クレソンちゃんの不安はまぁ理解できる。
とはいえ、資源の確保も重要だ。
木材だけの武具だとその力もたかが知れてるしね。
それに――
「木材の武具を作るにしても、木を伐り出す必要があるよね? あのまばらの林だけじゃ足りないんじゃない?」
「それに関してはクレソンに当てがあるんだけど……今のところその当てが外れてるのよねぇ~」
のほほんとした言い方だが、やや悔しそうにしているのを見ると、自分の予測が外れたことが悔しいんだろうね。
「その当てってのは?」
私には全く思い当たらないので正直に訊ねてみる。
「これだけ広い前線でしょ? 木材を入手できる場所があってもいいと思わない?」
なるほどね。確かにこれだけ広域なんだから林やら森やらがあってもおかしくないか……少なくともまばらに生えているだけでもいいけど今のところ荒野だね。川がただ流れてるだけ。
「川か……」
私の呟きにクレソンちゃんが反応した。
「そうなのよ~。川があるんだから近くに木が生えててもいいと思うじゃない? なのになーんで生えてないのかしら~?」
自然の摂理は私には理解できない。
でもクレソンちゃんの考えは頷ける。
私もそう思うから。川とか湖の近くって自然が豊かってイメージだから森ではないにしろ、木とかは生えてそうだよね。
「掌握軍が木を伐採してる可能性もあるよね?」
私たちが木材を使った武具を作ろうとしているなら、それと同じ考えを掌握軍が持っていてもおかしくない。
特にハグレとかいう奴が登場してから、掌握軍の体勢は大きく変わったって言ってたし。
ま、とりあえず今は目の前のことに集中しようか。
クレソンちゃんが村で訓練していた兵士予備軍を連れてきてくれてるし、弓矢くらい扱えるだろうから、パクチー君たちの援護をしつつこのまま前線をしっかりと押し上げておきたいところだね。
「できれば、掌握軍がもう奪還できないくらい前線を押し上げたいわ」
私が村人で構成された兵士予備軍に言う。
私の話しを聞いて全員が息を呑む。
そりゃそうだ。戦う覚悟とは言っても直接戦闘をするとは誰も思いたくない。
私だって最初はそうだった。
「大丈夫。遠くから弓矢を放ったり投石してくれるだけでいいから」
これなら自分が怪我する確率が減るでしょ?
クレソンちゃんが木製の投石機を作ってくれたし、大きな岩を運びながらパクチー君たちの援護に向かおうか。
「クレソンの部隊は左右に展開して掌握軍の守備を更に薄くするよ~」
そう言ってクレソンちゃんは、兵士予備軍の半数を引き連れて川岸を北上した。まずは川側を奪取する計画のようだね。
私はパクチー君たちが進んだ川より数キロ林側つまり東側を北上する。うまくいけば掌握軍の西側をごっそり奪えるかもね。
●
私は進軍する前にクレソンちゃんと取り決めをしてある。
「いい? パセリちゃん。パクチーちゃんはただ目の前の敵を倒して突き進んでいる。それはそれで敵がそこに集まるから結局は前線が押しあがっていいことなんだけど、包囲されたら終わりなの」
短い指をぴっと立ててクレソンちゃんが言う。
「分かってる。そのためにバジルとルッコラを向かわせたんでしょ? 少し下がらせることと戦力の強化のために」
つまり、包囲される前に後ろに下がるために。
「そ。けどそれだとせっかく押し上げた前線がまた下がっちゃうことになる。そこでクレソンたちの出番。クレソンはじっくりと左右の前線を押し上げるから、パセリちゃんにはそのままパクチーちゃんたちが押し上げた前線の敵の残党をしっかりと倒してほしいの。その残党が包囲に参加するのを防ぐために」
「いいけど、残党だけが包囲に参加するわけじゃないんじゃない?」
私がそう言うと、クレソンちゃんが目を輝かせた。
そもそも包囲網って、周囲の敵が集まるもんだと思うし。
「さすがパセリちゃん! だから、パクチーちゃんたちが下がった時にこれ以上前線を下げたくないというラインに防衛陣を築いて欲しいの。簡易的なものでいいから、そこにパクチーちゃんたちを逃がすイメージ。分かってると思うけど、陣は1つだけだと簡単に包囲されちゃうから戦略的に築いてね?」
最後の念押しが一番重要なんだろうね。
敵の数の方が圧倒的に多いわけだし、そのための兵士予備軍でもあるわけだし。
兵士予備軍は全部で100人この前線の砦にやって来た。
その内の半数である50人をクレソンちゃんが連れて行った。
きっと川岸に沿って北上して、ところどころに陣を構えるんだろうね。
1つの陣に10人くらいは配置すると考えると陣は多くても3つくらいが限度かな。予備隊と進軍部隊に残りの20人くらいは必要だし。
「兵士の数が少ないな……」
私がポツリと漏らした言葉を、兵士予備軍の1人がしっかりと聞いていた。
「勇者殿。兵士の育成は着実に行われております。軍事拠点をクレソン殿の指示の元作っており、そこで育成プログラムも行われております」
ふーん。前に作ってた軍事拠点は軍事都市が完成した場合の育成所になるわけかぁー。
クレソンちゃんは色々考えて拠点の作成とかやってるんだなぁー。
ここの砦は柵とかで防御が強固だから、兵士の宿舎とかになるのかな?
ま、考えても仕方ないし、とりあえず前進しますか。
それにしてもなるほどね。
パクチー君はほんとに目の前の敵を、文字通りせん滅したようだね。
ただ愚直に直進したわけではなく、横に広がる敵もしっかりと倒してくれたおかげで、この地が本当に私たちの領土になっている。
通常なら周囲の敵がこの奪われた場所にまた集まって来てもおかしくないのに、それができない程に広範囲の敵を倒されているようだ。
それに加えて突出した力の持ち主、パクチー君を止めるために全体の視線がパクチー君に向かっている。
そこへ援軍も当然向かっている。
「たった1人で前線を押し上げちゃうなんてさすがだね」
残党を倒しながら私も負けてられない。なんて今までにない感情が湧き上がってくる。
砦からやや離れた場所。やや小高い丘に私は1つ目の陣地を建設した。
「そこの林から木を調達してちょうだい」
ちょうど東側にまばらの林があったのもあるから、林も陣地に含めることにした。
「植林って言ってさ、木の子供を土に埋めることで林や森を再生する方法があるんだよ。特に植物は挿し木ってゆって若い枝を鋭く切って土に埋めることで、根付くことがあるんだ」
詳しい仕組みは分からない。けどクレソンちゃんはがそんなことを言っていたのを思い出して、他の兵士予備軍に私は指示をだす。
後は妖精魔法で植物を成長させれば一気に木材の調達場になりそうだよね。
ま、最終的には魔法なしでやっていきたいから、しっかりと植林はさせておくんだけどね。
とりあえず私はここの陣をしっかりと完成させてから先へと進もう。
パクチー君たちはそれから追いかけても間に合うはず。
この考えが大きな間違いだったと気づいたのはもっと後のことだった。
●
「くそ!」
気がつけば人民掌握軍に完全に包囲されているのを見て、パクチーが舌打ちをする。
「だから言ったじゃない! ちゃんと下がりなさいって!」
バジルがルッコラの耳を引っ張りながらキーキー言う。
「痛いよぅー」
相変わらずルッコラはうぇーん。と泣いている。
この3人(匹)にまだ余裕があるのは、囲っている敵が下っ端ばかりだからだ。
パクチーの力があれば余裕で突破できる。
「問題は掌具や握器を持った敵が現れたり、厄介な偉才を持った敵が現れた場合よね」
どんどん一直線に敵をなぎ倒して突破するパクチーの後について行きながら、バジルが妖精魔法の発光で援護する。
「だから真っすぐ一直線に進んでるんだよね?」
ルッコラは血祭の硬質化で体を硬くして、たまに遠くから飛んでくる弓矢を防いでいた。
しかし当然3人(匹)には分かっている。
この包囲網がただの時間稼ぎであることを。
つまり、厄介な偉才を持った者や掌具や握器を持った者がここにたどり着くまでバジルたちを足止めするのが役目なのだ。
そしてとうとう――
「よくやったきみ達。戦いに巻き込まれないように下がって包囲していなさい。偉才、これが完成したら」
現れた偉才持ちは早速能力を使ってきた。
パクチー、バジル、ルッコラが攻撃に備えて身構えるが何事も起きない。
「今回は簡単なやつか……」
ボソリとその男は呟き、何やら目に見えないおよそ5センチ程の大きさの何かを親指と人差し指で挟み、顔の目の前まで持っていった。
その指に挟んだ何かを宙に置くような嵌めるような仕草をしたと思った瞬間――
「ぐっ!」
なぜかその男は左頬を殴られたようなダメージを受けた。
「き、気持ちいい……」
ダメージを受けた男が喜びの声をあげる。
「げげげ。何なのよこいつ」
その様子を見てバジルが心底嫌そうな顔をする。
「知らんな。けど攻撃をされるのが嬉しんだろう?」
パクチーにとっては、その男がどんな奴なのかは大した問題ではないようだ。
パクチーにとって問題なのは、目の前の男が敵だということだけだった。
そのパクチーの判断は正しい。しかし――
「ぼくはきみから攻撃をされて嬉しいなんてこれっぽっちも思わないよ。掌具:指輪盾(リングシールド)」
大きな盾がパクチーのパンチを阻む。そして更に――
「偉才、これが完成したら」
再び偉才を行使し、何かを指で掴むような仕草をし、顔の目の前に置くような嵌めるような仕草。
これを行うと再び男は、顔を叩かれたかのようにダメージを負う。
「き、気持ちいいよぅ……君たちにも味わわせてあげたいなぁー」
気味の悪い笑みを浮かべていた。
「こいつの偉才はなんだとてめぇなら分析する?」
パクチーがルッコラに問う。
「分かんない。分かんないけど、自分にダメージを負うというリスクがあるということは、相応の見返りがあるんじゃないかな?怖いよぅー」
そう言ってバジルの後ろに隠れる。
「あんたなんで私の後ろに隠れるのよぅ!」
バジルがキーと怒るがそれどころではない。
敵は、掌具も握器も持っているはずなのに、偉才を使うばかりだ。
そして、少しずつ着実に3人(匹)は追い込まれているのだった。
