あの出来事以降、須藤とは夏休みの間中に会った記憶がない。
記憶がないということは、たぶん本当に会っていないのだろう。
高山とはもちろん部活で会うことは多いが、高山の態度は今まで通りだった気がする。
正直、あまり覚えていないが、その後の空気を鑑みても今まで通りだったと都合よく解釈しておきたい。
告白の出来事について高山は何も言わず、俺も聞こえなかったフリをした。
だからあの出来事は、俺と高山の中では“無かった事”になっていたのだと思う。
少なくとも俺の中ではそうだったし、そうであって欲しいと願った。
もちろん隣にいた佐久間とかには聞こえていたはずだが、佐久間たちも何言ってこない。
須藤からの告白について誰も何も言ってこないことが、俺にとってはとても心地よかった。
いや。今だからわかる。
そこに逃げていたんだと。
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夏休みが明けると、誰が誰と付き合っただとか誰が誰と別れたとかいう話しが出回る。
正直興味はないが、みんなとの会話の種としてその情報収集は欠かさない。
「王子! アドレス教えてよ」
休み時間に、俺の隣の浩司(通称王子)に高山が声をかける。
正直、この流れは悪くない。
そのまま俺も高山の連絡先を知れる可能性が高いからだ。
だが俺はかっこつけた。
行きたくもないのにトイレに立ったのだ。
後から思えば、浩司が気を利かせた可能性が高いのだが、そんなこと高校生の自分に分かるはずもない……
俺がトイレから戻った頃には高山はもう、浩司の席からとっくに離れて教室のはしで須藤たちと談笑していた。
『バカだな』
あの時高山の連絡先を聞いていたら、きっと俺と高山の関係は変わっていただろうに――
関係と言えば須藤も変わった。
あの告白以来、俺に話しかけなくなっていた。
新学期が始まればまた、須藤を家まで送るのかと思ったがそれもなくなった。
分かってる。傷つけてしまったのだと。
だけどどうしようもなかった。
まだ高校生で、他に好きな人がいて、その人に想いを告げられずにいて、彼女なんてできたことなくて、それでも彼女がほしくて――
強がって、見栄張って、かっこよくしていたかったんだから……
全部が空回って甘酸っぱくて青春だった。
大人になってズルい考えができるようになって思うことは、”須藤と付き合っておけば良かった”だ――
形だけでも何でもいいから付き合っておけば、高山に近づけたかもしれないし、いいことが起きたかもしれない。
それになにより、”彼女います”アピールができたのだから。
そう。あの頃の俺は確かに高山が好きだった。
それは嘘じゃない。
でも同時に、ただ彼女という存在がほしくもあったのだ……
