パクチー、バジル、クレソンの3人(匹)が対峙している人民掌握軍の男は、階級で言えば大佐だ。中の上という位置づけだろう。
それでも、その男の不気味な行動に3人(匹)は迂闊に動けなくなっていた。
それこそが、その男――サマ――の狙いだというのに……
「き、気持ちいい……さぁきみ達も味わうがいい!」
頬を紅潮させ、大きく目を見開いたサマはそのまま疲れ果てたかのように仰向けに倒れた。
その瞬間、3人(匹)の顔面に強烈な痛みが走った。
それだけではなく、明らかに見えない何かで頬を思いっきり引っ張叩かれた衝撃を受け、3人(匹)が横っ飛びに吹っ飛んだ。
「「「?」」」
何が起こったのか理解できなかった。
分かったのは、攻撃をされただけだということ。
「やはり、あの簡単なのだとその程度のダメージか……偉才、これが完成したら」
その瞬間、サマがニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。
「この難易度……グフフ。きみ達生き残れるかな?」
涎を垂らしながら先ほどのように、親指と人差し指で小さな物を掴むような仕草をし、そのまま顔の前まで持っていく。置くような嵌めるような仕草。
ここからが違っていた。
「グフッ」
お腹にダメージを受けていたのは見ていても分かった。
お腹がへこんでいたからだ。
先ほどは喜びの表情を浮かべていたのに、今回は明らかに苦悶の表情を浮かべていた。
端的に言って、とても痛そうだ。
しかしその表情はすぐに消えて、再び喜びの表情に変わった。
「この痛み……気持ちよさ……きみたちも味わえるんだよ」
その顔は狂気に満ちていた。
「もしかして、涙を力にする奴がいるくらいなんだし、あいつの表情が力に関係してるとかないかな?」
バジルが早口でルッコラに言う。
「笑顔ならこんな力とか怒るならこんな力みたいな感じか? 確かにあり得そうだが、奴が自分自身にダメージを負っているのは何だ? それの副作用とでも?」
ルッコラへの言葉をパクチーが奪って答える。
「う……分かってるわよ……それじゃ関連性がないものね……」
あんたに言ったんじゃないのに。と言いたげな表情をしながらもバジルは、自分の考察が的外れだったため少し恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「とにかくこれ以上あいつに自分の偉才で自分にダメージを与えてはいけない気がするよ!」
ルッコラが焦ると、パクチーは任せろ。と頷いてサマの元へと素早く移動した。
血祭、雷光を使ったのだろう。
「私たちも援護するわよ! あわよくばあいつを倒すわ。あの訳の分からない偉才は不気味できっと強力だから」
そう言ってバジルはルッコラを引っ張ってパクチーを追いかけた。
●
「勇者殿。あとは任せて先へお進みください」
兵士のその言葉に私は頷いて、防衛陣の作成を15人の兵士に任せて残りの35人を引き連れて先を急いだ。
もちろんしっかりと植林もさせる。後で一気に妖精魔法を使いたいからね。
「それにしてもパクチーは随分と敵陣奥まで突っ込んだようね」
さっきの小高い丘の防衛陣から更に奥へと進んでもパクチー君たちの姿はおろか、パクチー君たちを包囲しているであろう敵の姿すら見えない。
パクチー君たちに近づいているならば、周囲の敵にそれらしい動きがあってもおかしくないもんね。
にしてもどうなのよこのパクチー君の快進撃は!
これってもう、ここら辺一帯私たちの領土になってもいいんじゃないの?
「勇者殿。そろそろ防衛陣を」
兵士の言葉に私は我に返る。
そうだった。さっきの防衛陣から真っすぐ進んだここに陣を組むのがいいのかは分からないけど、ここらに陣を作らないと距離的にさっきの防衛陣との連携が取れないよね。
「陣の形も重要ってルッコラが言ってたけど、3つしか作れないんじゃ陣形も何もないかな?」
私に陣地の作成を進めてきた兵士に訊いてみた。
私も陣形についてはそんなに詳しくはない。
戦争ゲームでも陣形などは関係なく進むからね。
ただ陣形の理論は理解できる。要は周囲の陣がサポートし合える連携の取りやすい距離を保てばいいわけだ。
つまり、3つの陣はそう遠くまで離れて作っては意味がない。各陣が目視できる距離が理想。少なくとも矢倉を組んで矢倉の上からは見える距離。そしてすぐに援軍に行ける距離。
「ま、この距離が妥当だよね」
私の質問に兵士が首を横に振ったのを見て、この兵士も陣形については詳しくないことを知ると、私は適当にこの辺に陣を作ることを宣言した。
3つの陣と聞いても三角形くらいしか思い浮かばないから、今から作る陣を最前線にして、後ろ2つの陣を底辺にする三角形の陣形を作るつもりだ。
各陣の間に入って来た敵は即排除できるし、三角形の中央は確実な安全地帯となる。そこに重要な物資を保管したりなんなら作成したりしたいね。
こうして最後の1つは最初の陣の真横に位置するように作成した。
うん。まだ陣は完成していないけど、大方できているし想像以上に順調だね。
3つの陣の中央地帯は安全地帯だから畑を作らせて食物を育てることにした。
これが完成したらこの防衛陣を足掛かりに更に先に進めちゃうよ。
こうして私は、各陣に15人を配置して、陣の作成や畑の作成を任せて、最前線の陣から更に先へと5人を引き連れて進んで行くことにした。
目の前に可愛いちっこい女の子が現れた。
ま、どんな姿でも人民掌握軍である限り敵なんだけど、たったの1人で立ちはだかるってことは時間稼ぎが見え見えなんだよね。
「あの子は時間稼ぎ。つまりパクチーたちは今包囲されつつあるけど完璧には包囲されていない可能性がある。そしてこの近くにパクチーたちはいるはず。あなた達は敵との戦闘を避けつつ、パクチーたちを探してちょうだい。救出できそうなら救出、難しそうなら後方に援軍を呼びに行って」
私の指示を聞いた兵士5人が女の子の脇を通る。
絶対に行かせないように何か妨害をしてくると思ったから身構えていたんだけど、意外にも女の子は5人の兵士を先に行かせた。
「阻止すると思ったけど?」
「行っても何もできないもん」
にこりと微笑まれる。
めっちゃ可愛いじゃないのこの子!
「それじゃ、私も先に進ませてくれる?」
無理だと思うけど聞いてみる。
「勇者はだーめ。勇者は足止めするように言われたもん」
べーっと舌を出してくる。
ホントに可愛いな。中学生かそこらの活発な女の子ってイメージだね。
現実世界の私とは縁もゆかりもないような女の子ね。
「じゃあ、力づくで通らせてもらうわよ?」
聖剣を構えると女の子も両手を横に広げた。
まるでこれから魔法でも使うみたいな仕草に思えるのは、私がオタクだからかな?
「偉才、痛いの嫌いなの」
は? 相変わらず掌握軍の偉才には変な名前が多いね。
まぁ、作者は私だけど偉才とか登場させてないからね。
女の子が偉才を使うと体一瞬眩しい光に包まれた。私には女の子が光ったようにも見える。
この偉才がどんな力かは不明だけど、止める前に早速使われてしまった……
念のために聖盾を構えて身構えるけど、攻撃らしい攻撃はこない。
「攻撃的な能力じゃない?」
疑問を投げかけたつもりなんだけど、女の子がめっちゃ動揺した。
「なななな何で分かるのよ! あなたエスパーかなんか?」
エスパーなんて久しぶりに聞いたけど、とりあえず直接攻撃をするような能力じゃないことは判明したね。
「私を足止めするなんて100年早いよ!」
直接攻撃が来ないと分かればそこまで怖くない。
攻撃は最大の防御。
聖剣で女の子を切る!
勝った。
そう思ったのに――
「偉才にはカウンタータイプも多く存在するのよ?」
女の子を確実に切ったはずなのに!
直接攻撃タイプがなくてもカウンタータイプがあったのか! 防御タイプがあるのは分かってたけど、掌具にも握器にもカウンタータイプがあったのに偉才にあることを想像できなかった私の負けか……
確実に背後を取られた私は、何かしらの攻撃を受けることを覚悟した。
●
バジルの妖精魔法、発光はサマにかなり効果的だったようだ。
相変わらずサマの力の詳細は不明だが、少なくとも目を閉じているとその偉才が使えないことが分かった。
そして、自分の力でダメージを受けた場合は何かしらのメリットがあるようだが、敵の攻撃でダメージを受けてもメリットがないことも分かった。
「カウンタータイプでも直接攻撃タイプでもない偉才だね」
敵の偉才をルッコラがしっかりと分析する。
「てこたぁ、どんどん攻撃して構わねぇーんだな?」
確認のための言葉のはずなのに、ルッコラの返事を待たずにパクチーがどんどん攻撃をする。
そのほとんどが爪を伸ばした直接攻撃。
パクチーのノーマルのスピードにサマは付いてこれていないので、雷光を使ってスピードアップさせる必要がない上に、防御系の偉才じゃないから直接攻撃を防ぐ方法が掌具に依存する。
その掌具もこう連続攻撃をされていては上手く出せない。
「クレソンが言った通り、掌具や握器を使うのにある程度集中する必要があるようね」
にやりとバジルが笑う。
「うん。血祭、雷光。血祭、粘体」
ルッコラが2つの血祭を上手に使って、サマの動きに更に制限を付けた。
「終わりだな」
ギラリとパクチーの鋭い爪が、サマの顔に近づく。
「偉才、お花畑に春がきた」
勝利を確信した瞬間、別の声がして偉才を行使した。
瞬間、パクチーの視界は花畑に包まれた。
「な!」
パクチーの絶句をよそに、バジルがキーキー叫ぶ。
「なぁーにやってるのよぉ! 目の前にいるのに急に止まるんじゃないわよ!」
『バジルには効いていない? 幻術の類か!』
目の前に居るというバジルの言葉を信じて、パクチーはそのまま爪で目の前を切る。
自分としては、空を切っている感覚だが爪には確かな感触があった。
「完成だ……きみたち覚悟しなよ」
瞬間、パクチー・バジル・ルッコラは腹部に激痛が走った。
本気で殴られたでは済まないレベルだ。
車で突っ込まれたかのような衝撃だった。
3匹とも、その場にうずくまり何もすることができなくなってしまった。
にやりと笑ったサマが手に握器を持って近づく。
3匹は全く動けなかった……

