勇者は発情中~第六十エロ ヒロインの特性~

勇者は発情中

 暗闇の森は文字通り真っ暗な森だった。

 後ろを振り返ると雷獄の洞窟の雷の光が見えるが、前は暗闇だ。

「何も見えない……」

 思わず助態が言葉を零す。

「正直、俺たち魔界の住人にとってはこんなところまで来たことがないからどうなってるかも分からない。けど、暗闇の森がホントにこんなに真っ暗だとは思わなかったな」

 もっこりが辺りをキョロキョロ見渡すが、みんなにはその様子が見えない。

 なんとなくの気配だけで、その動きを察知する。

「これは危険だねぇ」

 そう呟いたティーパンが、ジャックランタンを召喚した。

「平気か?」

 ジャックランタンの灯かりに照らされながらちあが訊く。

 ティーパンの唯一の弱点と言ってもいいのが、魔力の少なさだ。

 召喚魔法はただでさえ、通常の魔法よりも魔力を使う。

 そして、契約したモンスターを召喚し続けている限り魔力を使い続ける。

 つまり、基本的に召喚魔法はいくら魔力があっても足りないのだ。

 ちあはいざという時のことを危惧して聞いたのだ。

「正直不安はある……が、あの暗闇はいただけないだろ?」

 ティーパンが不安に感じているのはモンスターの不意打ちだ。

 近くにいる仲間の表情はもちろん、どんな行動をしているのかすら見えないくらいの暗闇だ。

 そんな中でモンスターが現れたら最悪だ。

 ジャックランタンの灯かりは小さく十分な光源とは言えないが、何も見えないよりはマシだった。

 助態たちは頼りない灯かりを元に、ゆっくりと暗闇の森の奥へと進んで行った。

 ●

「くっ……見たこともないモンスターだな……」

 目の前の緑色の猫のようなライオンのような虎のようなモンスターを見て、ティーパンが呟く。

「あれは多分ピューマですね」

 生前の生き物と同じであれば、助態の言う通り緑色のピューマが正しい。

「勇者様の言う通り、あれはグリーンピューマです。危険度はBですが集団で行動をするモンスターですね」

 純純の言葉に全員が驚いて彼女を見る。

「ヒロインの特性じゃな」

 意外にもちあがそう言う。

 今度は全員がちあを見る。

「どういうことだい?」

 ティーパンですら知らないことらしい。

「なんじゃ? ティーパンも知らんのか? ヒロインはモンスターの情報を得られると聞くぞ?」

 キョトンとしてちあが答える。

「勇者は人を引き付ける力を、ヒロインは敵の情報を知る力があるのか……」

 なるほど。とティーパンが呟く。

「で、危険度Bのあいつが10匹ってのは今のアタイたちにとって危険なのかい?」

 あいつ。とグリーンピューマを指さしながらもふともが言う。

 手には短剣を持っているので、戦う気満々のようだ。

「危険じゃないとは言えないだろ」

 そんなもふともをヌルヌルが制止する。

「なんだい? アタイじゃ危険度Bに勝てないって言いたいのかい? アタイだって何度も戦闘をこなしてきて成長してるんだよ?」

 もふとものこの言葉は事実だ。

 助態と純純以外のみんなが、少しずつ成長し新しいスキルも獲得していた。

 そして今、純純も戦闘で重要なスキルがあることが判明した。

 戦闘で役立たずなのは助態だけとなったのだが、そんなことを全く気にしない助態は、すごいな純純。と褒めていた。

 褒められた純純も照れながら喜んでいた。

 そんな2人を見て、ティーパンはやれやれと首を横に振った。

 ●

 もふともとヌルヌルが言い合う隣で、ルブマは助態と純純のやり取りを見ていた。

『やっぱりあの2人はお似合いなんですね……』

「やーっぱ付け入るスキはない感じっすかねー」

 そんなルブマの感情を読み取ったかのようにぱいおが言う。

「あら? 恋愛なんて奪ってこそよ?」

 くびちは余裕そうだ。

「くびちさんは恋愛経験が豊富だからそんなことが言えるんですよ」

 ルブマは自信がなさそうだ。

「でもさぁ。恋愛なんて経験だけじゃないと思うぜ?」

 3人の会話を聞いてもっこりが言うが、はあはあがそれを否定した。

「確かに付き合うかどうかは恋愛経験には関係ない。でも付き合うまでの駆け引きに関しては恋愛経験の豊富さが物を言うでしょ」

「それに付き合ってからの対応も恋愛経験が豊富な方がゆとりは持てるわよ? どんなところにデート行こうかとか、どうやって誘おうかとかも恋愛経験が豊富な方がすんなりできるしね」

 と、くびちもはあはあの言葉に同意した。

「それじゃあウチやルブマさんのように恋愛経験がない人は、最初から負け勝負じゃないっすか」

「いやいや別に恋愛経験が豊富だから勝ちってことはないだろ? 慣れてる程度のことじゃねーの?」

 それでももっこりは、恋愛に経験は関係ないという意見のようだ。

「どうかねぇ? 付き合うタイプによるとは思うけど、気遣いとかができるのは経験豊富な方なんじゃない?」

 ニヤっと笑いながらはあはあが言うと、もっこりがムキになったように言い返した。

「別に経験が豊富じゃなくたって気遣いはできるだろ?」

「あら? 誰かさんは全然気遣いできないし、ものすごーく鈍感だけど?」

「な! 俺のことは今関係ないだろ?」

「別にもっこりのことなんて言ってないけどー?」

「だいたい俺は恋愛経験豊富だからな?」

「へー。それは初耳だわ。詳しく聞かせて貰おうじゃないの」

 もっこりとはあはあが言い合う隣でぱいおがくびちに聞く。

「例えばっすけど。ルブマさんとくびちさんが同時に助態さんに告った場合、くびちさんに軍配が上がるっすか?」

「どうかしらね? 人を好きになるのに理由ってないでしょ? 恋愛経験が豊富な人を好きになる。なんて聞いたことないわ」

 この言葉を聞いてぱいおが少しほっとする。

 しかしくびちは、でも。と言葉を続けた。

「それはあくまでも2人が同時に告白をした場合だし、恋愛なんて早い者勝ちなところがあるからね。そういう意味では恋愛経験が豊富な方が有利でしょうね。相手を惚れさせる術を持っている人もいるでしょうしね」

 ルブマとぱいおはがっくしうなだれてしまう。

「私から言わせれば、純純にももふともにもルブマにもぱいおにも助態と付き合える可能性はあると思うわ。もちろん私にもね。ただ、今のところ助態の気持ちはよく分からないわね。天然の女たらしってところかしら。みんなといい雰囲気になってるからね。それにここから抜け出したらまたライバルが増えるでしょ?」

 くびちが言うライバルとは、ぷーれいとぶららのことだ。

「助態さんにキスした人ですよね?」

 ルブマの言葉にぱいおは心の中だけで、ルブマさんもキスしてるっす。と突っ込んだ。

 ●

 純純の特性が開花してからというもの、戦闘はかなり有利に進んだ。

 特に戦力差が大きくない場合においては、属性の相性が重要であることを痛感した。

 しかし、ジャックランタンを召喚しているため、ティーパンは戦闘中は助態と同じくらい役立たずとなった。

 更にティーパンの魔力を回復させるためにいつも以上に休憩を挟んだ。

「召喚魔法ってホント魔力使うんだなー」

 もふともが改めて言う。

 木の枝にジャックランタンの火を移して、今はティーパンは寝ている。

 少しでも早く回復させるためだ。

「当たり前よ。選ばれし者しか扱えない魔法だからね」

 アンアンがなぜか得意げに言う。

「ちあも一度勉強したことがあるが、問題なのは契約するときじゃな。契約対象を如何にして自分の気持ちと通じさせて納得させるかが重要じゃ」

「力づくじゃだめなのかい?」

 もふともが拳を握って前に出すが、アンアンが否定する。

「もちろん力を示せって言う者もいるでしょうね。でもほとんどが、どうして契約したいのかを説き伏せることよ。私たち淫魔族と契約したいと言う人間がたまにいるけど、私たちは特にどうして契約したいのかを重要視するわね」

 ここからはちあとアンアンが召喚魔法や淫魔族が使う魔法について議論し始めた。

 もふともは、アタイには分からないわ。と仰向けに寝転がった。

「何にも見えないな」

 隣でヌルヌルが仰向けに寝転がっていた。

「あぁ……」

 物思いに耽りながらもふともが返事をする。

「あの時もこんな暗闇だったな……」

 ポツリともふともが言う。

 そんなもふともの横顔をヌルヌルが見つめた。

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