長身に長い耳を持ち、容姿端麗。
小さな羽を持つのがエルフ族だ。
「絵に描いたような種族ですね」
カーズローが皮肉る。
「ここは神聖な場所だ。さっさと出ていけ」
エルフ族は獰猛な種族ではなかった。
自分たちのテリトリーを荒されなければ他の種族に危害を加えることはない。
ほっとしてカーズローが腰の剣の柄を握る手を放すと、先ほどのエルフが敵に気づいた。
「貴様!」
突然怒り出したエルフは、カーズローが聞いたこともない言葉を使い始めた。
それは、特殊な旋律を奏でており、魔力がないカーズローにでさえ、これから魔法による攻撃があると分かった。
「これが魔法の詠唱ですか」
木々の間を素早く縫うように駆け抜けながらカーズローが隣を走る敵に言う。
「大した魔法ではない」
どうやら敵には、先ほどの男エルフがどんな魔法を使うのか分かったようだ。
「この地の弱点は火の魔法が使えないところだ」
「周囲の木々が燃えてしまうからですか?」
カーズローが的確に言うと、敵はそうだ。と頷いた。
「この地でエルフが使う魔法は主に植物魔法だ」
「植物魔法……」
「あぁ。あれは、バインと言って蔓を出現させて対象を捉える魔法だ。な? 大したことないだろう?」
それでも男エルフから遠く離れるということは、警戒をしている証である。
「捕まった後に何かされると?」
カーズローの言う通り、蔓で捕獲した後には何をされるか分からない。
「まずは捕まらないことだ」
男エルフから伸びてきた蔓を切りながら敵が言う。
「敵殿。自分が蔓を切るので敵殿は本体をお願いします」
カーズローが敵の前に進み出て蔓をどんどん切る。
男エルフはバインの魔法を使いながら思考していた。
『重ね魔法が必要か……』
カーズローの剣捌きは凄まじく、どんどん男エルフに敵が近づいていた。
このままでは攻撃されるのも時間の問題だろう。
重ね魔法とは、同じ魔法を何重にもして魔法を強化すること。
エルフ族にかできない芸当だと言われている。
男エルフは、バインを3重に重ねることで強力な蔓を出現させた。
通常であれば、太い蔓ほど切りにくくなるというもの。
しかし――
「所詮は植物。切れないものはない!」
人類種最強と呼ばれる敵の右腕なだけはある。
カーズローの腕は確かだった。
「……下等種の癖に生意気な」
男エルフが再び詠唱を始めた。
「! 下がれ! カーズロー!」
間一髪。
先ほどまでカーズローが居た場所に、先が鋭く尖った蔓が出現していた。
「別の魔法ですか」
カーズローが舌打ちをする。
「敵殿は、一度聞いた詠唱を覚えているのですか?」
「まぁな。今のはバイニーという魔法だ。覚えたか?」
「切るより前に刺さりそうですね」
こくり。と頷きながらカーズローが言う。
「あぁ。あの攻撃は避けるのが正解だ」
「めんどくさいですけど、問題ないです」
ギロリとカーズローが男エルフのことを睨み、再び走り出す。
「殺すなよ? 捕らえるんだ」
「りょーかい!」
カーズローは、バインとバイニーを避けながらどんどん男エルフに近づく。
――ザンッ!
「!」
男エルフの目の前でカーズローは、植物の檻に閉じ込められた。
「罠の魔法か!」
小さく舌打ちをしながら、檻を切るが硬くて数が多い。
「迂闊に近づくからだ」
男エルフが意地悪な笑みを浮かべる。
バイニーでカーズローを突き刺すつもりだ。
「あの世で後悔するがいい」
鋭い蔓がカーズローに向かう。
●
ガブリーはセチアから遠く離れた地にいた。
「! こんにちは。思考停止野郎」
背後の気配を感じてガブリーが声をかける。
危害を加える気はないと知ってか、振り向きもしない。
「あなたの作品はあれですか? 堕天使ちゃん」
「思考停止野郎には作品にしか思えないんだね」
ギロリと、自分のことを堕天使呼ばわりした者の方を向く。
思考停止野郎とガブリーから呼ばれたその者の姿もまた、天使そのものだった。
「やっとこちらを向きましたね。ガブリー」
にぃっ。とガブリーそっくりの顔が引きつった笑みを浮かべる。
「えぇ。ミカー。本当は見たくもないのだけど、アナタはしつこいから」
やれやれ。とガブリーが大きな羽を手のように顔の近くに持ってくる。
「堕天使ちゃんはホントにムカつきますねぇ」
ミカーと呼ばれた天使族が、大きな羽を広げてその周囲を白く光らさせた。
「正気? ワタクシとやり合うつもり?」
ガブリーも羽を広げると、その周囲は黄色く光り始めた。
「堕天使ちゃん。あなたにはとっくに失望しています。ここでいなくなるがいい!」
目もくらむような閃光が辺りを包んだ。
●
男エルフがカーズローにとどめを刺そうとバイニーを使うも、それは敵によって阻止された。
「貴様だけは許さん!」
敵がすぐ近くにいることで、男エルフの怒りのボルテージは更に上昇した。
確かに敵は、エルフ族の宝を傷つけたようだ。
「敵殿! 一体何をしたのですか? こいつの怒りようは尋常じゃありませんよ?」
カーズローが檻から脱出しながら聞くが、敵には身に覚えがなかった。
「シラを切るか! それとも記憶に残らないほど、我々エルフ族は取るに足らない存在か?」
敵の態度に益々男エルフは怒りのボルテージを上げる。
男エルフは怒りに身を任せて魔法の詠唱を始める。
魔力をもたないカーズローですら、その魔法の力を感じるほどだ。
肌を突き刺すようなピリピリとした空気。
「魔法は感情に影響するとガブリーは言っていたが、その通りのようだな」
などと敵が感心しているが――
「それどころじゃないですよ!」
あちらこちらから、棘つきの蔓が出現して、敵とカーズローを襲う。
更には、張り巡らされた罠が2人の動きを制限した。
「ニードルバインか……大した攻撃ではない。と言いたいが、これ程の数となると大した攻撃になるな……」
「何を落ち着いているんですか敵殿!」
慌てるカーズローを見て男エルフが微笑む。
「流石にこれだけの攻撃を避けるのは不可能だろう」
「やつの言う通りですよ敵殿!」
「カーズロー。落ち着け」
そう言って敵は棘だらけの蔓に巻き付かれてしまった。
「敵殿ー!」
森の中でカーズローの声だけが響いた。
