異世界転生しか勝たん~第三十稿 バジルの強さ~

異世界転生しか勝たん

 背後から攻撃をされる覚悟をした私だったが、なぜか全然攻撃が来ない。

「何で攻撃しないの?」

 思わず瞑った目を開いて、女の子の方を向きながら私は問う。

「べ。別に私の好きなタイミングで攻撃するだけだし!」

 明らかに動揺してる。

「ふんふん。攻撃できない偉才なんだ?」

「そ。そんなわけないしぃー」

 分かりやす。

 まぁ大した脅威でもないし、さっさと先に行っちゃお。

「じゃ。私行くね」

「勇者は足止めするように言われてるからダメ!」

 って言ってもねぇ。止められないんじゃない?

 私はこの可愛らしい少女を置いて、パクチー君たちを追った。

 ●

 パクチー達を狙うサマは、腹部が抉れていた。

 パクチーの爪攻撃を受けたからだ。

 更に、自分の偉才を発動してかなりのダメージを与えたにも関わらず、ルッコラが血祭で自身の体を硬くしたことで、サマの握器、指輪剣(リングソード)が効かなくなっていた。

「きみたちは不思議だね」

 サマが呟く。

 この言葉に偽りはなく、サマは本当にそう思っていた。

 そもそもが、人間の味方をする必要がないバンパイアとフェアリーである。

 人間の味方をするばかりか、自分の身を挺して人間を守っている。

 いくら勇者がいるからと言っても、不思議だと感じずにはいられなかった。

 今もこうして、動けない程度のダメージを受けて尚、サマへ立ち向かおうとする。

 その姿はまるで人間そのものだった。

「きみたちは人間ではないんだよ」

 そう言いながら指輪剣(リングソード)で今度は、バジルを刺そうとすると、ルッコラがそれを庇う。

「あんた何やってんのよ!」

「バジルさんは僕が守るんだ」

 硬質化で体を硬くしているため、剣は刺さらずにダメージはほぼ無い。

 それでも、身を挺して守ってくれたことにバジルは、今まで押し殺していた感情が更に強くなるのを感じた。

「弱虫のくせに何言ってんのよ! あんたこそ私の後ろに隠れてなさい!」

 ベシッ。とルッコラを叩いてバジルが前へ進み出る。

「フェアリーの強さを見せてあげるわ」

 バジルの体が光り輝き、ルッコラもパクチーでさえもバジルから目が離せなくないでいた。

 ●

「待って! 待ちなさい! お願い待って」

 可愛い少女は必死に私のことを追って来る。

 正直、やっつけてもいいのかわからないくらいに、害が無い存在だと私は思ってる。

 何で掌握軍にいるんだろ?

「あなたって、人を攻撃したことあるの?」

 ふと思って私が問うと、少女は泣き出した。

「パパとママが捕まって、無理やりに働かされてるの……」

 なるほどね。人質にしてるのか。

「ん? てことはさ、もしかして掌握軍って人手不足だったりするわけ?」

 正規軍だけで足りないから、前線に人質を使って言うことを聞かせているコマを送り込んでいるわけだし。

「わかんないよ。でも、人質はたくさんいるよ?」

 これは何かのきっかけになりそうね。

 私はとりあえず、彼女をクレソンのところに連れて行くことにした。

「パセリちゃんの見立ては恐らく当たってるわね」

 クレソンも私と同意見のようだ。

 掌握軍、こんなにたくさんの土地を支配してても、一枚岩じゃないようね。

「うまくいけば、一気に崩せるかもしれないわね」

 クレソンちゃんが、少女にお礼を言っている。

「あなたの両親は絶対に助けるわ。掌握軍の情報をもっとちょうだい。できれば人質がいる場所とか分かるとありがたいわ」

 私が少女に手を差し伸べると、クレソンちゃんは、まさか。という顔をした。

 私が何をしようとしてるか分かったようね。

 そう。人質を解放して仲間に引き入れるわ。

「あなたの偉才も私たちのために使ってほしいんだけど、できる?」

 可能なら、戦いに参加してほしい私の願いを彼女はすんなりと受け入れてくれた。

「ミユって言うの」

 そう言って、ミユは微笑んだ。

 とはいえ、前線に出してしまったら裏切ったのがバレる危険性があるから、まずは砦建設とかをしてもらうことにしよう。

 こうして私たちは一歩、確実に掌握軍を追い詰める手を手にした。

 ●

 光り輝くバジルは、空高く飛び上がった。

 周囲で戦闘をしていた掌握軍の注目がバジルに集まった。

「妖精魔法、光線」

 光り輝く宙に浮くバジルから、地上に向かって幾千もの光線が放たれた。

 狙ってなのか偶然なのかは分からないが、パクチーやクレソンには一発も当たらず、周囲の掌握軍は全滅した。

「す……凄すぎる……」

 ルッコラがバジルを見上げると、まるで天使のように見えた。

 サマも花畑の偉才を使った者も死亡していた。

「こんなに強い攻撃ができるなんて……」

 パクチーは震えあがっていた。

 恐怖というものを初めて感じたのだろう。

「バジルさん!」

 ルッコラの言葉にパクチーは我に返る。

 バジルが落下していたのだ。

「副作用があったのか!」

 ちっ。とパクチーが舌打ちをして走り出すが、ルッコラは雷光を使ってバジルを抱きとめた。

「ごめんよ。この妖精魔法すっごく疲れるんだ」

 バジルが力なく笑う。

 そのまま気絶したように眠りについた。

「この攻撃は極力使わせない方がよさそうだな」

 パクチーが冷静に判断する。

「ごめんなさいバジルさん。僕はもっともっと強くなるから」

 泣きながらルッコラは、ずっとバジルを優しく抱きしめていた。

 パクチーとルッコラは一度前線を維持することはせず、アヤメの元に戻ることに決めた。

 その間、バジルの世話はルッコラが担当した。

 ●

「はぁー。バジルにそんな力がねぇー」

 パクチー君とルッコラ君の話しを聞いて、私は驚いた。

「バジルちゃんにしか使えない妖精魔法はたくさんあるわよ?」

 なぜかクレソンちゃんが得意げに言う。

 それにしても、フェアリー村の王女ともなると使える魔法が違うんだねー。そんな風には見えないけど。

「何よ? 何か言いたげじゃないの」

 むすっと、バジルちゃんがふくれっ面を見せるが、いつものような強気な姿勢がないところを見ると、まだ全快じゃないようだね。

「だめだよぅバジルさん。勇者様にそんな言い方したらー」

 ルッコラがバジルに温かい飲み物を持って行く。

「ほら。ずっとバジルの世話をしてたんだからお礼くらい言いなよ?」

 私が言うと、バジルちゃんが噛みついた。

「はぁ? 何で私が? 別に頼んでないでしょうがこのバンパイアが!」

 このこの。とルッコラ君の耳を引っ張ってるけど、いつもみたいな力は出ないようだね。

「ま、とりあえず3人は休んでてよ。私とクレソンでこの後暫くは動いてみるからさ。仲間もできたし3人が拡大してくれた前線をしっかりと維持してみるよ」

 こうして私たちは、掌握軍の陣地に大きな楔を打ち込むことに成功した。

 クレソンちゃんが言うには、この楔を拠点に掌握軍の弱体化をはかるらしい。

「楔が1つだけだと周りから包囲攻撃されちゃうでしょー? だから楔はもう1つ欲しいし、楔の近くに軍事拠点をしっかりと作りましょー」

 というクレソンの提案によって、まずは前線基地をしっかりと作ることになった。

 現在作成中の陣も含めて、拠点はかなり多い数になっているが、クレソンが言うには拠点は多ければ多い方が連携が取りやすくていいらしい。

 私とクレソンちゃんと新たに仲間になったミユは、パクチー君たちが押し込んでくれた最前線に砦を作りに行くことにした。

 回復したら、パクチー君たちも追って来る。

 その道中でクレソンちゃんは、何人かの仲間に指示を出して中継地となる拠点を作成させていた。

 掌握軍の前線を本格的に崩壊させるために、少しずつ世界が変化しつつあった。

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