キミだけが知らない物語り~第15物語り 無色~

キミだけが知らないストーリー

 世界は無色だった。
 今までは、時折無色の世界が高渡の元へやってきていたが、高渡が無色の世界へと足を踏み入れてしまった。
 もうあの夢も見なくなった。
 いや。見ても覚えていないのかもしれない。
 高渡は自分に絶望した。
 助けた気でいた。
 自分も夢のあの人のようになれた気がしていた。
 しかし現実は違っていた。
『当たり前だったのに期待してしまったな……』
 高渡が無色の世界に入り込んでも、教室は全く変わらなかった。
 賑やかで煩くて煩わしくて羨ましかった。
 ――もう一度、あの色のある世界へいきたい。でも自分にはそんな資格はない。
 ある意味自暴自棄とも言えるような、無気力とも言えるような状態に高渡は陥っていた。
 だからだろうか。時折、今までの高渡では見せないような行動を見せることがあった。
 とある時は、重そうな荷物を持った老人の荷物を持ち、とある時は探し物をしていたクラスメイトに声をかけて、一緒に探したりしていた。
 しかし、そんなことをしても高渡の世界に色が付くわけではなく、高渡の世界では無意味なことだった。
 それではなぜ、そんな無意味なことをしたのかと問われたら、なんとなく。としか言いようがなかった。

 ●

「あの……」
 この前一緒に探し物をしたクラスメイトの女子が、高渡に遠慮がちに声をかける。
「ん」
 机に突っ伏して寝ていた高渡は、眠そうにだるそうに顔を上げる。
 そこには、名前も知らない女子と椎名の姿があった。
 しかし、もう高渡の胸が躍ることは無かった。
 全てを諦め、何にも希望を持たず、ただその日を過ごすだけ。
 これが最近の高渡の生活サイクルだ。
「この前はありがとう。これ」
 そう言って女子は、小さな飴を1つ渡した。
「高渡くんが見つけてくれたやつさ。私とりおの宝物なんだよね」
 聞けばこの女子は椎名と小学校からの付き合いだと言う。
「ありがとね」
 椎名がにこりと微笑む。
 世界は色を取り戻した。

 ●

 たった小さなことや些細なこと。
 他人にとってはどうでもいいことが、自分にとっては大事なことというのはよくあることだ。
 小さな出来事がきっかけで、大きな成果を生むことも。
 この瞬間、高渡は生きる意味を得た。
『僕はこの笑顔を守るために生まれてきたんだ』
「それと……この前はごめんね」
 椎名が謝るこの前というのが何のことだか分からなかった。
 しかし、高渡はここで自分も謝らなければならないと気づく。
『僕の方こそこの前はごめんなさい』
 心の中では簡単に言えるセリフなのに、口に出して言葉にするのはとても難しいことだった。
「えっと。……じゃあまた」
 少し気まずい沈黙の後、椎名が手を振って高渡の席から離れた。
 名も知らない女子はまだそこにいた。
 何かを話したそうだ。
「私ね」
 高渡が女子を見上げると、女子が話し始めた。
「高渡君って話しかけ辛いと思ってた。ほら、なんて言うかさ、」
 そこで女子は言葉を濁した。
『分かるよ。暗いし友達もいないし』
 そんなことを心の中で毒づきながらも、高渡は話しの続きを促した。
「その……何でかな? と思って」
 何で、探し物を手伝ってくれたのかということが聞きたいのだろう。
 女子はそう問いかけると、頬を染めた。
 この女子は、暗くて地味な子ではない。
 むしろ、椎名の取り巻きギャルと同じくらい明るくてクラスの男子から人気がある。
 そんな女子が、クラスのカースト最下位の高渡に声をかけている光景が異様である。
「探し物を手伝ったことに意味はないけど……」
 高渡は正直に話した。
「私がりおと仲いいから?」
「え? いや。2人が仲いいなんてさっき知ったし」
 高渡がキョトンとして言う。
「探し物を手伝ったことに意味はないし、なんとなく……かな。僕の気まぐれだったんだと思う」
 自分でも理由は分からずに、その理由を探してみると、とある答えにたどり着いた。
「ひょっとしたら意味のある行動をして、自分の人生に意味を作りたかったのかも……」
 女子は、そっか。と言ってその場を後にした。

 ●

「なんてゆーか。闇深って感じだったよ」
 帰り道、女子が椎名に言う。
「へー。そうなんだ。探し物はたまたまかぁ」
 椎名が青空を見上げる。
「あれは何かあって手伝ったって感じじゃなかったね。生きる意味がどーのこーのとか言ってたし」
「何それ」
 あはは。と椎名が笑う。
「にしてもゆかとまた高校で一緒になれるなんて思わなかったなぁー」
 椎名が女子――ゆか――に抱き着く。
「小学校の途中で急に引っ越しちゃうんだもん」
「ごめんごめん。りおは私がいないとダメな子だったもんね。でも成長したみたいだね」
 なでなで。とゆかが椎名の頭を撫でる。
「ま。彼が助けてくれなかったことは許してあげな。あんな闇深な人がヤンキーに立ち向かうなんて無理でしょ」
「そのことは別に怒ってないし許すとかないんだけど。私に近づこうとしてるのかとか、謝るきっかけが欲しいのかとか疑っちゃったけど、探し物を手伝ったのが本当にたまたまだったって分かったからいいや」
「あぁ。なんか不気味だもんね」
 椎名とゆかが高渡のことを笑っている間、高渡は心を弾ませてウキウキ気分で帰っているのだった。
 

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