「見ろよこの死神」
いかにもゴロツキと言わんばかりの大男が涎を垂らす。
「見世物にするか? それとも邪魔者を消すか?」
鳥かごにネムを閉じ込めてもう1人がナイフを取り出す。
「まずはアニキに相談だろ?」
奥から無精ひげを生やした男が顔を出す。
「アニキに言ったら全部アニキのもんになっちまうよ!」
ナイフの男がナイフを振り回す。
「ならどうすんだよ?」
大男が鳥かごをひょいと持ち上げて問う。
「売っちまおうぜ」
無精ひげがニタリと笑みを浮かべた。
●
「だめだ。全然見つからない……」
ハルが肩で息をしながら言う。
もう夕暮れだ。
ハルもアリエルも分かっていた。
もう手遅れであると――
しかしそれを口に出したらもう、戻れなく気がしていた。
「また明日……」
アリエルが今にも泣きそうな声で言う。
「それじゃだめだ」
ブンブン。とハルが頭を振るが、結局は宿屋に戻り眠れない夜を過ごした。
翌朝、ハルは朝食を飲み込むように胃袋にかき込んだ。
頭をフル回転させるためだけに食事を摂った。
栄養素を全て脳へと送るように、胸の中で念じる。
ハルとアリエルはあてもなく、やみくもに街中を走り回った。
「ハル。手当たり次第じゃなくてもう少し考えてから探した方が」
「それじゃ遅すぎる! 今も死神ちゃんがどんな気持ちでいるか」
「どんな気持ちってハル……」
アリエルが悲しそうな表情を見せる。
「え?」
思わず先を急ぐハルが振り返って、アリエルを見る。
「あのねハル。天使にも死神にも……」
そう言いながらアリエルは俯いた。
そして、続ける。
「ううん。人間だけだよ?心を持ち合わせているのは」
「え? それってどういう――」
ハルはそこで言葉を区切った。
目の前で異質な光景を目にしたからだ。
●
そこは、普段は閑散としたお店だった。
珍しい動物を売っているペットショップ。
需要が無ければ客など来ない。
それなのにハルの目の前のそのお店は、お客でごった返していた。
「絶対に何かあるよ!」
ハルの言葉を聞いたアリエルが、ハルの背中をバンバン叩く。
「なら急ごう!」
ハルが人混みをかき分けて、店内に入って目にしたのはネムだった。
●
「死神ちゃん!」
ハルの叫びはざわめく店内に消えた。
人だかりができるわけだ。
死神なんて人生で一度見れば奇跡だろう。
異世界では珍しくないのかもしれないが、少なくともハルが生きてきた世界ではそうだ。
むしろそんなもの信じられていない。
「ください!」
商品として売られているならば話しははやい。
買うという行為が胸を痛むが、他の人に買われるよりも前に買うことができたのは奇跡だろう。
それもそのはず。
死神の値段は、法外も法外。
一般人が一生かけて稼げるお金の10倍はした。
「天使ちゃんと死神ちゃんが無駄にお金持ちでよかったよ」
ネムを鳥かごから出しながら、ハルは急いで店内を出る。
ハルは死神を購入したことで目立った。
更にはその隣に天使までいる。
「もうこの街には居れないね」
街の郊外で呼吸を整えてから、ハルはネムと向き合った。
「もう! 二度と僕から離れるんじゃないよ! 天使ちゃんも死神ちゃんも! 僕が守るから」
ハルは優しくアリエルとネムを抱きしめた。
ネムはそれがとても居心地の悪いものだと思っていたのに、どこか居心地が良くなぜか涙が溢れてきた。
「あれ? どうしてだろ?」
ネムが何度も涙を拭うのを見て、ハルが微笑む。
「安心したんだね」
「安心? 死神が安心なんてするわけないでしょ」
その言葉を聞いて、アリエルが驚いた顔をするが、ハルはそれでもネムの表情が穏やかなものになっているのを見て確信した。
「安心したんだよ」
「死神に心が宿ったとでも言うんですか?」
ぷい。とアリエルがそっぽ向くが、ハルが無理やり向き直させた。
「天使ちゃんも死神ちゃんも心が無いのかい?」
「感情なんて、使命を全うするのに邪魔だからね」
ちーん。と鼻水をかみながらネムが無い胸を張る。
「天使も死神も、使命を全うするだけの生き物だよ?」
当たり前じゃない。とでも言いたげな顔をして、アリエルが言う。
「それじゃロボットじゃないか」
ハルの呟きはアリエルとネムには聞こえなかった。
それでもハルは思った。
心がないなら涙なんか流さない。
心がないならハルの後を必死に追いかけてこない。
そして、心の中だけで答えを出した。
――君たちはロボットじゃないんだよ。

