異世界転生しか勝たん~第二十五稿 パクチーの強さ~

異世界転生しか勝たん

 それは、サレたちを撃退した日のことだった。

 パクチーはシャルディに何一つダメージを与えることはできなかった。

 それどころか、アヤメ(パセリ)が居なければサレの機人すら倒せなかっただろう。

「僕に用ってどうしたの?」

 木の影からルッコラがおどおどして出てきた。

「てめぇは血祭の才がある。俺は攻撃的なやつしか習得してねぇ。だがシャルディってやつには攻撃的な血祭以外のものが必要だ」

 辺りをキョロキョロして、少し照れるようにパクチーが言う。

「えっと僕に血祭のことを聞きに来たの?」

 ルッコラのキョトンとした表情にパクチーは、恥ずかしさと怒りが込みあがってくるのを感じた。

「あのフェアリーがなんでてめぇに攻撃的なのか分かった気がするぜ」

 ぼかっ。と頭を殴ってさっさと教えろと言う。

 いかにもパクチーらしい。教えてもらう態度ではなかった。

「そんなこと言われても僕には分かんないよぅー」

 ルッコラはいつものように、うぇーん勇者様ー。と泣き出してしまった。

「おいバカ! みんなに秘密っつったろ!」

 パクチーがなんとか泣き止ませようとするが、それが逆効果だった。

 ルッコラはどんどん声を大きくして泣いてしまった。

『ったく。どうすりゃいいんだよ』

 パクチーが途方に暮れていると、背後から声がした。

「そんなんじゃだめよバンパイア」

 バジルだ。

「つけてきたのか?」

 ギロリとパクチーが睨むが、バジルは別に。と一言返しただけだった。

 本来力でも能力でもバンパイアに劣るはずのフェアリーだが、バジルはまったく臆する様子がない。

「バジルさぁ~ん!」

 そんなバジルを頼ってルッコラが泣きつく。

「何やってんのよあんた! さっさと離れなさい」

 バジルがキー! と怒る。

「それから、このバンパイアにあんたの知ってる技を伝授してあげな。こんなやつでも私たちの仲間なんだし一番の戦力なんだから」

「なんだとてめぇ」

 バジルにこんなやつ呼ばわれされてパクチーが怒るが、バジルはそれも無視した。

「でも僕分かんないよぅ」

「分かる!」

 弱気になるルッコラの両頬をバジルが小さな手でパチンと潰す。

「あんたは今までもみんなのピンチを救ってきた。あんたならできる!」

 いつになく真剣な顔でバジルがルッコラに言い聞かせる。

「う、うん。分かったよぅ」

 バジルに説得されてルッコラがパクチーに血祭について教えようと決意した。

 そんな様子を物影から見ていたパセリとクレソンは、2人してこっそりとにっこり微笑み合った。

 ●

「血祭、蒸発」

 パクチーが血祭を発動すると、パクチーの体がユラユラ揺れ始めた。

 ラクサが飛ばした両手の炎は、ユラユラ揺れているパクチーを通過した。

「なんだ?」

 避けたわけでもなく通過したことにラクサが疑問を持つ。

「物理攻撃が効かない力なのか、すり抜ける力なのか……蒸発という名前から察するに自分を蒸発させる力だな……」

 ブツブツ分析をするがその分析はほぼ正解だった。

 血祭、蒸発は自分もしくは自分の体の一部を水蒸気にする技だ。

 ルッコラから学んだ血祭の1つだった。先ほどの朧も同じくルッコラから学んでいた。

 パクチーはサレとの戦闘後、自分に足りないものを自覚し、自分に必要なものをしっかりと学んでいたのだ。

 ただでさえバンパイアの中でも身体能力が高いが、それにあぐらをかくのではなく、足りないものをしっかりと補う。そこがパクチーの強さだった。

「サレとの戦いで俺はほとんど無力だったからな……前回勝てたのは偶然だ。だから俺は新しい技をいくつか手に入れた。てめぇとの戦闘で俺は更に成長するぜ?」

 パクチーが素早く動く。

「血祭、爪伸」

 パクチーが爪を伸ばしてラクサを引っかく。

「くっ!」

 ギリギリのところでラクサは避けるが、動きはバンパイアの方がはるかに上だ。

「血祭、粘体」

 パクチーが新しい血祭を使ってラクサをタッチした。

 しかしこの血祭はそれだけで効果があった。

 にやりとパクチーが笑みを浮かべ、そのままタッチした方とは反対の手でラクサをパンチして殴り飛ばした。

『何だ? 奴に触れられた瞬間、体が奴から離れなくなった……くっつける効果のある血祭か?』

「今のも新しい技だ。今のてめぇじゃ俺には勝てねぇーよ」

 ラクサの目の前に現れたパクチーの爪は既に伸ばしてあった。

 とどめを刺すつもりだった。

 しかし、小将軍の力は伊達じゃなかった。

「掌具:歪なきのこ(ワンダーマッシュ)」

 ラクサが新しい掌具を使うと、ラクサの片耳のイヤリングが巨大なきのこに変わった。

 パクチーの爪攻撃は止まらず、そのままラクサとパクチーの間に現れた巨大なきのこに攻撃をしてしまった。

「ちっ」

 パクチーが小さく舌打ちをするが、この掌具もまた、触れるだけで効果を発揮するものだった――

 ●

 最初に違和感を感じたのは、爪攻撃を加えた右手に小さなきのこが生えたことだった。

『何だ? 右手がしびれてる?』

 さっきのきのこが原因だということはすぐに分かる。

 しびれが少しずつ広がっていることから、時間制限があることも分かる。

『あいつが言ってたのはこういうことか……』

 パクチーはルッコラが言っていたことを思い出していた。

「敵の能力がどんなのか分からない場合、うかつに近づかないのが鉄則だよ。それでも触れてしまうことがあると思うんだ。そんな時は敵にその攻撃を解除させるか自分で無理やり解除する必要があるんだ」

「自分で無理やりってどうやって解除するんだ?」

 前回パクチーがそう問うと、ルッコラは難しい顔をしてこう答えたんだった。

「場合によるけど、例えば体の一部の自由が効かなくなったらそこを切り離すとかが代表例だよ? あとは敵を気絶させてみるとか」

「気絶させれば必ず解除できるもんなのか?」

「必ずとは言えないけどほとんどの場合が、その術者の意識と連動していると思っていいよ。ただ、触れるだけで効果が発揮できる力の場合、時間と共に体全体にその効果が侵食される可能性もあるから気をつけてね」

 この言葉を思い出し、パクチーはいずれ体全体にしびれが広がる可能性を視野に入れた。

「時間がねぇ。さっさと終わらせるぞ」

 パクチーがギロリとラクサを睨む。

「ほう? 即座に時間がないことを悟るとは、なかなかの分析力だ」

 ラクサが褒めるが、どうやらさっさと終わらせる気はないようだ。

 既にパクチーの腕のしびれは肘のあたりまできている。

『思ったよりも進行がはやいな……』

 小さく舌打ちをしたパクチーは、最後の新しい血祭を使う。

「血祭、雷光」

 ラクサには、目の前にいたパクチーが一瞬にして消えたようにしか見えなかった。

 気が付いた時には自分は殴り飛ばされていた。

 しかしここでラクサも気が付いたことがある。

「なるほどな……血祭という技。一度に使えるのは一種類だけのようだな。今の一瞬にして移動する技やくっつける技の時には爪を伸ばしていないもんな」

 殴り飛ばされたラクサがゆっくりと起き上がりながら言う。

「気絶させるつもりで殴ったんだがな」

 短く舌打ちをしながらパクチーがそれに答える。

 ラクサの考察は正しい。

 血祭は掌具や握器と違って複数同時に使えるものではない。

 その上、大抵の力が大きく体力を消耗する。

 そしてパクチーは今や右手が肩までしびれてきていることで、焦りもしていた。

「焦りは敵と己を見失うぞ?」

 にやりとラクサが笑う。

「掌具:靴沼(シューズスワンプ)」

「しまった!」

 焦ったパクチーはアヤメ(パセリ)と同じ沼にはまってしまった。

 ●

 沼にはまってからのパクチーは逆に冷静だった。

『時間がないとはいえここから抜け出さねばな……それにこれだけ掌具を使い続けているんだ。奴の体力もかなり減ってるだろう』

 そう考えるパクチーは正しい。

 誤算があるとすれば――

『くそ。かなり体力を減らされた。だがこれで奴も動けまい……沼から抜け出せたとしてもきのこの胞子のしびれでじきに体が動かなくなる……』

 にやりと笑うラクサは正しい。

 誤算があるとすれば――

 パクチーは目を閉じ、血祭、雷光を使って素早く沼から抜け出そうとしてみた。

 しかし、全身が沼の泥に捕まり前回ほどのスピードは出ない。

 それでも爆発力を利用して沼から出ることには成功した。

「ほう?」

 思った以上にパクチーが冷静だったことに、自分の読み違えを認める。

「同じ手には引っかからないぜ?」

 素早くパクチーが左右に移動してラクサを陽動する。

『ちっ。目で追えねぇ。これ以上掌具を使えばかなり消耗する上に奴の次の攻撃についていけなく可能性がある……かといって握器を使ったところで同じことか……』

 ラクサはダメージを受ける覚悟で動きを止めた。

 そのかわり、なるべく自分へのダメージを減らすために急所は腕でガードし、身をかがめて姿勢を低くして、パクチーの攻撃対象を減らした。

「いい度胸だ」

 パクチーは血祭、雷光で素早く移動してラクサのがら空きの背中を殴った。

 一瞬ラクサの息がつまる。

 更にパクチーは血祭を使わずに殴り飛ばされたラクサを追いかけ、そのまま爪を伸ばす。

「終わりだ」

 パクチーの尖った爪がラクサに迫る――

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