてないっすよ!』
ムッとしたから無視することにした。
『もふともさんの気持ちが分かるっすよ。自分の気持ちを認めたくないってやつっすね。何でウチが助態さんを好きになったのかさっぱりっす』
「どうした?」
返事がないので、助態が心配そうな声をだす。
そんな行動にぱいおが更にイラ立つ。
「大丈夫か?」
助態は本気で心配している。
「そーゆーところっすよ!」
振り向いてぱいおがキレる。
「「!」」
心配した助態はぱいおの顔を覗き込もうと近づいていた。そんな時にぱいおが振り向いたものだから、二人の唇が触れてしまったのだ。
「わっ、悪い!」
助態は素直に謝る。
「ウチのファーストキスがぁー」
ぽかぽかーっとぱいおが助態を何度も殴った。
何度も謝る助態の耳には、ぱいおの言葉は届いていなかった。
――助態さんが初めてでよかったっす。

