アドは、シャラがドンファの舌に捕まって危険な状態なので少し焦っていた。
焦りながらも、とにかくドンファの注意を引こうと、ドンファに声をかけた。
自分に注意が向けば何でもいいと無我夢中だった。
だからだろう。
防具の盾をドンファに向かって投げていた。
ゴン。
金属と金属がぶつかるような鈍い音が鳴る。
ドンファが、ぐるりとこちらを向いた。
無意識に怒りの雄たけびをドンファがあげたせいで、シャラは長い舌から逃れることができた。
「アドくん!」
間一髪。シャラの掛け声でドンファの尻尾攻撃を避けれた。
自分に注意を引かせたものの、盾を手放しているため、攻撃を全て避ける必要がある。
ドンファの攻撃は決して早くはないが、戦い慣れしていないアドにとっては十分に速い。
加えて、他の攻撃との連携となると厄介さが増す。
特に警戒すべき攻撃は――
「グルォォォー」
ハウリングだ。
硬直時間は短いが、全ての動きをキャンセルされてしまう。
他のモンスターに比べて知能が高いドンファは、その一瞬の隙を見逃さない。
先ほどかわされた尻尾を振り戻してアドにむち打ちのダメージを与える。
アドは、シャラのダメージ倍増付与で通常よりも多くの痛みを受ける。
『私がなんとかしなきゃいけないのに……こんな能力のせいで……』
シャラが自分の能力に嘆き、涙を流す。
自分の能力が使えない能力であったがために誰からもパーティーに誘われず、一人でひっそりと暮らしていた。
またあの頃に逆戻りするのだろうと……
どうせアドもイリも自分とはパーティーが組めないと言うのだろうと……
「いってー! シャラ。このスキルってどれくらい痛みが増してるの?」
真剣に悩んでいたシャラに対して、素っ頓狂な質問が飛ぶ。
まるで、真剣に悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。
思わずシャラは、ぷっ。と吹き出してしまった。
「分かりませんが、多分倍程度かと」
ほっとしたからなのか、気が緩んだのかシャラは自然と笑顔になっていた。
●
シャラは安堵していた。
きっとアドならば自分を見捨てたりしないと。
そして、アドと一緒にいるイリもそれは同じだと直感したからだ。
そんなシャラは新たなスキルを獲得していた。
不安から一気に安堵へと気持ちが変化することで獲得したスキル。
レアスキル――癒し――
心を癒すだけのスキルだが、レベルが上がることでレアスキルとして発展する。
シャラはこのスキルで自分の心を癒して落ち着きを取り戻した。
それだけではなく、シャラは能力のレベルが上がっていた。
付加価値を付与する対象はまだランダムだが、どの付加価値を付与するかを選べるようになった。
これによって、ダメージ倍増の付与をアドから外す。
全ての付加価値が誰かしらに付与されるので、自然と自分にダメージ倍増のスキルが発動されるだろう。
そう思っていたが……
「くらえ!」
一瞬の隙をついたアドの攻撃は、毎度同じようにはじかれるのだろうと思っていた。
それなのに――
「ぐおぉぉぉ」
確かに皮膚強化によって、アドの短剣攻撃はあまり効き目がなかったかのように見えるが、それにしては妙に痛がっているように見えた。
「まさか!」
シャラが目を見開く。
「どうしたの?」
シャラの隣にアドが駆け寄る。
なにか倒す方法を見出したのかと思ったからだ。
「私のダメージ倍増の付与がドンファにかかっている可能性があります」
階層主の間に、優しい風が吹きつけた。
