反政団~第二章 政府の研究所~

反政団

 政府の研究所は奴隷しかいない。

 いわゆる”奴隷研究所”だ。

 ここでは、政府の研究者たちが奴隷に対して人体実験を行っている。

 ここ最近の一番の研究は、能力の副作用を無くす方法である。

 この研究により、奴隷たちはありとあらゆる薬を体中に打たれ、無理やりに能力を目覚めさせられる。

 その際、ほとんどの者が能力の開花と共に副作用を伴っている。

 この副作用をどうやって無くすのかを研究しているのだ。

 稀に副作用が出ない場合があるが、その時は生きたまま解剖されるのだった。

「くそっ! あいつら人間じゃねぇよ!」

 病院の診察台のような場所に両手足を拘束されたまま矢口が憤る。

「いや、オレらを人間だと思ってねぇんだろ」

 その隣で同じように磔の刑のような恰好にさせられている希出が言う。

 2人は体に様々な薬品を打たれたが、今のところ特に何の変化もなかった。

 ここまで薬を打って何の変化もないのは珍しいと、研究者はぼやいていた。

「なぁ希出」

 仰向けに拘束されたまま矢口が言う。

「ん?」

 同じく体が拘束されている希出が、視線だけを矢口に向ける。

「不破ちゃんと叶ちゃんどうしてるかなぁ?」

 2人が診察台のようなところに拘束されてから、どれくらいの時間が経ったのか分からない。

 奴隷研究所に送られてからすぐに不破と叶は別の部屋へと連れて行かれたため、2人がどうしているのかも分からない。

 ただ――

「分からんが、風の噂であの2人が能力者になったというのは聞いたな。副作用があったとかでまた別の実験でもさせられてるんだろうな」

 その噂は矢口も知っている。

 この部屋で研究者たちが話していたのだから。

 もちろん確実ではない。彼らの会話を断片的に聞いていただけなのだから。

 それでも、こいつらと同じ。とか、また副作用か。

 といったワードを紡ぎ合わせると、不破と叶に能力が開花し副作用も併発したと考えるのが自然だろう。

「どんな能力がいい?」

 唐突に希出が言う。

「は?」

「いや、悪い」

 突然の言葉に、矢口が素っ頓狂な声を出したのを聞いて希出が謝る。

「どうせ能力を得るならどんな能力がいいかなって思ってさ」

 考えてもみなかった。

 ただ毎日実験をさせられるだけの日々。

 食事もなくひたすら点滴でやせ細る体。

 そんな状況なのに希出はまだ夢を見ているようだ。

「そんなの――」

「考えたこともなかったってか?」

 矢口の言葉の後を希出が奪う。

 そして続ける。

「オレも同じだよ。今矢口に言われるまでは全く考えもつかなかった。でも、少し考えれば分かってたはずなんだ。不破も叶も能力を得ることができた。なら自分はどんな能力ならここを抜け出せるのだろうか。ってな」

 横目でにぃって笑う。

「抜け出すってそんなの無理だろ」

 奴隷として王族に捕まっていた時でさえ、希出たちは抜け出すことはできなかった。

 たとえ能力を得たとしても、ここの研究所には何人もの能力者がいるに違いない。

「あぁ。だからよ。オレも最初はそうだと思って諦めてたんだ。けど、オレには仲間がいる。仲間ってのは力になるんだな」

 たとえ1人の力では脱出が不可能だとしても、4人が力を合わせれば脱出が可能かもしれない。と希出は言う。

「なるほどね……そのためにはあの2人がどんな力を手に入れたのかを知る必要があるな」

 矢口は希出の前向きさに、半分呆れながらも自分もなぜだか脱出できそうな気がすると思ってきた。

「そうだなぁー。みんなが脱出できる力ってなると、瞬間移動とか?」

 矢口が移動系の能力を口に出す。

「誰か1人は移動系の能力が欲しいな」

 ふーむ。と希出が真面目に考える。

「あとは戦っても負けない力があるといいよな!」

 矢口は次々にこんな力が欲しいという能力候補を挙げる。

「食べ物も必要だから、無限に食べ物が出せる力だろー。パンチがすっげー強くなる力だろー。巨大なロボットを操る力なんてどうだ?」

「俺はそうだな……自分自身が何かに変わる力って強くないか? 火とか水とか」

 矢口が次々と能力を挙げる中、希出が現実的な力の候補を挙げる。

「確かに敵の攻撃も効かなくなりそうだしアリだな。でも火とか水ってありきたりじゃね?」

「ありきたりでいいんだよ!」

 希出が照れ臭そうにする。

「楽しそうなお喋りはおしまいだ」

 部屋の扉が開いて研究者が口を開く。

「君たちのお友達のおかげで、能力を自由に開花させる方法についてようやく判明した。ちょうどその薬品ができたところだ。さて、君たちはあらゆる薬品に耐えた特異な体質だ。もしかしたらこの薬品を投与しても能力が開花しない可能性もあるわけだが、この2人には効果があるかもしれん」

 そう言って更に2台の診察台のようなものを部屋に運び込んだ。

 どうやらこの2台にも何者かが拘束されているらしいが、希出たちの前方に設置されたため顔が見えない。

『不破と叶ってことはないよな? もう能力に目覚めたって言ってたし……でも2っていう数字がなんだか不吉だぜ……』

 希出の心臓が早鐘のように鳴る。

 そのまま抵抗もできずに部屋の4人は無理やりに薬を投与された。

 途端――

 目の前が回転し、前も後ろも上も下も分からなくなった。

 診察台で仰向けにさせられていて動けないはずなのに、まるで自分がぐるぐると動き回っているかのように世界が回り始めた。

 次に全身が焼けるように熱く痛んだ。

 骨の芯から燃えるような痛みだった。

 何やら研究者が言っているが、痛みとみんなの苦痛の叫びで何を言っているのかさっぱり分からなかった。

 次第に痛みが遠のき、同時に視界が暗闇に閉ざされていった。

 ●

 小さな物音で希出は目が覚めた。

 薬を投与されてからどれくらい時間が経ったのか分からない。

 物音は、点滴の音だと分かる。

 痛みもなくなり、視界も普通だった。

 しかし、以前以上にしっかりと拘束されていた。

 両手両足に加えて、首、腰、額、肩が拘束されていた。

「お目覚めかね?857号」

『857号? あぁオレの実験番号だっけ?』

「さて、それでは早速で悪いが薬の成果を見せてもらおうか?」

 診察台のようなものに拘束されたまま、診察台ごと立たされ希出は研究者と対面する。

 周囲を見ると、他の3人はまだ昏睡状態のようだ。

 矢口と、あとの2人は見ない顔だ。

「君はどんな能力を手に入れたのかな?」

 研究者がニタァと笑って剣を手にする。

 ふと見ると、研究者の周囲には侍や忍が何人も待機していた。

 つまり、どんな能力を得たにせよ反抗は不可能だと言えるわけだ。

「なぁに。君の体に私が直接聞くから安心したまえ」

 ニタニタ笑いながら研究者がゆっくりと希出の肩に剣を刺していく。

「ぐっ……」

 痛みに顔をしかめる。

 ……痛みが……ない……

 いや、正確には痛みという感覚が希出の体に走らず、希出の脳内にこのくらいの痛みが検出されたというデータが入った感じだ。

 これが<吸う>力の効果によるものであることを、まだこの場にいる誰もが知らない。

 当然ながら希出にはダメージが0である。

『痛みを感じない能力か? でもここでバレたらまずいな。痛がってるフリはしておくか』

 そう考えた希出は、顔をしかめる演技を続けた。

 研究者は、希出の反応を見ながらゆっくりと剣を引き抜いた。

「ふむ。回復系や反撃系の能力ではないのか。いや、こればっかりは試してみないと分からんからな。どんな能力を得たのか君も知りたいだろう? ま、どうせ生きたまま解剖されるのだがね」

 研究者がいやらしい笑みを浮かべる。

「君はどうやら副作用がなかったらしい。稀な体質だな。我々はどうやったら副作用が無くせるのかというのが一番の課題なのだよ。君の体はちょうどいい実験体なんだ。そのためにも君の能力を知っておく必要がある。安心したまえ。君たちのように全く訓練を積んでいない者は、咄嗟に能力を出してしまうものだ。回復系や反撃系の能力だったなら、さっきの剣を刺した段階で能力が発現していたはずだ」

 ベラベラと調子のいいことを並べているが、研究者は確かに正しいことも言っていた。

 咄嗟に能力を出してしまうという点だ。

 希出も咄嗟に能力を出したからこそ、剣で刺されたダメージを吸っているわけだ。

「さてと、次は攻撃系の能力かどうかを試すわけだが……」

 ちらりと研究者が後ろに控えている数人の忍を見る。

 忍は頷くと、1人が地面を拳で叩き、希出と研究者と数人の忍だけをぐるりと大岩が囲った。

 これがこの忍の能力なのだろう。

 更に別の忍が音もなく希出に近づき、希出の拘束を解く。

「857号。ここにいる者を全滅させることができたら君をこの研究所から解放してあげよう。ただし、君が敗北した時は死んだほうがマシだと思えるような地獄の実験が待っていると思え?」

 研究所が再び、あの意地の悪いニタァをした。

『全滅ってオレには攻撃能力はないだろ。敵の攻撃を無効化にも恐らくできない。痛みを受けないだけの力だ……ダメージはきっと蓄積されていく。そして限界がきたら死ぬ。とにかくダメージを受けないようにしてあの研究者を人質に取るしかないな……』

 そう考えて希出が走り出そうとした瞬間、先ほど音もなく希出に近づいた忍がまたもや目の前に突如現れ、希出をクナイで切りつける。

「くっ!」

 首筋を切られたが、間一髪頸動脈はかわした。

 いや、忍がわざと外したのだろう。

 岩を囲った忍が希出の真下から岩を突き出して攻撃する。

「くそっ!」

 ずっと点滴生活だった希出には、当然ながら訓練されている忍の動きについていけるはずもない。

 更に別の忍は何やら怪しい術を使って口から火を吹いた。

「うわっ!」

 辛うじてそれを避ける。

「ほう? あれを避けるか」

 その反射速度に研究者が驚く。

 奴隷生活をしている者の運動神経や反射神経は良くない。

 いくら避けやすく攻撃をしているからと言って、簡単に避けられるものではない。

「移動系か行動系の能力か?」

 研究者が目を細める。

 その言葉に忍たちも反応して、もう少し攻撃速度を早くする。

 先ほどのクナイの忍が素早く希出の足元を斬りつける。

「くそ! こいつめっちゃ速い!」

 反撃に蹴ろうとする。

 が、反撃は当たらなかった。

「……」

 その様子を更に目を細めて研究者が見る。

 忍たちは、希出を殺さない程度にダメージを与えている。

 希出の怒りを引き出して攻撃系の能力があるかどうかを確かめるためだ。

 しかし、いくらダメージを与えても希出が攻撃しようとする反応が見えない。

 それでも攻撃は徐々に避けていた。

「おかしいんじゃないかい? なぜ訓練を受けているわけでもなく点滴生活だった者が、訓練を受けている忍の動きについていけているんだい?」

 研究者がブツブツと呟く。

 その言葉を聞いて忍が更に動きを速める。

 クナイの忍は目にも止まらぬ速さで動いて何本ものクナイを希出に投げつける。

 岩の忍はじっと希出の動きを見定めて、クナイを避けた希出が着地する地点に鋭い岩を出現させた。

 今までの希出の動きならばこの岩の攻撃でダメージを受けていたはずだった。

 ――しかし……

「何?」

 思わず岩の忍が言う。

 希出が地面からの岩攻撃を避けていたのだ。

 驚く岩の忍を横目に、今度は火を吹く忍が希出が岩攻撃を避けた先に火を吹いて攻撃した。

「くっ!」

 さすがにこれは避けきれず、両手をクロスして体への直接のダメージを軽減させようとする。

『……戦い慣れていない者が咄嗟に防御の判断を? 忍たちの行動を見て学習しているとしても、それを実際に実践するとなると相当の練習が必要なはずだ……となると行動系か移動系の力でその練習を不要としているのかそれとも――』

「やめだ」

 その一言で、周囲の岩が消え一瞬にして希出は再び拘束された。

「ふーむ。攻撃系の能力でもないようだね。どれ、先ほど約束したように君には地獄を見せる必要がありそうだ」

 ニタニタ笑って研究者が何やら怪しい液体を取り出した。

 ちょうどこの時、矢口が目を覚ました。

 何をしているのかは音を聞いて分かった。

 意識が混濁している中で、研究者が希出に話している言葉を遠くの方に聞いた気がした。

 そして現在のこの状況。

 整理するのにやや時間がかかったものの、状況を理解するのに難しい材料は無かった。

 研究者が手にしている液体は毒液だ。

 今度は解毒系の能力かどうかを試すのだと言う。

「失敗したら、何かしらの後遺症が残るかもしれんがまぁ致し方ない」

 ニタニタ笑いながら毒液に鋭く長い針を浸した。

 研究者は1つの懸念を抱えながらゆっくりと毒針を希出に近づけて行った。

 拘束されて身動きができない希出はただ、先ほどの火の攻撃を受け止めたヒリヒリと痛む両腕の痛みを感じることしかできなかった。

 本来ならこの痛みも<吸う>力を持っている希出にとっては、データの1つでしかなかった。

 それでも、痛みがある。

 それは、この感覚がある間はまだ、自分が正常であり生きている証だと、自分への保身のために無意識に痛みを吸い出していなからなのだった。

 これから自分はどうなってしまうのか……ゆっくりと自分に近づく針を真っすぐに見つめながら、希出は助かることを諦めていたのだった――

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