キミだけが知らない物語り~第19物語り 失恋と恋愛~

キミだけが知らないストーリー

 これはデートなのだろうか?
 高渡はふとそんなことを考えながら、ギャルに手を引かれていた。
 つい先ほど頬にキスをされ、今度デートしてやると言われたばかりだ。
 今度とは今のことなのだろうか?
 そんなことを考えつつギャルを見ると、ギャルが高渡の方を振り返った。
「りおがさ」
 椎名の名前に高渡はギャルの顔を見た。
 今までに見たことがない寂しそうな顔をしていた。
「あんたに感謝してたよ」
「え?」
 訳が分からず高渡が聞き返すと、ギャルは急に手を離した。
 その目には涙が浮かんでいた。
「なんで?」
 高渡の問いは、何で泣いているのか。という意味だったが、ギャルには別の意味に聞こえたようだ。
「あんたが電車で助けたからだろ」
「いや。あれは助けて」
「助けたんだよ」
 高渡の言葉を遮ってギャルが言う。
「あんたが何て思うと、りおにとっては助けられたんだよ」
 そう言って今度は頬ではなく口にキスをしてきた。
「ほら行けよ」
 高渡の背中を軽く押すと、その先には本を選んでる椎名の姿があった。
 困惑しながらも高渡は椎名の方へ歩き出した。
 その時、ふと思い出した。
 ギャルは、寄りたい場所があると言っていた。
「寄りたい場所って」
 そう言いながら振り返ると、ギャルはもう遠くへ行ってしまっていた。
「高渡くん」
 背後から椎名が声をかける。
 止まっていた2人の時間が動き出した。
「じゃあな……私が大好きだった人……」
 ギャルの呟きは誰の耳にも届かなかった。

 ●

「カーズロー」
 敵が小休止の時に呼ぶ。
「何ですか敵殿」
「お前は、以前に最愛の人を亡くしているよな?」
「え? まぁはい」
 カーズローにとっては思い出したくもないことだ。
 表情が暗くなるのは当然のことだろう。
「好きな人ってのはどうしたらできるんだ?」
 意外な質問に、暗い表情をしていたカーズローが顔を上げる。
 興味を持ったようにミアとガブリーも近くに寄ってきた。
「何だい何だい? 好きな人でもできたのかい?」
 ニヤニヤとガブリーが言うと、きっと私のことですわ。とミアが頬を染める。
「何かあったのか?」
 冷静に男エルフが問うと、敵はカーズローと男エルフにだけ話すように2人に向き合った。
「例えばだが」
 敵が左右の人差し指を立てる。
「ある男のことを好きな女がいたとする。しかしその男は別の女が好きなんだ」
 そう言って、左手の中指を立てる。
「この女はその事実を知って、恋愛を諦めるんだが」
「なぜ諦めるのですか?」
 話しを遮ったのはミアだ。
「そうだよ。好きなら好きのままいればいいじゃないか」
 ガブリーも同意した。
「いや。すまんな。理由は分からんし、恋愛とはそういうもんなのか?」
「人によるとは思いますが、敵殿は何を知りたいのですか?」
 カーズロー真剣な顔をして聞く。
 敵の話しの意図がまだ分からないからだ。
「いや。オレは恋愛が分からないから、諦めるのが普通なのか? そもそもどうやったら好きになるんだ? 諦めないのが普通なのか? 別の人が好きな人を好きになるってどんな気持ちなんだ?」
 敵の口から次々に疑問が湧いてくる。
 その様子を見てカーズローがふきだした。
「オレが知らないことがあることがそんなに面白いか?」
「いえ。そうではなく。敵殿は本当に変わりましたね」
 まだ笑いながらカーズローが言う。
「おそらく敵殿は、恋愛の何が分からないのかが分からないのでしょうね」
「それにしてもキミがこんなことに興味を持つなんて意外だよ」
 カーズローの後にガブリーが言う。
 どこかその顔には、寂しさが浮かんでいるようにも見える。
「確かに敵殿は今までこんなことに興味はありませんでしたからね。今まではもっとこう。尖った感じで目の前の敵対する者を倒す感じでしたからね」
「そうか。オレはそんな機械族みたいな感じだったのか」
 ふむ。と敵は自分自身を見直す。
「今はかなり人類種らしいけどね」
 ふわふわ浮かびながらガブリーが敵の傍を通る。
 ふと敵はそんなガブリーに違和感を感じたが、それどころではなくなった。

 ●
 目の前で人類種が襲われていたのだ。
 人類種の安全を目的としている敵からすれば、見過ごせない。
「自分が先に行きます」
 カーズローが走り出す。
 しかし、ミアや男エルフ、ガブリーはそれについて行かない。
 それはそうだろう。
 人類種を襲っているのは鳥人種のクックコック族だ。
 戦えば、エルフ族とクックコック族との戦いということになってしまう。
「お前らはそこで見学していろ。人類種を敵に回すとどういうことになるか思い知らせてやる」
 敵が走り出した。
 久しぶりの戦闘にカーズローと敵の顔は生き生きしていた。

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