――世界は、完璧であるはずだった。
空はどこまでも青く、雲は決められた軌道をなぞって流れていく。
山は崩れず、海は溢れず、人々は“正しく”生まれ、“正しく”死ぬ。
少なくとも、この世界はそう”設計”されていた。
だが――
誰にも気づかれないほどの小さな歪みが、確かに存在していた。
それを偶然、いや必然にも見つけてしまったのが――カケル――という名の少年だった。
カケル――
レベル1。
能力値も全てレベル1。
戦闘能力は極めて低い。
この物語の主人公である。
「……なんだ、これ」
思わずカケルは絶句した。
彼の視界の端で、空間が一瞬だけ赤く点滅した。
まるで現実が、間違いを認めたかのように。
――【警告:座標補正失敗】
文字はすぐに消え、世界は何事もなかったかのように元に戻る。
周囲の誰も、異変に気づいていない。
心臓が、遅れて大きく跳ねた。
「今の……見間違い、じゃないよな?」
カケルは自分の手を見る。
普通の手だ。弱く、細く、力もない。
そして先ほどの言葉の意味は不明。
(座標補正失敗って、どういう意味なんだ?)
この日、カケルは魔法学園の入学試験で“最下位”の評価を受けていた。
ステータスはすべて最低値。
周囲から向けられるのは、同情か、無関心。
あるいは嘲笑だった。
――ただ1人を除いて。
「その言葉……あなたにも見えたの?」
凛とした声が、背後から聞こえた。
振り返ると、白い髪を揺らした少女が立っていた。
シラサギ。
学園首席にして貴族出身。所謂完璧な存在である。
彼女は確信に満ちた目でカケルを見る。
「それは“エラー”よ。本来、この世界に存在してはいけないもの」
その瞬間、カケルは理解した。
自分は――
”この完璧な世界の欠陥を見つけてしまった”
のだと――
そしてこの小さなバグが、やがて世界そのものを揺るがすことになるのであった。
空のどこかで、見えない歯車が、静かに狂い始めていた。

