人間は全ての生き物の中で一番弱い。
なのになぜか、世界は人間が中心で回っている。
世の中は不思議だ。
今だに世間には、知らされていない生き物が多種いる。
竜人、虫人、魚人、鳥人……人と似たような姿をしている生き物だけでもこれ以上にいる。
ではなぜ世間に知らされていないのか。答えは簡単だ。世間に知らされてしまえば、人間中心の世の中ではなくなってしまうからだ。
そのために政府はずっとこういった生き物の存在を秘匿し続けていた。
更には、種族によってはとても高く売れることもあるのだが、その話しは後ほどしよう。
ところで、人間の中にも階級というものがある。
一番のトップが王族と呼ばれるごく一部の階級。その下に貴族と呼ばれる金持ち階級がある。貴族の下が平民だ。ほとんどの人間が皆、平民であることは容易に予想がつく。平民は当然ながら様々な仕事をしており、平民の仕事によって人間の世界は支えられていると言っても過言ではない。
例えば、王族や貴族を守るのも平民の仕事だ。主に彼らの仕事は侍や忍と呼ばれる。
王族や貴族だけでなく、他の市民を含めてほぼ全ての人間を守る仕事をしているのが政府である。
政府には陸地を守る陸軍や海上を守る海軍、火事専門の火消しなどの細かな職種に分かれる。
こういった人を守る仕事もあれば、一般的な商人や農民という仕事もあり、こういった一般的な仕事をしている人の方が多かった。
こういった仕事をしている平民階級よりも下の階級もいる。その階級には名前すなく、名前がないので不名と呼ばれるようになった。
さて、この世界には多種多様な生き物の他にも世間には知られていないことがある。
それが能力と呼ばれるもの。
能力とは読んで字のごとく、生き物に様々な特別な力を与えるものであり、訓練さえすれば誰にでも会得可能なものである。
誰でも会得可能なため、能力というものがあるということは世間一般にも知れ渡り、それこそ仕事にこれら能力が使われることもある。
ただし、これら能力を手に入れるにはどうしても副作用がある。そのため、一般的には便利な能力なのだが基本的には誰も自ら進んで能力を手に入れたいと考える者はいなかった。
ところが、ここに世間一般に知られていない事実があった。それは、この能力を副作用なしに手に入れる方法が最近になって分かったという事。
もちろんこの方法が世間一般に知られれば、人間は能力者で溢れてしまう。そこで王族と貴族がこの情報を独占しているのだ。
この方法を発見したのは、王族や貴族のために働いている研究者と呼ばれる仕事の人だ。
研究者も階級としては平民なのだが、王族や貴族に仕えているということもあり、他の平民よりもやや上に位置づけされることが多い。
よって、この副作用なしに能力を手に入れる方法を知っているのは、王族と貴族。そして彼らを守る仕事をしている侍と忍。王族と貴族のために働く研究者、そして政府の上層部のみとなっている。
彼らは副作用なしに用意に能力を得て、犯罪者たちを取り締まり、世界を平和に保っている。
この世界では、階級も仕事も生まれた時から決まっており、これに不平を漏らす者もいるが、そういった者たちは、政府によって厳しく取り締まられていた。
名目上は、世間に不安を煽り混乱を招くために取り締まっているが、王族も貴族も侍も忍も政府も皆、自分たちの地位を守りたいだけである。
こうして、政府や侍や忍によって一応は、世界は平和なはずだったのだが、今現在、人間の世界――すなわち人間界――は混乱していた。
「反政団が現れたぞー! 団長の希出もいるぞー!」
陸軍の大将が叫ぶ。
「王族、貴族をお守りしろー!」
侍の大将軍が続けて命令する。
「団長の首をオレの前に持ってこい! オレの奴隷を盗みやがって!」
一人の王族が、先ほど命令していた侍に怒鳴った。
怒鳴られた侍は、はっ。と一声答えて、反政団団長の希出無に向かって走り出した。
「だーっめよ!」
男の声がするが、喋り方は女っぽい喋り方だった。
「お前は、反政団の二大おかまの一人! 反政団輸送・工作隊二組組長の男無!」
希出と希出に向かって走る侍との間に男が現れ、侍はその男に向かって叫んで刀を抜いた。
「そうよ! あちしはおかま。あんたみたいな侍にまで名前が知られているのねぃ」
男無と呼ばれたおかまがにやりと笑う。
「知らない方がおかしい。世界最大の犯罪者集団。その中の組長や組員と言えば有名人ばかりさ」
「犯罪者とは酷い言いようねぃ。あちし達は奴隷を解放して全ての世界を平等にしようとしているだけよぅ」
「それが犯罪だと分からんか!」
侍が刀を振りかぶる。
「これが侍にだけ持つことが許される刀ね」
ところが、いつの間にか侍が持っていたはずの刀は男無の手にあった。
男無は刀の刃の部分に指を這わせながら侍を見る。
「な……に……?」
現実離れした状況に侍の動きが止まる。
「あちしにすら勝てないようだと。到底他の仲間には勝てないわよぅ」
『くっ……確かに組長は反政団の中でも、中の上くらいのレベルのはずだ……それでこの強さなのか……ありえない』
男無の言葉に侍は返す言葉が無い。
その様子を見て男無が長いため息をつく。
「ふー。だーめね。あちし達には勝てないのよーう」
そのまま男無が走り出す。
侍も身構えた。
『能力を使うか……』
そう思ったのも束の間。
侍が能力を使う前に、侍は男無に殴り飛ばされていた。
侍の目には、男無が消えたように見えた。そして気が付けば自分が殴り飛ばされていた。
「くっ……一体どういう」
訳も分からない。という侍の言葉を遮るように一匹の動物が目の前に現れた。
ありえない大きさだ。爪もでかい。
見た目だけなら、巨大な狐のようだ。
「爪獣族……」
侍が驚きの混じった声を出す。
鳥人や魚人と同じように、世間に知られていないわけではない。
普通の動物よりも体の一部が発達した動物を、災害を呼ぶ悪魔として政府は世間に広めている。
爪獣族もその一種だった。
普通の狐よりも爪が発達しているため、爪獣族に分類される。
「あーら、ギャンじゃなーい」
男無が狐の名前を呼ぶ。
「男無。そいつ喰っていいか?」
狐が喋る。
「反政団……爪獣族や他種族までも見方につけたか……」
侍がギラリと睨む。
「侍が大将軍。ユーグ・ローが相手しよう!」
「ユーグなんてかなりの有名ねっ! ギャン、食べちゃって」
男無がユーグを指さすとギャンがユーグに向かって走り出した。
「ギャン……どっかで聞いた名だと思ったら。輸送・工作隊二組か。男無、お前の部下だな?」
ユーグは答えを求めているというよりも、自分で確信をしたかったかのような物言いをした。
そして、自分に向かってくるギャンに対してパンチを繰り出した。
しかしさすがは獣のギャン。ユーグのパンチを軽々と避ける。
――ところが、なぜかギャンはダメージを受けた。
「噂は本当のようねぃ。さすがは侍の階級の中で一番上の大将軍。厄介な能力だわん」
男無はそれだけ言い残して走り出した。
男無が言う噂とは、ユーグが睨んだ相手は必ずダメージを受けるというもの。
「オレの力、<にらむ>からは逃げられん」
「それがあんたの能力ねぃ? あちしに勝てるかしらねん?」
男無がそう言い終えると、先ほどまでユーグの視界に捕らえていたはずなのに再び男無の姿が消えた。
瞬間、ユーグは再び男無に殴り飛ばされていた。
「言っておくけどあちし、まだまだ全然本気出してないわよぅ」
男無が、がっはっはと笑いながらユーグに近づく。
「くそ。わけがわからん
起き上がりながら男無をユーグが睨もうとする。
しかし――
「このクソガキが!」
<にらむ>力で殴られたギャンがキレてユーグに襲い掛かる。
発達した爪でユーグを押さえつけ、鋭い牙でユーグの頭を噛み砕こうとする。
しかし――
「ユーグ様!」
一人の男が走ってきてギャンに飛び蹴りをくらわした。
「ガンキン! 助かった!」
ユーグが助けた男の名を呼ぶ。ガンキンは陸軍大佐の階級だ。
「ガンキンんー? 聞かない名ね。どこの馬の骨かしらぁー?」
男無がガンキンに向かって歩く。
「オレは陸軍大佐だ。男無! 勝負しろ!」
ガンキンが銃を構える。
「あちしと戦うの? いい度胸ね。ユーグも相手にしてやるわ。こっちにはギャンもいるしね!」
男無は少しイラついているように見えた。
名前を呼ばれたギャンもそれに応えるように吠えた。
そして、その視線の先にはもう一人陸軍の隊員が映った。
「あら、そこにももう一人兵士がいるじゃない。当然あちし達の敵だから攻撃の対象よーう」
男無に指を指された陸軍隊員はビクリと身をすくませる。
この隊員は反政団の下っ端である、雑兵と戦う予定の兵士である。
陸軍において隊員とは一番下の階級にあたる。
「卑怯なやつらめ……」
男無は反政団の中でもそこそこ上のランクの階級である。それほどの実力者が政府の一番下の階級を狙っていることに対して、ユーグが歯を噛み締める。
「卑怯?」
ユーグの言葉を聞いた男無が、剃り残した顎髭を触りながら言う。
「あんたらみたいに身分に囚われている奴らがいる限り、あちし達はどんな作戦もとるわ」
「はやく逃げろ!」
ガンキンが隊員に叫ぶ。
同時に隊員が走り出そうとする。
「むーだよぅ!」
ところが、男無が素早く隊員の目の前に躍り出た。
隊員を逃がさない気だ。
「逃がすんだよ!」
それに対してユーグが男無に刀で切りかかる。
「剣技が凄いと聞いているわ。厄介ねぃ」
ユーグの剣術に対して男無が短剣で応える。
「オレもいるぞ!」
ユーグと男無の戦いにガンキンが割って入ろうとする。
が、しかし――
「オレもな」
そのガンキンの後ろから今度はギャンが現れた。
間一髪ギャンの牙攻撃をガンキンは避けた。
そのままギャンはユーグへと向かった。
ユーグは男無と戦っていたが、突然現れたギャンの爪攻撃で刀を弾かれる。
そのまま男無は最初に指を指した陸軍隊員の元へと向かう。
「行かせるか!」
今度はガンキンが男無に向かって走る。
「なかなか速いわねぃ。でもあちしの方が速いわ」
男無がガンキンよりも速く走って隊員に向かう。
「もーらったわよーう!」
隊員に追いついた男無が短剣で隊員を刺そうとした瞬間――
「そこまでだ男無! 全ての奴隷を解放した」
希出が現れて男無を止めた。
ギリギリのところで男無の短剣は隊員に刺さっていなかった。
ギャンも希出の言葉に従いユーグへの攻撃を止めていた。
「反政団団長の希出……」
ガンキンが驚きの声を出す。
「希出。こいつらを喰わせろ」
ギャンが牙を剥きだす。
「ダメだギャン。無駄な殺しはしない。オレらは戦争をしに来たんじゃない」
ギャンはユーグに馬乗りになり、今にもその喉元を食いちぎりそうだった。
ガンキンは男無を追いかけるのをやめ、男無は陸軍隊員への攻撃を辞めた。
希出はユーグに背を向けて歩き出した。
ゆっくりと退却するつもりだ。
「命拾いしたなガキども」
ギャンは馬乗りになっていたユーグから離れた。
男無も首を左右に振りながら短剣を収めた。
「希出の命令じゃ仕方ないわね」
「ここでそんな大物の首を放っておくか!」
ところが、一人だけこの争いを辞めようとしない者がいた。
ガンキンだ。
ガンキンは希出に向かって走り出した。
「やめろガンキン!」
ユーグの命令も聞かない。
「おいおい。命は大事にしろよ?」
走って来るガンキンを見て希出が嬉しそうに言う。
「あーあ。団長が楽しみの笑顔を見せちまったよー」
男無の隣に、反政団輸送・工作隊長の再武がやって来た。
「あら隊長。どーするの? 希出が戦い始めちゃうわよぅ?」
再武は男無の上司に当たる。
「引き上げる準備だけしとけ」
再武がそう言うと、はいよ。と一言男無は返して、ギャンと逃げる準備に取り掛かった。
本来、輸送・工作隊は人員や物資の移動などがメインの仕事であり、戦闘がメインではない。
希出に向かって走るガンキンはなかなかに速かった。
そのままに希出に思いっきりパンチを食らわせる。
続けて蹴り飛ばす。
吹っ飛ばされた希出は真後ろの岩にまともにぶつかってしまった。
そのままガンキンは追い打ちをかけるように希出の顔面を一発殴る。
さらにもう一発殴ろうとした時、希出に腕を掴まれた。
「政府にいるなら。オレの能力くらい知っているだろう?」
驚いたことに希出へのダメージはゼロだった。
「このダメージを放出しなければな」
希出がもう片方の手をガンキンに向ける。
「まずい!」
それがどういう意味なのかを知っているユーグは、希出を睨みながら何もない空を連続でパンチする。
ユーグの<にらむ>力によって全てのパンチのダメージが希出へ向かう。
パンチを食らった希出はガンキンを思わず離してしまう。
「逃げろ! ガンキン! うおおおおおー!」
ユーグはガンキンを逃がした後、何度も空へ向かってパンチを繰り出し、そのパンチは全て希出へヒットした。
「やれやれ……オレの能力を知っていればこんなの無意味であることが分かるはずなのにな……」
それでも希出へのダメージはゼロだった。
「化け……物……め……」
ユーグはがくりと項垂れてしまった。
「う……あ……」
ガンキンの方は恐怖で動けなくなっていた。
動けないガンキンに向かった希出はゆっくりと歩いて行く。
「<吸う>力……全ての攻撃を吸い、ダメージを全く受けつけないって噂は本当か……」
ガンキンは、ちくしょう。と震えながら何度も呟いた。
「吸うんだから当然吐き出すぞ。今までのダメージ分全てをお前に与える」
先ほど同様に、希出がガンキンに手を向けた。
「その前に殺してやる!」
ユーグが刀を手に持って希出をにらんだ。
<にらむ>力で攻撃を確実に当てるようにしておき、刀で切るつもりなのだ。
しかし、ユーグは刀を振れなかった。
「おっと。そんな物出されたらこっちも黙ってねーぞ?」
喉元に大きな鎌を突き付けられてしまったからだ。
再武がユーグに真っ白の鎌を突き付けていたのだ。
「くっ……オレは侍の大将軍……一番上の階級だぞ。それに比べてお前たち隊長は上から三番目の階級。その階級にすら勝てなければ我々に勝ち目は無いではないか……」
喉元に大鎌を突き付けられて、ユーグが悔しそうに言う。
いくら<吸う>力といえど限度はある。
だからこそ放出するのだ。
ユーグの攻撃力は高い。<吸う>力で吸いきれなかった場合、刀で切られて死ぬ可能性すらある。
<吸う>力が万能でないことを再武は知っていた。
「ほらよ」
動けないユーグの目の前で、希出はガンキンに向かって全てのダメージを放出した。
「ぐわぁー!」
ガンキンが苦しむ。
「終わりにしよう」
希出はくるりと背を向けて歩き出した。
苦しんではいるが、死ぬ程のダメージではないことを知っているのだ。
「団長」
大鎌を持ったまま再武が希出に近づく。
既にユーグを放し、ユーグはガンキンを助けに行っていたが、この二人はお構いなしのようだ。
「おー再武。血吸を使ったのか?」
希出が再武の大鎌を見て、血吸を呼んだ。
よく見ればこの大鎌、全てが骨でできていた。
再武が本気で戦う時に使用する武器だ。
「相手が大将軍でしたからね。さすがに使いますよー」
笑いながら何てことなさそうに再武が応えた。
「手筈は?」
希出の問いに再武は素早く応えた。
「うちの隊の二組が港に待機しています。さらに海賊隊の援護もあります。解放した奴隷たちは山賊隊が守りながら副団長、不破さんのところに行きました」
その報告を聞いて希出は満足そうに頷いた。
「よし! 退却するぞ!」
希出の号令で反政団が退却を開始した。
この時点まで戦っていた者はほとんどいなかったが、この号令によって反政団の全員が戦闘行為を辞めた。
既に再武の隊である、輸送・工作隊によってほとんどの者が退却の拠点である港まで送られていた。
「くそ! 奴らの逃げ足は速いぞー! 送ったりする部隊がいるんだ! 連携を崩せ!」
ユーグが叫ぶが、そう上手くはいかない。
「オレらの連携がそう簡単に崩せるなら、オレらはとっくに解散してるだろうよ」
ユーグの前に再武が立ちはだかる。
「隊長?」
男無が振り返る。
どうやらこの二人が一番後ろを走っていたようだ。
「ここでこいつの動きを止めれば、オレ達はもっと楽に退却できると思わないか?」
「そーうねーい」
再武の言葉に男無がにやりと笑う。
「オレも戦うぞ」
男無と再武の前にギャンが現れた。
ギャンは爪獣族という爪の発達した獣に分類される。
爪獣族は更に種類が分かれており、ギャンのように巨大な狐の姿はエルフォと呼ばれる。
「あーらギャン。やる気ねーい」
男無がにやりと笑う。
「よし。少しずつさがりながら戦うぞ」
再武が二人に言い、三人はユーグを含む政府から逃げながら戦うことにした。
ユーグが素早く動き、ギャンを刀で切ろうとする――
「ガギン!」
が、しかし。再武の血吸で止められる。
「この!」
ユーグが再武を睨み、空を蹴る。
それだけで再武はダメージを負った。
更に追い打ちをかけようとすると、突然当たりが暗くなった。
「?」
ユーグが空を見上げると、巨大な深緑色をした竜が空を飛んでいた。
その上に希出が立っているのを見つける。
「こっ…‥皇竜だと……飛竜族の中でも最大の皇竜をも味方にしているのか!」
黒に近い深緑色の竜は、大人数の反政団をその背に乗せてもまだ、余裕があるほどの巨体だ。
大きいが故に皇竜は動きが遅くい。しかしその力は絶大で、天災と匹敵すると言われている。
あまりにも危険すぎる生き物のため、その存在を政府が秘匿している種族の一つだ。
「はぁーい。再武ちゃーん。ギャンちゃーん。男無ちゃーん。ズーちゃんの上に移動するわよー」
再武、男無、ギャンが退こうとしている先で女の子が手を振りながら名前を呼ぶ。
ズーとは、上を飛んでいる皇竜の名だ。
「サクラか。よし! さっさと希出の元に戻る」
ギャンが手を振る女の子の名を呼び、再武と男無を背中に乗せた。
追いかけてくる政府は、すでに再武、男無、ギャンの三人に隊列を乱されて、そう簡単に追いかけられる状況ではない。
さらに、ギャンのスピードは人間のそれをはるかに超える。
あっという間にギャンがサクラの元へたどり着く。
「はぁーい。ズーちゃんの上に行くわよ」
サクラがにこりと笑う。
サクラはかなりのぶりっ子だが、その能力は反政団にはなくてはならないものだった。
その能力とは<転移>。人や物を移動させる力だ。
しかし、その能力を得た副作用によってサクラは体が弱くなってしまった。
ぶりっ子なのはその副作用による部分もあるのだろう。
男無の能力は<脚力強化>で、その副作用によっておかまになってしまったのだが、本人は全く意に介していないようだ。
再武は<骨>の力で、その副作用として夜中になると肉体のない体になってしまう。
希出の<吸う>力は偶然にも副作用が発生しなかった。
ユーグは、研究者のおかげで副作用なしに<にらむ>力を手に入れていた。
サクラの<転移>の力でズーの上に移動した、再武、男無、ギャン、サクラの四人は希出の次の指示を待った。
「オレらは解放した奴隷と一緒に移動している不破と山賊隊を追う。落ち合う場所はアジト二だ」
希出がズーの上にいる反政団を見渡す。
「オレらの脱出を援護するのは海賊隊と、海賊隊の船にのる特攻隊だ」
反政団にはいくつかの部隊が存在する。
それらを束ねているのが団長の希出である。
団長の下には三人の副団長がいる。何度か会話に登場した不破もこの地位だ。
副団長の下には四つの部隊が存在し、それぞれの部隊に隊長がいる。
その部隊とは、特攻隊、輸送・工作隊、海賊隊、山賊隊だ。
これら部隊は更に細かく一組から五組までの組に分かれており、組を纏めるのは組長の役目だ。
組長にまとめられている組員までのメンバーは、世界最大級の犯罪者集団として、世間一般に広められている。
組員の下には突撃兵があり、各組員が任務攻略のために自由に使う。
突撃兵の下は攻兵と守兵があり、それぞれ攻撃と守りに適した兵種となっている。
攻兵と守兵の下に一般兵が位置し、最後に雑兵が存在する。
世界最大級というだけあって、その組織図はやや複雑で規模は非情に大きい。
そして今日、希出たちはとある街の奴隷を全て解放した。
今回解放した奴隷たちは、ペットにするならこの種族!
といわれている程の人気がある人魚族だ。
人魚族は水中でこそ動きが速いが、陸地での動きは遅く力も弱いため、とても飼いやすいと人気があるのだ。主に観賞用としての人気が高い。
そしてもう一つの種族が竜人族だった。
竜人族の中には危険な種族もいるが、竜人族の中でも比較的おとなしい亜レイヤという、全身が緑の鱗で覆われて筋肉粒々で、手の爪が長い種族が捕まっていた。
亜レイヤは主に力仕事をやらせる目的で奴隷にされている。
解放された奴隷たちは山賊隊が守りながら不破の元へと逃げ延び、不破たちはアジト二へと移動する。
希出たちも政府にアジトの場所がバレないようにアジト二へと向かう。
飛竜族の皇竜、ズーに乗った希出たちはゆっくり進むズーの上にいつまでもいない。
サクラの<転移>の力で何人かは既に別の場所に移動している。
無論、体が弱いサクラに無理はさせられないため、遠くへ転移させることはできない。
そのため、直接アジト二へと転移させることはできない。
男無やギャンのように脚力に自信のある者は、地上を走った。
地上を走る者の速さに政府は追いつけなかった。
海上を進む海賊隊の船は、突如現れた濃霧の中にその姿を消し、これもまた政府は追えなかった。
飛竜は雲よりも高く飛んだ。
こうして反政団は今日、奴隷を解放し完全に政府から逃げ切ったのだった。
しかし、反政団が掲げる目標の、奴隷ゼロまではまだまだなのであった。

