「大天使様! ボクは必ずやこの世界を綺麗で真っ白な世界にしてみせます!」
高揚する気持ちを抑えられないまま、人間世界――現世――に降り立った天使、アリエルは知らない。人間が持つ感情が実に複雑で様々であることを。
人間の悪意を――
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「イヒヒ。あいつ。ボクの力を増幅するのに役立つな……」
真っ黒い布切れを、文字通り体に巻き付けただけの少女が呟く。
その手には、巨大な真っ赤な鎌が握られていた。
「気を付けなさいネム。人間は貴女が考えるほど愚かな生き物ではありませんよ」
「だーいじょうぶ大丈夫! さっ、ボクに一度だけ使える召喚魔法の書物を頂戴」
真っ黒な衣装を来た天使が、大きな黒い天使に手を差し出す。
その手に、忍者が扱うような巻物が手渡されると、小さな黒い天使はほくそ笑む。
「これでボクも立派な死神になれる」
開いた書物から目もくらむような閃光が走る。
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この世界はクソだ。
学校で目立っていい気分になる人は一握りで、その他は引き立て役だ。
そんな奴らには絶対に分からない。
教室でキラキラ輝いてるやつらを、教室の片隅で卑屈に笑って眺めているだけ。
いや、眺めることすらできない。
見たら、「何見てるんだよ」とか言われるかもしれないからだ。
こんなクソみたいな世界全部ひっくり返せたら――
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「お♠ 気がついたかい?」
大鎌を重そうに肩に担いだ、幼女のような姿の子がケタケタ笑う。
「君は?」
いや。ハルが本当に聞きたかったのは、ここは? だったはずだ。
しかし、その幼女の異様な出で立ちに訊かずにはいられなかった。
「ボクの名前はネム♣キミをこっちの世界に召喚した死神さ♥」
えっへん。と無い胸を張る。
「まぁ本来ならばボクが主人だと言いたいところだけど♦ボクの強いパワーを集めるためにはキミの力が必要なんだ♠協力してくれよ? あっちの世界の住人♦」
ずいっ。とネムと名乗った幼女がハルの顔の近くまで顔を近づける。
ハルには経験のないことだ。
それだけでドキドキしてしまった。
「ボクは具体的に何をすればいいんだ?」
胸の鼓動が収まらないまま、ネムに訊ねる。
ハルにとっては知らないことだらけだ。
「そうだね♣まずは一緒に世界を見て回ろうか♠ボクも人間世界のことはよく知らないからさ♥」
ネムはなぜか自慢げに言って、ハルを見た。
「……」
ハルはそのままネムを見返す。
「どうしたんだい? 自由に動いていいんだよ?」
そう言われてもハルはまだ思考が追いつかない。
ましてや、知らない土地、世界だ。
そう簡単に動けるものではなかった。
そう言おうとした時だった――
「たぁぁぁすけてぇぇー!」
少女の声がする。
ハルは周囲を見渡すが、明らかに上方から声がしているのが解せなかった。
上を見た瞬間、ネムと同じくらいの年齢にしか見えない女の子が落ちてきた。
そのままネムと頭をごっちんこした。
「「いったぁー!」」
幼女2人が涙目になる。
「いたたたた」
落ちてきた幼女が頭をさする。
一瞬ハルを見て目が合う。
ハルは文字通りの天使を目の当たりにした。
「あー!」
幼女天使は、ネムを見て突如叫び出した。
叫ばれたネムも負けじと叫び返していた。
「天使!」
「死神!」
再び2人が同時に叫ぶ。
「人間を利用する気ね!」
幼女天使がハルとネムの間に割って入る。
瞬間、天使と呼ばれた幼女と死神と呼ばれた幼女が自らの力を最大限解放した気配が周囲を包む。
ハルははっきりと自覚した。
いつの時代でも、天使と死神は相容れぬ存在だと。
そしてハルは予感する。
この2人はこの場で――

