「なぁーんでキミと行動を共にしなきゃいけないのかなぁー?」
ネムがムスッとして言う。
「ボクこそ。アナタと一緒に行動をするとは思わなかったよ」
プイッ。と、幼女天使――アリエル――はそっぽ向く。
2人ともつい先ほどまで一触即発だったというのに、ハルの後をついて行っている。
その理由はいたってシンプル――
「いい加減にしてくれ2人とも」
ハルが注意すると幼女天使と幼女死神は大人しくなった。
「ったく。解放する力がないなら戦おうとなんてするなよな……」
ハルがブツブツ言うが、幼女天使と幼女死神はどこ吹く風だ。
「お♦人間! この食べ物おいしそうだぞ!」
ネムが屋台の綿菓子を指さす。
「ふん! 死神はお子様だね! ボクはそんなもの食べたく」
ハルは2人を黙らせるために、2人の口に綿菓子を突っ込んだ。
2人は目を輝かせた。
「人間はこんなおいしいものを食べているのか♠」
「ボクの知らない食べ物がたくさんあるようだ……」
街は見る限り平凡で、何のためにハルがこの世界に呼ばれたのか理解しがたかった。
ふと脳裏にクラスの女子が浮かんだ。
「なぁ」
ぶんぶん。と脳裏に浮かんだユイの顔を振り払ってから、夢中で綿菓子を頬張るネムにハルが声をかける。
「なんで僕をこの世界に呼んだんだ?」
ネムは初めて、死神らしい笑みを浮かべた。
「なんでってキミ♦世界を恨んでるじゃん♠卑屈に見てるじゃん♥」
「ちょっと!」
アリエルが咎めるような声を出すが、ハルがそれを制止した。
「別に恨んでもいないし卑屈にも見てない」
ハルは無意識に視線を地面に落す。
その様子をアリエルが見て、自分の手を見た。
手が一瞬白く光った。
「……あの」
「なら」
アリエルが何か言うのを遮るようにネムは、綿菓子の棒の先端をハルに向けた。
「なんであの子供を助けなかったの?」
あの子供。と言って棒の先端を泣いている子供に向けた。
「天使が直接介入してはいけないことは知っている♠キミが助けて泣いている子供を笑顔にすればこの天使の力が増幅されたのに」
この天使と言って今度は棒の先端をアリエルに向ける。
「やめて。まだこの世界に来たばかりなんだからしょうがないでしょ」
ポカリ。とアリエルがネムの頭を叩く。
「ボクは確信したよ。アナタが行動して人々を笑顔にすることで、この世界を幸せにできると。ボクはそのために何でも手伝うよ」
「は♦傲慢だね♠世界を幸せに? ボクたち死神でも世界全てに影響を与えることはできないのに?」
「アナタは黙ってて」
「黙るのは天使の方だよ♦いいかい? キミはあの泣いている子供を見て自業自得だと思った♥そうだよね? 親と手を離したのがいけないんだから♣ボクはキミのその意見を尊重するよ♥」
ネムの黒い目が光ると、何故かアリエルは押し黙った。
「あーやれやれ♣やっぱりあの程度じゃ力1回でおしまいだなー」
「アナタねぇ」
再びアリエルがネムの頭をポカリと叩いた。
●
「確認したいんだけど」
その夜。宿屋に泊まりながらハルが訊く。
「僕がさっきの子供を助けたら天使ちゃんの力が増幅するって言ってたけど、あれってどういう意味?」
「んー? ボクそんなこと言ったかなぁー?♦」
相変わらず綿菓子を頬張りながらネムがとぼける。
「ごめんね。ボクも詳しくは話せないんだ」
ハルがアリエルの方を向くと、アリエルも言葉を濁した。
「で、君たちがお金をたくさん持っている理由も秘密なわけだ?」
ごろーん。とハルは畳に寝転んだ。
「そんなことよりさ♦」
ネムが無邪気な笑みを浮かべる。
「明日はどこに連れてってくれるんだい?♥」
「どこって。僕だって全くこの世界を知らないのに」
「ボクたちも人間世界のこと全然知らないから、まずは色んなところ見て回ろうよ」
アリエルも目を輝かせる。
『人間世界か……』
ハルは、幼女天使と幼女死神の眼差しを避けるように寝返りを打って、背中を向けた。
●
――煩わしい……
――鬱陶しい……
教室で楽しそうに笑っているあいつもこいつも。
隣で僕をそんな目で見ている形だけの友人も――
周囲の目を気にしているのは僕だけで、
実際は誰も僕のことを見ていない。
ならいっそ――
●
ハルはいつの間にか寝入っていたようだ。
心臓が激しく脈打っている。
「あ♠おはよう」
ネムと目が合った瞬間。
ハルは、先ほどまで見ていた夢の内容を全て知られたような気がした。
「どうしたの? 顔色が悪いよ?」
ニタニタ笑うネムの隣で、アリエルが心配そうに顔を覗く。
「やめてくれ」
咄嗟的にハルはアリエルを払いのける。
「ハル……」
心配そうにアリエルが手を伸ばすのを、ネムが止める。
「分かる~♦分かるよぉ~♥鬱陶しいよね? そーゆーの♠」
すいっとネムがハルの横に滑るように移動した。
「全部ぶち壊したくなるよね♥」
ボソッ。と耳元で囁く。
その唇が妖艶に光ったのをアリエルは見逃さなかった。
「さ♦ぶち壊しに行こ♥」
ネムに手を引かれるように街へ繰り出すハルを、アリエルは寂しそうに見つめ、そっと後を追った。

