「見て見て! あいつら楽しそうに遊んでるね♠どうやって壊す?」
ネムが噴水広場で遊んでる子供たちを指さしたかと思えば、今度は木陰で休んでる老人を指さした。
「こんな朝っぱらからのんびりしてて♠いい身分だね!」
さっきからずっとこの調子だった。
あんな夢を見て落ち込んでいたハルだったが、
正直ここまでされると逆に気持ちが整理されてくる。
「あのねぇー。僕が何でもかんでも破壊するような悪魔に見えるか?」
アリエルを見習って、ハルはポカリ。とネムの頭を叩いた。
そんなハルを見てアリエルは優しく微笑んだ。
「なぁーにを笑ってるんだよ! この天使風情が!」
ぷーっと頬を膨らませて、ネムがアリエルに襲い掛かる。
まるで子供の喧嘩だった。
思わずハルは声を出して笑った。
「「え?」」
アリエルとネムが同時にハルを見る。
「何?」
キョトンとしてハルもアリエルとネムを見る。
「ハルの笑顔を初めて見たよ」
ぱぁー。とアリエルの表情も明るくなった。
「ボクはてっきりキミは笑わないのかと思ってたよ♠」
「あのなぁー。だから僕は悪魔じゃないっての」
再びハルがネムの頭をポカリ。と叩く。
そんなやりとりを見て、アリエルは胸がチクリと痛むのを感じた。
「?」
しかし、アリエルはその痛みの正体が何なのか分からなかった。
「天使ちゃん。どうかした?」
アリエルが急に黙ったのに気がついたハルが振り返る。
「いや。なんかここんところがチクってしたんだけど、もう治ったみたい」
ここんところ。と言って自分の胸を指さす。
「おやおやー? それはびょーきかもしれないよ♦今すぐ寝て休んでなよー♠」
「だからもう治ったって言ったでしょーが!」
またもやぎゃーすかやり出した。
ハルはそんなやりとりをみて、どこかほっとする自分がいるのに気がついた。
そして今、アリエルにほっぺたをつねられて伸ばされているネムを見る。
『死神ちゃんは、僕の心の奥底の気持ちに気づいてる……』
●
昼になるとハルはいよいよやることを失った。
この世界での目的が不明だからだ。
「てきとーに過ごせばいーじゃん♣」
ネムの言葉は正解なのかもしれないが、ハルにはてきとーに過ごすことができなかった。
やることがない。ということが既に劣等感のレッテルを貼られているような感覚になってしまうからだ。
「人間は忙しい人ほど充実する生き物なんだ?」
アリエルが首を傾げる。
「忙しいはステータスだ。メッセージの返事を返すのに忙しい。バイトに忙しい。勉強に忙しい。部活に忙しい。彼氏彼女友達との関係に忙しい。僕は何もなかった」
「そんな奴らぶち壊してやろうよ♥」
「何度も思ったさ。こんな世界壊れてなくなれってね」
何もない石畳に、ハルは寝転ぶ。
「でも。何もしなかったんでしょ?」
そんなハルの顔をアリエルが心配そうに覗き込む。
「分かってないなキミは♠何も出来なかったんだよ。だから今イライラしてるんじゃないか」
その言葉を聞いてハルが起き上がる。
「その通りだ」
「僕はきっと、こんな現状を壊したいんだ」
「そうと決まれば壊しに行こう!♥」
ネムが無邪気に笑うが、ハルは首を横に振った。
「できるわけないだろ? 死神ちゃんは死神だからできるのかもしれなけど、僕は人間だぞ?」
この言葉がネムの胸に強く突き刺さった。
「そんなの……」
ポツリとネムが零す。
「え?」
「うるさいよバカァー!」
うわーんと泣き叫びながら、ネムは走り去ってしまった。
「まずいよ」
アリエルの顔が青ざめている。
「こんな広い街でネムを探しだすのは大変だよ」
「別にお腹が減れば帰ってくるだろ」
「分からないのですか!」
アリエルは必死だ。
「ボクとネムは天使と死神だ! アナタたち人間とは違う生き物なんだよ! 普通。こんなボクたちが目の前に現れたらどう思うか……」
その言葉を聞いてハルもはっとする。
興味本位で見世物にする人間。
幼女というだけで興奮する人間。
自分の利益のために利用する人間。
「行こう」
今すぐに探し出さなければ。
期限は日が落ちるまで。
それまでに見つけなければ、
何が起きるか分からない。
それまでにネムを探し出さなければならなくなった……
