反政団が奴隷を解放してから数日が経った。
ここはアジト二――
「あんなでかい作戦は久しぶりだったなぁー」
反政団の全員が揃ったアジトで希出がみんなに言う。
今や反政団の総数は何人いるのか分からない程に膨れ上がっていた。
「希出くん。解放した子たちはどうする?」
副団長の不破弓が問う。
「どうもしない。いつも通り自由に。うちのメンバーになるも良し、どこかへ行くのも良し」
「うぉー! さすが団長だぜー! だからオレ達は反政団に入ったんだ! 誰にも束縛されない自由な世界を作るために!」
再武が叫びながら酒をぐびっ。と飲んだ。
だいぶ酔っているようだ。
結局、助けてもらった者のほとんどがここに残った。
ここにいるのが一番捕まる確率が低いと判断したのだろう。
「誰にも束縛されないか……私たちが本当に目指しているものね」
少し昔を思い出したかのような言い方で不破が希出に言う。
「あぁ」
希出もそれに気づき、少し昔を思い出す。
「最初は四人だったもんなぁ……」
そしてぼそりとそう言った。
●
反政団結成前――
「このくずが! さっさと働け!」
まだ中学生だった希出は奴隷として捕まり、人間界の一番上の階級である王族の元へと売られた。
この時点で希出の人間としての人権は喪失した。
同じ奴隷として捕まっていたのが不破だ。
そして不破の他に二人、奴隷として捕まっていた者がいる。
矢口十勝と叶令の二人だ。現在は反政団の副団長を務めている。
彼ら四人は学校に行けないのは当然に、王族のご飯を作ったり部屋の掃除、マッサージなどの雑務を毎日言い渡されていた。
少しでも休もうとすると、今の希出のようにすぐに殴られた。
「希出くん……また殴られてる」
とても可愛い顔で心配するのは不破だ。
「不破ちゃーん。オレのことも心配してー」
にこにこしながら矢口が不破に近づく。
ボコッ!
そんな矢口を叶が容赦なく殴る。
「ぐ……叶ちゃん……何を……」
お腹を抑えながら矢口が苦しそうに言うが、叶はそんな姿を見もせずに答える。
「今は希出の心配をしろ」
「そうね。叶ちゃんの言う通りよ矢口くん」
不破もその言葉に同意し、みんなで王族に痛めつけられている希出を心配そうに見つめる。
すると希出はなんと、あの王族を睨んだのだ。
当然ながらこれは反抗と捉えられた。
「奴隷のくせに生意気な!」
おい!
と王族が声を掛けると、部屋の奥から侍がやって来た。
普段希出たちは牢屋に入れられている。
そして、仕事を言いつけられたり今回のようにお仕置きを受ける時のみ牢屋から出される。
つまり、牢屋に閉じ込められている不破・矢口・叶にはどうあっても希出を助けることはできない。
もっとも、通常心では何と思っていても王族に逆らおうとする者はいないため、たとえ牢屋に入れられていなくても不破たちは希出を助けることはせずにただ傍観していただけだろう。
部屋の奥から現れた侍の階級は大将軍。あのユーグと同じ階級であり、侍の中で一番上の階級だ。
侍が王族に、お呼びですか? と問う。
「こいつ! 奴隷のくせに生意気だ!」
王族が唾をまき散らしながらそう言うと、それだけで侍には何が言いたいのか伝わった。
まずは王族が喜ぶように希出が逃げられないように何度も全身を殴って蹴る。
その上で手足を拘束する。
手にした刀を炎で炙る。
「私がやりますか?」
侍が王族に問うと、王族は任せる。とだけ答えた。
侍はそのまま焼けた刀で希出の背中をゆっくりと切る。
刀の熱がしっかりと皮膚に伝わるように、その後に皮膚が切られる痛みが伝わるようにと。
それを見て王族は歓喜する。
「どうだ奴隷! これで俺様に逆らおうなんてもう思わんだろう!」
侍が切っている最中に、興奮した王族が何度か希出に平手打ちを食らわせる。
さすがの希出も反抗する気をなくしている。
というよりも、意識を保つのに精一杯だった。
もともとたいしたご飯も食べさせてもらっていない。その上でのこの仕打ちだ。
「ひどい……」
その様子を見ていた不破が零す。
叶はあまりの恐ろしさに声が出ず、ごくりと唾を飲み込んだ。
「くそ……」
矢口は悔しさのあまり、爪が食い込むほど拳を握りしめていた。
侍に何度も切られ、王族に何度も殴られ蹴られた希出は、最後に部屋の掃除を命じられた。
惨めに床に這いつくばる希出に向かって王族は、唾を吐きつけた。
これが、いつもの光景だった。
希出は毎回傷が治ったり体力が回復する度に王族に反抗的な態度を取っていた。
そしてその度に侍によって痛めつけられていた。
「ちくしょう! 今に見ていろ!」
ある日の夕食の時のことだった。
いつものように希出が不平不満を漏らしていた。
今日の夕食は四人でスープ一皿だ。
「あんまり逆らっちゃだめよ? 私たちはあいつらの奴隷なんだから」
不破が希出の傷の手当てをしながら言う。
奴隷なんだから逆らわないのが当たり前。
そんな感じの言い方だ。
「それにあの侍。あいつが王族を守っている限り逆らうだけ無駄だぜ?」
矢口は侍に一度こてんぱんにやられている。
それからというもの、全く王族に逆らわなくなった。
「希出と叶を攻撃する時ですら、あの刀しか使っていなかったが、何かしらの能力を持っていることは確実だろう」
叶も矢口の意見に賛成のようだ。
侍は能力の片鱗すら見せていないが、大将軍であるからには確実に能力を持っているだろう。
能力持ちに能力を持っていない者が勝てるはずもなかった。
「おかしいと思わないか? 同じ人間でなぜ差別される?」
いつもの希出の物言いだ。
人間に身分があるのがおかしいと言っている。
「この屋敷にだけでも、奴隷が何人いることか……絶対にこんなところ抜け出してやる」
これも希出がいつも言っていることだ。
「滅多なことは言わないことよ? 王族に聞かれてでもしたらどうするの?」
不破が心配そうに言うが、王族に聞かれる可能性はまずありえない。
そもそもが牢屋には鍵がかけられており、必要な時以外奴隷は王族に呼ばれない。
言い方を変えれば、必要がなければ王族と会うことは無いということだ。
この屋敷の中に何人の奴隷がいるのかは、希出には分からないが、恐らく希出だけが王族に逆らい続けている。
だからこそ、同じ牢屋にいる不破・矢口・叶は希出のことを心配もしているし、心のどこかでは尊敬もしていた。
●
――風の強い夜だった。
珍しくこの日は一日希出たちは何の仕事も言いつけられなかった。
「珍しいな! 今日は何にも仕事を言いつけられなかったぜ!」
矢口が喜ぶ。
更に珍しいことに、三食きちんとまともな食事が出された。
こんなことは一度もなかった。
「もしかしてオレ達ここから解放されるんじゃないか?」
期待を込めて希出が言う。
「そんなわけないだろー。今日はたまたまだって。でもなぁー。もし解放されてここから出れるなら最高だろうなぁー」
希出の意見を半分否定しながらも、矢口は解放されることを期待していた。
それは同じ牢屋にいる不破も叶も一緒だった。
四人の期待が最高潮に達した時、それは起こった。
――バンッ!
「解放されたいだと?」
牢屋のある部屋のドアが開けられ、王族が入ってきて静かに言う。
一瞬にして牢屋の中が静まり返った。
同時に今まで自分達がどれ程大きな声で話していたのかに気が付いた。
「ここを出れるなら最高だと?」
今度は王族がにやりと笑った。
その様子を見て四人は背中にヒヤリと汗をかいた。
さっきまで強かった風が一気に止んだかのようだった。
「いいだろう。ここから出してやる」
「い、いやそんな冗談は」
「残念だが」
恐怖の声を出す不破を王族が遮る。
「冗談になんかなっちゃいないんだよ。ずっと逆らう貴様らにどうやったら絶望を与えられるかをずっと考えていた。そしたらどうだ。ちょうどお前を気に入った貴族がいてな? いい値段で売れたぞ」
意地の悪い笑みを浮かべ、涎を垂らしながら王族が不破を指さす。
「せっかくだから友達の前でヤってもらえ」
今日一日王族が希出たちに仕事を命じず、普段入らせてもらえない風呂にまで入れたのはこのためだったのだ。
しかも王族は悪趣味なことに、売った不破を希出たちの目の前で襲わせると言うのだ。
「ふざけやがって……」
怒りで矢口は奥歯を噛みしめていた。
指名された不破は恐怖でガタガタ震えている。
叶は無駄だと分かっているが、不破の前に立ちはだかる。
「その嬢ちゃんも私の息子に犯されたいのか?」
部屋の奥から野太い声がする。
「ぐへへー。父ちゃん。オイラ女なら誰でもいいよー? 二人相手にもできるよ?」
そしてもう一人別の声がしたかと思うと、二人の男が入って来た。
一人は身なりを整えたいかにも位の高そうな細身の紳士。
もう一人は太った下着姿の男。
「見ての通り我が息子は見た目が少々悪い」
紳士がそう言って太った男を不破と叶に紹介する。
少々悪いという表現をしているが、一般的に見ると醜悪と言える見た目をしていた。
太り過ぎた巨体は首がないようにも見えるし、肌にはなにやらブツブツのできものがたくさんできている。
僅かばかり残った髪の毛にギラギラした目に左右に大きく裂けたような口。口の中の歯は何本か無くなっている。
加えて体臭と口臭の酷いこと。
変質者と間違われるかもしれない。
「我が息子には、残念ながら懇意にしてもらっている令嬢がいない。そこでだ。君たちには我が家の跡継ぎを産んでもらう」
「金さえ払ってくれるのであれば、もう一人の女奴隷も好きにしてよいぞ」
王族がにやりと笑って貴族に言う。
「お嬢ちゃん。そこをどきなさい。私の息子は君の隣の子を気に入ったんだ」
紳士貴族が王族にペコリと頭を下げた後に叶に言う。
あくまでも狙いは不破であると。
言われた叶も不破同様にガタガタと震えていた。
「これに懲りたらもう俺様に逆らうなんて真似しないことだな。逆らわなければこーゆー使い方だけはしないでおいてやるよ」
王族のこの言葉は希出に対してである。
そのまま王族がゆっくりと牢屋に近づき、牢屋の鍵を開ける。
「それじゃあ一人でいいんだな?」
最終確認を貴族にするために、そのまま牢屋を背に振り返る。
「悪いな。みんな」
瞬間、希出はそう一言残して、うおぉぉぉーと雄叫びをあげながら走り出した。
そのまま僅か三歩で牢屋を飛び出ると、まず最初に王族に殴りかかった。
不意を食らった王族はのけ反り、地面に転がり何発も希出に殴られた。
はっとした矢口が希出に続くように牢屋を飛び出して、太ってる方の貴族に飛び蹴りを食らわせる。
「不破ちゃんにも叶ちゃんにも酷いことなんてさせないぞぉー!」
「や、やめないか! 誰かー誰かー」
慌てた紳士貴族が護衛を呼ぶが、既に王族と太ってる方の貴族はボコボコにされて意識がなかった。
あっという間に四人はやって来た護衛によって拘束された。
「な……なんてことだ……」
紳士貴族が息子を抱えながら立ち上がる。
「こんなことは前代未聞だ。貴族や王族に不名が逆らうなどと……」
「こいつらは特殊です」
すかさずいつも希出を痛めつけてる侍の大将軍が言う。
通常の不名は逆らわないから安心するようにと念押しする。
「こやつらは危険だぞ。奴隷にはできんかもしれん」
ワナワナと震えながら貴族紳士が希出を指さす。
「さぁワドワール様。気持ちを落ち着けてください。どうぞあちらでお休みください」
大将軍の侍が貴族紳士を暖かそうな居間へと案内しに消えた。
何人かの侍も部屋の主である王族を運ぶために一緒に消えた。
残されたのは、拘束された四人と見張りの侍、忍たちだけだった。
「悪かったな。みんな」
両手両足を拘束され、侍と忍に監視される中で希出が謝る。
拘束された四人は侍と忍によってこれでもかと痛めつけられていた。
すでに半殺し状態と言って良い。
どうあっても拘束からは逃れられそうもなかった。
その上監視が最低でも常に五人は居た。
絶体絶命というやつだろう。
今まで諦めたことのなかった希出も、さすがにこれは助からないと思い始めていた。
だからこそ、今の内に謝ろうと思い、先ほどの謝罪に至ったのだった。
王族が目を覚ましたとの報告が入ったのは、ちょうどそんな時だった。
これでいよいよ四人の命はもうないだろうと思われた。
しかし王族の言葉は四人の想像の斜め上を行っていた。
「そいつらはもう俺様の奴隷ではない。顔も見たくない。例の施設へ売れ」
そんな言葉が部屋の外から聞こえてきた。
王族は希出たちの部屋に入りすらしなかった。
今まで希出が痛めつけられるのを見て喜んでいたあの王族がだ。
手筈はすぐに整えられ、その日のうちに希出たち四人は、政府の研究所へと出荷された。
いつの間にか風は再び勢いを増し、輸送される希出たちの馬車の窓をガシャガシャと揺らした。
