深層は奇妙なほど静かだった。
さきほどまで空間を引き裂いていた因果の奔流は止まり、
赤黒かった未観測領域は、色を失った水面のように凪いでいる。
カケルは、倒れ伏したまま動かなかった。
息はしている。だが、世界が――遠い。
音が半分しか届かない。
触れているはずの床の冷たさも、曖昧だった。
「……終わった、の?」
シラサギの声が、膜越しに聞こえる。
彼女は結界を維持したまま、周囲を慎重に観測していた。
敵意反応なし。因果暴走なし。
それでも完全な安定には至っていない。
タカは一歩前に出て、カケルの前に立つ。
無意識に守る位置だ。
「まだだ」
短く低い声。
「“あいつ”は倒れた。でも、世界はまだ答えを出してない」
その言葉通り、深層の奥――
光の箱の向こう側で、因果が微かに軋む音がした。
カケルは、ゆっくりと瞼を開く。
視界は欠けている。
だが見えるものがある。
「……ああ」
掠れた声で、彼は言った。
「ここからが、本当の“結末”だ」
シラサギは小さく息をのみ、
タカは何も言わず、翼を広げる。
三人はまだ立ち上がらない。
けれどもう逃げない。
深層は静止し、世界は次の選択を待っていた。
――そして物語は、第16章「深層の結末」へと進む。
