キミだけが知らない物語り~第14物語り 暗闇~

キミだけが知らないストーリー

 高渡は捕まった椎名を助けることも、ヤンキーに何かを言うこともできなかった。
「見てろよ?」
 ヤンキーがニヤニヤしながら椎名のスカートの裾をゆっくりとめくる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
 下着が見えそうになる一瞬手前で高渡は大声を出して走り去った。
 正確には逃げたのだ。
 女の子が知らない男に捕まっているのに、それを知ってて逃げたのだ。
『夢の世界のあの人ならどうするんだろう……きっと簡単に助けちゃうんだろうな』
 なんて現実逃避までしている。
 高笑いするヤンキーの声が後ろから追いかけてきて、更なる惨めな気持ちになっていた時に光が差し込んだ。
 椎名の取り巻きギャルだ。
「何してんの?」
 いつも通り高渡に話しかけてくれる。
 いつもなら鬱陶しいこの件も、今日に限っては嬉しい。
「し、し、し椎名さんが」
 息も絶え絶えに、今あったことを伝えると取り巻きギャルは血相を変えて走り出した。
『よかった。これで椎名さんは助けられた。僕もあの人のようになれたかな?』
 自分の力では椎名のことを助けられなかったにしても、取り巻きギャルに助けを求めることで、間接的には椎名を助けた。
『明日の朝、椎名さんはどんな顔をするのかな? タクヤ君は僕への評価を変えてくれるかな?』
 珍しいことに、高渡はスキップをしながら帰路についた。

 ●

 翌朝、タクヤが高渡のところに謝りにきた。
 連日の椎名のストーリー事件の犯人はどうやら、あのヤンキーだったらしい。
「疑ってすまなかった」
 素直に頭を下げてくれた。
「ぼ。僕は別に……」
 正直、こういう光景が目的だったはずだった。
 自分が無実の罪で疑われて、自分を疑った人が自分に謝罪をする光景。
 ラノベなんかで読んだ場合にスッキリするやつの1つのはずだ。
 なのに……
 嬉しい気持ちはなかった。
 だからだろう。もごもごとした返答になってしまったのは。
『僕はたぶん。謝って欲しかったわけじゃないんだな……分かって欲しかっただけなんだ』
 タクヤと入れ替わるように今度は取り巻きギャルがやってきた。
「ちょっと来て」
 誰もいない教室へと呼び出された。
『これはひょっとして、昨日のことで告白でもされるんじゃないか?』
 浮足立っていると、激しい痛みが頬に走った。

 ――パァァン。
 何かを叩く音が教室に鳴り響く。
 瞬間、高渡の頬に痛みが走りビンタされたのだと遅れて気づく。
「え?」
 高渡が訳も分からずにいると、取り巻きギャルの目には涙が浮かんでいた。
「あんた最低だよ!」
『最低? 僕のどこだ最低なんだ?』
「りお泣いてたよ? 見捨てられたって思ったらしいよ! そりゃそうだろうよ。あんな怖そうな男連中に囲まれて捕まってさぁ! なんで助けてあげなかったんだよ!」
「え? でも……」
「でもじゃねぇーよ! この根性なしが! おめーの股についてんのは飾りかよ!」
『は? え? どういう状況? 僕はこの子に助けを求めて、ちゃんと椎名さんは助かったじゃないか。何が問題だったのだと言うんだ?』
 高渡が理解していない様子なのに、取り巻きギャルは呆れた様子で言葉を絞り出した。
「どんなに強がっても女は男に力では勝てないんだよ……女にとって男は恐怖の対象なの。そんな対象が何人もりおを囲んでさ、何されるかなんて容易に想像できるじゃん? そこにたまたまあんたが通りがかった。りおはあんたに泣きながら助けを求めた。それなのにあんたはどうした? 逃げただろ!」
 そう。これこそが事実。
 高渡は結果がどうであれ、あの瞬間は確かに逃げたのだ。己の無力さを痛感してなど言い訳でしかない。
 逆らえばターゲットは自分になる。それを知ってて逃げたのだ。
 全ては自分のため。己の保身のため。
 それを偶然遭遇した取り巻きギャルに全てを伝えたことで、椎名を助けたような気分でいた。
 いや。逃げた自分への言い訳にしたのだ。
 自分は助けを求めただけだと。
「本当に助けを求めるだったら、その場で大声を出せばよかった。助けてと叫べばよかった。それをあんたはしなかった。ただ逃げただけだから」
 軽蔑したように取り巻きギャルは高渡を見て、教室を後にした。
 高渡は膝から崩れ落ちた。
 全ては独りよがりだった。いや。現実逃避していただけだった。何かいい方向に向かう気がしてただけで事実は違った。
 当たり前だったのに。
 自分が何かしなければ何も変わらないなんて当たり前のことなのに。
 結果を誰かに委ねてしまった。
『あの夢の人なら自分から行動するのに……』
 高渡は絶望の闇に落ちていった。

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