「むっちゃん部活行くぞー」
放課後、違うクラスの佐久間が呼びに来る。
入学当初、俺と佐久間は仲が悪かった。
理由はもう覚えていない。
ただ、気がつけば放課後になると、毎日迎えに来る存在になっていた。
「今日はフットワーク中心だな」
俺が言うと、露骨に佐久間は嫌な顔をする。
裏表がなく、俺は佐久間と付き合いやすかった。
佐久間は部活のエースで、喧嘩も強く女子からかなり人気があった。
「むっちんおはよー」
そんな中、休日に女バスと部活が重なると、高山は必ず俺に挨拶をしてくれていた。
そもそもが、女子率の方が高く男子の人数が少なく、可愛い女子が集まることで有名な学校だったが、その中でも高山は俺には他の女子とは全く違って見えた。
どう違うのかは、当時の俺にも説明できなかったが。
かなり厳しい女バスは、恋愛禁止というルールがあったらしいのだが、みんな顧問に隠れて彼氏を作っていたらしい。
当時の高山に彼氏が居たのかどうか。俺には分からない。
ただ、顔が好みだった。
性格は正直よく分からない。
そこまで話したこともないからだ。
高山の目に留まりたい!
その一心で、必死に部活を頑張った。
全力でバスケをする俺はきっとかっこいいだろう。と信じ込んで。
●
高山とは1年の頃に一緒のクラスになり、唯一のバスケ部同士だったこともあり、入学して間もなく話しをした記憶がある。
クラスに知り合いが誰もいなかった俺は、それだけでなんだか親近感を覚えるようになった気がする。
高山には、仲のいい女子が他に3人いた。
俺が知る限り3人とも部活はしていなかった気がする。
それでもクラスの中で中心人物的な存在になっており、ギャルの一歩手前みたいな4人組だった気がする。
テストはいつも赤点ギリギリで、よく補修をやらされていた印象だ。
「昨日私のことストーカーしてきたでしょ!」
ある日のことだ。
突然、高山と仲のいい3人の内の1人、須藤が俺に言い放った。
全く身に覚えがなければ、この時初めて話した。
正直、俺にとっては高山以外の女子はその他多数であり、この須藤が俺にあらぬ疑いをかけたことで、高山からの心象が悪くなるんじゃないか。という不安が多かった。
「武藤って須藤と帰り道同じじゃね?」
という中川の助け舟によって誤解は解けたわけだが、この後更なる出来事に発展する。
どうやら、高校から俺と須藤の家までは帰り道が一緒らしいが、俺はそれすらも初めて知った。
「勘違いしてごめん」
素直に須藤が謝るが、正直昨日俺の目の前をチャリで須藤が走っていたことすら知らない。
『そういえば最近不審者が出るとか聞いたな』
「本当にストーカーされていないのか?」
お世辞にも須藤は可愛いとは言い難い。
だが、スカートは人一倍短くしているし、狙われる理由にはなるだろう。
いつも教室で下ネタ言ってるし。
「むっちん送ってあげなよ」
高山に言われては断れない。
後から思えば、須藤との登下校も青春だったな。
女子との登下校なんて、人生で最初で最後なのだから。
さて、須藤は部活が終わるまで体育館に残り、部活が終わると俺が家の近くまで送るという日課が続いたわけだが、何しろ今まで彼女がいたことない俺だ。会話がない。
ただ無言で送り迎えをする日々が続いた。
それなのに――
「いつもありがとう」
ギャルっぽい雰囲気なのに毎日お礼を言ってきたのは印象的だった。
●
期末テストが終わるとすぐに夏休みだ。
しかし、弱小チームにも関わらず、練習の日数だけは多いバスケ部の俺にとって、夏休みというものはほぼ存在しなかった。
あるとすれば、須藤の送り迎えがなくなったことくらいか。
「今日もキッつ」
部活の休憩中に愚痴りながら、水飲み場で水を飲む。
一緒にいるのは同じバスケ部の仲間の、佐久間、古谷、渡辺だ。
この3人と俺がバスケ部の生き残りであり、4人しかいないために試合に出れないにも関わらず、練習ばかりしている変わり者である。
さて、この高校の体育館は2階にある。
そして、体育館と中庭を挟むようにして校舎があるわけだが――
「北中ー!」
校舎から叫ぶ女子の声。
振り向かずとも、誰の声か俺は分かっていた。
1ヶ月以上一緒に登下校をしていたのだから。
ほぼ会話は無かったが、それでもゼロではなかったわけだから嫌でも声は覚える。
「北中ってお前じゃないの?」
水を飲み終えた佐久間が俺に言う。
分かってるよ。
「何ー?」
叫び返した。
見れば、須藤の隣には高山の姿があった。
そう言えば、夏休みに補習があるとか言ってたっけ?
「私と付き合ってー!」
高山の目の前でされた告白に頭が真っ白になった。
瞬時に理解した。
高山は須藤が俺のことを好きなのを知っていた。
そりゃどんなに高山が俺のことを好きだったとしても、俺とは付き合えないよな。
高山が身を引くのは当然だろう。
「えー?!」
聞こえないフリをするのが、俺の精一杯の対応だった。
今でも思う。
あの時聞こえないふりをした自分は、たぶん、一生あの夏から逃げ続けているのだろうと。
